真珠で覆われた大ぶりな翠玉(エメラルド)、その下に飾られた円錐状の三粒の蒼玉(サファイア)。昨日贈られた留め金を手のひらに載せ、それを眺める。



"薄い空の色だ"
いつも弟は俺の瞳を褒める時にそう例えていた。その色に酷似した青い色の宝玉。まるで雨粒のようだった。
緑は恋煩いを、青は貞節を表すという。この二色を身につけろというのは、些か傲慢じゃないか。部屋を訪れたファンドラルが皮肉気に呟いていたことを思い出す。旧知の友は俺が自由を焦がれる身であることを知っている。

誰しもが王に愛される伴侶だと俺を褒めそやす。いつの頃からか、自分に抱き着くロキの肌が奇妙に熱くなることには気付いていた。瞳はなによりも雄弁で、宝石のように輝く美しい灰緑の瞳は一途な想いを示していた。初めて結ばれた日、痛みと正体の知れぬ喪失感が自分を襲った。何度も何度も抱かれるうちに、とろりと中の肉が熟していき、俺は弟の望むままに淫らな声をあげるようになっていた。今では数日抱かれないだけで身体が寡婦のように疼いてしまう。誰よりも敵を屠ることに快楽を覚える自分が、寝台の上で足を開き、ロキの欲望のままに肉尻を責められる。征服された身体は肉悦で常に熱く震え、事後の萎えた肉茎もあさましく身の内にとどめようとむっちりとした尻たぶではさみこんでしまう。そうして自ら腰を振り、夫の萎えた肉根を淫肉でしごき、ふたたび勃起した逞しい肉竿に最奥までにゅぼにゅぼと犯される。ぶぽんっ、と子種をまき散らしながら引き抜かれる頃にはすっかり肉ひだが交尾でむんむんに熟れ、まだ種付けしてもらおうと浅ましく年輪状のひだをひくひくとひくつかせる。

"誰よりも強く、美しく、淫らな妻を私は手に入れたんだ――"
幾筋も植え付けられた種を穴から垂らしながら、肉尻を震わせる俺をいつもそう弟は褒めたたえた。行為の終わりには必ず長い口づけが待っていた。散々に抱かれ尽くされた火照る身体をねっとりと撫でさすられながら、唇の中までたっぷりと犯される。
妻として日々、熟れていく身体はもう自分では止めようのないものだった。恥ずかしいほど大きな肉尻の中に、夫の植え付けた種を残したまま公務に勤しむ事も、政務の合間を縫って自分の元を訪れたロキに、短い時間を使って激しく愛されることもままあることだった。様々な宝石、絹織物や壁掛け、毛皮や銀の器。日々伴侶からの贈り物が増えていく。皮肉と悪戯を好む気質の陰に、昔と寸部違わぬ繊細で柔らかな心が弟には隠されていた。民を想う気持ちも、自分への想いもそれは本心なのだろう。誰に指摘されずとも、日々愛されていることを感じていた。そうして徐々に傾いていく自らの想いも――。
奇妙に疼く胸も、抱かれて酷く悦ぶ身体も、すべてが幻だと思いたかった。自分の心はいつまでも戦場にあると、そう信じていたかった。抱き合うと感じる充足感は、渇いた土に染み込む水のように、自分の心を満たしていく。離れがたいのだとは思いたくはなかった。そう思えば、そしてそれが夫であるロキに知られてしまえば、もう二度と真の自由は得難いものになってしまう気がしていた。



深紅の外套を纏い、贈られた留め金を右肩につける。野葡萄とすみれの花で作られた香油は弟の好むものだった。陽光に輝く黄金の髪を香油を垂らした侍女の華奢な手がゆっくりと整えていく。
瑞々しい花の香をまき散らしながら、今夜も女のように大きな肉尻をぶるぶると激しく揺らし、ロキに抱かれてしまうのだろう。愛を囁かれながら、最奥まで執拗に貫かれ、身も心も惚けていく。王の種をみだらにあえぎながら受け止め、とろけきった顔でしぶきのようにむっちりとした肉の輪から植え付けられた子種を漏らし続けてしまうのだろう。

自由を失う代わりに獲るものはなにか。
それをずっと考え続けてきた。カルタゴの愛欲の釜のように、自分は欲情に翻弄されているだけではないか。戦士としての自分、王になる資格があった第一王子としての自分。それが酷く遠い過去のように思えてしまう。

政務の時間が迫り、自室を後にする。
贈り物を身に着ける自分の姿に、弟は目を細めるだろう。勝鬨の声、蹄の音、盾を構える鈍い短音、ぶつかり合う衝突音、数多の雄たけびを思い出す。
早くまた戦場に足を踏み入れたかった。汚泥と血にまみれた姿こそが、本来の自分だと信じたかった。