女性を抱く事が、嫌いなわけではない。 女のあたたかみや、爪、におい、柔らかさ。それらは男にはないものだ。 胸のふくらみを揉みながら、髪の中に顔を埋め、シーツを擦る様に腰を動かして掻き回す。 ヒクつく身体、いやいやと振る首。支配欲が満たされる。 そうして強引に強い力で押し進め、やがて女の喉から洩れる声が、より高く短い悲鳴になった瞬間に、どぶりと音がしそうな程の精液があふれ出した。 鳴く、女の高い声だけが嫌いで、刹那は眉を顰めた。 ベッドで戯れる趣味もなく、吐き出し終えた精液を拭う事もせずに、シャワールームへと歩くと、「無愛想ね」と笑う声がした。 サーシェスがAEUへと向かってから、もう幾日かが経過している。いつ戻るのかを聞いていないが、おそらくもう少し時間は掛かるだろう。 黒髪についた女のにおいを消すように、乱暴に髪を洗いながら、今は居ない男の事をこれほどまでに考えている自分が可笑しくなってくる。 いつ帰ってくるのだろうかと。まるで恋人を待つ乙女ではないか。 そんな少女じみた感情を持つ必要が何処にある。 サーシェスは今、どんな女を抱いているのだろうか。 AEUの外人部隊に名を変えて潜入しているのを知っている。軍部の女さえも手懐けているんだろうあの男は。 そうでなければ、知りえない情報を入手している。 情報部の女か、余程階級の高い女か。どちらにしろ、サーシェスの手駒なっているのは間違いない。 女だろうと男だろうと、幼かろうと熟女だろうと。 よくもまぁ相手に出来ると思う。毎回外出するたびに、どこぞの相手を引っ掛けてきてはしばらく遊び、都合がよければ傍に置く。 それでも飽きれば殺すなり薬漬けにするなりと都合よく処理してしまうから、どちらにしろもうサーシェスからは逃れられない。 自分もその一人だ、良くわかっている。 気がつけばサーシェスに抱かれていたし、都合がよかったから傍に置かれている。 片腕となったのは自分の実力だろう。 それは戦士としての腕でもあり、セックスの相性であったりするのだろうが。 好きな人間を好きなだけ抱いているのがサーシェスだ。 かといって自分も、サーシェスだけの相手をしているわけではない。 女も抱くし、しろと言われれば敵兵だろうが部下だろうか、どこかの豪商のいっときの戯れだろうが身体を許している。 まだ二十歳にもならない身体はまだまだ未成熟で、少年の面影さえ残している。 それでも、ライフルも機関銃さえも撃てる程の力は付いたし、MSの能力はサーシェスに次ぐ実力だと仲間内では認められている。 そうでなければあの男の片腕など務まるものか。 あの位置に居られるのは自分だけだ。他の誰でもない。あの場所は。 バスルームの鏡に映る、濡れた自分の裸体を見つめる。 貧弱な、あの男の半分程しかない肩幅。腕やら足についた筋肉は乱暴につけたものばかりで、隆々としてるとは言いがたい。顔つきなど16の頃から何一つ変わっていないような気がする。 けれど、それでも。 こんな身体をあの男は抱くんだ。 何も無いこの身体を、望んで抱いている。 シャワーのコックを止め、タオルを巻いただけの濡れた身体のまま、寝室へのドアを開けると、血の臭いが鼻についた。 「…っ!?」 何故。 殺気など感じなかった。このドアを開けるその瞬間までは。途端に緊張が走る身体。身を強張らせた。 「……あ、…」 ベッドには血だまり。その傍には黒いスーツにネクタイを見につけた、赤い髪の男。 …赤い、サーシェス。 「よぉ」 ベッドに居たはずの女が消え、そうしてそこに立っていたのは、刹那の頭を占めていた、男の姿。 帰っていたのか。 服さえも着替えずにこの部屋に来たサーシェスの手に握られていたのはナイフ。 血がぼたぼたと刀身から流れ落ちている。 (…あぁ…) 殺されたのか。 すでに女の遺体は運び出された後らしい。これだけの血が流れている。生きてはいまい。殺したのはサーシェスだ。仕損じる事もないだろう。 (…あの女、気にいっていたのにな…) 硬直していた身体から、だらりと力が抜ける。 赤い髪を持つ、長身の女だった。 勝気で腰が細くて、甘いにおいを漂わせていた。傭兵の相手をするような娼婦だったのに、どこか自然な笑みで微笑むから気に入っていた。 けれど、もう、いない。 サーシェスが殺してしまった。 ツカツカと歩み寄ったサーシェスが、立ち尽くす刹那の腕を取り、ベッドへと投げ捨てその上に覆いかぶさる。 ベッドは血だまり。その上に、刹那の裸の身体。 背中に冷たくなった血の感触が広がった。 巻いていたタオルは剥ぎ取られ、全裸の上にスーツを着たままのサーシェスが覆う。 唇が近づいてきても、それは唇に落とされない。 首筋に絡んだ唇が、シャワーを浴びたばかりのあたたかい肌にむさぼりつく。 「…っあ…」 じゅる、と音を立てられ皮膚を吸われ、舌が首筋から肩にかけて嘗め尽くされる。 喰われている。この男に。 全て喰われつくしてしまう。 抱き締められたスーツからは血の臭い。ベッドのシーツからも。 目に映るのは、血のような赤い髪。 「…う…ぁ…」 嘗め尽くされた肩筋に、歯を立てられて皮膚が裂けた。ぷつりと歯型の傷口から血が溢れ出す。 「…っ…!」 背中に、女から流れた血がべったりとついている。 腕を動かせば、その腕さえ血に染まっていた。 サーシェスの髪の赤。自分が持っているのは黒い髪なのに、どうしてこんなに世界が赤に染まってしまう。 腰に巻いていたタオルは乱暴な動作に何時の間にか剥ぎ落ちていて、サーシェスの腰の高ぶりがスーツ越しに伝わってきた。 …勃起している。この男が。 性急に後孔に指が差し入れられ、広げられたと思った途端には、張り詰めた先端がずぐりと潜り込んでいた。 「…いっ…!」 今までのどんなセックスよりも強引で強欲な。 先端を無理矢理埋め込み、ずくずくと幹を差し込んで奥底まで到達させ、躊躇する事なく、律動を開始する。 言葉はなく、獣のようにひたすら欲を求めるような動きで腰を突き入れて快楽を捜す。 痛い。…あまりにも無理矢理な行為にまるで孔を刺されたようだ。ズキズキと広がる痛みに眉を顰め唇を噛み締めて耐えるしかない。 「…っあ…、」 のしかかるサーシェスを受け止める。 ぐちぐちと腰を入れられると、背中が擦れて血糊が広がった。身体中が血色に染まっていくようだ。まるでサーシェスの髪から溢れ流れ出たように。 入り口ギリギリまで抜いた後、ドン、と音がする程に最奥まで一気に差し込められて、喉から悲鳴が洩れた。 最奥を突き抜けるような、力任せな挿入だ。 今更、女を抱いたぐらいでイラつくわけはないのに。 知っている。 この男が望んでいる事はそんな事ではない。AEUで何があったのか。余程面白い命令でも下されたのか。 …予想はついている。こんな強引で性急なセックスは、戦の前の高ぶりすぎた精神のままの行動だ。 叩きつけられる欲望。 とめどなく続くその動きを受け止めながら、楽しそうに口端をゆがめるサーシェスを見ていた。 奪われていく。 サーシェスに、 何もかも、全てを。 |