抱くと、これほどまでに人間性が変わるんだと、初めて知った。 「ひぃ、う、…ぁ…!」 不意を突いて、一呼吸遅らせた後に無理矢理突き入れると、ようやく悲鳴のような小さな声が聞こえた。けれどすぐに唇を噛むから苦笑するしかない。 「ほら、声だせって」 笑いを含めて言う。 ぎゅ、と服を掴んでくる刹那の頭を撫でて、こめかみあたりにキスを落とす。 ちぅ、と音を立てたキスをすれば、そんな音にも反応するのか、ひくりと身体を震わせた。その仕草が普段の刹那とは想像もつかないほど可愛くて、愛しくて仕方ないなとロックオンは腹の奥で笑う。 「声。刹那」 声を出さないのは、普段からで。 けれど、いつも感情を表情に現さない刹那は、今、快感に浸りつくしていて、どうしたらいいのか判らないと、たびたび頭を振ってみてはうろたえる。 あぁ、本当にかわいいな、刹那。 「声、だしゃいいんだよ刹那。気持ちいいって言ってみろ」 まだこどもの小さな耳朶を噛みながら言うと、一瞬唇を動かし、何かを語ろうとして我慢してしまい、また頭を振る。髪がぱさぱさと揺れる。せっけんのにおい。 「強情だな、ホントにお前は」 なら仕方ないなと、刹那の身体を尚深く抱き寄せ、腰を掴んで軽く浮かせて、もうキチキチに詰まった状態の後孔に手を伸ばす。 「…ひ…ッ…」 怯えたような刹那の眼が、下から覗き込むように見つめてくるから、ちょっとすまなそうに笑ってやった。 あぁ、お前が強情だからいけないんだぞ? だからな、刹那。おしおきをしてやるから。 みっちりと埋まって、隙間なんて少しもない結合部を指で辿り、肉と肉の隙間に爪の先を無理矢理ねじこんだ。 「っ----ッ!」 「ちから入れるな刹那、ほら、余計痛くなるだろーが」 「…っ、う、…!」 ぱさぱさと首を振る。耐えられない。眉間の皺が痛みを放棄しようとするが、ねっとりと絡みつくような快感が土台にある痛みだ。振り切れるわけもない。 髪が舞って、泣き声に近い喘ぎ声。 「刹那…」 …その姿に、とてつもなく欲情した。 だから止められなくなってしまう。 爪の先だけが入ったソコに、ねじこむようにして指を1本、深く突き刺すべく力を込めた。爪だけが、ギリギリ入り、けれどそれだけじゃ満足出来なくて、これ以上後孔は開かないと判っているのに、周辺の皮膚を引っ張って無理矢理指先分のスペースを作る。 ぬちっ、とイヤな音がして、指の第一関節までが埋没した。 なんとかなるもんだ。 しかし、とてつもない締め付けになって、こっちも気持ちいいというより痛い。 刹那の背中は、緊張に張りっ放しだった。 背筋が反り返りそうな程、伸び上がって震えている。 本能が、指から逃げようとしているんだろう。刹那の身体がぴったりとロックオンの胸に密着している。たちあがった小さな乳首が判る。ちらりと下肢を覗けば、完全に勃起しないまでも、今が気持ちいいんだと判るには充分の硬さになっている。 進めても問題はなさそうだ。 指を、中でくい、と曲げた。 「…っあ、…う、ごかす、なぁっ…!」 語尾が裏返っていた。 ようやく出た刹那の言葉と、胸にすがり付こうとする指先。切りそろえられた爪はロックオンの筋肉のついた皮膚を滑った。 「刹那、それじゃあ余計に煽ってるだけだ」 刹那の身体がびくりと震え、胸を掴もうと躍起になる手は、真っ白になっている。 「今お前が何かするたびに、俺は欲情する。刹那、無駄なことしてないで力を抜け。流されちまった方がお前だって楽だし気持ちいいだろ」 落ち着かせるように言う。今度は刹那は首を振らなかった。もうそんな余裕もなくなったのか。 「刹那。素直になれって」 一向に緊張が緩む気配がない刹那。もう仕方ない。 指を中で動かした。最初は、指先を曲げる程度。