い涼暮月
灯りをひとつ、おざなりに点け、それでも部屋は十分な明るさだった。
開け放された障子窓から、白い月が煌々としているのが見える。
今宵は雲もなく、若干涼しすぎるが月見には誂え向きだ。
目の前の男が用意した、曰く「最上位の酒」を呷った。
それに満足したのか否か、ふ、と笑んで男は紫煙を吐いた。
ああ、折角の月に雲がかかってしまった。
「四国の鬼よ、奥州の酒は美味いだろ?」
「貴様のその莨さえ無ければな、独眼竜」
「、Oh,sorry.莨は嫌いか?」
独眼竜、――伊達政宗は、慣れた手つきで一口煙を吸い込み、それから煙管から葉を捨てた。
窓際に居るためか、その姿が月に照らされ、よく見える。
「煙なんか美味いもんか」
独酌で盃に酒を満たした。
それに口をつけ、政宗を見る。
奴は妖艶に口を笑んで歪ませ、そして紫煙を吐いた。
「そうでもないぜ。莨は…良い薬だ」
「分からん話だな」
俺には、酒の方が余程薬になるがな、盃を傾け、返す。
国元のものとは異なる酒の味は、それでも美味いと思わせた。
「酒もそうだが、やはり莨だ」
盃に残したままだった、ほんの一口の酒を飲み干し、政宗は猫のように四つん這いでこちらに寄った。
「気が昂ぶる時に吸い込めば、気が静まる。気が沈む時に吸い込めば、気が高まる…。
まぁ、これは戦時の話だ」
酔っているのだろうか。
政宗の口調は、はっきりしていたがいつになく饒舌だった。
「…閨では違う。昂ぶるものを静めはしない…。より駆り立てられて仕様が無くなる」
まったくもって“良い薬”だ。
この容姿なら納得が出来るが、こいつはかなりの好き者のようだ。
呆れた笑みを返せば、奴の左眼が挑戦的に光った。
「試してみるか?」
余りにも不粋だったろうか。
俺は、息を吐いて告げた。
ここが閨だとは、分かっている。
「何をだ。莨をか」
政宗の眉が寄る。
「莨なら要らねぇ。やった事があるから尚更、な」
こんな肩透かしを食らわされた事は無かったのだろう。
甘いな、小僧。
欲して容易く手に入るものなど、この世にある訳が無い。
何気なく政宗の頭に手を置き、それから銚子を手にした。
が、盃に酒を流し込む前に、それを奪われる。
「…誰が莨と言ったよ?竜に食われるのが怖いか、四国の鬼が」
若い、と感心してしまった。
政宗は一瞬で俺の手にあった盃を払い、俺を組み敷いた。
自分より体格の良いこの俺を。
「、は…、奥州の竜はこの御時世の例に漏れず、ということらしいな」
「鬼とて竜に食われる時世ということか?」
仄明かり中、何故か政宗の顔だけがはっきりと見えた。
愉しそうに口元を歪ませている。
「堕ちてみせろよ、四国の鬼」
視界が揺れた気がした、灯りの所為だろう。
寝間着に帯一つ。
政宗は俺の腹を跨ぐように座り、肩、腕を寝間着から抜いた。
帯にだらしなく寝間着が集まる。
始終、奴の口元は笑んでいた。
「…お前はいつか寝首を掻かれるな」
「may be right.肝に銘じとくよ」
まさかその危機感にすらつまされるのかと思うほど、政宗は堪らないといった風に返してきた。
奴が恐ろしいのは、何も戦時だけでは無いようだ。
面白い。
俺は自然と笑んだ。
返ってきたのは、獲物を食らわんとする獣の眼と、舌嘗めずりだった。
「余裕を見せていられるのも今の内だぜ、元親」
名ひとつで動きを止められた俺に、余裕などあるものか。
す、と影が落ちてきた。
鎖骨に政宗の舌が這い、余り質が良いとは言い難い髪が顎を撫でる。
女のそれを思わす程、奴の唇や舌は存外柔らかかった。
しかし、体勢と奴の行動を見る限り、俺はまだ「食われる」側と言うことらしい。
もっとむさくるしい男なら分からんでもないが、政宗の様に、女々しくはなくとも小綺麗な部類に入る男に組み敷かれたとて、危機感すら覚えない。
