ナカを開けば、においの篭った精液がどろりと溢れてきた。 それを見つめるサーシェスが、どんな顔をしているのか、刹那は知らない。 *** 飛び込むようにして逃げ込んだホテル、指定されたその部屋に戻ったその時、サーシェスの顔を見てしまったから、全ての理性が吹き飛んだ。 縋り付くように抱きついて、乱暴に服を脱がした。 あの砂漠の国とは違う、スーツを纏ったサーシェスのネクタイを乱暴に外し、シャツのボタンを弾き飛ばして、その肌を露出させる。 自分が何をしているのか、刹那には判らなかった。 ただ、ひたすら、この肌に、この身体に縋りたかった。 サーシェスの熱を。 いつも与えられるあの痛みのあるセックスを。 そうしてサーシェスの衣服を剥ぎ取り、ベッドへと辿りついても、サーシェスは言葉さえ発しない。 刹那から遅れる事一週間、中東から欧州へと渡ったサーシェスが、このホテルにたどり着いたのはつい今しがただ。 1週間、サーシェスの居ない間、このスイートルームを使用していた刹那の姿は何処にもない。またどこかで火遊びでもしているのかと想像はすぐについた。飼い馴らした猫だが、時折そうして遊びに出ては欲求を発散させている。大して気にするようなものでもない。 荷物をソファに放りなげれば、上質なソファが緩くバウンドしてアタッシュケースを受け止めた。荷物など少ないに越した事はない。どうせこちらで買えば済む話だ。 フロアをまるごと貸し切ったスイートルーム、その階に到着するエレベータの到着音、不規則な足音、開け放たれたドア。その先に、困惑した刹那の表情。 何事があったのかなど、すぐに判る。…飼い馴らしているのだから、表情を読むのはたやすい。…あまりにも。 「…遊びすぎたな」 言えば、呼吸に上下した肩がひくりと震えた。 長くなった前髪の中から、欲と困惑に濡れた瞳がサーシェスを捕え、けれどその直後、瞳が探るように揺れる。 以前には無かった反応に、サーシェスはゆっくりと目を細めた。 どうやら本当に、遊び過ぎたようだ。 その一瞬後、もはや耐え切れないのだと、サーシェスに飛び掛るように絡みつく。 呼吸がどんどん荒くなってゆく。服を脱がす指が、性急にボタンを引きちぎるように外しだす。 したい。したい、どうしても、いま。 たとえサーシェスにどんな用事があろうと、この男がその気ではなくても、酷いセックスをされたとしても構わない。それを望んでいる。 引き裂いて。ぐちゃぐちゃにして。いつものように痛みを与えるような傷を抉るセックスをして。 抱かれたい、セックスをしたい、どうしても、今、この身体で、アンタと! 刹那の手が、サーシェスを望む。身体を擦り寄せてどれだけ欲しいのかを表現する。 性急に脱がそうとする腕、震える指先、下唇を舐める舌、ふらつく足腰。 それはまるで酒でも飲んでいるかのようにふらふらと定まらず、手足が揺れている。 どうやらつい今しがたまで楽しんだようだ。 刹那の身体からは男の臭いしかしない。…篭りきった、男の臭いしか。 それで、抱かれようっていうのか、この俺と。 「おい。…俺を脱がすよりも、先にする事があるだろう」 身体を擦り合せ、乱雑に服を剥がす刹那の姿を凍った目で見つめる。 ひくりと動きの止まった身体から、ゆっくりと顔が持ち上がる。 髭の剃られたサーシェスの顔を見つめたのは一瞬で、すぐに刹那は動いた。 何をしろといわれるのか、判りきっている。 なんでもいい。 する。…してみせる。 だから、アンタを。はやく。 ベッドに四つんばいになり、自分で尻を開く。 サーシェスがそうしろと望むからだ。