(、くそ…) 政宗は、きらびやかに光る星星を見つめ、苛立ちまじりに舌打ちをした。 綺麗な星空だった。 天の川がくっきりと見え、うっとりとさえするほどだった。 その空に、政宗は舌打ちしたのではない。 この星空を、共に見上げたい人物が、今は横にいない。 呼びに行こうと馬に乗り、いくらか駆けてから、政宗は相手が居るだろう場所が分からないことに気付いた。 家はどこか。 それすら知らない。 唐突に八方塞がりになり、冒頭の舌打ちとなった。 (ありえねぇ…) 政宗は馬を止め、川沿いの草原に座った。 空を見上げれば、どこをとっても川のように見える星空だ。 一際光る織姫と彦星を見つけ、政宗は堪らず笑んだ。 「…地でやってるなんて笑えねぇよ」 年に一度の逢瀬しか許されない織姫と彦星。 そんなに会っていないわけではないが、政宗と相手もそうそう会えるわけではない。 正確には、政宗が会いたいと思っても会えない。 今遥か高くの星に紛れて、織姫と彦星は年に一度の逢瀬を楽しんでいるのだろうか。 羨ましい、と政宗は咄嗟に思った。 「…出てこいよ、俺の彦星…」 言ったところで馬鹿馬鹿しくなり、政宗は立ち上がった。 帰ろうと馬の手綱に手を掛け、止まった。 川の対岸に、人の気配を感じたからだ。 (…、誰だ?) 訝しげに、政宗は馬の影に隠れつつ利かぬ夜目を凝らした。 星空が、政宗を助けてくれた。 (、あ…) 「政宗!」 政宗が相手を認めたのと、呼ばれたのは殆ど同時だった。 対岸には、松風を傍らにした慶次がこちらに手を振っている。 「…何てことだ…」 政宗は思わず口にしていた。 自分と慶次を織姫と彦星に例えた直後に、川を挟んでこの状態だ。 恥ずかしくなった。 だけど、嬉しかった。 「待ってて、そっち行く!」 松風を曳いて、ざぶざぶと川へ入っていく慶次を、待つ余裕は政宗にはなかった。 馬を放ったらかしにして、政宗は真っ黒な川に入っていった。 「政宗?!」 慶次は驚いた声を上げて手を伸ばしたが、届く距離ではまだ無い。 袴が水を含み脚にまとわりついて動きを邪魔した。 それでも政宗は必死に慶次を目指した。 丁度川の真ん中で、政宗は慶次に抱きついた。 「もう〜、待っててって言ったのに」 「待ってられない。俺だって、…会いたいときがあるんだ」 「…え、」 慶次が嬉しそうに顔を弛ませた。 その顔に、政宗は唇を寄せた。 「次はまた来年、なんて言わせねぇからな、俺は」 鼻に噛り付いてから、唇を吸った。 空の星が二つ、笑ったように瞬いた。 終 06.07.07 |