それから、内壁を辿るように伝い、すでに埋まったモノと一緒に動かす。ギリギリまで抜き出して、また奥深くまで突き入れる。それを繰り返す。 刹那はたまらないらしい。もう声も出ない。…本気でめちゃくちゃ我慢してやがる。こんなに小さく震えているのに、何やってんだこいつは。強情にも程がある。 刹那の顔を覗きこめば、顔色悪くなる程に我慢をしているのが判った。 「だからおい、声。…つうか、息しろ、こら!」 こいつ馬鹿、息まで止めてやがった! 慌てて指を引き抜き、そのまま顎を持ち上げた。けくっと喉が鳴って、口が開く。熱い息が吐き出された。 「おまえなぁ…!」 馬鹿だ。息を止めすぎて、酸素不足なってる。 「っはっあ、はっ、はっ、ぁ…」 「ばっか…お前」 口をあけてやればすぐに回復したが、目が涙目になっていた。 ゆっくりと開かれた目が、ロックオンの目を見つめる。その一瞬に心臓が高鳴った。 たまらない。 「…そういう顔、普段から見せろよ、刹那」 震える唇、上気した肌、目尻にたまった涙は生理的なものだろう。普段からは考えられない。 はぁはぁと息を吐き出す刹那。 なんてこった。…これ以上にない興奮剤だ。…こんなの、そうそう理性が持つもんじゃない。 「刹那、悪いがここまでだ」 「…っ、う、…は?…」 こんな茶番は、ここまでにしよう。 何事だと見上げてくる目。そこから涙がほろりと落ちた。それが限界だった。 気がつけば、ロックオンにしがみついていた刹那の手を解き、身体をベッドに押し付ける。 「っ、!」 ロックオンの膝の上に乗ったままの刹那が、腰だけ不恰好に上がった状態でベッドに仰向けになる。結合部が変な具合だ。 そのまま腰を掴んだ。 何をされるのか、一瞬で判った。青ざめる。 「…ロッ、…や、め、…」 「無理だ」 「…っ!う、あ!!」 止められるわけがない、刹那。 涙は反則だ。もう仕置きも何もあったもんじゃない。 めちゃくちゃにしてやりたいと思った。 刹那は普段から人の話は聞かねぇし、食事もマトモにとらねぇし、団体行動も出来ない、反発ばかり覚えるくせに、こうしてセックスだけはさせる。めちゃくちゃ好戦的で、エクシアの事しか頭になくて、こういうことをしていたって俺に恋愛感情なんてこれっぽっちもない。…そういうやつだ。 「……お前が、悪い、んだぞ!」 あぁそうだ。お前が悪い。絶対にお前だけが悪い。だから仕置きしたっていいだろう。もう少しぐらい俺に懐け、馬鹿。 「ひっ、あ、あ、あ、ああっ、あ、う、ぐっ、…!」 ナカの奥に叩きつける度に、刹那の声が跳ね上がった。 眉を顰めて耐えているようだが、口から出る声は、痛みだけじゃないって判るから、やめてやらない。 上気した肌にぽっかりと浮かぶ乳首ばっかり見ていた。刹那が眼を開けないからだ。 にちゅにちゅ、ぐちゅぐちゅ。 精液の音と、肉がぶつかる音。 「…っ、こんな気持ちいい仕置きなら、お前、大歓迎だろっ…」 「…っ、あ、う、…っ、」 その喘ぎ声は返事か。 肯定なのか否定なのかよく判らない。刹那の喉から洩れるのは言葉にならない声ばかり。 突きいれ、かき回し、めちゃくちゃになっていく。 せめてシーツを掴みたくて、けれど掴む事も出来ない。手が滑る。動かされて身体を揺さぶられて、思い通りになんて1つもならない。 「っ、ひ、ぃ、あ、…へ、ん、っ…だ、ッ…」 刹那が何事か言った。揺さぶられてるのに。まぁ声を出せといったから、本望だ。 「…何、が、っ」 動きを止めずにロックオンが言い、ついでにと足首をとって、容赦なく勃起したそれが入るギリギリまで、足首を引っ張った。 腸壁を突き破りそうだと思った。 「っ------------!!」 背中が宙に浮く。刹那の眼が一瞬で見開かれて、涙が散った。瞳孔が開きそうだ。 