弟の妄想

養母であるフリッガの慈悲で私は追放をまぬがれ、地下牢に幽閉された。書物を読みふけり、時に母の訪問を受け、オーディンがつれて来る新しい友人たちを観察する。退屈だが悪くはない日々だった。しかし唯一つだけ不満があった。それはなによりも愛しく憎い存在、第一王子のソーが私の前に姿を現さぬことだった。地球での戦いでは忌々しいヒーロー達に好きなだけ逞しく隆起した身体を見せ、愛らしい青い瞳を輝かせながら無邪気にほほえんだ兄。アスガルドへの帰還を甘くねだり、脈があるんじゃないかと期待させておきながら星条旗柄のマッチョ過ぎるヒーローに怒られたくらいでさっさと鞍替えしシールド側についた兄。段々いかつく無愛想なこわもての男じゃないかという周囲の感想が綺麗なブロンドだな、とか、笑うと愛嬌があって可愛いなとか、誰かにそそのかされたらすぐ着いていきそうな素直さだなとか、苛立つものに変わっていくのを監獄の中でどれだけわたしがやきもきしながら見ていたことか。小悪魔ぶるのもいい加減にしろと一度対面した兄に怒鳴ったこともあったが、鈍い兄はぽかんとするだけでこちらの嫉妬などなにも気付きはしなかった。


今あの愚かな兄はなにをしているのだろうかと思う。神々との話し合いの中で着実に王としての風格を備え始めているのか、虐げられる民のために血と泥にまみれながらムジョルニアをふるっているのか――。武勇と戦略に長けた好漢だが色恋に鈍い男を今までどれだけ庇護してきたか。手に入らないものであればあるほど求める男の性をあの兄は少しも分かってはいないに違いない。両腕の露出した甲冑でハンマーをふるい、元々うっすらと上気した白肌の更に白く敏感な弱い部分である脇がむき出しになるたび、どれほどの男がよからぬ目で兄をみつめていたか。常にソーの側にいるあの気障なサーベル持ちでさえ役得とばかりにのぞき見していたのもよく知っている。汗にむれたそこを舌で何度も舐め、弱い部分を攻められたソーが必死にあえぎをこらえ涙目になる姿を見ていいのは私だけだ。いっそ誰もこられぬ塔に幽閉し、拘束した兄を精が尽きるまで犯しつくしたいとすら思う。互いに汗まみれになりながら愛し合い、あの女の名すら忘れるほど精をそそぎこみ兄を躾ける。初めは抗うソーも何度も犯されるうちに肛虐の喜びをおぼえ、ヨトゥンの血を引く弟の長大な肉棒なしでは生きられぬ淫らな身体になるはずだ。無理やりくわえさせられる口淫も次第にその太い肉棒のとりこになり、顎周りのひげが白い子種まみれになるほどじゅぽじゅぽと自ら夢中で逞しい男根をくわえ、はらむほどの量の精をその胃の腑に喜びながら飲みこむだろう。兄のあの白くむっちりとした女のように大きな尻は度重なる陵辱で次第に犯されることを期待し、ひくひくとうずきはじめるにちがいない。常に入れてもらうものが欲しくてひくつく紅色の肉厚な肉穴にみずから唾でぬらした指をいれ、短いあえぎ声を上げ続けながら卑らしい肉の輪をずぷずぷとほじり始めるだろう。わたしに視姦されていることに気付くと見るなと涙声で叫びながら挿入した指の動きをとめられず、ぬちゅぬちゅとむっちりとした肉穴での淫らな自慰も続けるはずだ。その後みずからの太い指すらぬるりと入るほどほぐれた紅色の肉の輪に血管の浮き出た巨大な肉棒をずぬぬと強引に挿入され、すがるように父や母の名を叫びながらむちむちの肉尻をぱんぱんと激しく犯される。最後は射精することを無慈悲に告げられ、雌膣と化した穴の敏感な最奥までぬりゅぬりゅと肉棒でひろげられ、涙にまみれた雌の顔でわたしに許しを請いながらたっぷりと濃い子種を肉ひだにかけられける。そうして受精させられた男の腕の中で自分の恥ずかしい部分にねっとりとしみていく男の種を感じながらむちむちとした尻や体を雄の肉器として卑らしくなでられ、びくびくと感じ震えながら恥辱の涙を流すのだ。まばゆく光る金糸の髪と黄金の髭、雄雄しく逞しい身体は常に雌としての交尾による汗と私の精でまみれ、その匂いですら発情するようになるに違いない。わたしが王として公務を果たす間は、むっちりとした女のように大きな肉尻にそそがれた大量の濃い子種がぬるぬると尻穴からみだらにながれる感触に耐え、常にもまれ赤子のようににゅぷにゅぷと吸いつくされ肥大させられた濃い桃色のぷるんとした乳頭を勃起させながら主の帰りを待つ筈だ。抵抗がなくなれば開放し、配下として側に仕えさせることもできるだろう。昼は私を守り、夜は愛らしい妻となり私の前でにちゅりと肉穴をひろげ、発情した身体で勃起した弟の巨大な肉棒をねだるのだ。湯浴みで更に磨かれた吸い付くような薄紅色の肌と輝く金髪をふるわせながら度重なる強制種付けで私の肉棒の形にぬっぽりと変えられた卑らしい肉穴の最奥までみせ、飢えた猟犬のようにはっはっと舌を何度も出しながら硬く太く逞しい肉茎で敏感なむちむちの紅色の肉ひだをずちゅずちゅとこすられる事をじっと待つ。宮殿ではわたしの所有物だと常によくわかるようにみなの前で頻繁にその柔らかな唇を奪うのもいいだろう。屈辱にふるえながら弟王子の女となったことを知らしめるために私に抱きすくめられ、私たちの夜がどんなに熱いものかを見せつけるようにその舌を唇をねっとりと執拗に民の前で犯されるのだ。

