Animals
脅迫する材料は何だっていい。父上でも、あの女でも、ミッドガルドの民の命でも。唯一つだけ確かなことは、必ずあの男は来るということだ。兄上は誰よりも私を一番に愛している。初めて地下牢で言葉を交わした時から分かっていた。私のただ一人の兄弟はそれを承諾するという事を。誰からも姿を隠すようにして訪れた兄に牢の前で幻覚を見せた。独房の中で私と兄上が交わる姿を。その互いの姿だけは幻惑ではなく、実際にあった記憶から掘り起こしたものだった。
欲しい、と一度だけ兄に告げた。何も欲しがらぬ弟のたった一つの望みをかなえてくれと。そこで初めてあの男は私の嗜好に気付いた。柔らかい乳房ではなく、自分と同じ身体を持つものに欲情するのだと。私が自覚し、戸惑い、迷っているとそう思った愚かな兄は私の前で見事な裸体を見せてくれた。肩まで伸びたまばゆい黄金の髪がさらさらと夜風に流れ、深い海の底のような碧い瞳が私をじっと見た。私の下部の高まりとは対照的に兄のそこは反応のないままだった。初めて同性と交わる兄はどうすればいいか分からないようだった。寝台に腰掛けさせ、床に跪いた私は兄のそれを舐めた。柔らかくふにゃりとした肉棒は何度舐めしゃぶっても反応のないままだった。目を閉じて女の舌だと思えばいい。そう告げるとやっと少しずつ兄のものは反応を見せ始めた。丁寧に優しくそれを唇でしごき、硬く勃起した肉棒を指で押さえ、陰嚢の下にある尻たぶの狭間に隠されたものに口付けた。女の腰ほどもある太ももを左右に大きく開かせ、口淫を施している間、ずっとそこを観察していた。桃色のむっちりとした壁を持つ小さな入り口。嫌悪と戸惑いで兄の太ももの筋肉がぐっと硬くなる。だが兄は約束を反故にするような男ではなかった。恥ずかしい部分に触れる私の唇の感触にじっと耐え、秘所に挿入される舌を処刑される者のように青ざめた表情で受け入れた。兄の肉竿が柔らかくなるたびに指でしごき上げ、肉穴がむっちりと熟れるまで舌でずにゅずにゅと貫き続けた。
やがて兄の肌は触れる私にもはっきりと分かるほど発情で熱を持ち始めた。兄の逞しい肉竿からとろりと精が垂れ、柔らかくほぐれた肉穴は探り当てた悦い部分をこすり上げる度、ひくひくと卑らしく壁を震わせる。ずっと味わいたいと思っていた兄の女のように大きな尻に顔をうずめ、徐々に広げられていく肉穴を私はたっぷりと味わった。執拗な責めに兄は最後まで耐えようとした。だが過敏な身体と私から与えられる蜜のように甘い快楽は気高い心を濃霧のように覆い隠し、淫らな肉欲の味を兄に教えていった。
なにも怖がらないでくれ。兄の身体を寝台に押さえつけ、伸し掛かりながら私はそう告げた。兄の自尊心を傷つけることになるのは分かっていたが、心だけではなく身体も傷つけるのではないかと不安になっていた。だが同時に喜んでもいた。自分でも抑えきれぬほどの愛憎交じりの欲望を遂に解き放てる時が来たのだと。ほぐれたとはいえ、小さな穴だった。私は兄の顔を見ながら自分の肉竿を押し付け、少しずつ押し開いていった。強い痛みを感じるのだろう。唇を血が滲むほど噛み締めながら兄は酷く苦しそうな顔をした。だが一度も私を見なかった。こうやって愚かな願いを聞き入れるほど私を溺愛する男が私を一度も見つめはしなかった。いつもそうだ。私達の間には幸福の匂いがしない。近くて遠い。永遠に分かり合えぬものが確かに存在する。気付くと私は酷く強引に身体を推し進めていた。兄のかみ締めた唇からうめき声が漏れた。通じ合えなくても手に入れればいい。そう思うと残酷な心が私を支配した。陵辱としか思えぬ激しさで私は兄の身体を奪った。
その夜、何度も兄は私を受け入れた。肉穴は傷つき、太ももには流れた血がこびりついた。最後は穴を締めることが出来ぬほど大量の子種を注がれて兄は気絶した。気を失った兄の身体に覆いかぶさり、目を閉じた。押し付けた耳に兄の鼓動を感じた。澱んだ闇が私を飲み込んでいくのを感じながら、夜が明けるまで温かな身体を抱き締め続けた。
当時の私達の姿を目にした兄は嫌悪と共に眼をそらした。だが最後まで見るように命じると視線を戻し、互いが交わる姿をじっと見つめ続けた。あの時、私はすべてが終わったと思っていた。だが、そうではなかった。兄に種を受え付けたのだ。知ってしまった暗い喜びを眼前の男は捨て去ることが出来なかった。まるであの夜のように、白く艶かしい肌が徐々に上気し、花のように色づいていくのを私は喜びと共に見つめていた。すべてを見せた後、障壁越しに顔を近づけさせた。また会いに来い。それは願いではなく強制だった。アンタの大事なものを守りたければ来るんだ。そう囁き、壁越しに口付けた。
いずれ私は王の玉座を手に入れる。その時、私の側にいるのはこの男だ。何も感じなくなるほど兄を痛めつけて壊せばいい。もう誰も想うことのない、壊れた兄を抱いて永劫ともいえる栄華を手に入れる。それが私に残された唯一の望みだった。