下腹が小刻みに凄い速さで筋肉が収縮している。射精をしていないのに、オーガズムを与えられる。 「…おっと、まだ気ぃ失うなよ刹那、俺はまだだぞ」 刹那の中心は、射精というより、精液がちろちろと溢れ出している状態が続いていた。掻き回すたびに精液が溢れるが、イってるのかどうかさっぱり判らない。刹那の内壁は、ずっとびくびくと痙攣しっぱなしで、止まない。…それが気持ちいい。たまらない。 「へ、んっ…!」 「だから、何がだ」 聞き返した声が震えていた。刹那だめだ、お前やっぱりヤってる途中に声出さない方がいいかもしれないぞ。ありえないほど興奮する。こんなの毎回ヤられたら、俺が持たないかもな。 「へん、…身体が、へん、に、…」 ぜぇぜぇと喘ぎながら言う。刹那が眼を開いたのはいいが、どこか違うところを見ている。頭がイっちまったのか。ロックオンは悪びれもせず思う。 刹那の精神がどっかいっちまったなら、俺が引き止めてやろう。 そうしたら、お前は俺ばっかりを見るのかもしれないからな。 「いっ、…うわ、ぁ、っ、…変、に、な…っ」 首を振り、おかしくなるとうわごとのようにつぶやく。もはや悲鳴だ。 「…変になるって…。あぁ、気持ちよすぎるって事か?なら心配ないだろ」 ずこ、ずこ。 そろそろペースを落としていいか。たまらなく興奮しているけれど、ずっとフルペースで腰を振れる程、体力有り余ってるわけではない。 突き入れている動きを、横スライドに変えた。 「っつく---ッ……、!」 刹那の声もまた変わった。 激しい動きでなくなった分、シーツを掴む事は成功したようだった。握り締めた指先の動きが、刹那の感度を物語っている。いい場所に当たれば、シーツの皺の数が増えた。 この身体の前立腺の位置は知っている。だから、そこに少しだけ当ててやる。わざと外している。すぐにイって失神されてもつまらない。 身体が変だと言っていた刹那。どこが変なんだ。お前。 いつもよりも少しばかり感度がいいぐらいだ。…こんなの、性欲のバイオリズムなら正常範囲内だ。今までが性欲無さ過ぎたんだろう。このぐらい動物じみた方がセックスには丁度いいぐらいかもしれない。 「…変になっちまえよ、刹那。そんな姿見せてみろ」 どこかのアダルト映像のような台詞だと思いつつ、ロックオンは口に出す。 変になれ。 俺に狂え。刹那。 「…っ、…ひっ、…」 前立腺の位置をずるりと擦れば、ようやくまとまった精液がぼたぼたと刹那の腹に散った。 手を伸ばし、刹那の頬を撫でる。愛しいな。やっぱりお前は。 絶頂に意識を飛ばしていた刹那が、ようやく意識を取り戻し、自分の頬をなぞる手がロックオンだと判ると、静かに目を閉じた。 すり、と頬を寄せてくる。 「…っ、…」 …あぁ、確かに変かもしれないな。お前。 「あー…マズイ、刹那。ちょっと我慢、な?」 「…っ、?」 せっかく、ゆっくり抱いてやろうと思ったのに。そんな顔してそんな態度したら駄目だ。あぁ、駄目だよ刹那。 我慢な、と言ったけれど、ゆっくり抱くつもりだったけれど、無理そうだ。 …いや、元々これは仕置きだった。そう思ったら吹っ切れた。 刹那の細い腰を持ち直して、ちゃんと抱えあげる。逃げられないように、完全に固定して、刹那が見上げてくる不安定な目も無視をした。悪いが今から俺が変になるから。 小さく息を吐いて、あとはもう、何も考えずに、腰を振った。 刹那が、「うぁ」とか「くるし、」とか「やめ…」とか、何か色々叫んでいた。無我夢中で手を伸ばしたらしい刹那の爪が、無理矢理ロックオンの腕をガリと引っかいて、けれどそれさえ酷く可愛く見えて、逆効果になる。 とてつもない動きに、逃げようとする刹那の身体を、逃がすまいと肩をシーツに押し付ける。 