授業が終わった静かな教室の中 部活動に励む生徒の姿は、すでに残っている様子はなく 「いつも」なら、誰もいないはずの空間 しかし、そこには「いつも」の教室の様子はなく 窓から差し込む暖かい光に包まれ 壁を見れば、コントラストの効いた二人の影が寄り添っていた。 「啓太・・・・・起きろよ・・・・七条さんが待ってるんだろ?」 「ん〜・・・・・」 啓太は口をムニャムニャと微かに動かすが、瞳を開くこともなく、ただ親友の肩に身体の重心を預けているばかりで、起きる気配が見られない。よほど深い眠りなのだろう。授業が終わってから和希が懸命に肩を揺すったり、声をかけたりしても反応は微動だけで終わってしまう。 こんなに熟睡してしまうほどの寝不足。原因を思い描くだけで悲しみの淵に落ちそうになる。だってこれはきっと啓太の恋人のせい。あの独占欲の強いオカルト好きの会計補佐がほぼ毎晩、啓太の時間を共有していることを和希は知っていた。この眠り方をみると、昨夜は寝かせてもらえないほどに・・・・・・ ここまで考えて和希は思わず目じりに雫が集まってしまいそうになる。 啓太の寄りかかっている反対側の手で目元を撫でると、改めて啓太に視線を落とした。 日に照らされるあどけない寝顔・・・・ 愛くるしい瞳は見えないものの、覆いかぶさる睫の長さにも胸が高鳴ってしまいそうになる 桜色の可愛らしい唇・・・・・・ 見惚れて瞳を細めながら和希がため息を漏らしたと同時に、啓太の睫がフルリと微かに揺れる。 ビクッと驚いた和希は一瞬肩を竦めて動揺して瞳を揺らしたが・・・・ 青く澄んでいるであろう瞳はまだ開くことをしない。 またそのまま夢の世界へといざなうかと思った時、啓太の本当に小さな小さな声が耳に入ってきたのだ。 「しちじょ・・・・・・さん・・・・・・・?」 「な、なに?」 驚きのあまり瞬時に反応してしまった和希。ドキドキと心臓が鳴りっぱなしの胸を片手で抑えながら、啓太の様子を伺う。 起きているのか・・・・それとも寝ぼけているのか? 「しちじょうさん・・・・・・眠い・・・・です・・・・・・」 言うと啓太は、もたれていただけの身体を動かし、和希の腕に抱きついてきたのだ。 どうやら、啓太は寝ぼけているよう・・・・・スリスリと頬を擦り寄せたりして、まるで甘えているような仕草を繰り返す。もちろん和希の心情は凄いことになった。盆と正月が一緒に来るとはこの事。 発言からも、これは相手を七条だと思っての行動なのだろう。そう思いつつも起こすはずだった気持ちは、どんどんしぼんでしまう。 この状況を味わうためには身体を動かすわけにはいかない。 そう判断した和希は心の中で悶絶しながら・・・・・ゆっくり微かに震える手を動かし、啓太の頭を優しく撫でると啓太はニッコリと嬉しそうに微笑んだ。 和希は抱きしめたくなる衝動にかられながらも必死で理性を保つ。 こんなにも可愛く、恋人に甘えるんだ・・・・そう思ったらチクリと小さく胸を刺すトゲ。 今だけ・・・・・・ 今だけでもいいからこの寝顔を独り占めしたい・・・・。 和希は大人びた表情で瞳を伏せると愛しい親友の名を呼ぶ・・・・・ 「啓太・・・・」 「七じょ・・・・さん・・・なんか・・・・・」 「なに?」 途端に、瞳を閉じたままの啓太の眉間に微かにしわが寄る。 「なんか・・・・・違う気が・・・・する・・・・・」 「え?」 ガランッ 和希が啓太の発言に瞳を丸くした瞬間、大きく教室の扉が開かれたと思うと、そこには輝くほどに笑顔で立っている銀髪の彼がいた。 細めた瞳はまるっきり笑っていない。 それどころか奥底から湧き上がる激しい炎さえ感じてしまう。 和希は一気に瞳を開くと恐ろしいものを見るような表情になった。 流れる汗は冷え切っていて和希の首を竦ませてしまうほどだったという・・・・・ 「ん・・・・・・しちじょうさ・・・ん・・・・・・」 「はい。なんですか?伊藤君。」 