ベッドの上。
僕が見下ろす真下で、シーツに片頬をつけた刹那が、どうってことないって顔を繕いながら、痛みに耐えていた。
表情も変えないように努力してるみたいだけど、痛みなんて完全に消し去れるわけじゃない。
いつだって僕を受け入れる時、刹那は苦しいって顔をする。…それをなんとか誤魔化そうとしてるみたいだけど、そんなの無理に決まってる。表情はある程度誤魔化せるのかもしれないけど、たとえば身体の力みだったり、受け入れてる孔の収縮具合だったり。そんなのが手に取るように判ってしまうんだ。だって身体を密着させているんだから。
刹那は耐える。
…普段なら、ここまで意固地じゃないのに、今日は、刹那は気持ちも口も割らなかった。どうしても。


それは凄く些細な理由からはじまった喧嘩だった。
戦術フォーメーションの確認っていう、シュミレーションの最中。
普段だったら、近距離を担当する僕と刹那が、フォーメーションを組むって事はほとんど無く、だから僕達2人でフォーメーション組んで戦闘するなんてのは、凄く少なかった。それでも、何かの不都合で僕達が組むことだってありえるからって、変則で作られた数少ないフォーメーションの確認のため、それぞれガンダムに乗り込んだ。
シュミレーションルームのコントロールセンターから見守ってたロックオンは、「お前らなら一発OKだろ」って言われて出たテストミッション。結果は驚く程のズタボロ。シュミレーションでよかったって思うぐらい。もし実戦だったら、刹那は敵機に落とされていた。それで、きっと命を失ってる。
そう考えたらゾッとして、僕は震えた。だって、刹那が死んでいたかもしれないなんて考えただけで、酷く怖くなって、苦しくなって、…どうしたらいいのか判らないぐらいに震えた。刹那が居なくなってしまう。死んでしまう。もう二度と僕の前に現れない。あの姿も見られないかもなんて、耐えられない。
僕はキュリオスのシュミレーションプログラムを終了させながら、冷や汗を流し、恐怖に震えていた。
シュミレーション結果は、「エクシア大破」だった。


「刹那!」
キュリオスから降りて直ぐ、エクシアの元へと駆け寄ると、刹那はとっくにコックピットから降りていて、メットを脱ぎながらシュミレーションルームから出ようとしていた。スタスタと僕から逃げるように足を進める刹那を逃がすもんかと、慌てて駆け寄ってその肩を取った。
「刹那、今の!」
「………」
振り返った刹那の目は、まるで、(問題でもあるのか)って顔してる。
…ちょっ…刹那!

「結果見た?エクシア大破、だったよ?」
「知っている」
知ってるなら…!思わず荒くなってしまいそうな言葉を必死で我慢した。
「刹那、これは一度ちゃんと考えた方がいい」
なるべく言葉を選んで、厳しくならないように告げたつもり。けど刹那は淡々としていた。
「コックピットは狙われてない。帰艦も出来ている」
「…そっ…!」
コックピットは無事って、ちがうだろ、コックピットしか無事じゃなかったんじゃないか!あとは全部破壊されつくして武装もなくなってた!もし帰還中に敵機に襲われたら君は撃ち落されてる。…っ、嫌だ、そんな光景絶対に見たくない!
「刹那!」
悲痛な僕の気持ちとは裏腹に、話が済めば用がないと、僕の手を振り切って刹那は歩いて行ってしまった。引き止めたくて、けど震えてしまった僕の足が刹那を追いかけることを鈍らせる。こぶしを握りしめるしかなかった。刹那の消えたドアを睨む。
「…大問題だよ、刹那ッ…」

