adorable
「すげえ美味えなコレッ!イグニス天才だな…ッ」
メルダシオ協会本部にあるポタートルの屋台で会得した"ハンターのワイルド串焼き"
軽くマリネした後にリードペッパーとガーリックで下味をつけ、ミディアムレアに焼いたカドプレパスの肉とローストしたワイルドオニオン、有機栽培農家直送のコーンが織りなす3重奏に感極まった顔でグラディオが叫ぶ。
「ほんとすげーうめえ…っ」
「うんうん!」
後の二人からも声が飛び、相変わらず偏食家のノクトがプロンプトに挟んだ野菜を押し付けるのを叱りながらグラディオの方をちらりと窺う。
「ちょうど腹減ってたんだよ…海岸で冷やしたビールもあるし、今日は最高だなッ…!!」
脳筋以外の何ものでもない台詞が幼馴染兼、片思いの相手の口から飛び出る。やはり俺のグラディオは今日も可愛い。HP1000に対して多分MPは10位しかないがそれでも可愛い。節制するプロンプトと違い、ノクトやグラディオは何を食べさせても太ることはなかった。こちらが思わず眉を顰めるようなジャンクフードをたらふく食べても、よほど燃費がいいのか余分な贅肉がつく事はなく、二人とも恵まれた体質の持ち主だった。
「なあ、あと二本食べていいか…?」
嬉しそうにきらきらと琥珀の瞳を輝かせながらグラディオが聞いてくる。食べていいか、と聞かれてももう既に相手の手にはじゅうじゅうと湯気を立てた二本の串焼きがある。しかも一本は俺の夕飯だ。しかし愛してやまない相手には逆らえない。いいぞ、と許可すると嬉しそうに礼をいい、一本にかじりつき、またもう一本にかじりつく動作を繰り返す。しかもニコニコとした笑顔つきで。
「……ッ」
"プロンプト、今だ…ッ!"
心の中で指示するものの、ノクトに押し付けられたワイルドオニオンを更に押し付けあう不毛な争いに突入した旅のカメラマンには届く筈もなく、若干しょんぼりとした気持ちでもぐもぐと食べるグラディオを見つめ続ける。
確かにグラディオは太らない。だがある日、別の部分に肉がついているのを俺は発見してしまっていた。たまたまホテルで同室になった翌日、隣のベッドでタンクトップと短パン姿で眠るグラディオは明らかに以前よりも身体の厚みが増し、特に胸と尻ははちきれんばかりの大きさに成長していた。あの時、目覚めないグラディオに感謝しながら、かなりの長時間、目測でバストとヒップサイズをはかり、調理メモの端に"すごくおおきい"という言葉とともにそのサイズを記載したことを思い出す。途中寝返りを打ったことで横向きになり、その姿勢から見えるむちむちとした豊満な肉尻の威力は言葉に出来ないほどで、その隙間にぱふっ…と顔を埋めたい気持ちとひたすら戦い続けた早朝だった。
このまま美味しいものを、勿論ノクトの好みを一番重点に置いて――作り続けていけば、グラディオは相当自分好みの身体になってしまう気がしていた。もう想い始めて相当な年月が経つのに、いまだ告白する勇気のない自身にとって、想い人の外見を自分好みに変えていくという行為は、何かとても淫靡に感じられるものだった。
「あっ…」
スチール製のハイバックチェアに座り、グラディオに借りた「知識の沈黙」第三巻を読みながら手にしたコーヒーを口に含むと隣からバツの悪そうな声が聞こえてくる。
「イグニス、もしかして俺が食っちまったやつ…」
「気にするな。昼食の残りのサンドウィッチを後で食べるつもりだ」
「わりいっ…!あんまり美味過ぎてついつい食いすぎちまって…ッ」
柏手で懸命に謝るグラディオも言わずもがなの可愛さだった。そのむちむちした身体が更に栄養でむちむちして、しかもいつか自分の上でむちむちしてくれればいい。怪しい日本語と化した思いを心の中で呟きながら、菩薩顔で対応する自分に"お前いい奴だな"と言わんばかりにグラディオの瞳が感激で潤んでいく。
「本当にでもイグニスのメシは世界一うめーよ…!なっ、ノクト!プロンプト!」
餌を待つ雛のような3人にうんうんと頷かれ、自分の中のママ値が確実に上がっていく。これからも研究に研究を重ね、美味な食事を育ちざかり(?)の3人に提供しなければ――。そう決意を新たにしてしまう。
「へへっ…」
少年のように鼻をこすり、満面の笑みでグラディオが自分を見つめる。
こんなにいかつい外見をしているのに、心を許した者には素直で強い愛情と愛嬌がある男。しかも野性味のあるハンサムで、身体は極上で――。好きになるな、という方が無理だった。
「美味かったか、グラディオ」
「おうっ!今日も最高のメシだったぜ。イグニス」
料理人として、長い恋煩いを抱える者として、こんなに嬉しい言葉はなかった。
「そうか」
ほほ笑むと、グラディオの琥珀の瞳が僅かに見開き、気まずげに顔が反らされる。自分の視界に映る、微かに上気する頬とうなじは何を意味するのか。愚かな期待をしそうになる自身を律するため、俺はわざとらしく咳払いし、隣の大男はこちらをちらりと窺いながら2本目のビールのプルタブを音を立てて開けるのだった。