「ほら、これやるよ」

慶次は棒つきの飴を3つ、ぶっきらぼうに差し出した。
緑色と赤色、そして黄色。
さながら信号機のようだな、とぼんやり思いながら、政宗は瞬きをした。

「何だ、これは」

飴だとは分かっている。
政宗が聞きたかったのは、何故くれるのか、だとかそういうことだったのだが、照れてしまった慶次の頭ではそれが上手く分からなかったようだ。

「見れば分かんだろ!飴じゃねぇか!!」

案の定の言葉が返ってきたが、政宗は気にする風でもなくサラリと返した。

「そうだな。で、何で俺に?」

ああ、初めからこういえば良かったか。
気付くのが遅かったか、とは思ったが、ひとつ学んだ気になって、政宗は満足した。
何より、どんなに声が怒鳴っていてもぶっきらぼうでも、慶次と話すことは楽しいのだ。
それに慶次は政宗の問いにはきちんと答えてくれる。

「…叔父貴がくれた」

慶次は少し言いにくそうに、視線をそらした。
この歳になって飴なんぞを貰うことが恥ずかしいのか、それとも、?

「3つともか?」

細かいところに目がいくのは、政宗の特技でもあった。
この台詞にも、それゆえの理由があった。
3つの内、ひとつは何もついていないが、残りふたつには棒の先にテープが巻かれている。
恐らくはこの3つの飴は、ひとつとふたつで別々に買われている気がしたからだ。

「………このひとつだけ」

慶次は政宗の問いに思いっきり嫌そうな顔をしたが、観念したのか、緑の飴だけを掴んで掲げて見せた。
政宗にも、慶次が“それ以上は聞くな”と言っているのが分かったが、それは聞けないお願いだった。
だって、気になるのだから。

「では、残りふたつはどうしたのだ」
「………、」
「貰ったのではないのだろう?」
「…………………、」
「なぁ、慶次」
「……〜〜〜〜ッ!」

慶次はバッと顔を上げると、3つの飴を政宗の手に押し付けて、背を向けてしまった。

「残りは買った!俺は飴なんか食わないことにしてるし、お前にやるにしてもその味嫌いだったら悪ぃから、無難そうな味選んだだけだ!それに、選べる方が少しは楽しいと思っただけだ!全部俺が勝手にやったことだ、別にお前のためじゃねぇ!!」
「慶次、」

殆ど叫ぶように発せられる慶次の言葉が終わるのを待って、政宗は慶次の背に飛びついた。

「ま、政宗ッ!!??」
「嬉しいぞ、慶次はいい子だな」
「う、うっせぇ!!!ガキ扱いすんな!!!!」
「あっ」

暴れる慶次に、政宗はいとも簡単に腕を振り解かれてしまった。
ゴロン、と政宗が転ぶ音がして、慶次は慌てて振り返る。

「悪ぃ!平気か?」
「平気だ」
「そっか」

あからさまに安堵する慶次にふふと笑って、政宗は3つの飴を差し出した。

「一緒に食べよう」
「お、俺はいらねぇよ、飴なんか!」
「二人で選んだ方が楽しいと思うぞ」

ほら、と目の前に突きつけられてしまって、慶次は断るに断れない。
言葉に詰まっていると、政宗はしたり顔で言う。

「本当は飴が好きなのだろう?」
「、ッ!?」

図星をつかれ、もうどうしようもなくなってしまった。
観念した慶次は、分かったと項垂れた。

「…じゃあ先に政宗が選べよ」
「わしはどれでもいい。慶次が先に選べ」
「それじゃあ意味ねぇだろ」

政宗はそれもそうだな、と頷いた。

「では同時に選ぶとしよう。良いか?」
「え、ちょ、」
「せーの!」

政宗は慶次に制止も待たずに続けた。
政宗の指が伸びる勢いに押されて、慶次も思わず手を出した。

慶次は緑の飴、政宗は赤の飴。

「上手く分かれたな」
「…そうだな」
「とりあえずこれは置いておいて、」

黄色の飴を机に置くと、政宗は早速飴の袋を破って口に放り込んだ。
いちごだな、と呟く政宗を横目にして、慶次は自分が手にした緑の飴を見つめた。

「慶次のは何味だ?」
「んーりんごか何かだと思うけど、」

袋を破って口に入れて、少し舐めてまた出した。
口の中に広がる甘酸っぱい味。

「うん、青りんご」
「慶次はりんごが好きなのか?」
「まぁ、好きだな」
「慶次は本当にいい子だ」
「はぁ?何でだよ」

突拍子もない言葉に怪訝な顔で慶次が尋ねると、政宗は小首を傾げて答えた。

「だって、それは利家に貰った飴だろう?好きなのにわしに持ってきてくれた」

だからいい子。
ふふふと笑う政宗に、慶次は何も言えなかった。
ただ一言、ぼそりと、。

「…緑、つったら一番に政宗思い出したんだし、仕方ねぇじゃねぇか…」
「何か言ったか?」
「何でもねぇよ!!!!」

慶次の頬はさながら熟したりんごのように赤くなった。






終わり







07.05.14