その後、スメラギさんを交えたミーティングで、さすがにエクシア大破の結果はまずいということになって、フォーメーションはもう一度組まれる事になったけど、僕はずっと心に棘がささったみたいにぴりぴりしてた。
だって、刹那は少しも懲りてないように見えたんだ。
ああしなければ、やられていた、刹那の言い分なそんなもの。…何がやられていたっていうんだ。一番やられてたのはエクシアだ。
フォーメーションは、エクシアがあんなに破壊されるようなものじゃない。
エクシアが、右から突撃する。僕は左から牽制を兼ねてフォロー。危なくなったら引く。そこで挟み撃ち。
そういう単純な戦術なのに、どうしてエクシアは敵陣深くに入っていってしまったのか。僕はフォローで必死になり、けれど刹那は敵機を倒すだけ倒して、突破口を開こうとする。危なくなったら戻るって、危ないと感じるボーダーラインが僕と刹那で違いすぎるんだ。
こんな時、刹那と組んでいたロックオンはどうするのか。…けど、デュナメスとキュリオスじゃ、遠距離攻撃に差がありすぎる。機体性能が違うんだ、どうしようもないよね…。

「話、したらどうだ?」
ロックオンが言った。僕はその言葉をコーヒーを飲みながら、聞く。
「話…」
「確認すればいいじゃないか。もっと言葉で」
「刹那が話をしてくれるかどうか、なんだけど…」
「するだろ?愛しのガンダムの事となれば」
ロックオンはそういってウインク。…そりゃあ…ロックオンみたいに会話が上手なら、刹那ともコミュニケーションが取れるかもしれないですけど、僕が刹那とどれだけ話せるっていうんだろう。
コーヒーをずずっと啜って、都合の悪い間を誤魔化しながら、僕は困るしかない。
ロックオンは呆れたのか、はははと笑った。苦笑、されてる。

「お前ら、それでも付き合ってんのになぁ…」
言われた言葉が、痛いなと思った。
うん。それでも僕は刹那と付き合っているんだ。少なくとも身体の関係があるぐらいに。
…話か。
そうだよ、話をしなくちゃいけないんだろう。だって僕達はガンダムマイスターで、これからだってこういったいざこざはあるに決まってる。僕だって刹那と仲直りしたい。ギスギスしたままで作戦なんてこなせないし、僕だって刹那ともっと穏やかな気持ちで接したい。
だからとにかく話を。
…そう思って、僕は刹那の部屋の前に立ち、兎にも角にも刹那と話をしなきゃはじまらないって、ドアをノックしたんだけど。
…けど、なんで僕、刹那を押し倒してるんだろう…。


「…だって、君が僕の言う事聞いてくれないから…!」
苦し紛れに言った、言葉がそれだった。
刹那は、僕を見上げ、そうして、唇を僅かに動かそうとして止めてしまった。
なんで。喋る事さえ拒否されたの、僕は。

本当は話をしたかっただけだった。
フォーメーションが上手くいかなかったなら、もう一度すればいい。何度かトライして僕と刹那の溝を埋めていけばいい。けど、それよりも刹那と僕は恋人同士…なんだから、戦闘で確認する前に、言葉でだって表情でも、身体でも確認は出来るんだ。分かり合えるはずなんだ。
なのに、刹那の部屋に入った僕が、君からされたのは、おもいっきりシカトだった。
話もしてくれない。目も合わせてくれない。…それで、悲しくなって、肩を引き寄せて、話を聞いて、って。そう言っていたはずなのに、気がつけば君をベッドに押し倒して、上から乗り上げて、服を捲ってる。
違うのに。こんな事したいわけじゃないのに。
でも刹那が話もしてくれないなら。表情も見せてくれないなら。…物理的に近づくしかないじゃないか。

「…刹那、ねぇ」
胸が苦しくなった。唇を近づけようと、でもキスしようとして顔を背けられたらどうしようって、出来なくて。
でも刹那の首筋、肩、胸、そんなところは避けることが出来ないだろうって判ってたから、筋肉が乗った柔肌に唇を押し付けた。…刹那は逃げなかった。身体は硬直させていたけれど。
声も聞かせてくれない、目もあわせてくれない。でも身体だけはいいっていうんだ。