仄明るい部屋に響く不自然な水音は、政宗が女だと思い込めば、自然であるように思えるだろうか。
否、こんな風に捕って食う勢いを剥き出しにした女などいない。
しかし、今までに抱いたどの女も、政宗の前では顔すら朧気になる。
「…、簡単に喘がれても困るが、えらく鈍感な様だな」
もの思いに耽っていたからか、俺は政宗が満足いくような反応を見せてはいなかったようだ。
ふ、と上げた顔が少しばかり不服そうであるのが、可愛く思えた。
「余程、房術に自信があるみたいだな」
くつくつと喉の奥で笑ってやると、睨まれた。
「俺と寝て、気をやらなかった者は居ない」
自信たっぷりで言うのが、虚勢の様で、意地の様で、兎に角俺を黙らせたいのだろうを感じさせて、否応無しに政宗の齢を示していた。
但、それに屈してはやるまい、とする俺は如何したのだろうか。
意地を張り返す餓鬼でもあるまいし。
「俺は女じゃないが?ついでに言えば、小姓でもない」
俺を誰だと思ってる、四国の鬼・長曾我部元親とは俺の事よ。
笑みを湛えて、さながら戦場の様に名乗って見せれば、奴も笑って返した。
「I know.だからこそ、俺はお前の上に居る」
要は、自分が上位に居たいと言うのはお互いであるわけだ。
「は、…面白い奴だ」
「ここは俺のterritory、領域だ。黙って食われるんだな」
I'll eat you.
政宗は、俺の言葉を諦めととったのかそう言い放ち、また俺の体に顔を埋めた。
体を下へ下へずらしていき、政宗は腹ではなく腿辺りを跨ぐようにした。
右腿だけに乗られているから、左脚は動くのだが敢えて動かないでいた。
俺の寝間着は、帯も腰に纏わりつくだけで何の役目も果たさぬ様だ。
下帯一枚の布越しで、政宗の膝が股間に当てられた。
政宗の言った通り、そこは反応を見せていない。
ぐ、と擦られ痛みに近い刺激が走った。
眉を寄せ政宗を睨むと、奴は愉しそうに笑った。
「痛いじゃねぇか」
「痛いだけじゃなければ面白かったのにな」
「俺にはそんな趣味はない」
That's a pity.
政宗は何言か異国語で呟くと、俺の下帯を外しにかかった。
寝間着は無視なのか、と押し笑っている内にそれは取り払われた。
酔いの勢いだろうが、政宗は本気なのだと今更ながらに思う。
強気に行けば相手が怯え屈する、と閨と戦場を混同したこの若者で遊んでやりたくなった。
酒はまだある。
酒の肴にこいつの狂気に乗るのもまた一興だろう。
「鈍感め」
忌忌ましげに呟くと、剥き出しにされた俺のものに触れようとした。
その瞬間を狙って、俺は左脚を振り上げた。
脛で政宗の腕を蹴り、畳に転がした。
そこに被されば、立場は全くの逆になった。
呆気にとられた政宗が下で目を見開いている。
さんざ、見せられた笑みを落としてやった。
「やはり、右は死角か」
「、shit!…、退きやがれ!」
嘲笑うと、政宗はかぁ、と顔を赤くした。
振り上げられ拳を受け止め、片方の腕と一緒に頭上で一纏めにしてやる。
「…ここはお前の閨かもしれないが、俺自身は余すところ無く俺の領域だ」
上目で睨まれ、ぞくりとした。
熱が、上がる気がした。
奴の異国語は呪術のように聞こえ、きっと俺はその術をかけられたのだ。
「黙って食われるのは、お前だ、独眼竜伊達政宗」
言い落とし、空いた右手で政宗の寝間着の帯を解いた。
元より半ば脱いでいたものだ、それだけで前が完全に開けた。
寒いのか、政宗の腹が震えた。
「…、本当に、俺を食うつもりか?」
否定を望んでるのだろうか、声色が沈んでいる。
「言っただろ、食われるのはお前だ、と」
一度は自分がしようとした事だ、よもや今されようとしている事が分からないはずがない。
顔を覗き込むと、目を閉じ息を吐いたあと俺を睨んだ。
