「、何だよ、これ…ッ!!」

いつもどおり部屋に来て掃除を始めてしまった伊達ちゃんに、そろそろ俺も諦めついたし慣れちゃって、ソファにどっかり座って終わるのを待つことにした。
テレビなんかつけて、夕方のニュースを真剣に聞いてたら、耳に飛び込んできたのは、伊達ちゃんのあからさまに怒った声。

「どれ?」
「どれ、じゃねぇよ!!」

目の前に突き出されたのは雑誌だった。
うん、サイズは普通に週刊誌のサイズ。
でも表紙を見れば、どういう雑誌か一目瞭然なもの。

エロ本だった。

(、やっちゃった…)

思わず頭を抱えてしまった。
別に、エロ本持っててやましい気持ちはない。
だって、高校生だもん、普通でしょ。
というかエロ本のお世話になってない高校生の方が嫌だ。

でも、今はそれどころじゃなくって。
俺がどうにかしなきゃいけないのは、目の前で泣きそうな顔して俺を睨んでる伊達ちゃん。
とりあえず、謝ってみよう。

「…ごめん」
「ッ…!、何に対して謝ってんだよ、てめぇは!」

バシッ

思いっきり雑誌を投げつけられた。
それは甘んじて受けたけど、そこまで怒んなくてもいいじゃないかと思う。

「じゃあ何に対して謝ってれば、伊達ちゃんは許してくれるの?」
「……、」
「だってさ、別に悪いことじゃないじゃん」

本音がボロっと出た。
恋人いるやつがエロ本見たっていいでしょ。
必要ないかもしれないけど、見る分には構わないはずだ。

「……………」
「何か言ってよ」
「………、んで……女、なんだよ…」
「え?それはだってほら、俺、女が好きだもん」

やっぱり女の子って柔らかくってふわふわしてて、気持ちいいし。
そもそも、別に俺はゲイじゃないし。
だからエロ本(もちろん女の子ばっかの)だって見るし、それ見て抜く事だってある。

それ全部を伊達ちゃんに言うなんてしないけど、多分誤解したんだろう。
伊達ちゃんは掃除機のスイッチも切らずにそのまま投げ出して、玄関に走っていってしまった。

「ちょ、伊達ちゃん!?」
「うっせぇ来んな!!!!」

伊達ちゃんの声はもうほとんど涙声だった。
悪いね、俺、足だけは速いんだ。
何より、そんな伊達ちゃんの声聞いて、このまま帰すわけない。

靴に足を突っ込んだだけの伊達ちゃんを後ろから羽交い絞めにして捕まえた。
盛大に暴れられたけど、そんなくらいじゃ離さない。

しばらく、ほとんどプロレスごっこみたいに暴れまくってたら、伊達ちゃんが先に力尽きた。
ペタン、とその場に座り込んで、ゼィゼィ言ってる。
泣いてるから余計に、息が苦しそう。

「大丈夫?」
「、ッ大丈、夫…じゃ、ねぇ…!」
「だよねぇ」

ちょっと気を抜いて笑ったら、また伊達ちゃんが暴れ始めた。

「ちょっと!」
「ッ女がいいなら、俺なんか、離せよ…!!!」
「は?ちょ、意味が分かんない!」
「分かんねぇならいい!離せ!」

さっき力尽きたんじゃないの?と疑問に思うくらい、伊達ちゃんはまた壮絶な抵抗を見せた。
ちょっと後ろから押さえるだけじゃ厳しくなってきた。
力任せに、組み敷くことにした。
身体を反転させて、馬乗りになって、肩を押さえつけて。

(、うわ…)

伊達ちゃんを見下ろして初めて分かった。
思ってた以上に、伊達ちゃんの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。

「…はな、せよ…っ!」
「離せないよ」
「女がいいなら、俺は必要ねぇんだろ!離せよ!」
「ちょっと待って、誰がそんなこと言った?」

そりゃさっき女が好きだって言ったけど。
それは事実だし、嘘ついてるわけじゃない。
でも、それが何で伊達ちゃんが必要ない、に発展する?

少し考えたら、すぐに答えに行き着いた。

「伊達ちゃん、」
「もういい、離せ。佐助なんか知らない」
「そんなこと言わないでよ。俺は、伊達ちゃんが好きだよ。そもそも俺は、男が好きなわけじゃないし、」
「言うな!聞きたくない!!」

喚いて、耳を塞ごうとするからそれは阻止した。
こればっかりはちゃんと聞いてほしい。

「男は好きじゃないし、でも女だったら誰だっていいわけじゃない。俺が伊達ちゃんを好きなのは、伊達ちゃんだからだよ」
「、じゃあ、何で…!」
「…エロ本くらい、読んだっていいじゃん」

これは許してほしい。
男だもん、仕方ない。

「どうしようもなく、抜きたくなるときだってあるでしょ?」
「………、」
「これには賛同してくれる?」
「……っしねぇよ!」

照れ隠し、って訳ではないみたいな、伊達ちゃんの返事。
え、嘘、それ本気で言ってる?

「男なんだから、仕方ないよ、こればっかりは」
「………呼べばいいだろ!」
「え?」
「、そうなったら、俺呼べよ!お前がしたいときは、俺だってしてぇんだよ!」

…うわ。
この子、自分で言ってること分かってるんだろうか。

「一人でなんか、する必要ねぇだろ…!」
「伊達ちゃん、自分が何言ってるか分かってる?」
「、は?」
「すっごい口説き文句。いや、殺し文句かな」

もう、悪いけど、俺だってここまで言われて止められるわけない。
玄関先だろうがなんだろうが、俺は気にしない。

「じゃあ、今すぐしよう」
「、何を」
「何って、セックス。俺は今すっごくしたいから、伊達ちゃんだってすっごくしたいはずでしょ?」
「へ?…あ、え、…ち、ちが…っ!!」

伊達ちゃんは百面相してから、真っ赤になった。
やっぱり、勢いで言ったのかな。
でも、そういう風に言っちゃったことって、結構本音だって知ってる。

「違わないよね?」
「ま、待てよ…!そんなつもりで俺は言ったんじゃ…!」
「俺はいいよ、このまま伊達ちゃんが帰っちゃっても。またエロ本のお世話になるだけ」

“エロ本”。
この単語を出せば、伊達ちゃんが陥落するのは目に見えてた。
案の定、言葉に詰まった伊達ちゃんは、諦めたように頷いた。

「せめてベッド行こうか?」
「……ッ、エロ魔人」
「なんとでも」

お姫様抱っこで連れてってあげようか?
そう言ったら殴られた。

とりあえず、エロ本は全部捨てとこう。
したいときに毎回呼ぶなんてしないけど、伊達ちゃん思い出して抜けばいい話だしね。
そこらの女の子より、伊達ちゃんの方がずっといい。














06.07.15