拒否、されてるわけじゃない。
けど、迎え入れてもらえているわけでもない。

(…それが一番辛いよ、刹那)
だって、嫌なら嫌って言ってくれたら良かったのに、それさえしてもらえない。
セックスするのはこれでもう何度目だろう。…でも、今こうやって行為を始めようとしていても、刹那は言葉一つ漏らさなかった。
それは、ミッション中だってシュミレーション中だって変わらないんだ。いつだって最低限の言葉ばっかりで、後は自分の思うように行動を貫く。それが刹那Fセイエイっていう人間なんだと判っているけど。…けど。
「じゃあ僕は何のために君の傍に居るの…」
刹那の服を脱がし、性急に足を広げて、先端を孔の先にくっつけて、刹那を脅かすようなことさえした。
けど、反応はゼロだった。
やりたければやればいい。
そんな言葉が胸の奥に聞こえてくるみたい。…酷い。刹那、ひどいよ。

セックスしてるのに。
どうしてこんなに苦しくなってるんだろう。
刹那が好きなのに。
君を守りたいと思うのに。

「刹那、刹那、ねえ、刹那っ…」
腰を突き入れながら、刹那の名前を呼ぶ。
けど、返ってくるのはほんの僅かな呼吸音だけ。喘ぎ声も痛みから来る声も無い。

なんで。
なんでこんなに苦しい。
刹那は痛いって言葉も言ってくれない。
ミッションの援護も無視する。
話も出来ない。なのに身体だけ合わせる。けどそんなの、何になるっていうんだろう。
刹那、僕は性欲を発散させたくてこんなことしてるんじゃないよ。君を守りたくて、君の事が好きで、だからこうしているのに。
…なのに、なんで。
ああもう、駄目なのかな。…君は本当は僕の事なんて好きでもなんでもなくて、僕がこうして君を誘うから、だから答えているだけなのかな。

「…っ…うっ…」
胸がぎゅううと苦しくなって、駄目だ、堪えなきゃって思ったのに、涙腺に沸きあがったものを堪える事は出来なかった。
刹那の腰を抱え上げて、ナカに挿入したまま、動きを止めてしまった僕を刹那が見上げる。やっと僕を見てくれた。けど僕の目の前は水の中に居るみたいに視界がふにゃふにゃで何も見えない。刹那が僕を見てるのだけは何とか判ったけど、どんな顔してるのか判らない。
刹那の胸の上に、ぼたっ、と水滴が落ちた。僕の涙だ。
それは止めようと思う程、止まらず、ぼたぼた落ちて刹那の胸から溢れ、脇へ流れてシーツに零れた。
とまらない。…止まらないよ、刹那。

「…っ…うっ、うっ…」
あまりにも見苦しくなって、顔を手で覆ったけど、それでも手のひらをひたひたと濡らす。
情けない。
ベッドの上で、刹那の中に挿入したままでこんな。

