(まずい…)
刹那の頭の上から、シャワーがざぁざぁ豪雨みたいに流れ落ちている所為だろうか。口の中に広がる精液の味がとてつもなく不味い。水が混じっているからなんだきっと。
この不味さは半端じゃない。
クルジスで生きるために、人間の食べ物じゃないようなものを食べた事も沢山あったけれど、ここまで不味くて生臭いものは余り無かった、と思う。
(いや…あったか…?)
どちらにしろ、生きるために口にするものの味と、性欲が満たされるためだけの他人の精液の味と、どちらか不味いかなんて比べられるわけがない。
(にしても、まずい)
ぬちゃっ、と口の中が鳴った。
飲み干して、喉の奥に流れ込んでしまったものは、もう刹那の胃の中に消えているからどうしようもないとして、けれど口の中にまだ精液が残ってる。
最初にどくっと大量に出たものは飲み込めたけれど、その後に断続的に出る少量の精液が、舌の上に乗ったままだった。苦い。不味い。くさい。
ざぁざぁ。
シャワーの音。
(バレないか)
シャワーの雨と一緒に、口の中に残った精液を、うぇ、と吐き出した。
「こら」
バレた。早かった。シャワーの雨に濡れた、刹那の頭をがしっと持ち、わしゃわしゃと掻き回す。濡れた髪が酷い事になっていた。
「刹那」
タイル張りの風呂の床に座り込んでいるから目線が随分高い場所にある。180後半の身長だと、天井に頭がつきそうだ。
事実、ロックオンもアレルヤも、時々6畳間の吊り下げた電球にぶつかっている。日本はこういうところが不便だと言っていた。それを言うならば、この狭小住宅をなんとかして欲しいものだ。
顔を上げると、ロックオンの顔より何より、素っ裸の股間が見えた。アングル的に当たり前だ。
その中心が完全に項垂れていないのを見て、目を逸らした。
あそこから出たこんな不味いもの。舌の上がまだぬるぬるする。気色悪い。けれど、自分だって同じものを持っている。体内に、腐る程。
(出さないと病気になるらしい…)
そういって最初はセックスをしたような気がする。よく覚えていない。
今とて、毎日やっているわけではないし、頻繁にしているわけでもない。2人きりになれるのは少ない。今のように、ほんの一瞬の時間。もうすぐティエリアがカレッジから帰ってくる。アレルヤが買い物から帰ってくる。…その隙間で吐き出す。

「刹那、ほら。もう1回だ」
随分と嬉しそうに言う。何がそんなに嬉しいのか判らない。性欲など1人で発散できるだろうに、刹那を使う。
こういうのは女とするものだと知っている。男同士よりも濡れるからやりやすいし、女性の身体はどこもかしこも柔らかいらしい。けれど、その代わりに子供が出来てしまう。それはガンダムマイスターであるなら不要なもの。
(マイスター…。あぁ…でも今は違う…)
エクシアと離れて随分たつ。エクシアは他の3機のガンダムと共に今もプトレマイオスにエネルギーを供給し続けているのだろう。
(…エクシア…)
目を閉じれば、目の前のロックオンのモノは見えなくなる。エクシアのシルエットが浮かび上がった。頭の中で、エクシアの乗り込む。コックピットハッチを開いて、バイザーを閉めて。
けれど、今居る場所は違う。水のにおい。温かなシャワー。
これもミッションの内だと思えば仕方ないが、しかし、目を閉じればコックピットに座っているような錯覚さえ、するのに。
今刹那が実際に座っているのは、精液と水道水が流れる風呂場のタイルの上だ。

「刹那、もう1回。出来たらミルクをもう1本買ってやるから」
物で釣る。
そんなもので釣ろうとする。
どうせ、それを断ったとて、なんだかんだと結局はするんだろうに。

仕方ない。一緒に風呂に入ってしまったから。
刹那が腰を上げると、頭上から、「お」と悦んだ声がして、頭を撫でられた。わしゃわしゃ。
どうするんだと目線で訴えれば、ロックオンは浴槽の縁に腰掛けて足を広げるから、口でやれという事なのか、と近づいた。
「違う違う、刹那」
腰を持たれてくるりと回転。刹那の尻と、ロックオンの腰が密着する。この姿勢か。
ふんばりにくい姿勢で、床はぬるぬる滑る。なのにやる気満々な男の手が、胸の先をきゅっと摘んだ。…そこは別に気持ちよくない。時々いい時はあるけれど。
やるならさっさとやれと、尻をロックオンの腰に擦り付けると、嬉しそうに何事かを言い、幸せそうに「刹那」と名を呼んで、後頭部にキスを落としてから、ずぷりと埋めた。一瞬の圧迫感。すぐに慣れた。
やれやれ。
上半身を倒して、手を伸ばせば、浴室の壁に届いた。
片手を浴室の壁に、もう片方は突き上げてくるロックオンの足に爪を立てる。ぬるぬるの床でも、足は踏ん張るしかない。滑りそうだ。
出しっぱなしのシャワーの温かい水。
ティエリアが出しっぱなしにするとあんなに怒るのに、今のこの状態はなんなんだ。

(……声…)
出そうだな、と思った。
気持ち悪いわけじゃない。
気持ちいいわけでもない。多分。
声といっても、呼吸音だ。激しく突き上げられれば、ある程度、息が上がる。けれどそれはティエリアとアレルヤに聞かれたらまずいらしい。何がまずいのか判らない。けれど、この状態では無理だ。ロックオンが口を塞いでくるなら別だが。
(知らない…)
どうせなるようにしかならない。

覚悟を決めたかのように見えた刹那の背中で、ロックオンは楽しげに言った。

「えらいな刹那。ミルクは、特濃の高いやつ買ってやるからな」

あれはいらない。濃すぎて嫌いだ。