――流れ星が消えてなくなる前に願い事を。
こうしたら願いが叶う、なってよくある話。
それを信じるほど、馬鹿でも子供でもない。

「…有り得ない。馬鹿馬鹿しい」

悪態を吐いたその瞬間に、見上げた夜空の中で星が流れた。
信じていない。断じて信じていない。
けれど、悪すぎるタイミングに、絶望的な気分になって目を閉じた。

空は、人間が勝手に使っている日付なんてものを知っているんだろうか。
今日が何の日か知っているから、こんなに晴れてる?
きっと俺がこうやって、目を閉じてる間にもいくつも星が流れては消えてるんだろう。

じゃあ何で。
何で、俺の願いは叶わない?

「あー、くそっ!」

信じていない。断じて信じていない。
7月7日がどうしたってんだ。

「会いたい、なんてどうせ叶わないんだろ?」

知ってる。
あいつに直接言わなきゃ意味がない、なんてことは。
でももう、一週間も口を利いていない。
理由も分かってる。
俺が一方的に我儘言って困らせて、愛想尽かされてそのまま。ジ・エンド。
終わりの言葉も無かった。

目を開いても、星空はぼやけて見えなかった。
それでもひとつ、星が流れたのが見えて、。
この星はきっと、流れて消えた俺達の関係を表しているんだ。

「最悪、」

それでも。
それでも願いを叶えてくれるなら。

俺は必死に願うしかないんだ。


「頼むから…会わせろよ…。会わなくても良い、せめて謝りたい…」


想ってるのが俺だけでもいいから。


「…慶次…ッ」


大好きだから。
叶わないと知りながら、星に願って。
叶わないと星を罵って。
知ってる、どうせ信じてない。
でも、もしも。
もしも、願いが叶うなら、せめて…。

星が、流れた。

その後に続くのは、。

「…好き…」

ただ、自分の呟きのみ。


――知ってる?七夕の流れ星は、願いを叶えてくれるんだよ。


「嘘、吐くなよ…」


――本当だって!言ってみなよ、叶うから。


「、会いたい、キスしたい、抱きしめて欲しい…!」


――欲張りだなぁ。


「慶次だから、慶次だから、俺は…!」


――参るよ、本当。俺しか叶えられない願いばっかりだ。


「でも、言いたいのは、『ごめん』…」
「分かってるよ、政宗」
「…ッ!」

ぬるい夜の空気が、一際熱くなって肌に張り付いた。
大好きな腕が、後ろから俺を抱いていた。

「慶次…!」
「政宗は本当不器用だ」
「…お前の前だけだ」
「うん、それでいいよ」

また星が流れた。

「仲直り」

でももう流れ星は要らない。
願いは、叶った。






終わり







07.07.07