腰を思い切り高くして、刹那の身体が逆「く」の字になるぐらいに曲げる。でんぐりかえしの途中のようだ。苦しいだろうが、刹那はコレで逃げられない。これで容赦なく出来る。そう思った。凶暴な性欲だ。 …こっちは気持ちよくてたまらない。上から孔にぶち込めばいいだけだ。 途中で、刹那の胸に白い点々が広がっている事に気付き、どうやら刹那もイっているらしいと判って、ほくそ笑んだ。こんな状況でもイけたか。 あぁ、お前やっぱりこういうギリギリのが好きなんだな。…OK判った、これからはこういうのでいこう。お前は嫌がるかもしれないが。 「…そろそろ、俺も、イかせろよ、…刹那…」 お前だって、2度目(正確には何回目だろうか)、イきたいだろ?ほら、やっぱり勃起してやがる。 「イく顔も見せてもらうからなッ…」 いつも顔を背けるから、今日こそは。やけに感情的になっている今日なら、イった時も顔色を変えるだろう。 酷い顔がみたい。刹那がズタボロに犯され、やめてと叫ぶまで、犯しつくしてやりたい。 「っ…!」 ロックオンの狂気を身体で受け止め、その凶暴さを理解した。 このまま犯されたら、たまらない。体が持たない。 夢中で手を伸ばしても、それはロックオンの手にとって止められた。すぐにシーツに腕がつく。 「逃げんじゃねぇ」 刹那の顎を、正面から掴んでやった。親指と人差し指の間の筋が刹那の歯にあたる。噛まれそうだ。まぁいいか。そんな痛みより優先することがある。 刹那の尻がぶるぶると震えた。まるでバイブレーターでも仕込んでいるようだ。 …限界が近い。 判るが、止める気は毛頭無かった。刹那の顔を見ているだけで、ロックオンの方こそ限界が近い。 「ひっ、あ、む、り、…!」 「何が、無理なんだッ…!」 叫びながら、イった。 一瞬のめちゃめちゃな快感。男でよかったと本気で思う一瞬の後、爆発したように、精液がどぷりと出た。 刹那のナカに容赦なくぶちまけられた精液。 隙間がなかったはずの後孔の入り口から、精液がぼたりと落ちた。 「っ、は…」 大量の精液を吐き出して、残りも全部注ぎ込んでやろうと、ぬちぬちと律動を繰りかえす。 顎を掴んだままの手は、刹那に噛み切られてはいなかった。少しばかりの噛み跡がついたかもしれない。 「ほら、お前もイけるだろ?」 言えば、ふるふると震える眼で俺を見、何かを言おうとして出来ず、俺の手を噛む事で意思を示す。…かわいいぞ、刹那。 だから、仕置きはやめにして、前立腺をダイレクトに刺激してやる事にした。 「っ!!!」 見開いた眼。新しい涙がぼろりと落ち、瞬間、動きを止め呼吸も止め、イく事に逆らってなんとか堪えようとしてけれど堪えきれず、刹那は最後の精液をほとばしらせる。 「あぁ…」 見開いた目。腹に散った精液。 そして弛緩する身体を抱きとめる。 手を伸ばした。汗ばむ前髪をすく。額を晒せば、酷く幼い顔があった。 「刹那…」 お前、こんな顔できたんだな。 泣き声も、涙も、イく時の顔も、ちゃんと見たのは初めてだ。 どくどくと吐き出される何度目かの刹那の精液が、腹にかかり胸にとび、ロックオンの手を汚した。 白い筋が手首を伝う感触は、どうにも鳥肌がたった。 *** 「これ、けっこう効くみたいだ」 アレルヤの手の中で、空のちいさなビンが転がされていた。ラベルもなにもない、ほんの僅かな量しか中身が入っていない瓶だったが、効き目は抜群だったらしく、あの強情な刹那にもある程度の効果を見せた。 「自白剤か」 「そう。でも違う用途で使われた」 刹那に飲ませた自白剤で、仕置きをするはずだったのに。 「ロックオンに先を越された」 アレルヤがつぶやく。 仕方ないなと空の瓶をダストボックスに投げ入れると、カコン、小気味いい音が返事のようにかえってきた。 |