朝焼け
「なぁ、元親見ろよ!」
開け放した障子の外を見て、楽しそうにはしゃぐ。
晒された肩や腰や太股に鳥肌を立てて。
寒いんだろうけど、そんな事は関係ないのか。
「お前さ、何か羽織れよ。せめて下帯…―」
「なぁって!ほら、綺麗だぜ!」
「……」
たかが日の出で、よくもまぁそこまで騒げるもんだ。
ああ、若いって素晴らしい。
単を投げてやって、俺は敷布の上、寝返りを打った。
政宗には背を向ける。
「元親ー?見ないのかよ、昇り切っちまうぞ?」
そんな声が聞こえる。
仕方ないから、身体だけは向けてやった。
「ほら、凄ぇ赤い。やっぱ太陽って燃えてんのかな」
俺を振り返って、馬鹿みたいに笑顔で言う。
付き合ってられねぇ。
もう一度、寝返りした。
「綺麗だな…」
「……」
「……」
「………」
「……」
「………………、」
負けた。
「羽織れよ、投げてやったんだから」
「ははは、何だよその格好!」
普通、寒いだろうと掛布ごと来てやった俺を笑うか?
格好は変だよ、確かに。
けど笑うこたぁねぇだろ。
「……寝る」
「はは、待て待て」
政宗は毛布の端を掴んで、危うく俺は転ぶところだった。
そうやって、愉しそうに上目遣いしやがって。
勝てると思ってんのかよ?
「何だよ」
「羽織ったら、元親はそうやって来なかっただろ?」
で、俺はまたも呆気なく負ける、と。
政宗を膝に座らせて、一緒に布団で包む。
「綺麗だな」
「そだな」
適当に相槌。
半分くらいまで顔を覗かせた太陽は、そこだけ射ぬいたように白い。
周りは血のように赤い炎にのまれた。
掛布は政宗の所為で冷えてしまった。
「綺麗だ」
「何度目だよ、それ」
「はは、そうだな。……………、綺麗…」
「……」
お前の方が綺麗だよ、か。
馬鹿馬鹿しい、寒い。
女なら、こんなのを見てはしゃぐのも可愛気があるんだろうが。
あぁでも、どこまでが計算か分からない女よりはマシなのか。
…違う。
どこまでも本気なコイツの方が質が悪い、逃げられない。
負けた。
太陽は昇り切ってしまって、血の炎はすぅーっと鎮まった。
呆気ない。
ただ、白い白い空。
「綺麗だったな」
女にする行動だって、女に言う台詞だって、まだ覚えてる、実践できる。
なのに、俺の横は常にコイツで。
望みもしないのに、
俺に笑いかけて
俺に話し掛けて
俺に口付けして
俺に身体を預ける。
望みも、しないのに。
「元親、さっきな、」
けれど、それを
嬉しがって
返事して
口を吸って
抱く俺は、
「太陽で、アンタの顔真っ赤だった。すげぇ綺麗だった」
射抜かれて、仕舞いには浸食されるあの空と同じだ。
終
ちょっと毛色の違うチカダテになっちゃった。
そりゃそうだ、これ、前ジャンルのリメイク…(遂にやったか)
政宗との関係が自分的に不本意で、楽観視しているような政宗を少し疎ましく思っていた元親が、
漸く自覚に近い感覚をもつ。と、そんな内容。
06.09.16