RED VELVET CAKE
常々私には疑問に思うことがあった。
何故あんなにソーの胸はぷるぷるしているのかということである。
鍛え上げられた身体は彫刻のような完璧な造形美であるにも関わらず、胸がだけがまるで女性のように膨らみがあって柔らかでむちっとしつつぷるんっ、と生意気な盛り上がりを見せていた。兄の肌は元々冴え冴えと白く、その白瑪の肌の所為で大きな胸はよりぷるっと強調され、先端についた肉粒はあろうことか果実のような愛らしい桃色だった。
みだりに肌を露わにさせぬのであればここまで私が思い憂える事もなかっただろう。だが兄は鍛錬のたびにいとも簡単にその淫らな上半身を露わにしてしまう。幾筋のもの汗がぷるぷるとした豊かな胸筋を伝い、呼吸で激しく上下する胸はうっすらと赤みがかり、桃色の乳頭はぬらぬらと濡れている。そういう兄を見かけるたびに走り寄っては叱りつけながら自分のマントで身体を覆ってやるのだが、当の兄は見苦しかったか?すまぬな、とぽりぽりと茶色の髭をかく位で一向に気にした様子はなかった。アスガルドの者たちは四人の小人と四夜を過ごした女神フレイヤを筆頭にみな性に奔放な一面を持っている。いつあの兄の白くぷるぷるとした豊満な胸を味わいたいと願う不届き者が現れてもおかしくはなかった。愚鈍なソーが騙されてその身を奪われてしまうのではないか、私は日々不安な気持ちを抱えていた。
「……」
悩みに悩みぬいた末、考え付いた結論は兄に羞恥心を植え付けるということだった。実際に私が兄の胸を味わい、兄自身も自分の胸にもたらされる快楽を感じ、みだりに肌を晒してはならぬ部分だと徹底的に教え込むつもりだった。今明らかに私の呼吸は浅ましい期待で乱れているし、下半身も強く熱を持ち始めていた。だが決して自身の欲望を優先した結果ではなかった。これもすべてただ一人の兄弟である兄を想ってのことだった。
「う…ん…」
転移魔法を使い、兄の部屋に足を踏み入れる。広い寝台の上で寝息を立てながら穏やかに眠る兄に近寄り、そっと寝衣の前をはだけさせる。
「ん…」
ぷるっ、と無防備な白い胸が現れる。男のくせに女のようなまろみと盛り上がりのある豊かな胸部、つんと勃ちあがる小さな桃色の乳首。自分の渇いた口腔に欲望から生じた唾がぬるっ…とたまっていく。
「……」
ぷるぷるとした乳頭に自身のうっすらと赤らむ顔を近づけ、瞼を閉じながらくん、と香りを嗅ぐ。胸の先端からは甘い乳の香りがほのかに漂い、ひくんっ…とかすかにひくつく小さな桃色の乳穴も愛らしく、自身の舌をそっとその穴に押し当てる。
「んっ…!」
ぬちゅっ…と淫らな水音を立てながらソーのぷるぷるとした乳頭を味わう。甘くこりこりと弾力があるそれを強く歯で噛みたい衝動にかられながら柔らかな舌の表面でぬめぬめと小さな肉粒を濡らしていく。もしこのまま目覚めることがあれば、自身に獣のように伸し掛かる兄弟の姿を目にすることになる。兄は怒るだろうか。惑うだろうか。万が一私を受け入れるつもりがあるならば私は兄をどうするだろうか。むちむちと張った大きな胸をぶるぶると上下させ、重量のある豊満な肉尻を思うさま突きながら兄を手籠めにしてしまうかもしれなかった。
「んっ…んっ…あ…」
僅かに開いた唇から濡れた紅い口内がのぞく。焼きたてのミシュ(大型丸パン)のようなむっちりとした太い上腕が乳頭をなめ上げるたび、ぴくぴくと揺れる。むちむちと小山のように盛り上がる胸筋を乳頭ごと揉みしだくとソーの息が甘く乱れ、闇夜の中であっても白く光る黄金の髪が寝台の上で振り乱れる。
「んっ……」
しっとりとした手のひらに吸いつくような艶めかしい肌の心地が徐々に私の箍を外していく。太く逞しい首筋に唇を当て、滲んだ汗をなめとりながらむにむにと豊満な胸を揉みこみ、小さな乳首を官能を呼び起こすように親指で押しつぶす。
「あっ…ロキ…?」
与える刺激が強すぎたのか、涙で潤んだ青い瞳がうっすらと見開かれる。暗闇の中でもすぐに私を視認する兄が愛おしかった。だが次の瞬間漏れた言葉に全身から力が抜けてしまう。
「なんだ、添い寝して欲しかったのか…?」
がくっと頽れた私をソーが抱き留め、ぽんぽんと背中をあやすようにして叩く。どこからどう見てももうお互い幼年期などではない。何故そんな言葉があっさりと口から出るのか。兄にとってはいまだに私はそういう存在なのか。もろもろな打撃で傷心した私をにこにこと微笑み見つめながら武骨な指が私の黒髪を撫でさする。あからさまな熱を持っていた自身の陰部も落ち込みすっかりその情熱を失ってしまっていた。官能的な一夜などこの現状では起こりうる筈もなかった。
「昔はこうやってよく眠ったよな。母上が読み聞かせた話に出てきた怪物を怖がってお前は俺にしがみついて…俺が退治してやるからもう泣くなというまでお前は眠らなくて…」
「……」
しかも恥ずかしい自分の過去話付きだった。もうどうにもならなかった。諦めて兄の上から起き上がろうとする自分をがっしりとした両腕が押し止める。
「ロキ、俺の部屋をこうして訪れたということは何か憂うことでもあるのか…?だが何も不安に思うことはないぞ。この兄がついているからな…」
太陽のような朗らかな笑みが兄の顔に浮かぶ。その陽気さに屈し、無言で相変わらずむちむちとした卑らしい豊満な胸に顔をうずめるとゆっくりと頭を撫でられる。きっとこれからも私は上半身を露わにした兄を見かけ、叱り、邪な目線から兄を守るだろう。いつかはこの胸に官能を教え込みたかった。甘くかすれた声で自分を呼びながらしがみついて欲しかった。だがそれはかなり後のことになるだろう。それが100年後か1000年後か。その機会が訪れることを願いながら私は目を閉じ、愛情のこもる久方ぶりの添い寝を味わうのだった。