「…っ、ぁ…」
刹那の身体の中に、アレルヤの熱を注ぎ込む。
濁流のような激しい感情のまま、刹那の身体を抱けば、抵抗も何もしない刹那の身体は、あっという間に精液で溢れ満たされていく。
それを満足げに見つめる目は、アレルヤなのか。中に潜むハレルヤのものなのか。…刹那には判らない。判りたいとも思わない。
ただ、時間が過ぎてゆくのを待つだけだ。
この身体はもういらないと、言われる時まで。



彼は、性欲および肉欲を抑制させるための道具でもある。

そう言われたのは随分前だったように思う。
だからこそ、こうしてアレルヤの膝の上で、腰を振る刹那を見ていても、何の感情も湧き上がってこないのだ。…そう、自分に言い聞かせた。
アレルヤの中で、常に主義主張を貫いている「ハレルヤ」。彼が暴走してしまえば、後は流されるばかりだ。よほどの精神力を使用しなければ、「ハレルヤ」を押さえ込む事は出来ない。
全ての気力を使い果たして、プトレマイオスへと帰艦した直後、その身体はハレルヤの物となり、その後、数時間の間隔を置いて、ハレルヤとアレルヤの人格の入れ替わりが始まった。
完全な不安定状態は、もはや手のつけようも無く。

「…刹那を呼んで」
スメラギの言葉は、即座に実行され、地球に居たはずの刹那はその翌日にはプトレマイオスに着艦した。


***


膝の上に載せた小さな身体を突き上げる。
「ぁ、あ、」
生理的な声が刹那の口から漏れる。その度に、先程、刹那の口に飲ませた精液が、顎へと伝い落ちて止まらない。
こぽこぽと口から溢れ、流れ落ちる精液は真っ白なはずなのに、まるで血液のようだと思った。
体内から流れ出る体液。命の源のその体液が、溢れて零れてゆく。

「…刹那、刹那…、きたないよ、口から零れてる」
お互い全裸になって、密着した身体。
アレルヤは伸ばした手で、唇に泡立った精液を辿り、おもむろに指を1本口の中に突き入れた。
指で舌を押さえ込む。げぇっ、と喉の奥から吐き出されるような刹那の声の後に、閉じられなくなった口から、また精液がどろりと流れ出した。つんとした生臭い匂いが部屋中に溢れて広がる。
「きたない…、嫌だな刹那。きたないよ…」
言いながらも、アレルヤは笑って、口の中の指を掻き混ぜた。
咥内が、精液でねちょねちょと音を立てる程に粘着質になっている。唾液と絡まった精液がぶくぶくと細かな泡を立てて喉の奥から溢れ出した。
…もう一度ここに吐き出したいな、と思ったが、今は刹那の後孔を突き刺しているから、それもならない。

あぁそうだ、これが終わったら、今度は口に出してやろう。この口の中をもっと白く、真っ白にしてやりたい。

「だから刹那、ほら。もっとだよ」
口の中から指を抜き、刹那の腰を掴む。
両手で掴めば、あまりに細い腰がふるりと震えた。
今、刹那の腹の中は、アレルヤが吐き出した精液で溢れている。
それが、何度目かもしれない性向で、掻き混ぜられて、腹の中を満たして刹那の身体に吸収されていく。
もう終わりかと思った矢先に、まだだと言われて、再度突き入れられた肉棒。
「…刹那、まだだ、もっと。まだ」
ずちゅずちゅと、早いペースで打ち付ける。身体が激しく揺れる度、刹那の髪がぱさぱさと舞った。
汗ばんだ前髪が、額に張り付く。それがやけに扇情的で煽られるままに、舌で刹那の汗を舐め取った。

身体の奥底を渦巻く、酷い不快感。
それが膨れ上がった時、ハレルヤがやってくる。
ずっとずっと、脳の半分には居座っている彼だ。簡単にアレルヤの身体を蝕んで占拠してしまう。
その度に、葛藤が始まる。
身体を返せ、僕を帰せと。それは身体を奪い取う戦いでもあった。
自分が自分じゃなくなる恐怖。二度と表舞台に立てないかもしれない不安。膨れ上がって、1つの身体が暴走する。

