MY KIDDY!



 
 ロキが操るデストロイヤーに捕まった私は氷に覆われた奴の居城、ヴァルハラの館に連行された。
 スパイダーマン、パワーマン、ホワイトタイガー、ノヴァ――仲間達は皆赤子の姿になってしまった。
 それでもなんとか応戦を続けていたが、彼らの道具も私のムジョルニアも玩具同然の効力となり、大人のままのロキに適う訳もなかった。

「ロキ!皆を元に戻せ!今ならばまだ許してやる!」
「ははは!兄上、そんな小さくてかわいらしい姿でまだ俺に抗うのか?」
 そういいながらデストロイヤーから受け取った私をぽよん、ぽよん、と抱き上げては軽く空中に放り、二頭身化した自分がまるで赤子のようにあやされる。
「くっ…!!」
「ミルクの匂いがしてピンク色の肌はぷるぷるで…おまけに銀の栗まで頭について大層愛らしいじゃないか」
「これは私の兜だ!栗ではない!!」
「くくく…こんなに小さな兜があるのか?ムジョルニアもまるで玩具の金槌だ」
 弟が抱きすくめた私の頬にちゅっ、ちゅっ、と唇を押し付ける。
「ロキ!我をたばかるのもいい加減にしろ!!」
「ふふ…このように甘くて柔らかい頬をしている癖に口づけするなという方が無理な話だろう?」
 ひと際強く唇を頬に押し付けられた後、ぼよん、と背高椅子に座ったロキの膝の上で解放される。
 嘲るように鼻息が短くつかれ、居丈高な態度で見下ろされる。
「ミニサイズになったスパイダーマンたちを一まとめに捕まえてサッカーボールのように蹴ってやろうと思っているんだが」
「……!」
 脳裏にデストロイヤーの攻撃から必死に逃げる仲間達の姿が浮かぶ。
「アンタが俺のいうことを聞くのならこれ以上の攻撃はやめてやってもいい」
 ぐっ、と唇を噛み、はるか上方にあるロキの顔をにらみつける。
「ふふふ…」
 応えがないことを了承と受け取ったのか、膝の上で跳ねてみろ、と命令され、屈辱に耐えながらぴよっと跳ねる。
「くっ…覚えていろよ…ロキッ…!」
 そのまま丸々とした短く小さな足で跳ね続けると二頭身の身体をまたぎゅっ、と抱き締められる。
「上出来だ、兄上。どれ褒美をやろう」
 ちゅっ、と頬に軽く口付けされながら今度は曲げた腕の上に座らされ、白い指が側に置かれた深皿から果物の甘菓子をつまみとり、私の口の前に持ってくる。
「……」
 幼い頃によく好んでいた糖菓だった。子供の頃は甘くてべたべたとして食む箇所によって微妙に味の違うそれを味わうのが好きだった。
 もぐもぐもぐ…。
 身体だけでなく精神までも幼子に戻ってしまったのか。気付けばロキの腕の上で私は熱心にその甘菓子を食してしまっていた。
「丸っこい頬が食むと益々丸まるとしてくるな…」
 そう上機嫌で呟かれ、銀の栗と評された羽付き兜をなでられる。食べる際に口元に付いた糖蜜も舌でぬぐわれ、その冷やりとした心地にぶるっと震えてしまう。
「兄上、ミッドガルドではその背の丈の低い身体で随分奔走していたな。そろそろ赤子らしく寝付く時間じゃないか…?」
「わっ…!」
 両手で身体を捕らえられ、まるで本当の赤子にするようにゆっくりと温かな手のひらで身体全体をさすられる。
「こら!やめろロキ…ッッ!」
 抗議の言葉を口にするものの、ロキの腕の中は酷く居心地がよく、暖かな湯船に使っているかのような感触で段々と瞼が重く閉じていく。
「やめ…ろ…」
 うとうとと何度も大きく丸い頭が前かがみに垂れ、ぷにぷにとした小さく短い手足がロキの手の中で丸まっていく。
すりすりと大人の硬い皮膚が頬に摺り寄せられ、何度目ともしれぬ口付けがぷにゅっと頬に贈られる。
「このまま俺好みに育ててみるのもいいかもしれないな…あのデカブツに育つ頃にはすっかりアンタは俺の虜だ」
 途切れ途切れにしか聞こえなくなった弟の声を子守唄に、暖かな腕の中で眠りにつく。

 その後つねにロキに抱えられたまま館で日々を過ごし、あやされ、頬に口付けられ、弟の指を使って食事をあたえられ、すぴょすぴょと邪神の膝の上で午睡を貪り、愛玩する人形のようにたっぷりと可愛がられた私は仲間達が助けにくる頃にはロキの首にすがりついて甘えるほど懐いてしまい、大人に戻ってからも暫くはその恥ずかしい記憶に悩まされるのだった…。