「俺・・・・たくさん寝ちゃった・・・・・みたいですね・・・・」 啓太が瞳を片手で擦りながら身体を起こすと同時にヨロリと揺らいだので、大きな手がそれを支える。 重い瞼を懸命にこじ開けようとしつつ、隣の人に身を任せる体勢になった。 するとその人は頭をフワフワと優しく撫でてくれたので・・・啓太は心地よさそうに表情を緩ませ、瞳を閉じたまま小さく安堵のため息を漏らしながら 「良かった・・・・・・・・」 と・・・呟いた。 その発言に隣の人は、口端を上げながら不思議そうに首を傾けると 「何が良かったんですか?」 優しく優しく囁くように尋ねる。 「だって・・・・いつもの七条さんだから・・・・です。」 「いつもの・・・・ですか?」 「さっき・・・・なんか違うなぁ・・・って・・・・思ったから・・・・」 「伊藤君・・・・」 啓太は瞳をゆっくり開くと・・・隣に座る美しい銀色をたたえる恋人を見つめるとフニャリと微笑んだ。 「だから・・・・良かった・・・・・」 七条は片眉を微かに上げて柔らかく微笑み返すと、身を乗り出して啓太の顔を見つめる。 そして啓太の両頬を包み込むように両手で支えると、ゆっくりと距離を詰めて唇同士を重ねあい、唇で甘噛みするように感触を楽しむ。啓太も七条の背中に両手を回してそれに可愛らしく応じた。 ・・・・チュッと音をたてて再び近距離を保って見つめあう。 啓太を見て、たいていの人は鈍感に感じることもあるだろう 確かに、純粋な思考はそれを肯定しそうな時だってある でもそれは少し違う。 もしかしたら七条という存在に関する事だけは違うのかもしれない。 敏感にも七条という存在に反応し 無意識にも七条という存在を呼吸で肌で温もりで感じてしまうような 愛おしく、可愛い存在。 キスの余韻で頬を赤らめたまま啓太は、自分を優しい視線で見つめる七条に照れ臭そうに微笑む。 「どうしたんですか・・・・?七条さん・・・・」 「今すぐ食べたいなぁと・・・思ったんですよ。」 「食べ・・・・・?な・・・なにをですか?」 相手の発言が理解できず、顎に人差し指をあて首を何度も捻る。 答えをせがむように七条を上目遣いで見るが、七条はいつも通りの読めない笑顔で口を開こうとはしなかった。 「さぁ・・・早く寮へ行きましょうか。」 「え?あ・・・・もうそんな時間なんですか!?」 七条に続いて慌てて啓太は立ち上がると、窓から外に視線をやり、七条に向き直ると深く頭を下げて申し訳なさそうに眉をひそめた。そして慌てて帰り支度をはじめる。 「すみませんっ・・・・俺、長い時間ねむっていたみたいですね」 「迎えにきた時には眠っていたんですが、あまりにも気持ちよさそうだったので・・・・」 「わぁ・・・・・本当にすみませんっ」 「気にしないで下さい。まぁ・・・・・・お仕置きをしようかとも思いましたが、嬉しいこともありましたから」 「お仕置きぃ!?・・・・・どうしてですかぁっ!」 驚き戸惑う啓太を尻目に七条は人差し指を口にあてて「ナイショです。」と告げて身支度を整えた啓太の手を握って扉に向かった。啓太はバクバクしていた心臓も疑問も、手を繋いでもらった瞬間から意識の中から一掃されたようで、気恥ずかしそうに大人しく恋人について行く。 バタン 扉が閉じたと同時に出来る区切られた空間 そこを通るのは、ほとんど落ちかけの夕日だけ 「いつも」のような風景に変わった教室。 一方その頃、理事長室では セキュリティをより強化するための秘策を練ろうと ウンウン唸る理事長の姿が 壁にしっかりコントラストの効いた影として揺れ動いているのであった。 久しぶりにエチーのないSSとなりました(笑 啓太の寝顔って悩殺的だろうなぁ〜vvんで甘えるのは七条さんにだけv でもネボスケさんだから、気をつけないとね!七条さんにヤキモチ焼かせたら大変!大変! 啓太は全身できっと七条さんを感じてる。 だから微々たる変化にも気づけるような・・・・そんな運もいい啓太なのですvv 和希・・・・誕生日の月にこんなのUPしちゃってゴメンな(汗汗 偶然だったんですよ。本当に。 |