「HA…良いだろう、お手並み拝見だ」
俺を射抜いた瞳は曇りもなく吸い込まれるかと思った。
引かれるように顔を寄せたが、政宗は顔をそらせ、首筋が露になるだけだった。
仕方なくそこへ舌を這わす。
浮かび上がるように白い喉だった。
さながら白浜のようで、俺は跡を付けたくなった。
付け根辺りを強く吸う。
瞬間、ひくりと動いた筋に僅か愛しいと思う。
不似合いな赤い斑点が散った。
女にこれをすると怒られるのでやらなかったが、こいつになら怒られたとて付けたかった。
顔を上げ、見事に引き締まった躯を見下す。
男らしい体躯だが、何故か引き込まれる、掻き抱きたい。
射るような視線に、気付いたらしい。
「…何だよ…」
「男にしとくのが勿体ねぇな…」
自分でもおかしなことを言ったと思ったが、奴は笑った。
どこか諦めたように。
「HA…誉め言葉ととっとくよ、Thanks」
言って目を伏せた政宗は、離してしまえば消えて無くなりそうな気がして、俺は僅かに狼狽えた。
「、政宗…」
呼んでもどうにもなるまいが呼ばずに居られなかった。
返事はなかったが、乱暴な膝が先程のように、俺の股間を擦った。
「てめぇがその気じゃねぇなら、いつでも代わってやるぜ?」
顔はいつも通りに戻っていた。
が、それも一瞬で曇った。
「…お前、不能なのか…?」
未だ俺が反応していなかったからだ。
だとしても、失礼な奴だ。
「安心しろ、お前より性能は良い」
笑い返し、俺は政宗の下帯を解いた。
顔を覗かせたそれに、笑みを絶やすことは出来なかった。
「ふ、…お前は敏感な様だな」
僅かに勃ち上がりかけている。
揶揄ってやれば、恥ずかしそうに顔を背けた。
「、うるせぇ…、…っ…!」
悪態を吐かれるのは分かっていたから、黙らせるためだった。
触れた、政宗の中心に。
「そろそろ黙ってもらおうか」
意図通り、政宗は声を殺した。
まだ腕は捕らえたままだ。
手で塞ぐ事も出来ず、噛み締めた唇が痛々しいほどに白くなっている。
「馬鹿、切れるぞ」
腕を押さえ付けていた左手を退け、固く結ばれた政宗の唇に添えた。
右手の愛撫は止めない。
「っ、ぁ…、…ん…」
小さく幾つかの喘ぎを漏らしたが、すぐに顔を背け自由になった手で口を塞いでしまった。
「この城はお前が声を上げれば、皆が飛んでくるのか?」
必死に声を殺しているのを揶揄すれば、政宗はきつく目を閉じ、より強く口を押さえた。
強ち言い過ぎではないようだ。
小十郎と言ったか、あれはすぐに来そうだな。
房事を人に見せる趣味は俺にはないが、秤にかけるならば重きはこいつの声だ。
「主人の閨に声も掛けずに入る家臣など居るまい」
邪魔な手を無理矢理退け、あ、と開いた口に指を2本、差し入れた。
「この期に及んで食い千切るなんて不粋な真似はしねぇよな?」
確信を含んだ疑問だった。
粋を貫く政宗には、「不粋」という語が殊の外よく効く。
案の定、観念したらしい。
手持ち無沙汰になった掌は、目元を覆うのに使われた。
元より片目しか見えぬのだ、不満が無いわけではないがそこは仕方がないとした。
口が自由になったからには、存分に啼かせてやればいい。
左手で舌を嬲り、右手で政宗自身を嬲る。
声とは言えないが、荒く熱い吐息が吐き出され、指がこそばゆかった。
「…、ん…っぁ、っ…」
指がちり、と痛んだ。
政宗が歯を立てたのだ。
食い千切りたいのではないだろうことはすぐに分かった。
果てそうになるのを堪えているようだった。
なにがしか言いたいのか唇が不自由に動いている。
「果てたいなら果てろよ?」
殊更優しく言った。
「油までは用意がないようだからな」
笑むとまた指を噛まれた。
今度はわざとらしい。
「滑りは必要ないってか」
愛撫の手を止め、添えるだけにし、口から指を引き抜いた。
