自分の身体の上に伸し上がるサーシェスをこれほど恐怖で見上げた記憶がない。
「ひでぇツラだなおい」
顎を取り上げられ、情けなくも「ひっ」と声が上がった。歯がカチカチと音を立てる。怖いのだ。…とにかく怖い。
戦場で命を失う恐怖とはまた別の、リアルに伝わる、今から何をされるか判りきっているこの恐ろしさ。
そうだ、これは初めてこの男に抱かれた時の感覚に似ている。
あの時もひたすら怖かった。裸になって見せられた肉体と、その中心で勃起もして無い状態で垂れ下がったものを挿れられるという恐怖。
あれが尻の中に入ってくるんだ、しかもさらに大きくなって。
(こわい…!)
逃げ出そうとしたのを、幼いながらも覚えている。
けれど、あれはまだマシだったんだ。サーシェスとはいえ、相手は一人だったし、サーシェスとのセックスが、人生初のセックスではなかったからだ。
KPSAの構成員である大人の男達のモノを受け入れた事はあった。ただリーダーであるこの男のものを受け入れるのは初めてで、その威圧感に気圧されていた分、怖さが増した。
しかし、今は。
あの日の恐怖よりもさらにタチが悪い。1人でも充分なほどの威圧と恐怖と質量があるのに、それが2人。…2人だ。2倍なんだ、信じられない。幾らなんでも無理だ。
確かに、この男を慕っている。慕っているけれど、それでも肉体的に受け入れる限界というものがある。
逃げてはいけないと判っているつもりでも、逃げるしかなかった。
2人が目を醒ましたと同時、どうしようもない恐怖が沸き上がって、耐え切れず身体を起こしたその直後、背後のサーシェスが、逃がさないとばかりに腕を掴んだ。目覚めたばかりでなんて行動が早い。
それに呼応するかのように、目の前に居たサーシェスですら刹那の腰を取って、こりゃおもしれぇ事になってるなと笑って、ずぶりと刺さっていた刹那の腰を動かして遊んだ。
痛みと、快感と、あまりの行為にぐちゃぐちゃになった刹那は耐え切れず悲鳴を漏らす。それを2人のサーシェスは笑った。


そして今、シーツに仰向けになったサーシェスの身体の上に、刹那も仰向けに寝転がっているというこの状況。
尻にはずっぷりと背後からサーシェスのものがハメられたまま、身体を動かされている。
刹那程度の細い身体など重くもないと証明するかのように、腰を使うサーシェス。そのたびに刹那の身体がゆらゆらと揺れた。逃げる事も出来ないのは、両腕を背後の男が持っているからだ。
腕を取り上げたまま、ゆらゆらと揺らす。勃起したらしいサーシェスのものが、みっちりと埋った孔の中を縦横無尽にかき乱す。背後から挿入されている所為で、先端が前立腺にダイレクトに当たる。
刹那のモノも、勃起を始めていた。昨晩散々出した後だというのに、身体は快感に敏感だ。
痛みと快感と苦しさに、顔が歪む。
その顔を、サーシェスが見つめていた。見られている。正面から、あますところなく。

「二本挿しは初めてか?」
背後から突かれる刹那を見下ろす、顎鬚を蓄えたサーシェスが笑う。
…二本、挿し…?
何を言っているんだ。頭が混乱する。
いや、意味は知っている。やられたこともある。それはこの男ではないが、輪姦されていればそういう事もあるだろう。いや問題はそれではなく。
後ろから受け入れるのが精一杯で、目の前の男の行動が読めない。同じサーシェスだというのに、どうして。…いや、頭が死んでいるんだ、もう考える事も困難なんだ、なんでこんな事になった?なぜ。ただいつものように起きただけだ。ベッドの中、サーシェスに抱かれた後、珍しく共に寝た後に。もしや同じベッドの中で寝たのがまずかったのか?それならば、もう二度と同じベッドで寝ない!気絶しようが何をしようが、必ず自分の部屋に戻るか床で寝る。だからお願いだ、夢ならば覚めてくれ!こんなリアルな夢は御免だ!
が、快感までも伝えるコレが、夢なはずもない。

後ろのサーシェスがずぶずぶと腰を突き入れて遊ぶ。回してみたり、太鼓を叩くように腰を持ち上げてみたり。完全に遊んでいる。刹那にとっては生死の境目だった。突き上げられるたびに、身体がミシッと音を立て、呼吸さえ止まりそうになる。
視界さえブラックアウトしそうになるギリギリの状態で、サーシェスが、だらりと力を失った刹那の足を持ち上げるのが見えた。

「…ひっ、…」
何を。
想像がつかない。うそだ、想像ぐらい出来る。出来るが、それはあまりにも無理だ。無理、無理、
「…む、…りぃ、っ……!」
思わず声に出た鳴き声に、両方のサーシェスの動きが止まる。
もしかしたら続きを止めるのか、と淡い希望を持ったのは本当に一瞬だった。
くくくく、と低く笑う声が背後から聞こえた。笑う度、腹と胸の筋肉が動いていて、刹那の小さな背中に伝わる。と同時に笑う吐息が刹那の後頭部の黒髪を揺らした。ぞわっと湧き上がったのは鳥肌だ。
怖い。怖い!
助けをなどあるはずもないのに、目の前の男を見つめてしまったのは、慈悲を求めたからか。
しかし、目の前の男の表情ですら、刹那の恐怖を増す事しか出来ない。
笑う背後の男と呼応するかのように、笑い声を噛み締めたまま、刹那の足を持ち上げたサーシェスは、ゆっくりと顔を上げ、恐怖にひきつった表情を見つめた。
「今の声はよかった」
その表情と声、そして今の状態。
恐怖を通り抜けた脱力が、刹那を襲った。
尿意があれば、失禁さえしていたかもしれない。
かくりと力を失った刹那の足を、改めて取り上げて、サーシェスは笑った。

「さぁ、楽しもうぜ?」