「何を勘違いしているのか知らねぇが」
言いながら、かき回された腰は、最奥のローターをずるりと動かして、刹那の前立腺をダイレクトに刺激した。
「ぁ、あ、あああ、あ!」
もう吐き出し過ぎて何も出ない陰茎がひくひくと震える。
これ以上の快感は苦痛になる。
意識を吹き飛ばしつつある思考回路の中に、サーシェスの声が反響して響いていた。

「俺はあの男を殺して欲しいなんてこれっぽっちも思っちゃいねぇ」
ずく、ずく、と垂直に腰を挿し込めば、その度に、刹那の腹が大きく痙攣し、「ぁ、あ、」と声にもならない獣のような鳴き声が続いた。

苦しい。
もう、苦しい。やめてくれ!

中のローターの電源は落ちつつある。威力が低下しているのにも関わらず、ローターを含んだまま迎えたサーシェスのそれは容赦なく刹那のナカを掻き回した。
振動物を中に入れたまま、1日中放置され、望むものさえ与えられなかった苦行の時間がようやく終焉したと思ったのに。
サーシェスに足を抱え込まれて、その先にある行為を知る。
「…っ、う、…、」
嘘だ、言葉が出ない。
サーシェスの顔色は変わらない。いつものように淡々と。
すでに放心状態にあった刹那は、押し開かれる後孔に、今がまだセックスの始まりに過ぎなかったのだと、思い知る。

「まだ開くな?」
孔に手をかけ、精液で濡れそぼった襞を開く。

嘘だ、嘘だ、もう、もう無理だ。

出したい声が喉の奥で止まる。
もう声さえ出ない。

ぬちり、と水音が響き、ローターの赤いコードが中から覗く。少しばかり引っ張ってみれば、刹那の脱力したはずの足が、痙攣するようにサーシェスの腰を締め上げた。
「まだまだ元気じゃねぇか」
違う、これは身体の反射反応だ。これ以上サーシェスを受け入れることなど、無茶無謀に等しい。
赤いコードをじわじわと引っ張り、孔の入口まで本体が見える程に引き出す。
あぁ、ようやくそれが引き抜かれるのか。
そう思った途端に、ローターに当てがわれたものは、勃ち上がったサーシェスの先端だった。
「…っ、ぃ、…!」
抵抗を口にする間もなく、ずぶぶぶぶ、とローターごと中に挿入され、喉が仰け反る。
吐精を続け、吐き出すもののない刹那の陰茎がひくひくと震えていた。

「同時ってのは気持ちいいな」
電動の振動が、生身の陰茎に当たる。締め上げる刹那の内壁。
サーシェスは、上唇を舐め上げた。

どれだけ刹那が玩具を苦手としているか判っているはずなのに、どうしてこうも玩具で、もてあそぶのか。
サーシェスの性悪は身を持って理解していたはずだが、ここまで酷いものも珍しい。
今夜ばかり、何故。
揺さぶられながら、喘ぐ事を諦めた思考の一部が現実を逃避する。
やはり、あの男が、原因なんじゃないか。
あんな風に、これ見よがしに刹那とサーシェスの前に現れたロックオンストラトス。
あれはただの宣戦布告だ。優しい目をして刹那の肌に触れておきながら、サーシェスを一瞥したスナイパー。
あれだけ肝が据わっているのだとしたら、おそらく腕は一流だ。


ぶぶぶぶ、ぐ、と。
くぐもった音が体内から発せられている。
まるで内臓をせり上げるようだ。
苦しくてたまらないのに、そのローターをどんどん奥へと挿入させていくのは、他でもないサーシェスのもの。
苦しい。
せめてこの異物を取って、アンタだけを感じていれたらいいのに、こんな人工物を延々に続けられる事が耐えられない。身体が悲鳴を上げる。
人工物が嫌いだ。
男のいきり立ったものならばどれだけでも受け止められる。けれど、温度も強弱さえも感じない、ただ震えるだけの玩具は身体が拒む。

