「ラングは人を待たせてる。分かるだろ」
下層階の彼とは食用にする犬の取り合いで知り合った。
お互い相手を殺す気はなかった。もう十分に住人の数は減っている。血まみれになりながら半分に分け、彼は礼をいい、また来るかと僕に訊ねた。彫刻のように鍛え上げられた見事な体躯、短い髪、青い瞳、どこか親しみを感じる整った顔立ち。ペントハウスの彼女達に彼を見せれば大いに喜ばれるだろう。次に現れる時間と曜日を告げ、彼と別れる。まだ血のしたたる犬の前肢を持ち上げながらハンサムな彼が礼をいう。小さな楽しみがその瞬間、僕と彼との間で芽生えたようだった。
彼とはその後、様々なものを交換しあった。古い味のするパンだったり、毛布だったり、印字がかすれて読めない製造年月日不明の缶詰だったり。彼は実用的なものを欲しがった。高価なものにはまったく興味を示さなかった。あれだけ与えても彼の外見は変わらなかった。相変わらずみすぼらしい安価なシャツに穴の開いたジーンズ、肌の色艶を見ても栄養状態が決して良いとはいえないものだった。一度彼の後を密かに尾行したことがある。彼は彼と同じ下層階に住む、衰弱した老夫婦に交換したものを与えていた。ここの住人がとっくに忘れきったもの、あるいは初めから持ちえなかったものが彼には備わっているようだった。
「どこでする?」
「ここでいいよ」
灰色に塗られた僕の部屋の中で彼がジーンズを脱ぎ始める。交換といっても彼が与えられるものは一つだけだった。自分の身体だけ。元々僕は彼女達と後ろの穴でやっていた。彼があまりにも魅力的に見えて、彼ともそこを試したくなった。彼は最初から諦めていた。自分が差し出せるものがそれしかないと分かっているようだった。大きくて白い肉尻を包む下着は酷く窮屈そうだった。それを下げて、綺麗な色をした彼のアヌスに自分のペニスを押し当てた。初めは痛みを感じたのだろう。耐えるような声が彼から漏れた。少しもったりとした低くてなめらかな声。弾力のある豊満な肉尻はすぐに僕を夢中にさせた。数度の抽挿の後、いく、と小さく叫ぶ自分の声とともに大量の精液が彼の中に注がれた。彼は大きな声を上げず、ただ戸惑いと悲しみの混じる顔で唇を幾度か震わせただけだった。
「――いつも思ってたんだけど」
キスをしようと顔を近づけた僕を押し止めながら彼が喋る。
「どうしてアンタは俺より頻繁に喘ぐんだ?」
「…ッ…」
思わぬことを指摘され、つい顔が赤らんでしまう。
「ごめん。考えた事なんてなかったよ」
「別にうるさいって言ってる訳じゃないんだ。ただどうして女役の俺よりアンタの方が喘ぐのかなって…」
このタワーの中でする会話とはとても思えず、少し噴きだしてしまう。つられたように彼も笑う。笑った顔のまま、彼に口づける。
「あっ…」
彼のシャツの前を開け、ぶるっ、とはみ出た乳房に吸い付く。豊かな胸の先端で震える小ぶりな乳首を歯で噛み、左右のそれをしごく事で肥大させる。
「んっ…んっ…」
性交を重ねるうち、彼も以前より声を漏らす様になっていた。一度彼に黙って自分のペニスに催淫薬を塗り付けた事がある。犬のように喘ぐ彼を見てみたかった。そしてその願いは呆気なく叶った。彼は戸惑いながら何度も僕に犯されてみっともなくイキ続け、最後は僕のペニスで肉穴をハメられることしか考えられなくなっていた。びゅくびゅくと泡立ちながら大量の精液が彼のアヌスから溢れ続けた。女のように大きな肉尻がびくびくと犯された余韻で震え、彼は何度も小さく喘ぎながら与えられた肉の悦びに没頭し続けた。流石にその後数週間は彼は僕の前に現れなかった。だが施しが必要な者達がいる限り、僕との交換を止める筈がなかった。久しぶりに現れた彼を抱くと、以前よりも大幅に感度が増していた。彼が熟れたのだ、とその時、そうはっきりと感じた。
「触って」
彼が嫌がるのが分かっていて自分のスラックス越しに勃起したペニスを触らせる。
「君を見るだけでこうなるんだ」
責める訳でも、嫌悪するわけでもなく、変態と小さく彼が僕をなじる。ファスナーを下ろした彼の手が僕のペニスを掴み、慣れた仕草で抜き上げる。変態とそう僕に言葉をかけた筈なのに、もう彼の瞳も興奮で濡れていた。下半身に何も身に着けていない彼が奴隷のように僕の前で跪き、よだれを垂らしながら僕の勃起したペニスを口でくわえこむ。じゅるっ、じゅるっ、と恥ずかしい吸い出し音がフロアに大きく響く。後ろが欲しいのか、片手で僕の肉棒をしごき、もう片手で自分の豊満な肉尻のはざまを切なげに揉みこむ。いつか彼を最上階に連れて行きたかった。彼女たちの前で彼を思い切り犯してしまいたかった。
「あッ…」
射精はせずにぶるりと彼の貪欲な口腔からペニスを抜き取り、濡れた彼の唇を舐めしゃぶりながら床にもつれこみ、豊満な肉尻に自分のペニスを押し当てる。
「あっ…あッ…!」
からかわれたばかりなのに、彼の中が気持ち良すぎて声を漏らしてしまう。激しく肉穴を突くと敏感な彼の肉尻がもうイキそうになってびくびくと震えだす。根元までむっちりと肉の輪で締め付けられ、何度見ても欲情してしまう彼の真白くて大きな肉尻の中で最初の射精をびゅくびゅくと繰り返す。とろけきった顔で彼が僕を見つめ、緩急をつけて肉穴を締めつけ、出し切っていない精液を肉棒からにじゅにじゅとしごき出す。放尿のように最奥で射精を続けると自らにちりと挿入で拡張された肉の輪を拡げ、舌で唇を舐めながら自分の淫肉が犯される感触を味わい続ける。僕は何度も中をえぐり、射精を繰り返す。男らしい彼の中が僕の精液でいっぱいになり、彼の腸道が僕のペニスの形に変化していく――。
「今度パーティーを開くんだ」
「へえ、いいね」
彼の酷く気持ちのいい豊満な肉尻が窮屈そうにジーンズの中に押し込まれていく。
「君も来ないか」
「いや、やめておくよ」
僕の誘いをあっさりと彼が断わる。動物的な勘が彼にはあるのだろう。もし彼がパーティーに来るならメインは彼だった。新たなペントハウスの住人、そう紹介するととともに彼を全員の前で強引に犯し、二度と階下には戻らせないつもりだった。
「じゃあまた五日後の3時に」
「3時に」
幾つもの食料を抱えた彼が別れを告げる。去っていく彼の豊かな臀部を名残惜し気に見つめ、トビーがラジオで流すサッチャーの演説に僕は耳を傾けるのだった。