でも、今こうしてあったかい刹那は、本当はとてもとても冷たくなることを僕は知っているんだ。
それは、心だったり、身体だったりする。
死んでしまった身体はとても冷たい。あったかい血を流しきると、まるで氷みたいに固まった冷たい人の形をした入れ物になる。
心だって、冷たくなる。言葉を伝えなきゃ、ちゃんと目をみなきゃ、君がもっと近づいてくれなきゃ、気持ちが伝わらないってだけで、あっという間に心は冷たくなって触れると寒くて寒くて仕方なくなるんだ。…まるで今、みたいに。
死んでるんじゃないのに。君はここにいるのに。心だってあるはずなのに!
「ないて、る…」
刹那が呟いた。
「だって、刹那が、…!」
こんなに冷たいから!
言おうとした言葉が、嗚咽で消えた。
ひくっ、と止まらなくなった喉が、僕にそれ以上の言葉を吐き出させなかった。あとはもう嗚咽ばっかり。
「アレルヤ…」
刹那から洩れた声は、僕の名前を呼ぶ声だった。
けど、僕の心はぐちゃぐちゃで涙も止まらなくてどうしたらいいか判らない。名を呼んでくれた事は嬉しいけれど、その声さえ、刹那が困った上で苦し紛れに出したように聞こえる始末。だから僕はどんどん苦しくなっていく。
「刹那、そんなに僕が嫌い…?」
言えば、今度こそ刹那は身体を強張らせた。
反応が今までになく率直で僕は余計居た堪れなくなる。
もしかして本当に嫌い?だから、震えるの?…嫌い…?
嫌いって、どのぐらい僕の事を嫌ってるの?
「フォーメーションも出来ないぐらい?ロックオンとは喋るけど僕とは話もしたくないぐらい?ティエリアの言う事は聞けても僕の言葉は聞けない?本当はそのぐらいに嫌い?…だったらこんな風にセックスしてる意味なんて、」
「アレルヤ!」
叫んだ刹那の声が、僕の言葉を遮った。
吃驚するぐらい、大きな刹那の声。同時に力を篭めた刹那の筋肉の動きで、ナカがぎゅううと締まる。
「…っ、ぁ、…!」
「うっ…」
僕も痛いけど、多分刹那はもっと痛くて苦しい。このままじゃ身体を痛めてしまう。
けど、刹那は名前を叫んだだけで、それ以上の言葉を発することはなくて、僕は心を読めなかった。
「刹那、」
見下ろすけど、表情が見えない。
僕の涙は引っ込んだけど、かわりにズキズキと胸が痛くてたまらない。
駄目になる。駄目になる。
きっと駄目になってしまう。
すうっと胸の奥が冷えていく感じ。熱かったものが急激に冷めていく。
刹那はもう僕を見ない。
泣いてばっかりの、刹那を判ってあげられない僕を、もう見ない。
だから僕はもう駄目だと本当に思うしか出来なくなった。
そう理解したら刹那とセックスしてる今が凄く申し訳ない事に思えた。だってこれは一番汚い行為だ。刹那を傷つけて、苦しめて、僕は性欲を吐き出して楽になる。酷い行為だ。刹那に痛みだけ与えるだけ。愛なんて微塵もないなら尚更に。

「ごめん、刹那抜くから、…力、ぬいて…」
もうやめよう。こんなのやめよう。
どうしたって気持ちなんか繋がってない。刹那の心も読めない。だったらこんな事してたって意味ない。

ぎゅうぎゅうと僕のを締めてる刹那の身体を押して、細い腰を持ち上げてお尻を割る。きちきちになってて痛そうに見える結合部分を引き抜こうと、刹那に協力を促すけど、刹那は動いてくれなかった。
「刹那、抜けないよ、ごめん、力、抜いて」
謝ってても、こんな事してる。馬鹿みたいだ。
僕のは刹那のナカで大きく硬くなってしまっていたから小さくする事も出来ない。イっちゃわなければ無理だ。だから刹那ごめん、君を傷つけたくないから、力を抜いて欲しい。
…それなのに、刹那は俯いたまま力を抜こうとしなかった。
なんで。苦しいなら、もう抵抗しないで刹那。
「…刹那…」
僕が言っても、刹那は顔も上げない。口も聞いてくれない。
けど、刹那が震えているのは判った。…痛い、から?…違う?
刹那。君、
僕が、自分でも何を言おうとしたのか判らない言葉を、喋ろうとした時だった。乾いた刹那の唇が、うっすらと動いた。

「…どうしたらいいか、判らない」

「せつ、な?」
僕の服をぎゅっと掴み、聞き逃しそうなほどの小さな声が刹那の喉から聞こえた。触れ合っている所為で、刹那の表情が前髪に隠れて見えない。…どうしよう、刹那、ねぇ。
どうしたらいいか判らないって、僕もわからないよ。

「刹那、」
「今、どうしたらいい、俺は」
刹那はそう僕に聞いた。どうしたらって…。今して欲しいのは。
震えてる刹那の肩に触れた。ひくっ、と痙攣した身体がそのままナカへの刺激に変わる。…っ、う、…。

「今、どうしたらいいかわからない?力を抜いてって、僕は言った。それが判らない?」
諭すように告げると、刹那はなおのこと、力を篭めた。
痛い…、痛いって、刹那ッ!

