その日もいつも通りの一日が始まる筈だった。

 召使や侍女に憂鬱を気取られぬよう平時の顔を見せ、飽くことなく鍛錬を繰り返す。戦場にいる過去の自分を思い出し、今でも武勇に長けた戦士である事を確かめ、国の平安を心内で願う。シフや三銃士――旧知の仲間達との対面はいまだ許されぬままだった。すべてを知った上でも尚、友でいてくれる事を願いながら仲間や何よりも愛しい子供達に想いを馳せる。

 与えられた神殿は十分に広く、王宮のような果樹園はないものの中庭には少量の果樹や花が育てられていた。葡萄や薔薇、百合、ヘリオトロープ、それら草花の姿が幾度自分の心を慰めただろう。神殿での生活は独房に等しく、孤独と深い悲しみに彩られたものだった。





 侍女が来客を告げた時、自然に自分の身体が強張るのが分かった。ここを訪れる者はただ一人。懐妊が分かるといつも酷く弟は喜び、月日とともに膨らんでいく腹を愛しげに撫で続けた。子を産むまでの間、王の欲を慰める事も強いられ、孕み腹に触れられながら懸命に自分の口腔で猛る男の竿を慰めた。そうして出産が近づくと弟の前で足を広げられ、支配欲に満ちた男の眼差しを受けながら凌辱で受精した子供を産んだ。

『兄上が誰のものでもない頃から私の子を産ませると決めていたんだ』

 娘を産んだ時、生まれたばかりの赤子を腕に抱きながらそう弟は機嫌よく言葉を発した。屈辱と悔しさで大粒の涙を零す自分を笑いながら慰め、まだ目も開かぬ娘と俺の両方に口付け、王位を持つ者が誕生した事を高らかに宣言した。

 弟が訪れれば、また昼夜の区分なく抱かれてしまう。酷く長い受精が続き、惨めに弟の子種を肉尻の狭間から垂らしながら次に孕む子が娘か息子かを楽し気に予想され、貫かれたばかりの穴をくぱりと広げられ、肉ひだにしみるほど中にべっとりと種がついた事を確かめられてしまう。
 だがオーディンの眠りについた父上、幽閉された母上、そして何よりも子供達を守るためには従順である事だけが唯一の術だった。



「ロキが来たのか…ならば迎えよう」
「ソー様、今日は王子様や王女様もこちらに来られていますよ」
 穏やかに告げられた言葉を一瞬信じることが出来なかった。軽い足音と二つの幼い笑い声が徐々に近づき、上部に鋸歯型の装飾が施された扉から飾りのついた羅紗の広袖を腕に纏った青いドレス姿の娘と、手首と襟に白いレースをあしらい金の縁飾りを施した漆黒のケープを身に着けた息子が現れる。

「母上!」
 我さきにと子供たちが走り寄り、自分に縋りつく。
「お前達…!…どうして…」
 喜びとともに漏れる声は自身でも分かるほど動揺が滲んでしまう。
「――兄上がこの前王宮に泊まっただろう?あれで益々この子達が我儘になってしまってね…」
 涼やかな声が響き、鮮緑のマントを靡かせながら静かに弟が部屋の中に足を踏み入れる。前王の王衣によく似た、上衣を鈍色の甲冑で覆った姿。相変わらず女にも劣らぬ程の玲瓏な美貌を持つものの、この数年の間に培った王としての威厳が、気弱だった弟を若く精悍な王として印象付ける。
「母親に見守られながら眠ることが余程嬉しかったらしい。また兄上と共に夜を過ごしたいとせがまれて…このままでは王務に支障を来たしそうな程ねだられてしまってね…それで仕方なく…」
 細く長い白磁の指が柔らかに子供たちの髪を撫でる。
 先日の謁見を口に出され、その夜の記憶が淫らに自分の中でよみがえる。確かに子供達の就寝を眺める事は出来た。だがその後に何が待っていたのか。招かれた王の部屋で執拗にひだ奥を犯され、孕めと叱咤されながら夜明けまで種を植えられ続けた。中に出されることを何度拒んでも種付けが止む事はなく、自身でも厭うほどの大きな肉尻が弟の子種でいっぱいになり、中の肉ひだにたっぷりと種がついた姿で神殿に戻され、自らの指でその厭わしい子種を掻き出した。
「…っ…」
 永きに渡る凌辱と妊娠の果てに変じてしまった浅ましい身体の奥に火のような熱が点る。それに気付かれぬよう目線を反らしながら子供達を抱き上げ、口付けを落とし、櫃に収めていた玩具を侍女に取らせ、それぞれの手に握らせる。