暴走したら、刹那が止めるわ。
…それは何故
貴方がガンダムマイスターだから。そしてそれを止められるのは刹那だけなの。

「……君が止めるって…こんな事になるとは思わなかったッ…」
暴走は、これが始めてではない。
刹那を利用したことも。
暴走が頻繁に起こる事もあれば、ハレルヤが安定していれば、しばらくなりを潜めている事もある。
刹那が止めるからと言われた。それがまさかこんな事だとは思えるわけがなかった。
「刹那っ、君は…っ…!」
暴走の、後始末をさせられる少年の気持ちは何処にあるのか。
慰み者になるために、宇宙へ上がれと言われて、こんな密閉された空間で、ただ、身体を投げ出して全ての処理の相手をしろと。
彼こそが、ガンダムマイスターであるのに。…何故こんな役割を。
何故。…刹那しか出来ない役割で、…刹那がそれを望んだから。

「つまりは…誰にでも…するって事なんだ、…君は…」
だから、堪えたのに。
暴走してはならないと、自分に律していた。
彼をこんな風に抱きたくはない。
いけないんだ、こうして抱いてもなんの結論にもならないと。
だから、耐えて耐えて、なんとしてでも自我を失わない努力をしていたのに。…ついには潰れてこの様だ。
「酷い、…酷いな、僕は…」
刹那にも聞こえない程の音量で呟いて、自分を罵っても、実際に刹那の身体を犯しつくしているのは他でもない、アレルヤハプティズム自身だ。

「ねぇ…刹那、これでいいんだ?君は…。ねぇ」
手を伸ばし、刹那の身体を引き寄せる。身体と身体が密着する。
地肌に触れ、刹那を抱きかかえるように背中に手を廻せば、熱い息を吐く唇が、アレルヤの肩に当たる。
吹き付けられた熱い息。刹那の。
じんわりと伝わった熱が、やがて電流が伝うように欲情して、アレルヤの身体の中を駆け巡る。

ああ、駄目だ。もう。
「刹那っ…!」
抱きしめたまま、腰を揺さぶる。
アレルヤの腹の位置で中途半端に勃ちあがりかけていた刹那のモノが、アレルヤの律動で擦られて、硬さを増していく。
「…刹那、イっていいよ、ほら、僕のでイっていい」
手を伸ばし、乱暴に刹那のものを掴み上げて、扱いた。
途端、アレルヤの胸の中で刹那の身体がひくりと跳ねた。限界だった。
「ひ、ぃあっ…!」
仰け反った刹那の顎。髪がぱさりと背中にかかる。その瞬間、アレルヤの手が先端の溝をひっかいた。それが塞き止めていた刹那の開放を促す刺激になった。
「ぃ、あ------…ッ…」
声を押し殺して果てる。
ひくりと大きく跳ねた身体が、一瞬止まり、その後にドクドクと吐き出された熱は熱い。
銜え込んでいた後孔が、ひくひくと痙攣する。
「刹那っ…」
達した余韻で、のけぞったままの顎。
口から溢れた精液が顎を伝ってぽたりと垂れ、刹那の陰部の大量の精液に混じる。


刹那がセックス中に声を出さない事は、判りきった事だった。達したその時でさえ声を殺すばかり。
「声出してよ、ねぇ」
アレルヤが幾ら望んでも無駄で、精液に溢れた刹那の口の中からは、嗚咽に似たうめき声が聞こえる事はあっても、声らしい声は聞こえる事はない。
名も呼ばれない、何も伝えてはくれない、刹那の身体は。

「…刹那。君は僕の言う事を全然聞いてくれないね、ハレルヤと一緒だ…」
身体は差し出してくれるのに、少しも心を与えてくれない。こんなに奥深くを抉って、身体の中までアレルヤハブティズムでいっぱいにしているのにねぇ、まだハレルヤの事を考えているの。それとも早くこんな事を終わらせようとしてるだけ?

「苦しくないの…?」
何も反応を示してはくれない刹那の態度が悔しい。
憎らしいとさえ思う。

ねぇ。もっと。
反応して。もっと、僕を見て。

細腰を掴み上げ、これ以上無い程に肉棒に突き刺した。
「ぇぐッ…!」
一番奥深くに差し込んで、ぐちゅぐちゅとまわす。腸壁を突き破るかのような力任せの酷い抽送に、刹那の喉がまた仰け反る。
「あぁ、ねぇ苦しい…?刹那」
口調はとてつもなく優しい声音で。
けれどまるでそれに反比例した身体のつながりは、もはやセックスとはいえなかった。これは拷問に近い。
刹那の腕を掴んで捻り上げ、その上で身体全てをぶつけるように欲望を捻じ込む。
「刹那…、刹那、」
声が嗄れだす。もう、何度も名を呼び、何度も突き刺した。
繰り返しているのに。
こんなに、こんなに。
「……っ、刹那ぁっ」
短い咆哮の後、アレルヤは刹那の中に精液を放った。
アレルヤの手によって拘束されたままだった刹那の腕には、強く握りしめた手の跡がくっきりと浮かび上がっていた。


