大きな犬を飼ってるみたいだ。


新しい恋人はそう俺を表現する。彼の毛むくじゃらの胸に顔を埋めて、窓辺から聞こえる雨の音に耳を澄ます。
シドニーでのプレミア後に自宅に彼を招き入れた。食事をして、タイカが監督し、以前アカデミー短編賞にノミネートされたモノクロのショートフィルムを見て、笑い話や映画論、互いの国の現状を混ぜた様々な話をした。途中、俺が酷く自然にウィンクが出来るという話になった。美女を前にすると微妙に声色を変えることも。どちらも意識してない仕草だった。そう答えると彼は溜息をつき、嫌な男だと呟いた。
言葉とは裏腹に彼の口元は笑んでいた。その口元にキスをして、そうして夜は更けていった。


眠る彼の胸に自分の横顔を押し当てる。同じ同性としての体臭が不思議と気分を落ち着かせる。タイカは本当におもしろい男で、彼の冗談も百面相も何度見聞きしても飽きないものだった。時々才気溢れる彼の中に一瞬だけシャイな部分が垣間見える。いまだ自分との交際にどこかで戸惑があるのだろう。優しくしても酷くしてもいい。セックスの時、そういうと彼はいつもの癖で眉間を指で押さえた。だが戸惑う眼差しの中に興奮があった。優しく恋人のペニスを口でしごき、ぶるんと勃起したそれを自分の肉穴にあてがった。その瞬間、酷く荒々しく彼のペニスが自分の最奥を暴き、俺は悦びに溢れた顔で彼の整った顔を見つめてしまっていた。

「……」
首を伸ばし、白髪の混じるまだらの髭に唇を押し付ける。本当に酷くシャイなのか、恋人としての言葉はあまりもらった事がなかった。だが時折、言いかけて止めた苦笑いの顔を見せる事があった。多分あの先に望んだ言葉があるのだろう。それがいつでもいい。いつか聞いてみたかった。
「もう一度したい…?」
僅かに苦笑しながら眠っていた筈のタイカが問いかける。年齢差がある分、恋人の回復は自分よりも遅かった。でもすべてがスローではない。まだ短い恋人期間にも拘わらず、互いの身体は良く馴染んでいた。
「んー…」
どう答えようか。熱情は穏やかに去り、聞こえる雨音がとても心地良かった。もう一度寝て、また起きたら二人で考えよう。そう提案するといつもの僅かに笑んだ顔で頷かれる。彼の濃い体毛に頬を摺り寄せ、目を瞑る。自分の短い髪の毛がゆっくりと撫でられる。束の間の休息は十分に充実したものだった。