とんでもない事に巻き込まれて、とんでもない目にあった。

教訓として、これからは簡単に身体を許すようなことはしないと決めた。…今さらだが。
慣れてるからといって、特定の相手が居ないからといって、身体を許すととんでもない事になる。特に自分の知り合いには。
そんな程度の教訓は今時、ハイスクールのガキだってわかっていることだろうとは思うが、まさか24にもなって身に痛感するほどに言い聞かせることになろうとは。

いいか、ロックオンストラトス。
これからは、目の前にどれだけ悩み苦しむ青年が居たとしても、それがどれだけ穏便で優しいやつでも心を許すもんじゃない。いい人間を気取っていればいいんだ。簡単に身体を許してはいけない。

そう決めたのに。


「……だから、なんで、今度はお前がそんな事してんだ…」
俺の腹の上に乗っている刹那を見つめながらため息を吐き出して、顔を手で覆った。
もう、刹那を腹の上から退かす気にもならない。

部屋をノックする音が聞こえて、見てみれば刹那だった。
どうしたんだと迎え入れてやって、あぁでもコイツ怒っているんじゃないか?と考え付いて、冷や汗をかく。
そもそも、こいつの恋人であるアレルヤを寝取ってしまったのは俺だ。(いや、取ったわけじゃないんだが)
どう言ってやろうかと思っているところへ、刹那が先に口を開いた。

「アレルヤとセックスしただろう」
「…直球だなおい…」
確かにそうだが。
アレルヤと寝たのはもう誤魔化しもきかない。
しかし、言い訳は出来るだろうと、言葉を捜していたいた瞬間、刹那の体当たりを食らった。面食らっているうちに、覆い被さってくるから、不意を付かれて体が後ろに傾いだ。ベッドに背中から倒れこんで、さらにその上に刹那が乗り上げている。
で、今の状況だ。
コイツは怒っているのか?だからこんな事をするのか?
…まぁ、怒っている理由は充分に判る事なんだが…。

だが、なんでどうして、お前が俺の服を脱がそうとしてるんだ!
「やめろ、刹那、なにやってんだ」
上着を捲りあげられて、その手を払った。
「……」
途端、刹那は不服そうな顔になる。…おい。そりゃこっちだろ。

「…お前、俺に恨みがあるならもっと別の方法で嫌がらせをしろよ」
「嫌がらせじゃない。セックスを」
「同じだろうが!」
なんなんだよ一体!いきなり人の部屋に来て、あれよあれよのうちに乗りあがっておいて、今更そんな屁理屈か!?
いい加減にしろと、刹那の身体を押して退かす。
小さな身体は簡単にベッドの上にぽちゃりと落ちた。
まったく、俺はお前と寝る気はねぇよ。

「大体なんでお前が俺を犯そうとしてんだよ…」
頭をがしがしと掻いた。いくらなんでも、刹那にカマ掘られるのはゴメンだ。脱がされ掛けた上着を整えていると、刹那はぽつりと何かを喋っている。…は?なんだって?
まるでいつかの砂浜での殴りあいの時のようだ。あの時とおんなじ姿勢で、体をよろめかせながら、短い言葉をぼそぼそと言っている。
今度はなんだよ。俺がガンダムか?生きてるからか?あぁ生きていりゃあ性欲だって尽きないだろうがな!
しかし無表情っぽい顔つきのまま刹那が言った言葉は、
「…お前が抱いたのか」
って言葉だった。

……いつもの事ながら、刹那の言葉は最小過ぎてよく判らない。
ええと?
つまりなんだ?

抱いたのかって相手は…あー…この状況から言ったらアレルヤか?…ってことはなにか?お前は俺がアレルヤを抱いたって思ってんのか!?つまり俺がアレルヤのカマ掘ったってそーゆー事が言いたいのか!?
「刹那…お前な…!」
なんでどうしてそういう発想に…いや、もういい。
「いいか、刹那」
頭をかきむしりながら、刹那の肩に手を置いた。あぁなんかもう脱力してきた。

