Closer 



目覚めとともにベッドの上からナイトテーブルに置いたサングラスを探す。失明する前からの癖で、就寝時以外は常に眼鏡をかけていないと落ち着かなかった。今日は少し肌寒い。カラエの丘で雪が降ってきたと昨日グラディオは話していた。今日も同じような天気になるのだろうか。すぐ側で眠る男に近付き、その額に口づける。昨日の夜もたっぷりと、自分のものを含ませることでグラディオは甘い声を上げ続けた。度重なる情事ですっかり恋人の肉穴は淫らな膣口と化し、亀頭を含ませるだけでびゅくびゅくと放尿のように射精を繰り返すようになっていた。本人に自覚はないのだろうが、すぐにグラディオは自分の想いを口にする。献身的な世話を続けながら、自分の性欲を処理する為に床に跪き、充血した血管の浮かぶ竿を舌でねぶりながら、"愛してる"、と呆気なく口にしてしまう。何よりも愛しい者にそう告白されて、我慢出来る男などいるのだろうか。結果、部屋の様々な場所で容赦なくグラディオは犯され、女のように大きく弾力のある尻は常に俺の肉棒か、中出しされた精液をたぷたぷと淫らに溜め込むようになっていた。

「ん…、さみーな。今日は」
「そうだな」
口づけられる感触で目覚めたのか、欠伸とともに恋人が言葉を漏らす。指の腹で相手の伸び始めた髭をなぞると、その指先に温かい唇が押し付けられる。従順な仕草に思わず口元を綻ばせてしまう。自分の中のグラディオの姿は10年前で止まったままだった。だが抱かれる声と仕草で、年齢相応の外見に艶めく色が加味されたことを容易に想像が出来た。毎朝、自分のものだと思いながら恋人の様々な箇所に口づける。本人が口にすることは決してないが、その凛々しくも華やかな容姿でいまだに周囲の耳目を集めているのは間違いなかった。同性からも、異性からも、誘いはあるだろう。だがグラディオは必ずここに戻ってくる。自分と暮らす場所に。甲斐甲斐しく献身を続け、そうして"女"のように抱かれるために。

「今朝は何が食べたい」
「んー…。お前のメシはなんでも美味いからな…何でもいいぞ」
「それじゃ困る」
「ならガレット。ハムとチーズののった」
「分かった」
了承しながら相手の太い首に唇を押し付ける。
「…ッ…」
肉厚な唇から漏れる吐息は甘く、官能に満ちていた。彫刻のような見事な胸筋を指でなぞり、ブランケットの中に隠された恥部にたどり着く。硬い陰毛と柔らかな男根を撫で下ろし、その奥にある男を知る肉穴を指の腹でこねると肉棒が欲しいのか、両の尻たぶをグラディオがぎゅっ…と摺り寄せる。
「あッ…」
悩まし気な声をあげながら、雄を受け入れる部分を悪戯された恋人が身悶える。欲しがりな肉ひだがひくひくと蠢く中に指を入れることはせず、肉厚な入口の桃色の肉の輪だけを皺をなぞるようにしてこすり続ける。
「んっ…朝食っ…作るんじゃねえのかよ…ッ…」
勃起し始めた乳頭を口を含むとすぐに舌に刺さるほど硬くなる。そのまま音を立てて吸うと、搾乳される刺激ではしたないよがり声が次々とグラディオの口から溢れ出る。
「あッ…あっ…今日は朝からタルコット達とシガイの駆除に行くんだぞッ…ゆっくりしてらんねえだろ…っ」
それでもかまわず仄かに乳の味のする乳頭をねぶり続けると、窘めるようにまだ手入れしていない長い前髪を軽く叩かれる。
「なっ…イグニス、帰ったら好きなだけ抱かせてやるから…お前の好きな体位で一晩中…俺のこと滅茶苦茶にしていから…」
恋人の言葉に嘘はなかった。自分の性欲が満たされるまで、いつもグラディオは激しく犯され続けた。光のない瞳でも、自身の勃起した肉棒の形にぐっぽりと開いた肉穴と、雄を欲してひくつく中の桃色の肉ひだを知覚することは出来た。ねっとりと相手の敏感なひだひだに満遍なく種付け済みの精子がどろりとしみていく様子も。
"すげーたっぷり出たな…"
そうして受精させられたばかりで息も整わないまま、褒めるように恋人が声をかけ、自分の萎えたペニスに残る精液を舌で舐めとるのも常の光景だった。あのはしたないほど大きくむちむちとした褐色の肉尻の隙間にあるむちっ…と熟れた桃色の肉厚な肉穴から、種付け済みの白濁とした汁をびゅくっ…、びゅくんっ…と垂らしながら、自分を犯した雄に奉仕するグラディオの姿は、それを目にすることが出来なくとも――新たな情欲と言葉に出来ない程の愛おしさを感じさせるものだった。

