「…うっ…」
ナカに熱く濃いかたまりが、どろりと吐き出されたと判った途端に、身体の上にずしりと感じる重みに呻いた。
ロックオンの身体が刹那の上に乗って、気を失っている。
まだ、ナカに挿入されたままだというのに。

(………、)
病み上がりに無理をさせすぎたか。

そう思ったのは、抱かれているはずの刹那で、倒れこんだまま意識を失ってしまったロックオンはぴくりとも動かなかった。気絶というより睡眠だ。あれだけ眠ったというのにまだ眠るのか。

4年もの間、眠り続け、身体は完全に元の状態に修復されたといっても、筋肉の動きまで以前と同じようにというわけにもいかない。
カプセルっていっても、何でも完全に治すわけじゃないからな、とはドクターの言葉だが、このロックオンは4年まえと少しも変わらずに復活を遂げている。
強いて言うのならば、今は体力が落ちている、という事ぐらいだろうか。
眠っていた本人からしてみれば、4年といえど一瞬の睡眠なのかもしれないが、身体は4年のブランクがあるのだから当然だ。

(…重い…)
身体の上に圧し掛かる重みは、それでも昔よりは受け止めやすくなっただろうかと、目を閉じて受け止める。
細く長い呼吸を繰り返すロックオンの背中に手を這わせ、その広さを感じる。
昔は、この身体に圧し掛かられたらどう足掻いても抜け出す事など出来なかったけれど、今ならばなんとでもなるかもしれない。4年の間、刹那とて充分な訓練や鍛錬を続けて成長した。この男ほどの身長と肩幅を手に入れられなかったけれど。

大きな身体を抱きとめたまま、息を吸い込めば、彼のにおいが鼻腔をくすぐった。
それだけで刹那の身体が、ずくり、と疼いたのは、セックスが足りていないからだ。
今のロックオンに、これ以上を求めてはいけないのは判っている。…判っているからこそ、こうして抱き締めて彼の存在を、自分の身体に教え込む事で満足する。
生きている。
生きているのなら、続きは、明日は、幾らでも作れるのだと知っているから。

(…けど…)
このまま、この身体に圧し掛かられているのは堪らない。いい加減、受け止めている腕は痺れを感じているし、体重とて差がありすぎる。
刹那は、息を大きく吸い込むと、ゆっくりと、すこしずつ、ロックオンの身体を持ち上げた。
ナカに埋ったままのモノが、ずくりと動き、少しずつずるずると抜き出て行く。
それでも彼が起きる気配がないのは、余程深い眠りに入っている所為か。

「ん、…っ…」
ずるりと抜きとって、ロックオンの身体を横たえると、どろりとした精液が、開かれた孔から、こぽりと溢れた。
手を伸ばして掬い取れば、なんて濃い。
(…4年分…?)
指先に白獨の体液をとって、ぬちぬちと触れる。まるで指先の皮膚に擦り付けるようにじわじわと触れて、手の平を見つめる。独特の鼻につくにおい。
ロックオンのものだ。ロックオンの。

指先を伝う精液をしばらく見つめ、無表情に首だけを動かして、眠りについた顔を見下ろせば、すぅすぅと心地良さそうに呼吸を繰り返す。

(同じ寝顔なのに…)

あのカプセルの中で眠っていたような死人のような顔ではない。
セックスをした後だからなのか、カプセルに入っていないからなのか、随分と血色良い顔色で、眠りについている姿。
まるで、この男が生きているのだと思い知らせるような、確かな存在と、この精液のあたたかさ。
手を伸ばして、頬に触れた。
精液と同じ温度の、あたたかい皮膚。

「…ん、…」
長いまつげが、ひくりと動き、やがてうっすらと青緑色の目が開く。鼻がすんすんと動いた。途端、思い切り顔を顰める。

「…刹那、くさい…」
「おまえのだ」
「俺の…って、…ん……?…っ、おいっ?!」

自分の頬に触れていたぬるぬるとしたものが、自分の精液だと判ると、病人とは思えない素早さで起き上がり、きたねぇ!とシーツを剥いで、顔を擦る。

「あ」
…なんて事をするんだ。せっかくつけたのに。
憮然とする刹那に、ロックオンはシーツでごしごしと頬を擦りながら喚く。

「汚いだろ!?」
「……」
む、と眉間に皺が寄った。
では、その汚いものを飲んだり受け止めたり肌の上に吐き出されたりしているこっちは、どれだけ汚いものだというんだ。

「…自分のはイヤなんだよ!俺だってお前のは飲んだり舐めたりしてるだろ!?」

なんて理屈だ。そんなのは言い訳だ。
拭き取られた精液が悔しくて、今度は鼻先に精液をつけようとすれば、まるで子供の鬼ごっこのように慌てて刹那の手から逃げるから、苛立ちながらも少しばかり面白くなって、ロックオンを追いかけた。
狭いベッドの上だ。追いかけごっこは、バランスを崩したロックオンがベッドに仰向けに倒れたところを刹那が上から身体ごと乗り上げる形で決着がつき、勝ったとばかりに、鼻先にぺたりと精液をつけて遊ぶ刹那は、無表情ながらも、楽しそうだ。

「…おまえね…性格変わったな…」

ぺたぺたと精液を擦りつけ、鼻の下にもつけようとしたところで、さすがにそこは勘弁しろよと手を掴んで止められたから悔しくなって、掴まれた手を、ロックオンの口の中に、ずぼりと入れた。

「うがっ!?…うわっ、舐めちまった…!」

ざまあみろ。
慌てふためくロックオンに満足する。
病み上がりだろうとなんだろうと、勝手に寝オチされた上に、人の事を汚いと言ったのだから、このぐらいはいいだろう。
ロックオンの身体の上にぺったりと寝そべりながら、イジメに満足したのか、刹那は上機嫌だ。
胸に耳をつけて鼓動を聞く。同じ速さでトクトクと動くこの音が好きだ。

「なぁ刹那。俺の知らなかった4年間で、お前、どんな事になってたんだ…?」
「何も」
「何も、じゃねぇだろ。お前、アレルヤと何かあったか?」
「何も」
「嘘をつけ」

目覚めた直後、お前はあの男に姫様抱っこされてたんだぞ。アレで何もないとは言わせない。
人に心許さなかったお前が、他人の腕の中で、あんなにすやすやと眠りについていたという状況。
しかも、こんなに美人に育っている。…これでは恋人が居ないと思う方が難しい。
そうだ、しかも刹那の性格は、幾分か丸くなっているんじゃないか。人の顔に精液つけて遊ぼうだなんて、前では考えられない事だ。

「誰だ!?誰の影響だ、刹那、おいお前何かあるだろ!」
「何もない」
「だから嘘はつくなって!おい刹那、俺は真面目にだな…」

言い寄るロックオンの言葉をひらりひらりと交わしながら、刹那は胸の鼓動を聞く。

とく、とく、とく。

耳から入る、穏やかな声と音。
触れる体温のあたたかみ。

あぁ、なんて満たされた時間なんだと、喚くロックオンに見えないように、刹那は小さく微笑んだ。