記憶が呼び起こされるからだ。昔の、まだ今ほどの身体にも成長しきっていなかった頃。
内戦の、最前線。
敵の砲火と爆発音が日常だったあの頃、ライフルひとつ与えられた戦場で、皆と過ごしていた日々。
日に日に減っていく、同い年の少年兵。
戦場で散る姿を見ている。散っていく命。
それでも命からがら逃げ出した小さな駐屯地でさえ、命の保障などされていない。
あたりが闇に包まれた頃、一人の兵士がテントにやってきた。その男を「死神」と呼んでいた。あの男に捕まると、生きて帰ってこれない。…仲間の兵士のはずなのに。あの男に捕まると、どこかへ連れて行かれたまま帰ってきた者は居ない。
緊張に包まれるテント、男はぐるりと部屋を見渡した後、つかつかと歩み寄り、刹那の腕を引き上げた。
お前が来いと言われて断る事など出来ず、安堵と同情の混じった仲間に最後の目線を向けて部屋を出る。
…死ぬ。…ああ、これで死ぬ。
絶望に打ちひしがれながら通された部屋には、裸の男達が待っていた。
背後には壁。逃げる場所もない。
勃起した男たちの中心、鼻息荒く手を伸ばされ、背中に悪寒が走った。
殺される。…違う、これは。…これは…!

「…っは…ぁ、」
「こんな状態で別の事を考えられるのか」
「……っ、…」
違う。違う。
思い出していただけだ。あの時、された事。
数人の男に囲まれ、手も口も穴も全てのものが精液でどろどろになった。
男が楽しげに取り出した玩具で、散々嬲られ、これで穴を広げてみせろと強制された日々。
殺されはしなかった。
サーシェスが見ていた。戯れに、このガキを拾うといった。だから生きている。生かされている、この男に。
…あの記憶が。

「思い出すな…、お前は昔から目つきだけが変わっちゃいねぇ」
同じように思い出していたらしいサーシェスが、刹那を見下ろす。
頬を掴み上げ、顔を持ち上げて目線を絡ませる。強引な体勢に、中のローターがまた奥へと入ってゆく。ぐちゃぐちゃにかき回される、内臓がどうかなってしまいそうなほどに!
苦しい。
セックスはこんなにも苦しい。

どうかなりそうな強引な快感と、身体中を引き裂かれるような痛み、不快感、穴の中に注ぎ込まれる精液。

「…あの時に味わった男の味は、今となってはどうだ?変わったか」
「…っ、あ、…」
「バイブの味は変わったか。あん時はこんなちいせぇのでも挿らなかった」
「……や、め、…」
「今じゃこれだけ善がりやがる」

違う!違う…!
気持ちいいわけじゃない、決して。
けれど、玩具を挿入されただけで、何度もイっているのは否定しようもない事実だ。刹那の腹の上、股間、全て白獨の体液で濡れている。

「あの時もなんだかんだとイきやがったじゃねぇか、俺に抱かれながら」
聞きたくも無いサーシェスの言葉が、耳に流れ込んでくるように聞こえる。
「お前は結局のところ、コレが好きなんだろ?」
「っうッ…!」
ぐりっと腰を動かし、ナカの玩具を内壁に擦りつけるように刺激すれば、もう吐き出すものさえ無くなった刹那の中心が跳ね、ひくひくと臀部と腰部を中心に震えが走った。
オーガズムを感じている証拠だ。

「これだけ腰が動くんだ、…なんならこれからはお前の相手はコレにするか」
「…っ…!」
目を見開き、首を横に振ろうとし、出来ずに喘いだ。
そんな刹那を見つめながら、またもサーシェスの腰が奥深くへと挿入されていく。

嫌だ。
こんなのはいやだ。
どうして、どうしてこの男はいつも必要な時に何も与えてくれない…!

苦しい。
こんな苦しい思いはいらない。いらないのに、それでも魂が、精神が、サーシェスを求めてしまう。
優しさなど与えもしない。
いつだって利用され、そう、幼い頃からそうだった。もしもあの時に、自分が兵士に呼ばれなかったら。男に犯され、玩具で遊ばれ、そうした先にサーシェスが拾いあげなかったら。きっとこの命はとっくの昔に途切れて消えていた。…全てはこの男の手の中で生きている。

…それでも構わないと、思っていた。思うしかなかった。
だってここしか居場所を知らない、他に誰が、何があるというんだ。

『また、会いにくる。刹那』

ふい、に。
見開いた目、苦しさに何も映す事が無くなった瞼の裏に、あの男の微笑みが見えた。
優しい笑顔、優しいセックス、伸ばされた手のあたたかさ、深いキス。

…あの男はあんなにも与えてくれた。

「…っ、あ……」

奪うばかりの目の前の男は、手を伸ばしてもきっと答えない。
キスさえない。
そうしていつか、この身体と戦闘能力に愛想が尽きた時、捨てられるのだろう。
それが判っていて、それでも、それでも。

「サーシェ…、」

伸ばす手。触れない身体。繋がる下肢はこんなにも熱い。

「…もう少しだ、ソラン」

囁かれたその言葉の先に、絶望を見た。