遠い音楽 


イグニスが視力を失ったばかりの頃、奴が憐れで仕方がなかった。だから出来るだけ力になろうと支え続けた。ノクトを失い、常夜となった土地で仲間や難民を支援しながら、二人だけの共同生活を続け、献身的に奉仕を続けてきた。いつから歪んでしまったのかは分からない。共にベッドで寝ることを提案された時か、シャワーの際に介添えが欲しいと望まれた時か。
綺麗な指だった。失明しても手入れは欠かさなかったのだろう。スクエア型に整えられた爪を持つ指先が静かに俺の頬に触れて、白く細い指がそのまま首筋を撫でた。その後に赤子のように自分の胸に吸い付く男を知覚しても、初めは何が起こっているのか分からなかった。特定の相手はいないものの、俺と同じように、イグニスにも断続的に女の影はあった筈だった。眠っている間にはぎ取られたのか、まるで襲われた女のように、自分の衣服が床に散乱しているのが目に入る。腰を引き寄せられ、肉付きの良い尻を揉みこまれ、初めてそこで奴の欲望に気付かされる。
拒否するべきだった。だが自分が拒めば、永遠に相手が壊れてしまいそうで。嫌悪で唇を噛みしめながら、全身を這う手と胸を吸い続ける唇に耐える。そのうち酷く硬く、熱いものが俺の太ももにすりつけられた。そうして両の太ももの閉じられた狭間に押し込まれ、ずりずりと抜き差しを繰り返された。屈辱と嫌悪で噛みしめすぎた唇からは鉄錆びた味がした。やがて微かな吐息と共に何かが俺の股を汚し、萎えた肉の塊がずるりと抜き取られていった。散々に嬲られた胸の先端は赤く腫れ、じんじんとした痛みを残す。自分の尻たぶにもついた、男の欲望の名残が気持ち悪くて仕方がなかった。
"すまない"
そう一言、イグニスの口から言葉が漏れる。ただの気の迷いだと、一度きりのことだと、盲目の男に身体を拭われながらそう俺は結論づけた。次に過ごす夜に全てを奪われるのだと気付きもしないで。


拒絶できない俺は子供よりも無力で非力だった。自分を貫いた男のペニスにも碌に抗えず、ただ嫌悪の嗚咽を漏らしそうになるだけだった。後ろから抱き着かれた姿でベッドの上で何度も腰を動かされ、はじめて男を含まされる穴が痛くて熱くて仕方がなかった。
"グラディオ…"
声をかけられると同時に重量のある肉尻の中で射精が始まり、俺は無意識に嫌悪と怯えの混じる声をあげた。それが奴を興奮させたのか、更にぶくりと肉ひだの中の竿が膨張し、一層俺の身体を苦しめた。腹に貯まっていく湯のように熱い子種の感触を、びくびくと震えながら味わい続け、最後の一滴まで執拗に中に注がれ、ずるりと萎えた男根が抜けていく。
"これで俺のものだ…"
ぶびゅっ、ぶびゅっ、と犯されたペニスの形に開いた肉穴から種付け済みの精液をはしたなく漏らす俺の背後で、宣言する声が耳に届く。親友だと信じ続けてきた男に、女のように抱かれてしまった自分が惨めで仕方がなかった。ただ奴を助けたい。その一心で支えてきただけだった。それがどこで道を違えてしまったのか――。
受精の余韻でびくびくと震える俺の背をイグニスのすべらかな手が撫で、肌に浮かぶ汗を柔らかな舌が舐めとっていく。横向きだった身体をうつ伏せにさせられ、自分の肉付きの良い尻にぐっ、と再度勃起した男のペニスが押し当てられる。所有した証としての二度目の挿入。中出しされたことで一度目よりもぬめりでスムーズになった肉ひだから、ぐちゅぐちゅと挿入を悦ぶような恥ずかしいハメ音が間断なく聞こえ始める。これからは奴の性欲処理もすべて自分がさせられるのかもしれなかった。盲目の男に仕え、様々な場所で跪き、男の勃起したものをくわえ奉仕する。肉穴もいつでも受精穴として使われ、直腸に容赦なく精液を注がれ、はしたないほど大きな肉尻は竿をしごく為だけの肉具とさせられるのかもしれなかった。

痛みと混乱でぐちゃぐちゃになった頭のまま、イグニスに伸し掛かられ、何度も何度も肉尻を貫かれる。どうして手酷く犯されても、相手を守りたい気持ちは消えずにあるのか。闇の中にある一条の光を探すように必死でそれを考える。今もまだきっと、奴は優しく、思慮深い男のままの筈だ。そう愚かにも結論付ける俺の中で、無情にも二度目の中出しが始まっていく。肉尻の穴の奥の奥まで親友に支配され、肉ひだにびちゅびちゅと激しく種をつけられながら、それでも尚、甘い期待はよすがの様に残り、俺に僅かな希望を与え続けるのだった。