「…普通な、お前自分の恋人が寝取られたら、俺を恨むものなんだぞ。判ってるのか」
だからこそ、お前はあの場から逃げただろう?
言えば、刹那は、唇を噛んだ。ほら、やっぱり悔しいんじゃないか。
「…だから、あー…まぁ、俺が悪かったよ、お前のアレルヤを俺が取っちまって悪かった。だからな、嫌がらせするならセックスしようとかそういう下卑た事考えてないで、もっと別の、な?判るか?」
刹那はふるふると首を振った。判らないか。まあいいや。お子様だから仕方ないよな。

「とにかく、判ったら、部屋に戻れ。アレルヤだって心配してるぜ、お前の事で色々考え込んでた」
詳しい事は言えないけれど。
アレルヤには、刹那とよく話せと言ったから、多分、会話の突破口は開かれるだろう。
もっとも、アレがデカイからやりにくいとかそういう会話をこの2人が出来れば…だが。俺が間に入る気にはなれなかった。馬に蹴られて死ぬ。…というより、そんな事で口を挟む気にはなれない。さすがに。

刹那は満足いかない顔で、俺を見上げてくるが、もう知ったこっちゃない。
あぁ、そうだ、誤解は解いておかなきゃな。

「お前が何故か気になってる、俺がアレルヤを抱いたのか?って話だがな。俺が抱かれた側だ」
勘違いされても癪だしと付け加えた言葉に、何故か刹那はひくりと反応した。

「…あんたがアレルヤに抱かれたのか」
「あ、…ああ」
「アレルヤは、なんて」
「はっ…?」
珍しく刹那が会話に絡んでくる。
ずいっと身体をこっちに近づけて、教えろと目を覗き込んでくる。
「おい…」
思わずシーツの上をずり上がった。…えっとだな、あー…なんて答えたらいいんだ?
「おしえろ」
「いや、おしえろってもな…。アレルヤはお前の事ばっかり考えてて、お前をどうしたらいいのかって…」
「違う、そんな事じゃない」
「……違うって……」
何が違うっていうんだ。
アレルヤはお前の身体の事を一番気にかけてて、結局俺がアイツに抱かれた理由だってそういう理由だった。何が違うというのか。見つめてくる刹那の赤茶色の目の中に、怯えたような不安げな色が映って、俺ははたと気付く。
そうか、こいつもこいつなりに悩んでいるのか、もしかして。
アレルヤがあれだけ不安に思うぐらい刹那が痛がったりしているというのなら、刹那本人だって気にしていて当然だ。
だからアレルヤとセックスした俺の感想が気になってしょうがないのか!

「刹那、近い、近いから離れろ」
つまり俺とお前は、アレルヤに抱かれた仲間ってわけで、ということは、多分刹那が気にしているのは、アレルヤを受け止める事について…か。
ああ、なんて察しがいいんだ、俺。
ってことは、俺はええと。どう説明してやればいいんだ。
どうしてやったらいいかと目線を逸らしている内にも刹那はずいずいと身体を近づけてくる。だから近いってお前は…!言葉で喋りもせずに身体で訴えようとするのはやめろ!まったく!

「あー…つまり、だな。…お前が、アイツとヤる事が大変なのは良く判った。…そういう感想じゃダメか」
「ダメだ」
いや、それ以上に何を言えって。
「お前、そんなにアレルヤの反応が気になるのか」
ベッドの上でこんな押し問答。しかも俺と刹那。
こんなのをアレルヤに見られたら、あいつは絶対に落ち込むだろうな…。そう思って、遠隔操作で部屋のドアを閉めた。ハロが五月蝿くなるのも困るから、黙れと指示をする。こんな時にアレルヤが部屋に入ってきたんなら絶対に誤解される。

刹那はシーツを握りしめて、俺を下から覗きこんだまま、言葉を失っていた。
その様子をつむじから見下ろしながら、コイツも可愛いところがあるじゃないかと妙に冷静な気持ちで見ていた。異様に可愛い姿で、思わず、刹那の頭に手を乗せてよしよしと撫でてみる。
ひくりとまだ幼い身体が動いた。
まぁ、こんな小さい身体であれだけのモンを受け止めているなら、よくやっていると思う。痛いのなんか当たり前だろ。
よしよし、と撫でたのは保護心からだ。

「…お前が心配してるような事を、アレルヤも心配してたぜ」
「………」
「だから、それでもアイツを受け止められるんなら、受け止めてやればいいんじゃないか」
「………受け止めきれない」