「……」
名残惜し気に乳の味がする乳頭から唇を離すと、なだめるように温かく大きな体躯に抱きすくめられる。そのまま無言で口づけを交わした後、身体を起こし、冷えた床に足を下ろす。ソファに置いていた下着やボトムを拾いあげ、身に着ける。杖なしの歩行も、介添えのない着替えも、キッチンでの調理ももう随分慣れたものになっていた。視力がない分、聴覚が鋭くなったのか。まるで王子に付き添う執事時代の自分のように、うろうろと後ろからグラディオがついてくるのが分かってしまう。
「子供じゃないんだ。そこまで心配するな」
「…ああ」
少しむくれたような返事が聞こえ、思わず柔らかな笑みを湛えてしまう。愛され、甘やかされ、気遣われる。まるで恋人との生活は甘い毒のようだった。そうされればそうされるほど、相手がもっと欲しくなる。魅惑的な肢体も、勇気に満ちた精悍な面立ちも、最中に漏らす艶めいた声も、温かな心も、すべてが自分のもので、誰にも渡したくないと思ってしまう。

「ほら、これでも着とけ」
ガレットの焼き色を良くするために蜂蜜の瓶を探す自分の肩にシャツがかけられる。
「今日はさみーんだ。こんな薄い身体じゃすぐ風邪ひいちまうだろ」
「まったく、お前は…」
心配するなと言った矢先に甲斐甲斐しく世話をするグラディオに苦い笑みを漏らしてしまう。恋人の温かな声、吐息、柑橘類の果皮にも似た体臭。間近でそれを感じ、今すぐにでもあの肉付きのいい尻に伸し掛かりたくなる欲望を抑えながら礼を告げ、キッチンでともに朝食を作り始める。

「タルコットもプロンプトもシドニーも…皆ひでえ状況なのに良く頑張ってるよな」
「そうだな」
「俺らも頑張って、ノクトをちゃんと迎えてやらなきゃな」
「ああ…」
薄くバターをひいたフライパンの上でガレット生地に気泡が浮かぶ音が聞こえてくる。切った具材を乗せ、完成まで待つ自分の手にこつりと陶磁の皿がのせられる。頬に柔らかな口づけも落とされ、鼻歌とともにテーブルの上にカトラリーを置く音が響く。

駆除が済めばハンマーヘッドのダイナーに集った仲間達といつものように夕食を摂ることになるだろう。タッカと自分が調理を担当し、豊富とは言い難い食材事情で、それでも精一杯の暖かな食事を皆に供するだろう。互いに苦労を労い、明日への希望を僅かばかりでも携え別れを告げる。そうしてここに戻り、何よりも愛しいものと愛し合う。互いの命は最後のルシス王であるノクトのものだった。王の為に生き、王の為に死ぬ。そのことに悔いはなかった。ただ残された時間を大事にしたかった。

「イグニス、やっぱり雪降ってきたぞ」
まるではしゃぐ子供のように、ガレットを載せた皿を自分から奪うと空いた手を掴み、窓際に連れていく。
「ほら」
古い閂式の窓が開かれ、冷やりとした空気が肌に触れる。その寒気(かんき)の先に指を伸ばすと淡く溶ける雪の粒が手のひらに落ちてくる。
「ああ、本当だな…」
微かな微笑みが頬に浮かぶ。小さな幸せだがそれで十分だった。