アンブローズ 



 不仲な夫婦のようだ。

 俺とポラードは仲間たちにそう揶揄されていた。経験のないまま船長になった名士出の男。嵐に遭遇した折も奴は身勝手な判断で航海に危機を齎した。縦帆が絡んでしまったあの無様な出航の際、フォア・マストに登る自分を奇妙な眼差しでポラードは見つめていた。嫉妬、羨望、そうして俺には判別の出来ない濁ったなにか。それが何かを分かるのにそう時間はかからなかった。





「何か飲まないか」
 深夜、呼び出された船長室の中で奴は俺に酒を勧めた。断る自分に嘆息しながら自らのグラスに琥珀色の液体を注いでいく。

「もう十四か月だ。一匹目の鯨を捕獲して以降、私たちは何も手にしてはいない。船倉にあるのはたった五十樽の鯨油だ」
 船内に募る焦燥に船長であるこの男は目をそらし、船長室に籠るようになっていた。どこまでも軟弱なお坊ちゃんだと心の中で詰りながら、白い喉を嚥下させて酒を飲むその姿を静かに見つめる。

「私と君の軋轢も日ごとに増している。こういった現状は改善すべきだと思わないか」
「今更握手で修復できる事柄だとも思えませんが」
「…私たちはもっと身近になる必要があると思うんだ」
 見つめる眼差しは既視感のあるものだった。まだキャビン・ボーイだった頃、トーマスと同じ年頃だった自分の細い体に注がれていた視線。年を経た今でも酒場の薄暗い一角から向けられることのあるあの忌まわしい眼差し。
「……」
 一等航海士でしかない自分に拒否権はなかった。嫌悪で歪む顔に白く傷のない指が寄せられる。

「…ッ…」
 自身と同じ身の丈の身体が伸し掛かる。
 与えられる口づけは奴の柔和な面立ちそのままの丁寧なものだった。何度か角度を変えて貪られ、自分の口端から飲み込み切れなかった唾液が垂れていく。
「はっ……」
「これが君の奥方か。とても美しい女性だ」
 シャツの釦を外されながら胸元の首飾りを掬われ、彼女の顔を掘ったレリーフを濡れた唇に押し当てられる。
「これから辛いことを味わうことになる。せめてもの慰みに触れておいた方がいい」
 平時と変わらぬ平坦な声色だった。どうして奴から正気が失われていくことに気付かなかったのか。気付いていたらそれなりの歩み寄りも、打開策も見いだせたのではないか。後悔してももう遅すぎることだった。だがどうしてもそう思わずにはいられなかった。

「私にも妻がいるんだ――名家の跡取りとしての結婚だよ。後代に家業と子孫を残すためだけの婚姻だ」
 壁に手をつき、脚を開くよう命じられる。
「ミスター・チェイス、今、私が欲しいのは船長としての栄誉と捕鯨一族としての栄光だ。相手の立場に屈せず反発するような部下は私には不要なものなんだ…」
 唾棄すべき行為が迫っていた。昔の自分ならばポラードを殴り、帰港後に辞表を叩き付けていただろう。娘の誕生を待つペギーの顔が脳裏に浮かぶ。父親のように家族を路頭に迷わせることは絶対に出来ないことだった。

「……」
 命じられた通り、船長室の壁に手を付き、脚を広げる。耳朶を背後から口に含まれ、憤りとともに唇を強く噛みしめる。
煙草で染めた茶の長ズボンをまさぐられ、ずりおろされる。亜麻の下着にも手をかけられ、当然の権利のように引きずりおろされ、自分の萎えた男根がだらりと露になる。この上もなく惨めな姿だった。だがポラードはからかうこともなく、ヘッシャン・ブーツの靴底を軽く床に打ち付けながら、裏革のズボンの前をくつろげ、乾いた肉棒を俺の後肛に擦り付けた。