見つめられるその瞳の中に、己の成す事を知る。 そうして、拡げた孔の中に、たっぷりと注ぎ込まれた他人の精液を見、ようやくサーシェスは笑い声を上げた。 「…ここまでしておきながら、俺に抱かれたかったのか」 「そう、だ、…!」 笑うサーシェスの声にも、刹那の返事は直ぐに返される。 今更何を取り繕う必要がある。 なんでも言う。 なんでもいい。 どんなセックスをされてもいいから、今は。…アンタのセックスを…! 「…はやく…!」 焦れる、…のではない。 おそらくこれは渇望だ。 欲しいんだ、どうしても、何があっても。 その、埋め尽くされた精液を取り除いて。…この身体を塗り替えろ。あの男の精液の、真っ白な色から、アンタの血の色へ。 白はいやだ、白は。…どうしても! 「はや、くッ…!」 自ら四つん這いになりながら、尻の孔を広げ、誰の精液とも判らぬそれを晒しておいて、今度はお前が犯せなどと。 しかも、懇願する相手は、あのアリーアルサーシェスだ。 中東に拠点を張る、この巨大な組織をまとめ上げているといっても過言ではない、人殺しも戦争も何もかもをコントロールして見せて、己も戦いに出る戦の鬼。 そんな相手に尻を広げて、犯せと告げる。 …なんという醜態だろう。 それでもサーシェスは、ただ刹那の痴態を見て笑う。 「おねがい、だ…!」 じりじりと焦がれる思いを耐え切れず、身体中でサーシェスを強請った。 はやく、その男の精液を掻き出して、サーシェスのものを、いつもの、あのセックスを! そうされなければ、おかしくなってしまう。壊れてしまう。あの男が、入ってる、この身体の中に。 白い白い精液が体内の皮膚に吸収されて埋って、そうして解けて侵される。 「…犯してやろうか、ソラン」 サーシェスの声が麻薬のように頭の中に響く。…はやく。 「…っあ、ああ、あ」 耐え切れず、自分の指で孔を広げながら、ひくつく入口の襞をなぞる。…たったそれだけの刺激と、サーシェスが見つめる目。 触れられてもいない。ただそれだけなのに。 「も、もうっ…」 襞をなぞる指の動きが早くなる。腰が揺れる。勃起しきった先端からぼたぼたと精液が落ちた。尻から溢れたあの男の精液と、自分の先走りの体液が絡む。 …そうして。 「あ、…あ、あああっ…!」 細い声を上げて達した刹那を、表情も変えず、サーシェスの目が見ていた。 「見られただけでイきやがった」 刹那の股間から溢れ出した精液が、シーツの上へぽたぽたと落ち、多少なりとも項垂れたソレを伝って、玉と孔をぐちゃぐちゃに濡らす。 萎えたわけではない刹那の中心に、サーシェスはようやく表情を変えた。 どこかの男に抱かれ、心の一部を塗り替えられる程に抱きつくされて、それでも俺を求めて帰ってきた。 これが笑わずには居られるか。 想像したとおりに育っている。なんて純真な。 「お前は本当に淫乱だ」 サーシェスの手が、あまりにもゆっくりと刹那の尻にかかる。 ようやく触れたその手は、刹那の孔に触れる事はせず、ただ左右の肉を割って、どろどろと溢れる精液を見ているばかり。 はやく。…掻き出して。他の男のもので埋ったこの孔から全てを掻き出して、そうしてアンタで満たして! 口にしたい思いを、身体をくねって伝える。 判るはずだ。 どんな言葉でも話し、どんな敵とだって渡り合ってみせるこの男が、たかが一人の19歳の男が考える事が読めないなどと。…ありえない。 何を望んでいるのかなど、手に取るようにわかるはずだ。 「…、あ…あああ、」 けれど、刹那が望んだサーシェスの指は、刹那に絡む事はなかった。 指ではなく、サーシェスが与えたのは。 