蟻傅 (ギフ)


「結局今日の収穫はまずい韓国料理だけか」
 そう悪態をつく俺にチェンが笑い声をあげる。
「妹はいい店だったといっていたぞ。お前がアジア料理に慣れてないだけだろう」
「せっかく出所できたんだ。キムチが載ったピザでもいい。俺はそれが食いたかった」
「なら今度はそういう店に連れて行こう」
 今夜は死んだレイエスの取引相手の方が一枚上手だった。完全に裏をかかれた俺はバレットが用意したホテルに戻り、合流した親友と今後どうすべきかを話し合っていた。

「香港の三つの口座に売り抜きされた7400万ドルは流れた。それがブラックハット(悪質なハッカー)に繋がる鍵だ」
「なら明日朝一番に中国へってことか」
「ああ。だがお前の存在は向こうにバレている。妹と共に向かってくれ。俺は別々に向かう」
 あてがわれた自室での話し合いは済んだものの、チェンは部屋に戻らないままだった。ビールでも飲むか、そう尋ねると言葉少なに頷く。懐かしい感覚だった。MIT時代のルームメイト。毎日のように寮内では馬鹿騒ぎがあり、控えめな留学生を俺は頻繁に誘い出していた。



『ハサウェイ、違うんだ』




 いつそれに気づいたのだろう。部屋に招いた売春婦を奴が拒否した時か、シャワーを浴びた自分に纏わりつく視線があるように感じた時か。予兆はあった。だが自分の下着が相手のデイパックから見つかるまで、俺は無自覚なままだった。ルームメイトであり大事な親友はまるでゲイフォビアに痛めつけられた者のように怯えた目で俺を見た。落ち着け、と、そう声をかける頃には声を漏らさずに泣き始めていた。俺は別に嫌ってなんかいない。そう何度も語り掛けた。そうして塩辛い味のキスをされた。大事な親友を傷つけたくはなくて俺は受け入れた。アジア人のファックが皆そうなのか。チェンは酷く丁寧だった。強い痛みはあったが決して悪いものではなかった。奴は多分お互いの関係をもう少し確かめたかったんだろう。だが俺はその数日後にバーで男を殴り、傷害罪でノーフォーク刑務所に入所した。チェンの望む機会は与えられないままだった。

「お前が22歳で出所した時に俺が送ったメールを覚えてるか」
「ああ。シリコンバレーで仕事がないならこっちへ来い、だろ。お前なりのジョークってやつだ」
「ははっ。冗談が半分と本気が半分だ。お前はそれに気づいて俺の提案には乗ってこなかった」
「……」
 気まずい会話に顎をかく。パク・チハムで食べたやたらと辛い料理のせいでまだ胃の辺りが熱かった。数年越しの想いを奴は昇華させようとしているのだろう。妹のリエンに惹かれ始めていることをチェンに伝えればこの会話を終わらせることは出来る。だが同時に浮かぶのはルームメイト時代に見た奴の涙だった。こうして仮初とはいえ出所できたのも中国軍の高官であるチェンの尽力があってこそだった。自分をいまだ大切に想う友を傷つけることは出来なかった。

「会いたかった」
 刑務所の門扉で会った時に告げられた言葉を再度チェンが呟く。手にしていた瓶のビールを一息に呷る。乱暴に立ち上がると奴に背を向けて身に着けたシャツを脱ぐ。チェンが背後から自分を眺めていることは分かっていた。分かっていて俺はチノパンごと自分の下着をずり下した。





「それはいいッ…」
「でも慣らさないとお前が辛いんだ」
 端正な美貌が何度も俺の肉尻に顔をうずめ、にちゅにちゅと水音を立てながら尻穴を舐める。こんなにデカい男を犯すことの何が楽しいのか。だがチェンは酷く嬉しそうだった。独房のそれとは比べ物にならない程、寝心地のいいベッドの上。正常位の体勢で両足を大きく開いた俺は肉厚な穴ひだをしごく舌の感触にびくびくと震え、柔らかな手が自分のペニスをさする感触に、まるでバケツに水が溜められていくように、ねっとりとした快楽が体内で増していくのを感じていた。
「刑務所での生活はどうだったんだ」
「うっ…くっ!なにが…だっ…」
「初めから欲しいものが周りにあった訳じゃないんだろう?どうやって調達したんだ…?」
「持ち手がいかにもあるように見せかけてカード遊びでもやればすぐさ…あっ!ああッ…」
 数年ぶりに味わう肛虐は相変わらず強烈な肉の味を俺にもたらした。中のびらびらとした肉ひだはどれもすべて過敏でそのぷるぷるとした突起状のひだをチェンの舌が柔らかく舐めていく。そうしてぶりゅぶりゅと桃色のひだを何度も犯されて、中が熱く濡れてとろけて、女のアソコみたいに自分の肉穴が変じていくのを止められなくなっていた。
「バージンみたいにここは硬いままだな…あながち嘘じゃないらしい」
「こんなデカい男、誰が抱きたいなんて思うんだ…っ…」
「ブロンドで女みたいに大きな胸と尻があって真っ白な肌で…お前が襲われなかったのはその恵まれた体躯のお陰さ」
 ルームメイト時代に経験したチェンのファックは丁寧だった。だが容赦はなかった。初めて抱かれた夜、俺は感じると叫ぶまでひだをこすられるのを止めてはもらえなかった。一番よがってしまうひだ奥に大きくはないものの硬く反り返り、立派な肉エラを持つ亀頭をぶるっ…と押しあてられ、俺がちゃんとそこでイケるようになるまでぷるぷるとした肉突起を激しくこすられ続け、肛虐で射精し、とろとろになった身体を熱情を持ったチェンに激しく貪られた。