「いいか、これからは私に逆らうな…」
「…ッッ!? 」
 命令とともに火のように熱く硬いなにかが侵入し、長く太い肉棒で無理やり尻を犯される。味わったことのない激痛に脂汗が額に浮かび、一瞬呼吸が止まり、自分の舌の根で喉奥が詰まりそうになる。
「がっ…!あッ…!」
 無意識のうちに漏れた呻き声が伸し掛かる男を刺激する。
「あッッ!!あッ!あっ!ぐうッ…!!」
 一方的な抽挿に身体を大きく揺すぶられ、痛みと屈辱で気を失いそうになる。
「んうッッ…!」
 髪を荒々しく鷲掴まれ、背後から唇を奪われる。肛門の裂傷による血のぬめりで尻の中でずりゅずりゅと動く男根の動きがより激しくなり、内臓まで犯されるほどの執拗な突きを繰り返される。
「ぐッ…!ううっ…!」
 誰よりも頑健だという自負があった筈なのに、唯一柔らかな部分を男のいきり勃ったもので容赦なく広げられ、凌辱された身体は呆気なく悲鳴をあげていた。苦痛が全身を支配し、息もできない程だった。中々具合がいい。興奮で上擦る声にそう褒められ、奴を涙の滲む瞳で睨みつけながら尻の奥を激しく穿たれる。

「ふっ…ぐうッ…!」
 ポラードの快楽を象徴するかのように、結合させられた後肛からより頻繁ににちゅにちゅと淫らな水音が漏れ出るようになっていた。
 "女"として穴を使われる事実が羞恥を与え、奥まで犯されるたびにびくびくと惨めに汗まみれの肉尻が揺れ、容赦のない力で何度もずんずんと猛りきった男根をねじ込まれる。
「っ…ッッ…」
 絶え間のない凌辱に徐々に痛みとは別に名状しがたい痺れが自分の身を包み、抗えなくなった肉尻の上で更に肉棒が中のひだをめくりあげながら激しい抜き差しを繰り返し、卑猥な結合音を立てながら何度も何度も肉の輪が貫かれ、柔らかな肉の内部を硬い亀頭でぐりゅぐりゅとしごきあげられてしまう。
「あっ…ぐッ…!」
 男の掌がゆっくりと自分の臀部を撫で上げる。犯されながらくぱりと尻たぶを広げられ、露わになった結合部にねっとりと背後から視線を注がれる。耳を塞ぐことも出来ず、快楽に濡れる男の吐息が頻繁に漏れ聞こえる中、身体を余すところなく貪られ、女代わりとして奴の欲を満たしていく。


「ッッ!? 」
 そうしてたっぷりと尻を犯された後、見知った動きが自分の内部に齎された。肉穴の中でより膨張したポラードの肉棒が種をつけるべく小刻みに動き始める。
「ふッ…あっ…!」
 どうすることも出来なかった。拒絶することも、受け入れることも出来ず、ただただ茫然とした顔で犯される"女"としての声を漏らし続ける。
「ッ……!!」
 覆いかぶさるポラードに性急な仕草で身体を激しく揺すられ、胸元の首飾りが大きく揺れ動く。自分の侵した過ちをペギーが見つめているようだった。苦悶の表情で硬く瞼を閉じた俺の背後で奴が根元まで肉棒を埋め込み、肛門から腸道に至るまで、肉尻のすべてを憎むべき相手の勃起した一物に支配されてしまう。
「ッッ……」
 挿入を深くしたことでポラードの下生えが傷ついた後肛に強くすりつけられ、たっぷりとこすられ、摩擦で膨らんだ熱く痛む肉の輪に、密集する硬く太い毛が当たる感触に絶望で身体が傾ぎそうになる。

「っ……」
 控えめな吐息だった。それが奴の薄い唇から漏れると同時に伸し掛かる身体がびくりと跳ね、ねっとりとした熱い何かが自分の肉尻の奥に広がっていく。
「っ…ッッ…!」
 内部ではびゅるびゅると大量の放出が始まっていた。俺自身でさえ見たことも触れたこともない場所にコールタールに似たどろりとした汁がかけられ、柔らかなひだに男の種がじっとりと忌まわしくしみていく。
「っっ……」
 必死に声を漏らすまいと唇を噛む俺の背を奴の手が撫でさする。眼の淵に溜まった涙を壁に頬を擦り付けることで拭い、嗚咽で震えそうになる喉を唾を飲み込むことで押し止める。互いの荒い吐息が響く中、善良な妻の顔を思い浮かべる。帰る場所があるという思いだけが、自分を唯一照らす光のようだった。