それはそのまま後孔に持っていき、一本突き入れた。
「、イ…ッ!」
たかだか政宗が唾液で濡れた程度だ、痛かったのだろう。
だが、歯を食い縛り、俺の腕を掴み、耐える様は欲を煽った。
しかとその姿を見たくて、俺は思わず眼帯を取った。
政宗のように見えぬ目ではないが、久々に両の目を使った。
使う対象は間違っていないと自負できる。
「い、ってぇ、よ…この不能野郎…!」
悪態も掠れた声では可愛らしいものだ。
「お前が先に果てていれば良かったのだろう?」
「っ、…」
返す言葉が無いのか押し黙ってしまった。
…埒があきそうにない。
この強情も一度果てれば弛むだろう。
差し入れた指はそのままに、止めていた愛撫をもう一度施す。
「あ、っ…、んぅ…っ、…」
少し濡れた政宗自身を擦るのは容易かった。
快感は紛れもなく政宗を襲っている様で、引っきりなしに声が上がる。
女のそれと聞き紛うことは決して無い声色だが、堪らなく艶めかしい。
両手は自由なのに、顔も口も覆わず、投げ出されている。
…初めからこうだと良かった。
そう思ってから、いや、と思い直した。
少しくらい牙を剥かれるが丁度良い。
「、も、とちか…っ…ぁ…」
名を呼ばれた。
小刻みに首を振り、目は涙で潤んでいる。
あぁ果てるか、と思い、愛撫を強めた。
「ゃ、…あっ…ん…、ぅっ…〜〜ッ!」
白濁が、俺の掌と政宗の腹に散らばった。
弛緩しきった躯を投げ出し、政宗は荒い息を吐いている。
「続けるぞ」
一応の断りは入れた。
差し入れたままだった指は引き抜き、代わりに政宗の白濁に塗れた右手指を突き入れた。
やはり先程よりはすんなりと入った。
弛緩した躯も手伝っているようだ。
「もとち、か…ぁ、っ…」
果てれば弛む、と思われた政宗の強情は、その程度ではなかった。
弛みはした。
むしろ、無くなったと言える。
空ろな眸をこちらに向け、喘ぎのように俺の名を呼び、抱擁を求め腕を伸ばしてきた。
抱き寄せられ上体を倒せば、熱い吐息が肩口にかかる。
…火傷をしたかもしれない。
政宗が多少煽った程度では反応しなかった俺の躯が熱くなってきたのが分かる。
気が急いた。
早く繋がりたい、と。
解れてきた政宗の後孔は水音を伴って、俺の指を3本飲み込んでいた。
熟れ過ぎた蜜柑のようで、早く食べなければと思わせる。
「…大丈夫か?」
少し体を離し、額に貼りついている髪を梳きながら案じる。
空ろな眸がまたこちらを捉え、頷いた。
「…は、やく……」
掠れた声が退路を断った。
止まれそうにない。
指を引き抜き、自身をそこにあてがった。
息を詰める政宗の頬を軽く撫でて、気をそらしてやる。
そうしてから、進入を図った。
熱く解れた政宗の後孔は、それでも俺を拒んだ。
「…ぃ、…あッ…!やめ…っ、ん…ッ…!」
腕を捕まれ、爪が肉を抉る。
初めてなのかと疑念を抱くほど、政宗は怯え苦しがった。
それはないだろうが、今俺が出来ることは速く貫くだけだ。
「力を入れるな…」
「、S..hit...!で、きるか…ッ…」
油なり薬なりがあれば良かった。
精だけでいいだろうとは浅はかだった。
無理をして全てを収めた。
少し息を吐いた。
「、は…っ…ぁ、…っぁ」
政宗は震えもあるのか満足に息を吐けていない。
端から気の強い者だ、我を忘れて乱れられないのかもしれない。
…ならば乱してやるまで、か。
「政宗、」
「…W.hat..?」
「生憎、莨は遠い。お前の“薬”は取れそうにないが、酒ならある」
政宗は解していないのか、怪訝な顔をした。
それに笑みを返し、政宗の背と畳の間に手を回した。
政宗を深く抱き締め、そのまま体を起こした。
「、待、…っぁ…、ん…ッ」
丁度、俺の下腹に政宗が座るような形になった。