………。あー。まぁな。
てか、俺にそれ以上言わせるな、刹那。
なんとなく意地悪くなって、言ってやった。

「なら銜えてやれ」
「口に入りきらない」
「じゃ舐めろ」
「いつもやってる」
「あっそ…」
嘘もごまかしも言わない刹那の言葉はとてつもなくストレートだ。意地悪が意地悪にもならない。
さてどうしたもんかと思っているうちに、刹那の手がするすると俺の服にかかってきたから、またコイツは何をやっているんだと手を掴んで止めた。油断も隙もあったもんじゃねぇな。

「だからやめろって」
「試す」
「試すじゃねえ!」
だからどうしたらそうなるんだ!しかも、刹那は上に乗る気満々だ。
おい。お前が俺を抱こうとしてんのか?
馬鹿やってんじゃねぇぞ!?

「刹那!」
「………」
くそ、今度はだんまりだ!
イラッとした。
まったく、アレルヤも刹那もマイウェイすぎるだろ!俺を利用するんじゃねぇ!
しかもパンツ下ろすな刹那!
手早い動きと辞めない刹那に、カチンときて、つい、俺は怒鳴った。

「俺を犯そうなんて10年早いんだよ、刹那!」

売り言葉に買い言葉だった。
刹那はその言葉にはっきりと反応し、ならば俺が受け止める側ならいいんだなとワケの判らない事をいい、結局。




***




なんで俺が上に乗って、刹那とセックスしてんだろ…。

こんな小さな子供を犯すのは初めてだ。
腰を入れればすぐに最奥にたどり着いてしまい、骨の軋む音がする。
「…っあ…ッ…!」
「痛いか?」
聞いておいて、馬鹿な事を聞いてるなと思った。痛いに決まってる。ゴリ、と音がするほどの最奥、多分俺が相手でもこんなじゃ、あのアレルヤ相手なら、刹那の身体はとんでもない事になっているだろう。
そう思えばよくもこんな身体で受け止めているなと感心した。
あぁ、よしよしと頭を撫でてやって、少しばかり腰を引いた。刹那の中は狭くて熱い。オンナなんかじゃ比べ物にならない。

ベッドの上、仰向けになった刹那は、いつもの無表情を一変させ、頬を赤く染めて目をぎゅっと閉じている。手の中には皺くちゃになったシーツ。握りしめる事でなんとか耐えているらしい。アレルヤ相手でもこんな事をしているんだろうか。恋人なら背中に爪を立てるなりなんでもすればいいと思うが、刹那はそれをしないようだ。アレルヤはどう思うのか。…おそらく無理をさせてごめんとか、そんな事を思うんだろう。
アレルヤが、俺に助けを求めるほど切羽詰った理由が判った気がした。刹那は真性のMか?

「刹那」
声を掛ければゆるゆると顔を上げる。痛みに耐えながらも人を伺うような表情が、少年と青年の狭間の危うい顔つきで、思わずぞくりと鳥肌に似た快感が走った。それは如実に局部に集中して、ただでさえぎゅうぎゅうと締め付けるそこが感じてしまって仕方ない。それは刹那も同じようだ。
「…ックオ、…」
薄く目をあけて、たどたどしくつむがれる言葉。唇が赤い。ゾクッとする。駄目だと判っているのに。そうだ、これはアレルヤのものだ。
…あぁそういえば、アレルヤとセックスした時も同じような色気の快楽を味わった。
あいつは、普段穏やかでのんびりしているくせに、あの時はまるで別人ようで。快感を感じて細められた目、浮かび上がった鎖骨、吐き出される息の熱さ。…コイツ、とてつもなくイイ男じゃないかと思った途端に身体がずくりと震えたんだ。思い出して、思わずまた身体が反応する。…くそ、イきそうだ。

「…ロックオン、…」
「どうした」
刹那が何かを求めるように、はぁはぁと荒く息を吐きながらも見つめてくるから、答えるように目を合わせる。
けれど刹那はそれ以上の言葉を言いやめた。
「…ん?」
「………っ…」
促しても、言いにくそうに唇を噛む。何かを聞こうとしているのに、唇を噤んじまったら何もいえないだろ?…なんだよ、何が言いたいんだ?
「刹那、何が言いたいんだって」
もう一度目を見つめて促してやれば、どうにも歯痒そうに逸らす。もぞもぞと身体が動いていた。
だから、なんとなく判ってしまった。
あぁ、そうか。こいつも心配してんのか。
アレルヤが心配したように、刹那も自分のセックスが変なのかって思ってんのか、もしかして。

