「---で、どうなんだロックオンは」 風呂から出ようと、まさにドアノブをまわそうとした瞬間だった。 ロックオンの事を聞くハレルヤの声。 ---俺? 思わず、ノブを掴んだまま、ロックオンは固まった。 あいつから俺の話が出るとは。一体なんだっていうんだ。 考えてもみれば、ハレルヤが現れてからというもの、刹那をめぐっての衝突…というより小競り合いを繰りかえしていた。 もっともロックオンが一方的にハレルヤに絡んではしっぺ返しをくらうという何とも情けない構図ではあったが。 それでも、ロックオンとて、かわいい刹那をあんな二重人格の片割れに取られるわけにはいかないと、喧々囂々と戦いを挑み続けているわけだが、しかし。 「どうなんだよ、刹那」 「…ロックオン…?」 刹那の声が、ハレルヤの言葉に返事をする。 どうやら2人はダイニングで喋っているらしく、脱衣所にも声はよく聞こえてくる。 ティエリアは居ないのか。部屋の奥でパソコンでも弄っているかもしれない。 ロックオンは、聞き耳を立てていた。 趣味が悪いといわれようが、出歯亀だといわれようが、聞いてしまいたくなるだろう。自分の話題だ。 「お前が一番ロックオンの近くにいるだろう」 「……そうでもない…」 おい。否定したなこのやろう。 近くにいるだろう。一番近くに! それとも何か。あの程度の積極性の接触じゃ、お前には「近くにいる」とも感じない程度だったのか。よし刹那。ならもっとこれから触れて構って構い倒してやるからな。覚えてろ、全身触りまくって撫でつくしてどこもかしこも触れてやる。 刹那にとってはた迷惑な決意が生まれているとも知らずに、ハレルヤと刹那は淡々と会話を続ける。 「実際どうなんだ。あの男でいいのか」 なんだとう! 言われた言葉に憤慨を覚えるが、ここで出て行くつもりはない。話は最後まで聞いておきたい。怒りは胸に押し留めて聞く。 俺でいいのか、だとう?やはりハレルヤは刹那を狙っていたのか。そうか、だから刹那に懐かれてるのをいい事に、いつも一緒に寝ている刹那の腰に手を回したり、マッサージをしてみたり、これみよがしに見せ付けるような事ばかりしているのか! 怒りが溢れるロックオンに、煙草を吸っている呼吸音が響く。ハレルヤだ。 すー、と長く吐き出される音。 …刹那に煙がかかる。やめろ。匂いもつく。やめなさい。 「……あいつが、勝手についてくるんだ…俺は一人がいい」 うわっ、それはひでぇぞ刹那! 刹那の一言が何より痛い。一人がいいだと!確かに確かにな、いつもうざったそうな顔をしているなと思っていたけどな!だからって酷いだろう、刹那!俺の好意はどうなるんだ!いやそれより、じゃあなんで俺とセックスしてるんだ!?お情けか?お情けなのか!?…ちくしょうそんな情けならいらない…、いや、いる。いるけどな、抱き合ってあんあん喘いでいたあの姿には愛なんて無かったいうのか、刹那! 握りしめ続けたノブが、めしっ、と音を立てた。 涙が出そうだ。切ない。 「…けど…」 あやうくロックオンが泣き喚きそうになった瞬間、刹那は小さな口をあけた。 「…意外と…使える。狙った場所は正確だし、タイミングもいい…」 刹那!!! あああ!なんだその褒め方!! 意外と使えるって!俺は使えない人間だと思ってたのか!?いや違うな、使えるってもしかして身体か?…それはそれで切ないが、けど狙った場所は正確?タイミング!?なんだそんなディープなところが好きだったのか!そうか刹那もセックスが好きだったんだな! 有頂天になりかけたロックオンが、感極まってドアを開けて刹那に抱きつきに行こうとしたその時、 「けど…不満がある」 「何」 「あいつ…はやいんだ」 致命的な爆弾を落とされて、ロックオンは固まった。 「意外と使えて、正確、タイミングが良く、けど早い…な」 「何だ…」 ハレルヤが、にやにやと刹那を見る。煙草の煙越しに、楽しげなハレルヤの表情。 …刹那としては心外だ。ロックオンの事をどう思っているのか答えろと言われたから答えただけなのに、そういう目で見られるのは好きじゃない。 「……いや?良く判った。お前が、ロックオンとの戦闘を、どう思っているのかがな」 「………」 またにやりと笑われて、刹那はぷいと顔を逸らした。 |