自ずと深く突き入れることになり、政宗は苦しそうに喘いだ。
「、に、すんだ…よ…ッ」
ひく、と躯を震わせながらも睨んでくる。
折角の隻眼も今では効果が無い。
「お前は上にいるのが好きなようだからな。俺はお前が酒の肴になればいい」
近く寄せた銚子を手にし、政宗の頭上に掲げた。
違う手で腰を引き寄せ、そして銚子を傾ける。
当然のごとく、酒は政宗の頭に流れ落ちた。
「、っ!?」
瞠目した政宗の眸には、笑った俺が映ったろう。
滴る酒は政宗の髪を、肩を、胸を次々と濡らしていった。
それを下から上へとゆっくり舐め上げると、政宗の後孔が締まった。
「ぁ、…やめ、ろ…っ…んぅ…」
制止を聞かず続けていると、堪らなくなったのか首に両手を回してきた。
髪からはポタポタと絶え間なく酒が滴っている。
ふ、と目についた。
「こいつはいい盃だ」
政宗の鎖骨だ。
浮き出たそれの窪みに、僅か酒が溜まっている。
唇を寄せ、舐め取った。
意識を失しそうな程、官能的な味がした。
滴る酒が何度もその盃を満たし、四度五度空にした。その度に朱を残してやれば、短く吐息が落ちてくる。
声こそ漏らさず静かだったが、繋がった部分の圧迫は消えていた。
どうやら俺は受け入れてもらえたらしい。
喉の奥で笑いを殺し、
「政宗、」
俺はひとつ、提案をした。
「意のままに動くが良いか、俺を動かすか、…どちらにする?」
どちらであろうと俺は面白い。
一瞬、潤んだ隻眼を見開き、そして伏せ政宗は呟いた。
――自分が動く、と。
後者を選ぶならいくらでも乱してやるつもりだったが、余程主導権を手中に収めていたいらしい。
ならば俺はその痴態を味わうまでだ。
「じゃあ早いとこ頼むぜ、」
そ、と政宗自身に触れる。
「俺はお前と違ってまだなんだからな」
「…、少しは黙りやがれ、この不能が」
精一杯であろうと思わせる笑みを顔面に貼りつけ、政宗は嘲笑った。
酔いの回った、そんな顔をしている。
「この俺が動いてやるんだ、感謝するんだな」
不適な笑みを一瞬だけ見せ、俯いた。
肩に手を置かれ、その熱さに息を呑んだ。
それに力が籠もり、政宗の腰が浮く。
何とも言えない水音がひとつ、閨に響いた。
政宗は唇を一文字に結び、吐息すら洩らさぬと必死なようだが、それは失敗に終わっていた。
上下に腰を動かす度に短く喘ぎ、初めて気付いたように口を結ぶ。
その繰り返しだった。
俺は只、動かず腰を支えてやるだけにした。
政宗の髪からふわりと漂う酒の匂いだけでも、気を昂ぶらせるには十分だった。
「、ッン…ぁ…、…ぅ…っ、ん…」
水音と喘ぎが交互に聞こえ、見る見る政宗の顔が妖艶になっていく。
自分の躯をよく知っているらしい。
政宗は多分に快感を得ているようだ。
俺は何もせず胡坐をかいているだけにすぎない。
…あまり、面白くない。
だからこそ、政宗は自分で動く、と言ったのだろう。
俺とて快感を得ぬ訳ではないが、何としても面白くない。
揶揄ってやろう。
「政宗、」
呼び掛けたが、顔を伏せたまま返事もなかった。
あと少しで果てそうなのかもしれない。
「政宗」
もう一度。
今度は視線が上がった。
「、んだよ…」
「独りでお楽しみ中悪いが、」
笑みを湛えた俺に反し、政宗はかぁ、と顔を赤くした。
尤も、灯りもほぼ消えていて色までは詳しくは分からないが、そういう気配がした。
「お前から誘った房事だ、少しは俺も愉しませてもらっても罰はあたらないよな?」
政宗は僅かに眉をひそめた。
返事を待つ気は無かった。
政宗が俺をしかと孕んでいるのを確かめ、素早く押し倒した。
そこには政宗の着ていた着物が脱け殻のようにあり、少し酒に濡れているようであった。
「、っ…元親…!」
「何もしてやらずに終わるのは、申し訳ないからな」
ぐ、と深く突き入れた。