「あっ!チェンッ…あっ!ああっ…」
 久方ぶりに味わう、あまりの快楽に足指がびくびくと縮こまってしまう。もうそろそろいいか。そう冷静な声音のままぼそりと呟かれ、ハーフパンツをずらした陰部から勃起した奴のペニスが現れる。
「ハサウェイ、お互い明日のフライトに支障があれば困るんだ。だからするのは一度だけだ」
 にちゅっ…と舌技でとろけた桃色の穴ひだを指で広げられながらそう告げられ、執拗な前戯による混乱と淫らな肉悦の中で何度も頷く。
「お前を覚えていたい。だからもし酷くしても許してくれ…」
 むにっ…と硬く勃起した亀頭で自分の肉穴が広げられていく。
「んっ!ぐッッ…!」
 侵入した肉棒に柔らかなひだをかきわけられる感触にぞわぞわと自分の身体が総毛立つ。快楽とも嫌悪ともつかない異様な状況のまま、自分に伸し掛かる男が強く腰を振り、食まれる獣の声をあげながら肉尻の奥まで犯される。
「あっ…ぐううッッ…!!」
 細身のチェンに伸し掛かられた姿のまま、びくん、びくんっ、と自らの射精で身体がみっともなく揺れ動く。発情することがあっても、刑務所の中では時折自慰で済ませるだけだった。本物のファックは安っぽい慰めとは比べるべくもなく強烈で、ぬっぽりと肉穴を奴の勃起したペニスに串刺しにされた姿のまま、女のようにかすれた甘い声を漏らし、何度も潤んだ瞳を瞬かせてしまう。

「ハサウェイ……」
 リエンとよく似た柔らかな面差しが間近に迫り、ねっとりと唇を奪われる。そのまま激しく肉竿を出し入れされ、耳をふさぎたくなるほどの甘い雌声をゆるく開いた唇の間から頻繁に漏らしながら、女のように大きな白い肉尻を技巧に長けた肉棒がずにゅずにゅと執拗に暴き立てる。
「あっ!ぐっ!チェンッ!チェンッッ…!!」
 自分の肉厚な肉の輪がくぱっ…と凌辱する男の男根の形に開き、熱くぬめる肉竿がにゅるにゅるにちゅにちゅと中のひだひだをこすり続ける。
「あっ!あッ!あっ!ああっ…!」
 声を出したくはなかった。だが大きな肉尻を硬く反り返った肉棒で上からずん!と突かれ、穴奥のひだを支配するかのようにぐりぐりとこす
られると甘い肉悦に侵されたまま頭に靄がかかり、何も考えられなくなってしまう。すがりついた奴のシャツから汗の臭いがほのかに漂い、雄と化した親友に雌として身体を犯される事実に背徳的な快楽でぞくぞくと震えてしまう。

「んぐんっ!!」
 跡が残るほど強く両の足首を掴まれ、持ち上げられ、黒々とした瞳が自分をじっと見つめながらひだ奥を亀頭で強くこすりあげられる。
「ああッッ…!」
 ぶるぶると自分のペニスが揺れ、二度目の射精が腹を濡らす。じっと相手を見返したまま、何度も、何度も、むちむちとしたひだ奥をすりあげられ、雌声を漏らしながら穴の奥の奥まで拡張され、次第に屈服した雌としての媚が自分の表情に混ざっていく。

「ふふっ…奥を突くたびにお前の勃起したペニスが腹で揺れて…いい眺めだ…」
「あっ!あぐっ…ッッ!!」
 容赦のない強さでずりっ…!と穴奥を犯される。
「心地いい湯に浸かってる気分だよ、ハサウェイ…むちむちとした肉がペニスに熱く絡みついて…ずっとこの中のひだをかき回していたくなる…」
「あっ!あうっ!あううッ!」
 宣言どおり熟れた穴中がかきまわされ、硬い肉茎に年輪状のびらびらをぬちゅぬちゅにしごかれ、はめられる刺激でより肉悦で顔にはしたない笑みが浮かんでしまう。
「三度目がある事をどうか願わせてくれ…」
「んぐっ!んうッ…!んう!」
 容赦のない責めが始まり、語られる言葉の哀切に気をやる余裕がなくなっていく。親友の名を呼ぶとしっとりとした唇が重なり、唾で乾いた口腔を潤される。身体のすべてが男の中出しを望みはじめ、ぶるぶる、ぶるぶる、とみっともないほど大ぶりな肉尻を震わせながら肉棒ではめ穴を躾けられ、ベッドのスプリングが交尾の激しさでぎしぎしとそのばねを軋ませる。
「あっ!あっ!あッッ……!」
 ずりゅっ!とひと際強くひだ奥を亀頭でこすられ、屈服した雌顔のまま、びゅるっ!とみっともなく自分の竿から射精してしまう。短い呻き声をチェンが漏らし、身体の負担を考慮し抜こうとする肉棒をにちっ…と自らの意志で締め付ける。

「これが最後かもしれないだろ?ならたっぷりいけよ…」
 懐かしい友の顔でチェンが微笑む。直後に注がれ始めた熱い精液の淫らな感触に俺はただひたすら溺れ、アメリカでの最後の夜を親友の腕の中で過ごすのだった。