世界中には沢山の人がいるのに どうして貴方じゃなきゃいけないんだろう。 どうして・・・・・・・・ 感情がこんなにも溢れるんだろう。 「伊藤君。大丈夫ですか?」 「はい。大丈夫ですっ・・・・それにしても予想以上に人が多いですね。」 この時期は早く眠ってしまう太陽のおかげで、辺りはすっかり暗くなっていた。 それでも暗闇に嬉々として光りを放つ色とりどりのイルミネーション。そんな町並みを 伊藤啓太と七条臣は肩を並べて歩いていた。 時折誰かの肩とぶつかってしまったりするくらい人が多くて、啓太はひたすら人ごみの中に七条が先に入っていきながら作っていく道を通るので必死だった。足を前に出すたびに頬を掠める冷たい空気も二人の繋ぐ手からくる体温に比べたら些細なもので、胸の芯がジーンと熱いまま二人は目的の場所に向って行った。 今夜はクリスマス。 恋人同士の七条と啓太は初めて一緒に過ごすこの夜をとても楽しみにしていた。 学生なので一日中一緒に過ごすなんてことは出来ないのは残念だったのだが、今日は終了式をおえてから午後は締めくくりの会計部の作業を終えた後、二人で計画していたお出かけを実行したのであった。 目的の建物を立ち止まって見上げた啓太の瞳はキラキラ輝いている。七条は愛らしい恋人の表情を隣で見つめてその表情に優しく微笑んだ。 「すっごい・・・・・ここで本当にご飯食べるんですか?」 「えぇ。この日のために随分前から予約をとっておいたんです。」 建物はそれはそれは高級感溢れるレストランで、透明のガラス越しに見える赤い絨毯(じゅうたん)や、入り口付近に立つ背筋を伸ばしたウエイターからもそれが感じ取れるような様子だった。 啓太は少々戸惑いの色をちらつかせる・・・・見て取った七条はキュッとやんわり握った手を握って軽くウインクを送ると堂々と扉を開いて手を繋いだまま入っていった。 「なんか・・・・こんな所、初めてで・・・・・少し緊張しちゃうかも。マナーとか全然分からないですもん。」 頭を片手でかきながら啓太は苦笑しつつテーブルの向かいに座る七条に向って話し出す。注文を受けたウエイターが去っていった後、表情をやっと和らげた恋人にクスリと小さく笑うと七条は片肘をテーブルについて握った拳を顎に添える。 「そんなに肩をはらなくても大丈夫です。そのためにも区切られた場所を選んだんですから・・・いつもの通りでいいんですよ。」 「あ・・・・・」 言われて初めて啓太は部屋の周りを眺めて瞳をパチパチさせた。そしてフニャリと微笑むと肩を小さく竦める。 「七条さん。ありがとうございますっ・・・・・ここ、とっても素敵な場所ですね。あの・・・・あの、やっぱり・・・・・高い・・・・ですよね?」 「ふふっ・・・・伊藤君は気にしなくてもいいんです。株をいくつか売ったら結構な額になりましたし・・・・・僕はこうして君と過ごす事ができるということにこそ価値があると思っていますから」 「七条さん・・・・・・・」 なにやら急に照れてしまい啓太は頬をほんのり赤くして瞳を伏せる。そしてオズオズと視線をゆっくり上げて七条を上目遣いで見つめる。 「・・・・・ウエイターさんと話してるときも・・・・注文も英語だらけだったけど七条さんが注文してくれたりして・・・・・・なんだか・・・・カッコよかったです。」 「伊藤君。」 七条は紫の瞳を嬉しそうに細める・・・・と啓太のテーブルに置いてあった両手をそっと握る。啓太は更に頬を赤くさせ始めた。 「スーツもとっても似合ってて・・・・俺、ドキドキしちゃう・・・・かもっ」 そう、実はこの高級レストランはネクタイで入店を許可される店で、二人はコートの下にスーツをつけていたのだ。 「ふふっ・・・・ありがとうございます。大好きな伊藤君に言われて僕もとっても嬉しいです。伊藤君のスーツ姿もとても可愛らしいですよ?早く・・・・君のネクタイを外してしまいたいくらいです。」 「し・・・・・七条さんっ」 周囲の人に聞こえるんじゃないかと両耳の傍で手を浮かせながらキョロキョロと首を動かしてしまう。しかしここは区切られた空間、人がいないのは当たり前でハッと瞳を大きく開くと恥ずかしそうに頬を指でかく仕草をした。 七条は眉を上げてニッコリ微笑むと手元にあったグラスを手に取ると、半透明越しに見えるサクランボと氷がぶつかり合う音とシュワッというサイダーの音が重なる。