「、ぅあ…ッ!」
「不能と言われたまま引き下がるは男じゃねぇだろ」
俺はまとわり付いたままだった帯を解き、寝間着を脱いだ。
俄然動き易くなった。
酒の残る、思いの外細い腰を抱き寄せる。
「俺が不能か否かは身をもって確かめるんだな」
言い終わるが早いか、俺は腰を動かせた。
ギリギリまで抜き、肌が触れ合うまで突き入れる。
政宗の中は焼けるかと思うほど熱かった。
「あ、…ッ…んっ、や、っぅ…ぁ…っ!」
俺の動きに合わせて声が洩れ、淫らに腰が動くのは、何とも言えず快感だった。
年甲斐もなく夢中になりながら、ふと思う。
…征服されているのは俺の方かも知れぬ。
「…、ぁ、っ、もと…ちか…ぁ…」
首に手を回され、引き寄せられた。
一瞬視線が絡み、政宗は目を閉じた。
涙がひとつ頬を滑る。
落ちきる前にそれを舐め取れば、政宗は小さく息を吐いた。
酒と混じり、何とも言えず美味かった。
「、政宗…」
「や、…ぁっ、も、…果て…ッ」
一層強く揺さ振ると、熱い吐息混じりの声が上がった。
言わずもがな、だ。
中の痙攣がそれを報せていた。
果てさせればいいのだが何故か、諸共に、と思った。
「まだ、だ」
「、痛…ぁッ」
政宗の中心を握った。
吐精を堰き止めるように。
「俺はまだ、だと言ったはずだぜ。まぁた先に果てようってか?」
からかうように笑むと、涙に溢れた眼が俺を射った。
「離、せ…っ」
弱々しく俺の手を握り、解こうとする。
拙い抵抗が俺を昂ぶらせた。
極みを求めて只管腰を動かせた。
「や、あっ、はなし…、離して…ぇ、っう、ん〜…ッ!」
政宗はもう涙声だった。
俺ももう限界だった。
「も、とちか…ッ…、頼む、から…!果て…、ッあ、〜〜〜〜ッ!」
「、っ…!」
手を解きひと突きすると、政宗は果てた。
続いて、俺も政宗の中で果てた。
驚いたことに、政宗は気を失っていたが、都合がいいと思った。
ゆっくりと自身を抜き、脱ぎ捨てた寝間着を政宗の躯に掛けた。
俺は政宗の下敷きになっている、政宗の寝間着を羽織ることにした。
酒の匂いがする。
それが心地よかった。
適当に帯を巻き、廊下への襖を振り返った。
「、よぅ、もう入ってもいいぜ」
襖が開いた。
入ってきたのは、小十郎だけだった。
「あ?二人居たんじゃなかったのか?」
「…成実殿は寝所に戻られました」
まさか、政宗が声を上げて、本当に駆け付けるとは思わなかった。
しかも脇差を携えている。
大分部下に愛されてるらしい。
「お子様には刺激が強かったか?」
「………」
小十郎は俺を射殺さんばかりに睨み付けてきた。
「…言っとくが、誘ったのはあっちだからな」
「分かっております」
「…、あ〜…早く湯浴みさせてやってくれ」
俺は何を弁解しているんだろうか。
小十郎の視線から逃れたくて、政宗に向き直った。
「…こんなこと、しょっちゅうなのか、こいつは」
「こ度が初めてにございます」
「………、は?」
「政宗様をそこらの小姓と一緒になさいますな」
鋭く言い放ち、唖然とする俺を余所に、小十郎は政宗に寄った。
自分と余り変わらない体躯の政宗を寝間着ごと抱き上げ、歩きだす。
「湯浴みなさいますなら、貴殿もどうぞ」
面倒臭そうに言い、さっさと廊下に出た。
「…いや、後で頂戴する」
政宗の異様なまでに初い態度が裏付けされて、俺はそう言うのが精一杯だった。
まさか。
そればかりが頭を巡る。
火傷は思いの外、酷かった。
終
初書きBASARA文、チカダテ。
うちのチカは32くらいが理想。
大人の魅力たっぷり(笑)
テーマは「政宗、強気受→とろとろ。元親、兄貴肌流され攻」だった(どんなジャンルだ…)んだけど、全然違う(笑)
そこはかとなく、チカがSに…。
でもネチっこくエロ書けたし、もういい、満足。
05.10.28