(ロックオン×スメラギの描写があります)










光量を落した室内の中、浮かび上がる男と女の影。

終わってしまえば用は無いとばかりに、ロックオンは、ベッドから足を下ろして縁に腰掛けて床に散らばった服を手繰り寄せた。
自分のものだけを引き寄せて、女性の下着には目もくれない。

部屋は薄暗い。
ベッドのサイドランプをつけただけの部屋だが、自分の服ぐらい手探りでも判る。
下着を身につけ、シャツを着込むと、背後のシーツがもぞりと動いた。

「だめじゃない、ロックオン」
「なにが」

ほのかなライトの中、浮かび上がるスメラギの裸体。
滑らかな身体のライン。豊満な胸の谷間にシーツを手繰り寄せる。その身体に鬱血の痕などは何も無い。セックスが終わった直後だというのに。
狭いベッドの中で、むくりと起き上がったスメラギが、ロックオンの裸の背中を見つめる。
ロックオンの身体に身を寄せたスメラギが、背中に胸を押し付けて手を前へと伸ばした。まるで背中に、しな垂れかかるような甘い動作だが、スメラギの手はベッドサイドのアルコール缶に延びていた。
甘い雰囲気など無いのだ。ただ気だるげな動作と、少しばかり煽ってみただけで。
アルコールを手に取れば、すぐに身体は離された。

「何が駄目だって?」
「あら。気付いてるんでしょう?」

氷が溶けて、温くなったアルコールに口をつけ、満足げに息を吐き出す。
酒臭い。
スメラギとのキスは何時も酒臭くてたまらない。酔いたくはないのに、こちらまで酔いそうになる。
それなのに、ロックオンが酒臭いキスをしたくないと知っていて、アルコールを過剰摂取しているのを知っている。
嫌がらせだ。…それが何に対する嫌がらせなのかは判らないが。
こんな愛のかけらもない肉体処理のセックスに何の意味が。

シーツを胸元まであげながら、乱れた長い髪を梳いた。ルージュなどつけずとも、充分に艶やかな唇が、笑みをこぼす。

「ねぇ、駄目な人」
「……、」

随分とゆっくりした押し問答だ。
ついさっきまで、あんなにも人の胸で乱れていたとは思えない。
何が駄目で、何が気付いてると?
スメラギのゆっくりとした答えに、ロックオンは服を身につけながら待った。
焦らす作戦なのか。そんなありきたりな嫌がらせに、付き合うつもりもない。
肉体の開放が終われば、この部屋での出来事は終いだ。
今、ロックオンを引き止める術は何もない。

「あの子に見られちゃったわ」
乱れた髪は、手櫛で整えられる。汗もひいた。あとはシャワーを浴びて、服を身につけるだけだ。
……あの子。

「あの子って」
「やあね、知っててはぐらかすのやめて頂戴。わざとでしょう?部屋に鍵をかけなかった」

セックスは終わった。煽る気もなかった。つい今までは。
けれどシラを切り、顔色1つ変えないこの男に、突然、手を伸ばしたくなったのは何故だろう。
ロックオンの首筋に絡み付く、大人の女性の腕。
長く伸ばし整えられた爪が、男の堅いうなじの皮膚をひっかいた。

じゃれつく猫のような爪に、ロックオンは笑って答える。
刹那にはない、おんなの感触。におい。柔らかみ。誘う雰囲気。甘い言葉。

首筋に細い腕が巻きついてくる。まるで蛇のようだ。
口付けを望まれて、仕方ないかと再び唇を合わせた。酒がロックオンの舌に伝わる。唾液を絡める気になれない。
舌を絡めない代わりに、スメラギのしなやかな肢体に手を伸ばした。
細い腰を両手でなぞると、それがいいのだろう、スメラギの身体がロックオンにさらに密着した。腰が揺れている。
誘う、くちびる。
誘う、おんなの身体。

「ねえ…」

濡れた口先。熱い吐息。それは全て計算づく。

「もういちど、しましょう?」

計算し尽くされているから判る。そうしてスメラギが、ロックオンの心を遊び煽っているのも、その言葉が本気でない事も。
本当に女性は可愛い。この敏腕な戦術予報士も、ベッドの中は可愛い子猫のようだ。
ロックオンは表情だけで笑った。

「いや?いまからあいつを慰めにいかなきゃならねえからな」

唇を離し、触れていた身体も離した。ベッドから立ち上がれば、シーツの上で上目遣いに見上げるスメラギが、妙に小さく見えた。

「ケチ」
「なんとでも」

それでも、遊ばれて、やらない。