頬に触れる癖のついた髪の感触がくすぐったい。
そんな他愛もない感覚が、思えば最初の違和感だった。
ゆるゆると穏やかに意識が現実に戻ってくる。あたたかいベッド、まだ体温の高い肌、鼻先に触れている肌さえもあたたかい。

呼吸と共に緩やかに上下を繰りかえす胸やら腹の筋肉。まだサーシェスは眠っているようだ。
…珍しい。同じベッドで、こんな至近距離で眠っている。いつだってすぐにベッドを出て行ってしまうか、自分が出て行くのが常だというのに何故。
あぁそうか、昨晩はいつもに増して酷く長時間のセックスだったから、途中で気を失ったのか。気絶してそのままベッドの中に居るのだと考えれば確かにサーシェスが傍にいるのは頷ける。
まだ目も開ける事の出来ない程のまどろんだ意識の中で、横向きに眠る刹那の鼻を掠めるサーシェスの肌。まるで抱き合うようにして眠っているらしいこの状況を珍しいと言わずして何と言う。
戦争のにおいがするこの男と、こんな甘い状況を作り出すなんて。…奇跡だ。
このまま眠っていたいと思い、そうして静かに息を吐いた。
(…うっ………)
が、その途端、刹那が感じたのは、あろうことか、尻の孔に埋ったままのサーシェスのイチモツだった。


な、んでっ…?
後ろからずっぷりと刺されているそれに、身動きさえ出来ない。
息を吐き出して弛緩したのがいけなかった。ギチギチに埋ったそれがリアルに内壁に伝わってくる。
まさか、昨晩のセックスのまま眠ってしまったのだろうか。
いや、ありえない。ありえないぞ、こんなデカイものを抱えたまま眠るなんて。
後ろから突き入れられているそれは、ずっぷりと刹那の中を満たし、奥まで届いている。完全な勃起ではないようだが、それでもサーシェスのモノを埋めれば刹那の中は一杯に広がる。ようはデカイのだ。

(…嘘、だ…)
目は完全に冴えてしまった。が、冴えて良いことなど一つもない。この状況をどうしろというんだ。後ろから突き入れられているモノ、目の前にもサーシェスの肌があって、逃げる事さえ出来ない。四方塞がりだ。どうしてくれよう。

(……ま、…まて…?)
何かおかしい。おかしいぞ。
真後ろにサーシェス。しかもモノが入っている。
目の前にもサーシェス。間違いない、赤い髪、見慣れた刺青。…これは。

「…っ…」
おもいきり目を開けた。まばたきも何度もして確かに夢じゃないことを確認し、(それ以上に尻の中の感覚がリアルすぎるのだから夢なワケがない)
目の前の男を見た。眠っている、形相は粗野だが、整ったつくりの顔立ち。赤髪の無精ひげを生やし、顎の髭などは胸に着くほどに伸びている。間違いない。アリーアルサーシェスだ。
では後ろは。ナカを刺激しないように、恐る恐る振り返った。…目に映ったのは同じ赤髪。同じ顔で眠ってはいるが、目の前に居る男に比べて幾分か顔が若い。顎鬚もない。無精ひげはあるのだが。…この顔は、見覚えがある。
6年前、クルジスで。…そうだ、KPSAのリーダー、アリーアルサーシェスだ!
「っぐっ…」
思い出した途端、思わず力んでしまい、ナカをぎゅうううと締め付けた。それは刹那にとっても痛みと違和感を与え、思わず身を硬くする。
しまった、と思った時には遅かった。後ろの男がぴくりと身体を震わせ、無意識に腰を動かす。
「はぁうっ…!」
思わず出てしまった声、目の前の男の胸をひっかく。
悪循環だ。目の前の髭面の男までも目を醒まし始めた。

背後のサーシェスが、目覚める直前の身動きをはじめ、刹那の後頭部に顔を埋めて息を吐く。オンナか何かとでも間違えているのだろうか。すんすんとにおいを嗅ぎ、何かがおかしいと思ったのか、目を醒まし始めつつも、挿入が気持ちいいのか腰を動かす。
そのたびに刹那は跳ねた。
動くな!言いたいが言えない。
一方、刹那の正面に居た男さえも、手を伸ばして刹那の身体に触れる。腰、腿、股間にたどり着いて、なんでぇ男か、と寝言のように呟く声。

…まずい。
これはまずい。

いくらなんでも、この男を2人も相手にするのは無理だ。

しかしこの状況。完全に挟まれている。どう逃げ出せばいい?よりにもよって、片方は尻の中にずっぷりと埋っているし、目の前の男とて刹那の身体の上に手を置いている。逃げ出そうとする前にこの男たちの反射神経に負ける。確実に負ける。…1人を相手にしている時ですら負けるのだ。同じ力を持つ男が2人も居たらどうなってしまうのか。想像しただけで、冷や汗が流れる。

(お願いだ…!)
2人がこのまま再び眠りに入る事を祈った。まだまどろみの状態ならば、もう一度眠る事もあるだろう。二度寝をしてしまえ。頼む。そうでなければ。…そうでなければ、幾らなんでもこの二人を相手にするのは無理だ…!!

刹那の切実な心の中の願いは残念ながら、数分後、悲鳴に変わる事となる。


続。