ロキ再び 



「ここは…?」

 目覚めるとそこはトライキャリア内ではなく、アスガルドの王宮によく似た神殿だった。
 寝台に寝かされていた自分の体はいまだウィドウのままで、だが黒いラバースーツは脱がされ、養母が纏っていたような豪奢なドレスに変えられていた。

「目覚めたのか、兄上」
「ロキッ…!!」
 ヨトゥンヘイムから父が連れ帰った氷の巨人の子供――弟のロキが冷たい眼差しで私を見つめる。
「ここはどこだ?まさかモードックにマインドストーンを渡したのは…!」
「ふん!よしてくれ。この私があんな小賢しい悪党と手を組むとでも思ったのか?」
 鋭い二本角の兜に深緑のマント、黄金の甲冑に身を包んだ禍々しい邪神が大仰に肩をすくめる。

「ここは私の城さ。王になるまでの仮の住まいだがな」
 仲間たちと二手に分かれ、モードックの本体を探している最中だった。そこをトライキャリアと同化した奴に攻撃され、意識を失い――こうして宿敵である弟の手に囚われてしまっていた。

「あんな奴に敗北を喫した兄上を憐れに思ってね。こうして助けてやったのさ」
「他の仲間たちは…?」
「さあな。だがそう簡単にあいつ等が倒されるとも思えない。今もトライキャリア内で戦闘を続けているんじゃないか」
「ならば早くみなを助けなくてはッ…くっ!」
 腕を強く掴まれ、思わず声を漏らしてしまう。
「ロキ、今の私は私ではない。ウィドウの身体なんだ。乱暴に扱わないでくれ…」
「ふふっ。弱弱しい兄上というのもいいものだな。そんな姿になってまで器の主を案じる所も実に兄上らしい…」

 心なしか、弟との距離が近くなる。革ひもで出来た寝台のばねが軋み、自分よりも大きな影がゆったりと伸し掛かる。
「アスガルド一(いち)、美しく着飾らせてやったんだ。もう少し堪能してもいいだろう?」
 何を、という言葉を発する前にドレスの裾から冷たい手が滑り込み、すらりとした長く細い脚を撫でられる。
「ロキ!悪戯はよせっっ」
「オーディンの息子、いや、今は娘か?ムジョルニアも持てなくなった兄上を私が養ってやってもいい」
「ロキっ…!」
「このロキが、一番の強者だと常に褒めたたえるんだ。そうして閨ではさっきと同じように"乱暴に扱うな"と懇願してみろ…」
 形のいい、小ぶりな胸に手を伸ばされる。まだこれが自分の身体ならば我慢ができる。だがこれは大事な仲間であるナターシャの身体だった。弟の狼藉を許す訳にはいかなかった。

「ムジョルニアッ…!」
 どんな姿でも自分はオーディンの息子である筈だ。そう思い、天に手を伸ばし、神器の名を呼ぶ。だが肝心のハンマーは現れず、愉快そうに笑う弟の手によって、ドレスが少しずつはぎ取られる。

「やめろっ!やめてくれっ…!!」
 女の力で必死にロキの胸板に手を充て、押しとどめる。艶のある長い漆黒の髪が天蓋のように自分を覆い、濡れた何かに唇を奪われる。ナターシャの姿で弟に口づけられたことに衝撃を受け、泣くつもりはないのに熱い涙が溢れてしまう。
「驚いたな…誰よりも傲慢な兄上が唇を奪われたくらいで涙を流すなんて…」
 自分の身体を覆っていた最後の一枚が取り払われ、一糸纏わぬ姿で弟に拘束される。
「ロキ、聞いてくれ…きっとこの涙は身体の持ち主である彼女の涙だ。お前の望むことならば何でも従おう。だがこれ以上ナターシャの身体を穢すのはやめてくれ…」
「ふん。私のいう事を聞くのならば止めてやってもいい」
「ああ、何でも聞こう」
 密やかに耳朶に囁かれ、その内容に息を呑む。

 いつマインドストーンを持つ本体にモードックの意識が戻ってもおかしくはなかった。あるべき魂をあるべき場所に。そうして仲間とともに奴を止めなくてはならなかった。要求を呑むために首肯した自分を嬉しそうにロキが見つめ、軽く指を鳴らす。
「兄上、忘れるなよ。約束だ…」
 ウィドウとしての本来の衣装に身を包んだ私に転移魔法がかけられる。人間の持つ強さを信じ、この命を地球に捧げた。自分がどうなろうとも、彼らを守れるのならばそれで良かった。酷薄な笑みを浮かべるロキに見つめられながら、地球へと転移する。例え神の力が戻らなくとも、オーディンの息子であることには変わりがなかった。雷神ではない私に何が出来るのか。今、持ちうる能力で仲間と助け合い、敵を倒すことを思い浮かべる。自分に課せられた使命と共に熱く正義の炎が胸を焦がしていく――。




 後日、ストーンのパワーでばらばらになった精神と身体はあるべき場所に戻った。
 アスガルドへ戻る事が多くなった私はスターク・タワーで過ごす時間が極端に減り、ハルクとの他愛のない喧嘩もすっかり途絶えてしまっていた。

 弟の神殿へと向かい、兜と衣装を脱ぎ、一糸纏わぬ姿になる。閨では鷹揚に寝台の上で寝そべるロキに跪き、強者であることを褒めたたえる。そうして弟の忌まわしいものを、元来の姿に戻った自分の身に受け入れる。
 己を恥じ、奉仕する動きが鈍くなるといつもロキは自分の臀部を容赦なく叩いた。真っ赤な手形の付いた肉尻で巨大な弟の分身をくわえる自分に情けなさで涙が浮かびそうになる。ロキの欲望が昂ると嵐の中の小舟のように私の身体は揺らされ、大きな肉尻が弟の放出したものでいっぱいになる。
 ずるりと抜け出たロキのいまだ硬い欲望を舌で舐めとりながら、弟の望む言葉を口にする。

"乱暴にしないでくれ…"

 左右の尻たぶが大きく割り開かれ、更に容赦なく犯される。年頃の娘のように、細かく編み込まれた自分の白金の髪が激しく揺れるのを見つめながら、約束通りロキを褒めたたえ、穢れてしまった自分の中への放出を声に出して望むのだった。