「やめたく、ない…」
「せつ、な、?」
「力を抜けば、…終わりになる」
「だって、君、もう辛そうじゃないか…!」
言えば、刹那は僕の服を握る手に力を篭めて引き寄せた。まるで離さないって示すみたいに。

「辛く、ない」
「嘘」
「嘘なものか…」
強情…!辛いはずだろ!?だって、
「じゃあなんで!」
僕は強引に体位を変えて、刹那を突き放した。
「あっ」
握っていた服から刹那の手が離れ、接合部が動き、刹那の顔が上がる。その頬を手に取った。
「こんなに苦しいって顔してる!」
「…っ、…!」
真正面から、刹那の顔を見つめ、目を覗き込む。その表情はいつもの無表情なんかじゃない。明らかに苦しい辛いって顔だった。
こんな顔をね、見るのがつらいんだ。僕だって。

「僕に抱かれる事で、刹那がこんな顔するぐらいなら、一人で処理してた方がいい。フォーメーションも組めないなら一人で単独ミッションした方がいい。その方が君が死なない。無茶な突撃もしない」
「ちが、…う、…」
「何が違う?そうだろ?刹那」
「ちが、…」
刹那の表情がどんどん歪んでいた。涙が浮かんでいないのが不思議だと思うぐらい。こんな刹那の顔、初めて見る。
僕の手が添えられた刹那の表情が、くしゃっと歪んだ。目が伏せられて、苦しげな吐息が口をつく。その唇が激しい慟哭みたいな叫びを吐き出した。
「…どうしたらいいのか、判らない、んだッ…!」
「…刹、那?」
「どうすればいい。どうすればいいんだ、俺はッ…」
まるで堰が切れたみたいに、泣き声に近い悲鳴。僕は刹那を見つめたまま、身体が強張った。
震える刹那の声が続く。
「今、やめたくないのにお前はやめるという。…あのシュミレーションでも、キュリオスの被弾を減らそうと動けば、違うと言われる」
「せつ、な?」
「好きだといわれて頷くのに、お前は俺が嫌いなのかと聞いた」

そ、そうだけど…!確かに刹那に好きだよって言えば君は頷いてくれたけど、でもそれ以上、君から何の言葉もないから僕は心配になって!
「…っ、…」
行き違いだ。これは完全な心の行き違いだ。
刹那の悲痛な叫びを聞きながら僕は、さっきとは違う焦りと焦燥を抱えた。
顔を伏せたまま、ぽつぽつと語る刹那の頭をずっと見てる。

「フォーメーションの通り動けば、お前が撃たれる。下がれば、お前が。ならば突破口を」
「刹那、…刹那?」
「キュリオスの防御はエクシアよりも薄い。フォーメーションの通りにすれば、両方とも損害率が上がる。…だったら俺が」
「せつ、な…っ」
今までまったく喋ってくれなかった刹那が嘘みたいに言葉を吐き出す。
刹那、刹那。
だから君はあのシュミレーションで無茶な特攻ばっかりした?キュリオスって、僕を被弾させないため?…確かに、敵を引きつけたエクシアが引いたら、僕のところに攻撃が集中するのは目に見えて判っていた事だけど。…だけど!

「俺は、どうすればいい。何をすればお前が微笑む?何をすれば」

伝える刹那が苦しげに呻いた。
痛いって、苦しいって。そんな事させたくないのに。そうさせていたのは僕?
…ねぇ、刹那。もしかして君は、セックスが苦しいんじゃなく、僕がこうして君を追い詰めてしまっていたから苦しいのかな。
恋愛に慣れてない刹那。抱き締めあうセックスをした事もなくて、だから?どうしたらいいのか判らないのは愛に慣れてないから?
フォーメーションの連携ミスは、僕の被弾率を下げようとしてくれた結果だったんだね。支援に廻った僕は確かにヴァーチェやデュナメス程の防壁が無い。だから君が盾になった。そうだね?刹那。

「刹那、刹那、目、あけて?」
どうしよう、僕謝らなくちゃいけない。
「刹那、お願いだ、刹那」
俯いた額に、僕の額をくっつけて、それで意思が伝わったらいいのに。…ねぇ僕は君の事嫌いなんじゃない。好きだよ、好きだから、だから僕だって苦しいんだ。
ごめんね刹那、君に酷い事を言った。「僕の事嫌いになった?」なんて、一番酷い事、言った。ごめん刹那。ごめんごめんごめん…!
セックスだって、やめたくないって言ってくれた。君は苦しそうに僕を受け入れてる。いつもよりずっと痛いって顔してる。それでもやめたくないんだ?