「わあ、風車ね!」
 嬉しそうな声が娘の口から上る。
「ああ、そうだ。今度会った時にお前達に渡そうと思って俺が作ったんだ」
 木の実の殻の上下に穴をあけ紐を巻き付けた棒を通した簡易な玩具。もっと高価な玩具を与えられているだろうに、嬉しそうに二人が息を吹きかけ、四枚の羽根をくるくると回す。

「父上、母上、私この風車で遊びたい!二人で中庭に出てもいい?」
 息子も同じ気持ちなのだろう。嬉しそうな笑みを称えたまま、きらきらとした真ん丸の灰緑の瞳が自分達を見上げてくる。
「まったく…そのドレスを作るのに何人のお針子が必要だったと思う?今日はレディでいる筈じゃなかったのかい」
 俺の腕から娘を受け取り、ロキがゆったりと話しかける。弟の腕の中で青いドレスが花のように揺れ、上靴を履いた小さな足がぱたぱたと前後に動く。
「母上!父上はいつもこうなの。常に淑女でいなさいって…でも私は馬に乗って花を摘みに出かけたり、刺繍やチェスをするような生活は嫌なの!大人になったらレディ・シフのような勇敢な戦士になるんだから…!」
 意気揚々としたその顔に思わず笑い声を漏らしてしまう。期待を込めた幼い二対の眼差しに観念の溜息が弟の口から零れ、側仕えの侍女と共に外に出ることを許される。自分によく似た面差しを持つ娘の感謝の口付けがロキに送られ、侍女の手に引かれた二人が中庭へと去っていく。庭にあったマルメロの木についた実はもう熟しただろうか。果皮の香しい香りをあの子達に嗅がせたかった。娘には薔薇の花、息子には月桂樹で冠を作り、それをそれぞれの利発で小さな頭に載せたらどんなに似合う事だろう。そう夢想する自分の鼻に草木を思わせる甘松香の香りが不意に触れ、この部屋の中で弟と二人きりになった事を気付かされる。気まずさで言葉を発せぬ俺に常と変わらぬ声音でロキが話しかける。



「"男の勇気と獅子の心を持つ乙女"――私達の娘が大きくなったらそう呼ばれそうな気がしないか」
「ははっ、確かにな…」
「息子は息子でミッドガルドにバジリスクを探しに行きたいらしい。地球の古い動物譚を読み聞かせたら酷く気に入ってしまってね。召使にまで何度もそれを読むようにせがむんだ…バジリスクの瞳は目線が合うだけで相手を殺すというだろう?だから発見してもどう見つめるかで真剣に悩んでいるらしい」
「ふふっ…あの子は本当にお前によく似ているよ。魔法が好きで奇妙な事象にも興味があって…」
 話しながら窓際に近づき、中庭で遊ぶ子供達を眺める。風車の棒を地面に水平にして構え、風に向かって走る二人の姿は牧歌的な一枚の絵画のようで、自然と口元に笑みが浮かんでしまう。

