ヘロット 



「また俺の勝ちだ。君の負け」
「まったく…」
LAで行われた"ソー・ラグナロク"プレミアの後のアフターパーティー。そのアフターの後のアフターのアフター。とにかく何度もパーティーを繰り返し、僕とクリスが用意されたホテルに向かったのは明け方近くのことだった。白々と明けていく空を横目に見ながら、6フィートもある筋肉質な長身が僕の上から得意げに腰を浮かす。部屋に入ってすぐワインのボトルを持ったクリスが訪ねてきた。酔っぱらいは嫌いだ。そう撥ねつけるつもりだった。彼の子供じみた部分は好ましいけれど、時に悪戯が過ぎる。40代の自分には時折それが疎ましく思えることも事実だった。そんな僕に彼は酩酊し、赤らんだ顔を近づけた。分かってはいたけれどとてもハンサムだった。青い目も澄んでいて綺麗だった。大きく開いた胸元はうっすらと赤く、滑らかな皮膚が覗いていた。僕も多量の飲酒でどこかで歯止めが壊れていたのだろう。部屋に入ってきた彼とキスをして、ストリッパーのように脱いでいくクリスを眺めて、そうして――久しぶりに恋人がいた頃の情熱を取り戻した。ゴシップ欄で親密さをスクープされる主演女優と監督の記事を見る度、嫌悪する自分がいたのを覚えている。今度は僕が嫌悪される対象になってしまった。彼は恐らく同性との行為は初めてじゃなかった。同時に僕もそうだった。だが今まで味わったことのない快楽がそこにあった。クリスは、僕が全てを掛けるこの映画の主役は、あらゆる意味で"王"なのだと、そう思わざるを得なかった。


「んっ…」
頬を染め、嬉し気に笑みながら彼がずるりと萎えた僕のペニスを抜いていく。閉じられた瞼の下にある睫毛が酷く長くて、そんな所もついつい見惚れてしまう。同性の共演者でさえ、彼を美しいという。こんなに男性的なのに確かに彼は美しかった。6つに割れた腹筋が蠢きながら、ぶるんっ…と中出しでぱんぱんに種の詰まった大きな肉尻から男根を抜ききり、勝ち誇った顔をする。まるで競争で一番になった少年みたいだ。やんちゃで、でも最中は酷く貪欲で淫靡で、女のように大きな肉尻をずにゅずにゅと突かれることをねだり続ける。肉の輪が僕の種まみれになって、むちっ…と輪っか自体が抜き差しで卑らしく熟れてもまだ奥をほじってくれと懇願してくる。そうして最奥のしこりを亀頭でぶるぶると突くと甘い声をひっきりなしに上げ始める。多くの人が彼のこんな姿を知らない。絶対的な王者の支配される姿。僕に向かって腰を突き出し、もっと、もっととねだり続ける。種をつけられると涙目で微笑み、自らのペニスからもびゅくびゅくと失禁したように精液を漏らしてしまう。
誰が、または複数の誰かが、彼をこんな姿にしたのか。短い時間で僕は色々と考えた。だが今間近で、あの青い瞳でクリスが僕を見つめ、嬉し気に貫かれている。だから考えるのを止めてしまった。今は僕のものだった。それで良かった。



「あー…、気持ちよかった…!」
大きな音を立ててベッドに沈む彼の隣で僕の顔が苦いものになる。僕が童貞じゃなくて良かった。こんなムードのない事後を味わうなんて恐らく最悪だ。

「ふふっ」
苦虫を噛み潰したような僕の顔を見て彼が笑う。
「なに…?」
「タイカってしかめ面になるとこうなるよな」
そうして左右の指で眉の高低差を作ってみせる。眉頭の位置が違う事を揶揄いたいらしい。どうしてこんなに無邪気なのか。いつも口元が笑っているように見える巨大なサモエド犬をどうしても思い出してしまう。
「君が困らせることばかりいうからだろう」
「気持ちいいっていったのが君を困らせることなのか?本当のことなのに」
そうして笑いながらキスをする。そのキスがどんどん深くなる。相手は30代の若さ漲るアクション俳優で、僕は映画青年がそのまま40代になったような男だ。どうしたってスタミナに差がある。これ以上は無理だ、そう言いたかった。
「あっ…」
僕の精液でぬるぬるになった肉穴がぴとりと僕のペニスにくっつく。酷く大きな肉尻は犯し甲斐があるもので、突けば突くほどきつく締まり、種を欲しがって中の肉ひだで竿をにゅぼにゅぼとしごき続ける。褐色の僕のペニスがクリスの白く大きな肉尻を突き上げるのはとても興奮する瞬間だった。生意気な彼が犯されている時だけ、僕に屈し、惨めな雌声を上げ続ける。中で精液が噴きあがる瞬間のあの支配されきった泣き笑いの笑顔。ぶるぶると受精で震える身体を抱きすくめながら、彼の媚肉のひだというひだに僕の精液が沁みていく瞬間。ずりずりとむちむちの左右の尻たぶに萎えた肉茎を抜かれながら、もう一度、多分何度でも、あの顔が見たくなる。

「あっ!あッッ…!!」
貫かれて悦ぶクリスの声が聞きながら、みっしりと詰まった筋肉の層に口づける。今日一日、いつもと変わらぬ彼の横で疲労困憊な自分が今から予想できるようだった。