「…は、ぁ…う、っ…」 アスファルトの凹凸に、車が僅かに揺れるのが耐えられない。 舗装された道と、進化した車。 それでも僅かな衝撃は伝わってくる。 ローターの羽音。バイブの軋む駆動音。くぐもった機械音と、刹那の熱い吐息に混じる、喘ぎ声。 「…あ、ぁっ!…あぁ、も…、」 もう限界に近い。随分と長い時間、このドライブを続けている。 内股が震え、喉が仰け反った。 一切着衣を乱されない刹那の下半身。ジーンズは精液でどろどろに染みている。 刹那が身じろぐその間も、サーシェスは前を見据えたまま運転し、どこかの国の外務大臣と、音声のみの通話を続けている。 車の中、身体を熱くしているのは刹那ひとり。 奥深くで鳴動を続ける小さな振動が、車の揺れと相まって、とてつもない快楽を生み出して止まない。 目は、布で覆われて、視界もない。 何が起こるのか、この車で何処へ連れて行かれているのかも判らないままだ。 車線変更をして追い抜く車体の揺れ、交差点、カーブ、その全てが予期せぬ動きとなって刹那の身体を満たす。 ただ、サーシェスの声がするたびに、彼が隣の運転席に確かに居る事を知り、電話の通話が始まれば、刹那は吐息さえも押し殺さなくてはならなかった。 目も見えず、どんな衝撃を与えられるのかも判らない。それは快楽を期待する気持ちよりも、恐怖の方が大きい。 玩具を使われるのは嫌いだ。 無限に刺激しつづけるそれに、人間の体温など感じられない。 ただ無機質に刺激しつづけるだけで、底が知れない玩具はこわい。 あんな小さな振動物に、延々と善がらせられて吐精され続けている。 「…も、…う、…」 溜まらず手を伸ばした。サーシェスが居るであろう場所へ。 指先に触れたのがサーシェスのスーツだと判り、布地を引っ張って縋る。 もう無理だ。もう、耐えられない。 何度も達した下肢はとっくに精液に沁みてどろどろになっている。レザーシートとはいえ、汚れは残るだろう。 縋り付いた指先、それを払われない。何処かの国のトップとの通話は終っていた。 刹那は言葉を続けた。 「…おねが、…」 覆われた目で、サーシェスの顔があるであろう場所を見つめる。 彼がどんな顔をしているのか。…判らないが、せめて少しでも、この極限に達した身体を判って欲しい。 仕置きはもういいだろう。 限界だ。…もう、駄目になる。…駄目に。 玩具を引き抜いて。こんなものは嫌いだ。 やるのなら、薬を仕込んで、何もかも解らなくさせてくれれば楽なのに。…それをしないサーシェスは、刹那が一番に嫌がる方法を狙う。 スーツに縋った刹那の手は振り払われなかった。 けれど、振り払われないだけで、言葉も何もない。車はまだ走行を続けている。刹那の痴態を見ているわけではないだろう。 「…ぁ、…ぁ…」 無言のサーシェスに、恐怖ばかりが沸き起こる。 スーツの布地を持つ指先が、カタカタと震えた。このスーツの先に、確かにサーシェスの生身があるのか。それさえも不安になる。 せめて、この目を覆うものを取って。そうして、アンタの顔を見せて! 刹那の腕を払わないまま、サーシェスが身じろいだのが判った。 車内に響くのは、刹那の高鳴った鼓動と、吐き出す熱い吐息だけ。 ゆっくりと、車が止まったのが判った。…どこかへ着いたのか。それとも、信号か。 ふいに、サーシェスが動き、刹那の両手を掴む。 「ぁ、…」 開放されるのだろうか。 期待に胸膨らんだのは一瞬で、その直後、刹那の左右両手首は、サーシェスの手によって纏められ、柔らかな布のようなもので、ぐるぐると拘束されてしまった。 「…ぁ、な、に、っ……!」 これは。…マフラーだ。 あの男が渡しに来た、自分の赤い…… 「い、い、ぁ…、ッ…!」 抵抗を口にする前に、両手首を拘束された刹那の腕は、頭の後ろへと回されて、その場所で固定されてしまう。おそらくは、助手席のヘッドレストに。 野球投手が振りかぶったような状態のまま、ヘッドレストに固定された腕。 下半身はジーンズの股間も閉められたままだが、耐え切れず吐精したために、股間は湿っている。 「…も、…もうっ…!」 いやだ。やめてくれ、いやだ! おかしくなる、このままじゃ。 こんな無機物なものを、延々と受け続け、目も腕さえも動かないままで、サーシェスがいるかも判らないこんな状態で…! 「あ、…ぁあっ…あ、!」 首を振り乱し、やめてくれと懇願し、ぎしぎしと身体を動かした。柔らかなはずのマフラーからは、あの男が吸っていた煙草のにおいがした。 そうだ、あの男。 茶色の髪の、青緑の目の、…あの…、あの、…。 「あ、ああ、あ、…さ、しぇ…、」 あの男の顔を思い出しながら、しかし刹那が呼んだ名は、拘束する男の名。 開いた口から、唾液が顎へと落ちてゆく。 震えが止まらなかった。 「も、う…、ッ…」 再び湧き上がった射精感に耐え切れず、そのまま放出すれば、どろどろの下半身が尚も湿って、においを発する。 強い精液のにおいだ。 「…あ、…、」 口を閉じる事も出来ずに喘ぐ。 ジーンズに押し込まれたまま勃起した中心が震えている。まるでお漏らしをしたような状態で、絶頂に達し、精液を吐き出す。 激しい快感の中で、刹那の瞼の裏に映る、あの男の姿。 …名を、思い出せなくなっている。 激しく息をつき、射精感に浸りながらも、無機物な玩具によって、再び快感の火種が宿っていた。 止まらない、もう。 忘れていく、あの男の名。そして刻まれる、今隣にいるはずの、男の存在。 あぁこれが正しいんだ。 あの男を忘れ、今いるであろう男の影に浸る。 たとえ目が見えなくとも、腕を伸ばせなくとも、その体温さえわからなくても、傍にいるはずだ。 「…サーシェ…、…ぁ…」 たまらずに名を呼び、開いた刹那の口に、前触れもなく触れた唇は、あの茶色の髪の男の唇ではなく、 甘い口付けなど与えない、アリーアルサーシェスのものだった。 吐息を奪うように、 全てを覆うように、 刹那の呼吸さえも止めて与えられる、口付け。 あぁ、なぜあなたは、こんな時にだけ、やさしい。 |