「兄上、子供達をここに連れてくる事は相応の苦労があったんだ。僅かな感謝でもあればそれが報われるよ」
 道化じみた態度で弟が謝意を乞う。
「あ、ああ、すまぬなロキ…ありがとう。こんなに喜ばしい一日になるとは思いもしなかった」
「言葉よりも態度で…示してくれないか…」
「……ッ!? 」
 不意に軽く首筋を食まれ、動揺の吐息が漏れてしまう。
「兄上…」
「やめっ…ロキッッ…!!」
 背後から伸びた白い手にK糸刺繍が施された菫色の長衣をめくられ、現れた腰布を掴まれる。部屋の窓枠は外部からは上半身までしか映らない。弟もそれが分かっているのだろう。慣れた仕草で腰布をはぎ取り、露になった臀部をねっとりと撫で始める。
「やめろ…!やめてくれッ…!」
「ああ…兄上、私の子を産んだことで益々肉尻がむっちりと卑らしいほど大きくなったじゃないか…真っ白で柔らかいのに中は桃色ですぐにひくひくと絡みついて…私はいつも我慢出来ずに果ててしまうんだ…」
「嫌だ…ッ!!」
 遠くで自分の名が呼ばれ、焦る瞳に無邪気に手を振る子供たちの姿が映る。ぎこちない笑みで手を振り返すと、ぬるりと自身の肉棒がぬめる何かに包まれ、思わず口を手でおさえてしまう。
「…ッッ」
 びくっ!びくっ!と肉付きのいい身体が大きく震え、下半身をあらわにした淫らな姿で弟に自分の肉竿を吸われてしまう。
「…っ…!っっ…!」
 鉄の桟を手の腱が太く浮かぶほど強く掴み、きつく唇を噛みしめながら淫らな口淫に耐える。股の間に弟が蹲る形で肉棒をぬぽぬぽと吸われ、何度も貫かれ、子まで産んだ熟れきった肉穴をむちっ…と左右に押し広げられてしまう。
「あっ…!あッッ…」
 敏感なひだに外気が触れる心地に耐えきれず、甘く熱い声を小さく漏らしてしまう。口淫される時は必ず肉穴を広げられ、中のひだを丸見えにされた姿で肉棒を抜かれ弟の口内にびくびくと震えながら精を零した。自分の穴はロキを慰め、王の子を孕む為の受精穴でしかなく、常にそうやって辱められ、雌としての羞恥と快楽を教え込まれた。
「はっ…」
 マルメロの実は熟していたのだろう。侍女がそれを取り、子供たちに渡すと嬉しそうに果皮を嗅ぎ、二人で顔を見合わせにこりと笑う。
「あっ…!ああっ…!!」
 口淫が激しくなり、淫らな熱で瞳が潤んでしまう。
「許してくれロキ…もう許して…」
 弟にしか聞こえぬ声で解放を望む。無邪気に笑いあう子供達をいつまでも自分の記憶に留めておきたかった。二人を見つめながら肉穴を広げられた雌畜の姿で亀頭を噛まれ、その刺激でびゅくびゅくと精を漏らしてしまう。
「…っ!!…ッ…」
 強く噛みしめた唇は血が滲み、鉄錆びた味が口内に広がる。一滴も漏らすまいと弟が貪欲に喉を嚥下させ、自身の精を搾り取っていく。
「あっ…あう…!」
 びくんっ、びくんっ、と快楽に耐えきれなかった白い肉尻が淫らに揺れる。ぬるっ…と自分の厭うほど大きな肉尻の中にある穴ひだが発情で濡れ、自身を犯す主を待つかのようにひくひくと年輪状に重なる桃色の肉ひだを卑猥に震わせる。常にロキの望むままに乱れ、穴をねっとりと味わわれてしまっていた。第一王子であった誰よりも勇猛果敢なオーディンの息子はどこへ消えたのか――。堕ちた自身が答えを見出せる筈もなく、中庭で戯れ合う子供たちを見つめながら、淫猥な種を吸われ、より隷属の身として堕ちていくのだった。