「ああ…」
甘美な妄想に思わず私は瞼を閉じたまま独房の壁に手をつき、感嘆の吐息を漏らした。オーディンは私に光り輝く雷鳴の神を与えるために私たちを引き合わせたのだ。あの女のものでも父のものでもない。ソーは私のものだ。だがあの男はいつも私の手を逃れどこかに逃げてしまう。私を愛する弟として側に置きながら決して私のものになろうとはしない。だからこそ憎く愛おしい。
妄執にとらわれる私の耳に側仕えの衛兵が来客を告げ、やがて重い足音とともに漆黒の外套をまとう男があらわれる。
「ふん、やっといまになって会いに来たか…」
その後に続く恨みつらみが眼前の男を目にし不覚にも止まる。
(くっ…、やはり愛らしい…)
恋人でもある天文物理学者の女に異変が起き、二人が地球で会ったのはしっていた。待ち望んだ逢瀬を果たしたからか、いつもより更にソーは輝きに満ちていた。細く柔らかな黄金の髪はまるで水面に映る陽光のようにまばゆく煌き、空の青さを秘めた澄んだ瞳と熟れる前の果実のような柔らかな色合いの唇は口付けを待つかのようになまめかしい艶を帯び、私をまどわせる。兄の手が二人をへだてる障壁に触れ、反省をのぞむ瞳が反逆者の烙印をおされた弟をじっと見る。からかい怒らせるべきか、侮蔑の言葉で傷つけるべきか、楽しげに悩むわたしを包むように暖かな目線がそそがれ、穢れた想いをからめとる。もっと側でその顔を見たくなり、壁越しに手を重ね、ソーの慈母のような瞳と見つめあう。こんなにも欲しているのに無碍な兄が憎い。やはりアスガルドの王になるのはソーではなくこの私だ。わたしが王となり民と眼前の男を支配するのだ。それまでは兄として愚かな愛をそそげばいい。彫刻のように逞しい身体を包む外套が翻り、静かにその場を去っていく。その広い背中を見つめながら愛憎と共にわたしはそう誓うのだった。










END