***


「お前が強情なのが悪い、刹那」
ベッドに伏せる、刹那の髪を梳きながら、ハレルヤが笑った。
言葉尻は酷く乱暴な物言いなのに、触れてくる手はあまりに優しい。
それでもハレルヤは口端を上げて笑う。

あぁ、本当に笑えてくる。笑えて笑えてしょうがない。大声を出して笑い飛ばしてやりたい気分だ。
馬鹿だろう、この刹那という男は。
楽になりたいのなら、もっと力を抜けばいいのに、力任せのアレルヤの行為をそのまま力押しで受け止めているからこんな事になるんだ。

「あぁ本当に酷いな」
ベッドに横たわる刹那の尻から、とぶとぷと精液が溢れ出していた。
内股を伝い、シーツに沁みていく精液のかたまり。
ハレルヤは、シーツに溜まった精液だまりに手を伸ばして、指先ですくいとった。
ねちょりとした精液を指先で絡めて遊び、けれどすぐに飽きて、刹那の背中の窪みに塗りつける。

「これだけ出されれば、幾らなんでも気持ち悪いな、ああ本当に精液だらけだ」
今度は、精液の壺のような後孔に指を1本突き刺す。
ずぶ、と埋め込んだ指を、白く濁る孔に差し入れて、根本まで突き刺し、知りつくした位置で、指を曲げた。
「あうっ、っう…!」
前立腺を直撃した指。
刹那の身体がひくひくと震え、もう出ないと思っていた垂れた先端から、じゅくりと微量の精液が溢れ出す。
「いっ、う…」
刹那から、低い声が洩れる。それでもハレルヤの指先は前立腺を掠めるから、指がその箇所をなぞるたびに、刹那の身体が小刻みに震え、オーガズムを生み出し続けた。
ちろちろと先端から溢れ出す精液は、まるで失禁しているかのようだ。
「っ、う、あ、あ……っはっあ、あああ、」
声が止まらない。たかが指1本だ。なのにどうしてここまで、身体中に快感が広がっていくのだろう。
もう何度も交わった。それなのに何故。
力の入らない下半身。傷つけられた身体は痛みばかりを訴えている。

アレルヤのセックスは、いつも力任せだった。
何故君は、と嘆き、そして犯す。
声を出せと言われても、出し方が判らない。
アレルヤの要望には答えられない。

散々犯しつくされ、アレルヤの疲労も頂点に達する頃、ようやく終わる暴走阻止という名のついたセックス。
ハレルヤは、いつもその後に出てきては、ぐちゃぐちゃになった刹那の身体で遊ぶ。
…そう遊んでいるのだ。体力も抜け切った刹那の身体を指1本で。
気が向けば、そこから挿入もされるが、アレルヤが散々使っていたハレルヤの身体はすでに開放しつくしていて、挿入したいとも思わない事が多い。乱暴に抱き過ぎた所為で、ハレルヤとて身体中のそこかしこが痛い。刹那の比では無いだろうが。

「中も凄い」
戯れに前立腺を弄りつくしていたハレルヤが、ナカで指をぐるりと廻し、腸壁を刺激する。
「…っ、う…!」
それは刹那にとっては痛みにしかならなかった。
眉をひそめた表情が、苦しみを訴える。

「はは、刹那。…ここんとこを弄られるのはイイけど他は駄目か。…アレルヤが傷つけたからか?」
もう一度、ぐりぐりと前立腺の位置を指先でなぞる。
「っ、あ、あ、」
先程まで痛みに震えた身体は、今度は快楽に震え出した。
素直な身体だった。

