揺れる背中を見ていた。
長い、紅茶色の髪が揺れる。
綺麗なカールを描いている髪が揺れ、その下に細い細い腰が見えた。それを掴む白い手は、上気しているのか、幾分か血色がいい。

…自分が、されている時も、あんな風なんだろうか。

刹那は思う。知らず、手に力が入っていた。
こんなのはただの覗きだ。判っている。けれど目線が滑らかなスメラギの背中から離れない。
小さな頭、揺れる髪、細い腰、それを掴み上げ、縦横無尽に突き入れる浅黒い男の物体と、腰掛けたベッド。揺れる足は4本。
時折聞こえる、喘ぎ声。名を呼ぶ。
おんなの、艶やかな声で、「ロックオン」と。

ドクドクと。

激しい鼓動が、刹那の胸でうつ。
その鼓動は徐々に徐々に胸の中で、大きく早くなっていって、全身が心臓になったかのように震えて跳ねる。
身体中が熱いのに、こんなにも心臓は早鐘をうつのに、どうして心臓よりももっと深い胸の奥は、まるで冷水を浴びたかのような冷たさで、身体中を締め付けているのだろう。
寒い。凍えてしまう。…こんなに身体は熱いのに!

一際甲高い女性の声が響いたその時、刹那はようやくドアの前から駆け出した。
たまらなかった。
何かを吐き出したくて仕方がない。
部屋に駆け込んで鍵をかけた。3回、鍵がかかったのを確認して、ベッドに入る。
すぐに下着を下ろした。
勃起していたそれを扱きあげながら、あの背中を思い出す。
茶色の髪が、2つ。
揺れる背中。蜜壺をかき回すようなぐちゅぐちゅと卑猥な音が耳にこびり付いている。

あぁ。

…小さく呻いて、刹那は欲望を吐き出した。

濃い粘着質な精液を手で受け止め、その白を見つめた。
ぽたぽたと指の隙間からシーツに零れた精液の量が多い。

苦しくて仕方のない息を吐き出して、刹那はのろのろと手を上げる。
「…く、そぉッ…」
その手に付着した、どろどろと流れる白い精液を見つめながら、刹那は腹の底にわだかまるこの苛立ちを声に出す事で、吐き出そうとしていた。

判っていた。
判っていて、そういう日が来たのだと思うしかなかった。

ロックオンは、刹那を抱く。
けれど、その身体から香るのはいつも香水のにおいだった。それは休暇の後でも、プトレマイオスという閉鎖された場所にいた時でも、いつでも。
スメラギの香水と同じ香りをさせて部屋に来た事もあった。…だから知っていた。全部知っていた。
知っていた、のに。

この醜態はなんだ。
指にこびり付いた精液は粘着質で、酷い臭いを発している。くさい。
自分が吐き出せるのはこんなものだ。白い精液。こんな無駄なものしか。


見せ付けたかったのか。…お前は所詮女代わりなのだと、見せ付けたかったんだあの男は。
男同士で恋愛感情などあるわけがない。…肉体処理の相手。そう、ただそれだけの相手だった。ロックオンにとっても刹那にとっても。
ならばこれでいいじゃないか。

目を閉じた。刹那の瞼の裏に真っ暗な闇が広がり、鼻をつく匂いが酷く不快だった。