「アレルヤの味はどうだった?」

組み敷かれ、キスをされた途端言われた言葉に、刹那は眉を顰めた。
あぁ、やっぱり。

「まっずいだろ、誰のでも。それとも俺のものだけが不味いって思ってたか?」
冗談を、けらけらと笑いながら話すロックオンは、それでも刹那の唇に口付ける。
アレルヤのものを咥えたと知っているこの口に。

怒られもしなかった。
他の男と関係があると判っていて、ロックオンは笑う。
俺と比べてどうだったと、露骨な事を聞く。
なんで。
自分は正気ではいられなかった。女の足の間で揺れるロックオンを見てしまったから。
残り香を漂わせているだけで、あんなに胸は痛かったのに。
この男は、同じベッドを共にしていても、苦しみも痛みも感じない。
ただ笑うだけだ。

なんて屈辱だ。
あぁ憎い。

「…女のものも、不味いのか」
「ん?」
首筋を舐められながら、刹那は震える唇で問うた。
震えていると知られたくない。
けれど、きっとバレている。

「女の味を知りたいのか、お前は」
違う。
そんなつもりはない。
けれど、この男が答えないから。

「あぁ、そうか」
やけっぱちな気持ちで答えた刹那に、不意に、強い力が込められた。
甘噛みしていた肩を押さえつけられ、ベッドへと倒れこむ。組み敷かれている。
「…ッ…」
「そんなに知りたいなら教えてやろうか、刹那」
「…な、に、」
見下ろしてくるロックオンの顔が笑っている。
口端をゆがめて、刹那を見下ろし笑う。
笑って、そうして顔を近づけて、キスにならない唇のふれあいの中で、ロックオンが囁いた吐息が刹那の咥内に入ってくる。息を分け与えられているかのよう。

「…女はな、柔らかくて、いいにおいがするんだ。胸を触ったことがあるか、刹那」
「…っ、」
ロックオンの手が刹那の胸にかかり、ふくらみも何も無いそこに手を這わせる。
先端を摘んで、引っ張り上げられて、ひぅ、と情けない声が出た。

「…胸はあったかくて柔らかいんだ。知らないだろう、刹那。あの胸に埋もれて目を閉じるのがどれだけイイ事なのか」
言いながら、ぐり、と指先に力を篭められる。先端が押しつぶされて痛みが走った。爪が食い込んでいる。
「…っ、…ぁ…」
「こんな硬い胸じゃないんだ。アレルヤの胸だって硬かっただろ?…女は柔らかみがあって、先端を捏ねれば細い腰がひくひく震える。長い髪が跳ね上がって、気持ちいいって高い声が響く。喘ぎ声を聞くと股間に物凄い勢いで熱が集まる」
「………っ、く、や、め…」
「やめろ?…やめてやるもんか。お前が知りたいって言ったんだろう。女はな、気持ちいいモンだ。男とは違う。挿れると、中だって熱くて柔らかい。男の場所みたいに病気になる可能性が高いわけじゃないし、ゴムをつけなくたってヤれる。ローションもいらない。びちゃびちゃだからな。…お前のナカは中々開かないからいつも苦労するけどそういう事もない」

やめろ。やめろ!
もう聞きたくない。
耳を塞ぎたい。この男から離れたい。それなのに、刹那に抵抗らしい抵抗さえ許さずにロックオンは囁く。
下着を下ろし、後孔に指1本含ませて、ぎちぎちのそこにねじ込みながら、やっぱり硬いな、とぼやく声が、刹那の髪に触れて揺れた。

「硬いもんな男はどこもかしこも。…女は硬いところなんて1つもない。母親のあったかさを持っている。優しい声、震える身体、濡れて受け入れてくれる孔」

ぬちぬちと。
後孔が徐々に開く。指1本さえも締め付けあげる刹那の身体を抱きしめて、逃げようとするその行動さえも抑制させて。
逃がさない。聞いたのは刹那だ。
ベッドへと誘ったのも刹那だ。
あんな目をするから。…物欲しそうに見ているからだ。刹那の考えている事など手に取るように判る。
それでも抱いてみれば減らず口ばかり叩き、女がどうのと聞いてくる。

…こんなに、意地悪をするつもりはなかったのにな。
どうして刹那にこんな事を言ってしまうのだろう。

自分でしておきながら、ロックオンは自問自答する。
刹那は子供だ。だからほんの僅かな事ですぐに感情の切れ端が身体中から溢れ出る。我慢をしているのは上っ面の皮一枚だけで、その中は驚く程酷い灼熱が渦巻いている。よくもその濁流のような思いが溢れ出さないなと感心する。…いや、抑制しきれずにいるから判るのか。刹那の中のマグマは熱い。
(おんなじように、この孔も酷い熱さだ…!)
生ぬるい女の孔とは違う。女とのセックスが優しさと快楽ばかりなのだとしたら、刹那とのセックスはさながらお互いの身の滅ぼしあいのようだ。強引に押し入って、中の灼熱を掻き回す。そうして刹那の本性をほんの少しばかり吐き出させる。

刹那を抱いた事に理由はない。
小さな少年が一人、身を強張らせている姿を見たから、なのかもしれない。
こんなガキにはセックスの良さも、女のあたたかさも、イクときのあのえもいわれぬ快感も、何も知らないのだろうと思ったら、抱きたくなった。
そうして、思い知らせてやって、こいつがどう変わるのか見てみたい。それだけだったような気がする。
女を抱き飽きていたし、男に趣味があったわけでもない。それでもソレスタルビーイングという隔離された場所で、捌け口が欲しかった。
男の身体でも女の身体でもイければいい。
飽きれば終わりにさせるはずだったのに、もう何度刹那を抱いているのだろう。
あのスメラギ李ノリエガが、都合のいいセックスの相手となったのに。
それでも何故この子供を抱こうというのだろうか。

「イきたいか?」
刹那に囁けば、小さな身体は恐ろしい程、素直に震えた。
快楽に従順な身体。
体裁も、隠す事も出来ない、こんな小さな身体で。
髪に手を絡ませれば、赤茶色の瞳がうっとりと自分を見つめていた。

なんて小さな、
なんて哀れな、
独占欲なのだろう。