そして首を軽く動かして合図を送ると、啓太もそっと近くのグラスを手にとって視線を合わせてはにかんだ。 次の瞬間 ガラスとガラスのぶつかり合う音が二人を中心に室内へと広がっていった。 「はぁ・・・・・美味しかったですっ・・・俺、もうお腹いっぱいっ」 「おやおや、まだデザートが残っていますよ。やめておきますか?」 「えぇっそんな・・・・別腹ってやつです」 「ふふっ・・・そうですね。」 「えへへっ」 次々に運ばれてくる料理はその場の雰囲気にあったように高級感溢れるもので味もしっかりと二人の舌を上手に刺激してくれた。啓太は料理が運ばれるたびに嬉しそうに表情をほころばせ、七条もその度に幸せそうに微笑んでいた。そして、待ちに待ったデザートが運ばれ二人は今までよりも一層に笑顔を輝かせる。 「美味しそうなケーキですねっ!俺の好きな苺までのってる・・・!」 「ここのケーキがまた絶品なんですよ。そうだ・・・僕の苺、伊藤君にあげますね。」 「そ・・・そんなっ七条さんの苺なくなっちゃうじゃないですかっ。俺は大丈夫ですからっ」 「遠慮なさらずに・・・・ほら・・・・・伊藤君口をあけて?」 「へっ?」 啓太が気づいた時には七条の手元には生クリームがついた苺・・・・・・。 それがだんだん口元に近づいてきて啓太は何も考えずに口を開けて思わず食べてしまった。苺の舌触りと一緒に七条の綺麗な指も微かに感じて・・・啓太は一瞬の出来事に顔を真っ赤にして眉をひそめた。モゴモゴと口を動かすのを隠すように両手を添えてゴックンと飲み込むと情けない声を上げる。 「も・・・もぅもぅっビックリしたじゃないですかぁっ・・・・」 「それは、すみません。でも美味しかったでしょう?」 「えっ・・・・・!?えっと・・・・あの・・・・・・・・はい・・・・」 素直に頷く啓太に嬉しそうにしながら七条は悪魔の羽をはばたかせる。立ち上がるものの前屈みのまま唇を近づけると啓太の口元をペロリと舐めあげた。 「〜〜〜〜〜っ!?・・・・ししししししちじょ・・・・さっ」 「おや、また驚かせちゃいましたね。口に生クリームが残っていたものですから・・・・・ご馳走様でした。」 なんていうのは嘘。本当は何もついてなどいなかったのだが啓太はその言葉を疑う事もなく照れながらも小さく頭を下げてお礼を言う姿は周囲から見ても愛らしいものだった。 「あ・・・・・・・・・」 ふいに呟くと啓太は緊張した面持ちで椅子下に置いてあった紙袋を掴み両手で丁寧に持ち直してから七条に向ってそれを差し出した。七条は笑みをたたえたまま瞳を何度か瞬きする。 「これは・・・・・・?」 「く・・・・・・クリスマスプレゼントですっ!」 「僕にですか?・・・・・・・ふふっありがとうございます・・・・」 七条は啓太の手元から紙袋を受け取ると「開けてもいいですか?」と相手に了承を得てから紙袋の扉を塞ぐシールを綺麗にはがして中身を覗き込む。すると口端が更に上がり、ワクワクした表情で取り出した。 「これは・・・・・・・マフラーですね。・・・・もしかして手編みですか?」 「は・・・はいっ・・・あの・・・・・・・・和希に教えてもらいながら編んでみました。七条さんに似合いそうな色の毛糸があったから俺つくってみようって思ってっ」 「とっても嬉しいです。大切にしますね」 言うと七条はさっと首に巻いてみる。啓太は嬉しそうに、でも恥ずかしそうに微笑むとフニャリと微笑んだ。すると啓太の顔に影がさす・・・・啓太が瞳をクリッとして相手を見つめると間近くにある七条の顔・・・・・・・ 「七条さん・・・・・・・・・んっ」 七条の唇が啓太の唇の感触を味わうように甘噛みするのを合図にキスをする。舌で時折唇を撫でながらなんども吸いあげるので、その度に啓太の唇が微かにプルプルと揺れ動いた。いつの間にか啓太もそんな甘いキスに夢中で七条の首に手をまわして瞳を閉じていた。 「・・・・・・・・・はぁっ」 大きく、息をはいて唇を離した時にはその空色の瞳は潤んでいた。七条はそれをゆったり見下ろすと啓太の両頬に手を添えて囁く。 「今夜はホテルをとってあるんです・・・・・・・」 キスの余韻にひたり啓太は瞳を閉じたまま・・・・・ゆっくり頷いた。 2Pへ |