「大丈夫だ、お前充分色っぽいぜ」
言ってやれば、ばっと顔を上げて、驚いた顔をする。
ばぁか、お前は無表情でも、眼が口ほどに物を言うんだよ。俺の直感力に感謝しろ。
驚いたままの刹那の表情が間抜けで、鼻先をピンと指で弾いてやれば、目をぱしぱしと瞬いて、意味が判ったのか一瞬で不機嫌ヅラに戻る。
あぁ、そうだ、お前はそういう顔してろよ。
お子様なんだから、いちいち小難しいこと考えてんじゃない。
アレルヤが好きだってんなら、その身体ごと、くれてやればいいじゃないか。

「…ほら、イかせてやるから。で、終わったら今度はちゃんとアレルヤと話をしてこい」
俺と身体で話すんじゃなく、ちゃんと言葉で二人で話をしろ。

まったく、とんだ貧乏クジを引いた気分だ。
気持ちいい思いをしているってのに、人の心配ばっかりしながらやるのはあんまり集中出来るもんじゃない。
腰を深く差し入れて、一度目のセックスでも判ってしまった刹那の性感帯をグリッと刺激してやれば、「ひぁ!」と声が跳ね上がった。…と同時に、耐え切れなくなったらしい刹那の手が、俺の肩に食い込む。
震える姿を見下ろした。
普段ストイックで、表情も変えない刹那が、こんな顔をする。こんな風に鳴く。
ぞくりと快感が波立った。
…充分じゃないか。



***



貧乏クジはどこまでいっても貧乏クジだったらしい。
俺の腹の上にいる刹那は、ぎゅっと目を閉じて眠っている。
さっきまで、肩を掴んでいた刹那の手は、今はシーツを握りしめている。どうやらクセらしい。横向きに小さく丸くなって眠る。
よく考えてみれば、俺が知っている刹那の事なんて、酷く少ない。
無表情で、無類のガンダム好きで、アレルヤの事が好き、…って、それだけだ。
断片的な刹那Fセイエイしか見てない俺にとって、無防備な寝顔や、快感に身悶える姿も、不安げに目の奥だけで揺れる様子も、随分と衝撃的で新鮮なものだった。

まったく、今更何を不安がっているんだか。
眠りにつく刹那を胸元に抱えながら、頭を撫でてやる。寝息は穏やかだ。

とんだ問題に引き摺りだされたもんだ。
人のセックス事情になんで俺が一枚噛んでやらなきゃならないんだ。
…アレルヤが心配になってる理由はまぁ、譲歩してわかるとしても、刹那が不安を感じる事は何もないだろうに。
あれか?アレルヤがセックスを楽しんでいないのなら、自分にも責任があると思っているからだろうか。いや、刹那は充分すぎるほどセックスに慣れていたし、下手なわけでもない。男でこんな歳で、これほどまでに上手いとなると、余程小さな頃からこういう事をさせられていたんだろうと想像は出来たが、それでもアレルヤの動向一つ気になるのか。
「健気だねぇ」
俺とアレルヤの浮気を責めるより、自分を不安に思う方が強いなんて。健気以上に何があるっていうんだ。
すやすやと穏やかな眠りについている刹那の髪をくりくりと指に巻いてみたり、薄っぺらい背中を抱き締めてみても、刹那は起きない。
…こういうのはアレルヤとやれっての。
刹那の顔を覗き込めば、どうにも満足げだ。
もやもやしていた不安や疑問が晴れたって顔してる。

大体、なんでセックスの相談に俺が身体張って駆り出されたんだ。
貧乏クジ。…いや、両方の都合が知れたのは幸運なのか?…いやいやそんなわけはない。貧乏クジだ。

「なぁ、ハロどう思う?」
ベッドサイドでスリープモードに入っていたハロに話しかけてみたものの、数度、目を点滅させるだけで返事は帰ってこなかった。シカトかよ。
胸の上で眠る刹那は、うにゃうにゃと何かを喋っているから聞き取ってみれば、「アレルにゃ、」だったから笑ってやった。
ばぁか。
だったらさっさとアレルヤのとこ、いけっての。