「どれだけナカがぐちゃぐちゃなのか見てやるよ刹那」
赤ん坊がおしめを代えるような体勢。刹那にとっては屈辱的な姿勢も、体力が落ちきった状態では抵抗も出来ない。
身体を2つ折にするように曲げ、足を開かせる。
「…っぁ、」
指を引き抜き、今度は両手を使って孔の入り口を開く。
内壁は真っ赤に腫れ上がっているが、そこかしこに精液がとろとろと伝っている。
前立腺への刺激の余韻が残っているのか、括約筋がひくひくと震えてハレルヤの指を締め付けようとしていた。
「ナカ、全部掻き出すのは大変だろうな刹那」
「っあ…」
「俺が全部出してやろうか?…あぁでもそんな事したらナカ、本当にきれるだろうな」
試しにと、内壁を指先で辿れば、真っ赤になった場所が痛みに収縮して震えた。刹那の身体ごとだ。
「お前は強情だよ、刹那。…本当に強情だ」
たまった精液を指先で掻きまわして、ハレルヤは刹那から手を離した。
やがて、ハレルヤがこれ以上、行為をしてこないのを確認して、ゆっくりと身体から力を抜く。
とろりとろりと下肢に精液が伝った。

ああ、これで終わりか。
強情だとののしられて、そしてもうこの身体はいらなくなったのか、
刹那はそう理解した。
けれど。
「刹那、抱いてやろうか」
「……っ…」
ハレルヤが、刹那の上に乗り上げた。大きく足を開かせる。
本気か、と目線で訴えれば、ハレルヤはにやりと笑った。
「っ!」
「抱いてやると言ってる。…犯すんじゃなく、抱いて」
言葉を最後まで言う前に、ハレルヤは刹那の中へずぶりと埋め込ませた。
「っ、う…!あ!」
ずくずくと、ゆっくりと全長を収められて、刹那はシーツをつかみ、握り締めた。
せめて、何かをつかんでいないと、流されてしまう。
何かに、流される。…あぁ、だって苦しい。

ハレルヤの言葉通りだった。
犯すのではなく、抱いてやると。
やたらと時間をかけてゆっくりと傷ついた内壁へ全長を埋め込んで、最奥に達しても、かき回すことをせず。
顔を覗き込まれて耐えられず、目線を背けても、ハレルヤは笑っているばかりだった。
刹那の頬を掴んで、髪を梳いた。
まるで優しいその仕草。
目があえば、キスをした。唇をあわせ、キスに慣れていない刹那に合わせ、ゆっくりと口を開かせて舌を誘い出す。
精液の残る咥内も、愛撫して唇をむさぼるように合わせた。

「刹那」
名を呼ぶ声は、優しげに聞こえる。…そう、優しげに。
腰をゆっくりと使い、内壁への負担を減らして、性感だけを煽る。
ナカに放たれたアレルヤの精液が、とぶとぷとあふれ出して内股にこびりつく。
ねちょねちょとした感覚だけが不快で、あとは全てが優しい。

「…っ、やめてくれ…ッ…!」
「刹那?」
「…やめ、…やめろ、…やめっ…」

耐え切れない。
こんなセックスは知らない。
やめてくれ、もう、胸が焼けそうになる。…こんなのは耐えられない。
違う、こんなものはいらない。こんなのは。

唇をぎゅっと噛み締めても、声は漏れた。
目をつぶり、ハレルヤのキスから顔を逸らす。…けれどハレルヤはそれを許さなかった。
頬を優しく掴み、正面に向けると、また唇に絡みつく。舌を入れられて耐え切れず、顔を背けようとして出来ない。ハレルヤの手は、優しくて強引で温かかった。

「、い、いやだ…!もうッ…!」

叫ぶ刹那の身体を、ハレルヤは残酷に抱き続けた。


***


「…刹那の身体を使え。あいつはそう育てた---、か」

思い出す。
暴走を阻止するために身体を震わせて耐えていたあの日、刹那を使えといわれた。
刹那は顔色1つ変えずに、アレルヤに近づき、手を差し出した。耐え切れなかったアレルヤは、それに縋りついた。

あぁ、これが欲しかったんだ。
一度触れてしまった刹那の身体を強く抱きしめて離せなくなり、そして身体をむさぼる。

脱がしても、乱暴に犯してみても、刹那の顔色は変わらなかった。
酷い痛みと快感に、少しばかり眉をひそめる。…たったその程度の表情の変化が全てだった。
おそらく、刹那に咥えろと言えば、咥えるのだろうし、自分から挿れてみろと言っても、言う事を聞くのだろう。

そうしろと言われた。それが刹那のする事だと。
だから呼ばれた。ここに。
アレルヤを助けるためではなく、ソレスタルビーイングが、動くそのために。

「…ちっ…」
ベッドに沈み込んだまま、荒い呼吸を繰り返す刹那を、ハレルヤはただじっと見つめているしかなかった。