そう思ってもらえるぐらい、刹那から好きって感情を言葉じゃないもので貰ってるのに、僕は気付けなかったんだ!


「アレルヤ…」
そうして額をくっつけてしばらく。
刹那が僕の名前を呼んだ事に気付いて、目を開いたら、目の前の刹那の表情が曇って見えた。
また泣いてたんだ、僕は。
でもさっきとは違う涙だ。熱い熱い涙。

「…っ、ごめ、…せつ、…」
刹那の頬にまで、僕の涙が垂れてる。
「ごめ、…」
慌てて親指を伸ばして刹那の頬を擦る。まるで刹那が泣いてるみたいで、ドキッとしてしまう。…僕がそうさせているのに。
親指の腹でぐりぐりと頬を擦ると、刹那はその親指を握って、ぱくりと銜えた。口の中に。
「っ、…!刹那っ!」
慌てて引っこ抜くと、刹那の唾液が僕の親指を濡らして、刹那の赤い舌と唇の内側が見えて、こんな時だっていうのに、僕はゾクッとした。
だって、物凄い色っぽい。

「…せつ、な…っ、」
駄目だ、そんなにゾクゾクさせないで。間近で見つめないで、刹那、僕は、
赤くなった顔を誤魔化すように、顔を背けたけど、刹那のナカに埋ったままの僕は一番リアルに身体の変化を伝えた。
「大きくなってる…」
言われて、恥ずかしくなった。
ナカに入れたまま、どんどん大きくなってるんだ。もうぱんぱんになってたのに、それ以上に。
「ごめ、…刹那、…僕の、」
「謝ってばかり、だ…」
「え?」
「悪い事は、何もしてない」
「でも、こんなの、刹那を傷つける」
「苦しくはない」
「刹那…」
…君は、それでもいいっていうの?
刹那を見つめた。視線が絡んだ。
目を閉じたのは刹那が先だった。唇を近づけてきたのも刹那。
だから僕はキスをした。刹那が望んでるって判ったから。

キス、唇、舌、吐息。絡んで、胸と胸をくっつけて。
言葉、無いけど。
けど、このキスで君から伝わってくるものがあるよ。

「なかなおり、…させてくれる?」

告げたけど、刹那から答えはなかった。
その代わり、背中に回された腕で、その答えを知る。

ごめんね、刹那。

額に謝罪のキスを1つ落として、僕はもう謝るのをやめた。



****



「おーおーアレルヤが張り切ってるねぇ…」
ガンダム4機を投入したミッションで、先行したのはキュリオスだった。
普段ならば、エクシアが先陣を切って突入していく所為で、「子供のお守りをよろしく」などと冗談を言って笑うようなアレルヤが、今日はとてつもなく張り切っている。
「刹那、お前、器用に仲直りしたなぁ…」
ロックオンの通信を、エクシアの中で聞いた刹那は、答えも言わずに無言を決め込んだ。
別に、何もしていない。
勝手に納得してしまった。
『いいよ、刹那。言葉はなくていいよ。僕が君を理解するから。誰よりも君を判ってみせるから!』
そんな言葉で終わったセックスに、刹那は目を閉じた。
いいなら…まぁ、いいか。
ぜぇぜぇ息をつきながら、それでいいならいいかと、疲れきった身体から意識を手放した。
翌日、アレルヤはあまりにも元気だった。かいがいしく刹那の世話を焼き、風呂に入れてみせたり朝食を用意してみせたりと、まるで介護だ。

先行するキュリオスを、背後から見つめる。
キュリオスの太陽炉から、きらきらと放出されたGN粒子が、シャワーのように前方から降り注ぐ。

「刹那ァ」
ロックオンの再度の通信が繋がる。デュナメスのコックピットが映し出され、その表情が、にっ、と笑う。
「アレルヤのおもりをよろしく」