「…っ…!」 「犯して、やる」 いきなり、孔に突き付けられた肉棒が、精液でどっぷりと収まったそこへ直に触れたのが判って、刹那は目を見開いた。 「…っ、」 まさか、そのままで挿入するつもりなのか。 いやだ、それじゃあ意味がない。あの男のものがまだ溢れているというのに! 消して欲しい、違う。そんな事されるとは思ってなかった、誰の精液かも判らないのに、その上からなどと! 「…い、いや…だ、!」 「嫌じゃねえだろう」 鳴く刹那の背中を張り飛ばし、怯んだ隙に、ずぶりと刹那のナカに埋め込む。 「っあ、いあ-------ッ…!」 今まで出したこともないような刹那の悲鳴が上がり、背中が弧を描いて撓り、指はシーツを握りしめて震えた。 くねった身体、首が縮こまるように曲げられて、歪んだ表情が後ろから犯すサーシェスにも見て取れる。 「うっ、、ああ、い、…いや、」 「嫌イヤばっかり言ってんじゃねぇ」 ずっぷりと奥まで挿入された孔の中から、どぶりと溢れた精液がサーシェスと刹那の足に飛び散る。とろとろと床へ流れていく白色が見えて、刹那はぎゅっと目を閉じた。 あんな白色、みたくもない! ずぶりと埋められたものは受け入れ慣れた、確かにサーシェスのものなのに、何故こんな。 あの男の残していった白が、まだあんなに残っている。 サーシェスが埋ったソコに、あの男の精液が。 「い、いや、だ!…いやだ……ぁっ…」 「もう遅ぇんだよ」 笑うサーシェスのそれが、奥底まで届き、ナカへと埋没する。 溢れた精液がシーツへと伝い落ち、ぼたぼたと落ちた。その量があまりにも多い。 「…すげえな」 腰を使いながら、その精液の量に笑う。 どうやら、その男は、本当に刹那の心の一部を塗り替えてしまったようだ。それも、酷くべったりと、自分の色を残していった。 刹那がこれだけ怯えるのも無理はない。そんな感情を今まで教えてやった事はない。 このガキに教えたのは、戦闘技術と男の咥え方だけだ。 だから、知るはずもない。恋愛、などというものを。 見てみてえな。…なんとなく、気まぐれに。 心を塗り替える程の度胸の据わった男を。 刹那を見ればその存在が、そこらの売汰とは違うと判るだろう。それなりに鍛え上げられた筋肉、手と肩には拳銃のタコも出来ている。血と埃の臭いなどそう簡単に消せるわけではない。…加えて、刹那の目を見れば。 それが判っていて抱いたのだとすれば大した男だ。 刹那が、他の女と遊ぼうが男と関係を持とうが、サーシェスにとって、大した感情はない。 どちらにしろ刹那が戻ってくる場所は1つだ。どれだけ他人の元へ行かせようが、戻ってくるようにと育てている。 刹那にとって、自分が絶対的なものだと思い込ませている。空気や大地と同じだ。無自覚だが、しかし確実に。 時折、サーシェスに対して殺気じみた気配をぶつけて来るものの、それさえも他愛もないもので、剃刀を持たせて無防備に身体を晒しても、その刃は向けられなかった。なんて従順な犬になったものだろう。 そうしていま、その刹那が、初めて他人に心を奪われて慌てふためいている。 …これが笑わずには居られるか。 おそらくは初めてなのだろう心の動揺の正体が判らずに困惑し、身体の焦燥のままサーシェスを求めた。 そうして、心を占める男の精液を湛えたまま、自分の身体を犯されるのはさぞや屈辱だろう。 背中が震え、声は悲鳴ばかりだ。 …なんて滑稽なんだろう。 刹那の声が、悲鳴から鳴き声に変わるまで、いたぶりつくしながら、サーシェスはその精液の白を見ていた。 刹那が、嫌いで嫌いで仕方ない、真っ白なその体液を。 |