霜の巨人とアスガルドの兄弟

「くっ…!」
憤りながら雷神ソーは神々の見守る前でじゃらじゃらとなる鍵の束を腰につけ、精緻な作りの花嫁のヴェールでその身体を覆われました。女神から借り受けたブリーシングの首飾りをヘイムダルのいう"かわいらしい首"にかけ、用意された豪華なブローチをピンで胸元に留められます。まばゆい輝きを放つ黄金の髪は丁寧に編みこまれ、髭をそった口元は鉱石でできた顔料によって赤く彩られました。大柄ではあるものの青く澄んだ瞳をもつ美しい花嫁が完成し、みなはほっとしました。分厚いヴェールのおかげで傍目には雷神ソーだとは分かりません。侍女の姿に変化したロキがにやにやと意地悪く笑みながらソーに話しかけます。
「兄上…なんて魅力的な。あの老いぼれ王もあなたを気に入ることでしょう」
からかってはいるものの、弟王子の胸中は複雑でした。みずからの失態で昼寝の間に大事なムジョルニアを盗まれたとはいえ、愛するものを花嫁としてささげるのです。聖式で花嫁を清めるためのハンマーがソーの手に渡されるまでのことだとは分かってはいますが、気が気ではありません。巨人殺しのムジョルニアがなければアスガルドの城壁がこわされ巨人たちによって神々の館は大地に沈んでしまいます。ヨトゥンの血を引くロキでも巨人の王が隠した8マイルも下にある大地からハンマーを掘り出すことはできません。スリュムの王からは盗んだハンマーを返すかわりに花嫁としてシフを渡すことを望まれましたが、老いた醜い巨人の王に嫁ぐなど彼女が了承するはずもありません。結局屋根を銀でふいたグラズヘイムの館にすべての神が集まり、厳粛な相談会が行われました。その中で見張り番のヘイムダルがソーを花嫁のヴェールでくるもうと言い出しました。みなは笑いましたが彼はいたって真剣でした。ソーをあらゆる花嫁にふさわしいように美しく装うこと、腰にはじゃらじゃら鳴る鍵の束をつけ、その身の丈を覆うほどの長い衣装を用意し、精巧な作りのブローチは必ず胸にピンで留めること。こうした細かい注意は神々や女神を大いに喜ばせましたが、その言葉は力のあるものでした。こうして誰よりも雄雄しくたくましい雷神は美しい花嫁に化け、ロキとともにヨトゥンヘイムへと旅立ちました。
 
長旅の末、手綱をひいたヤギ達によって館に着いたソーは霜の巨人の王であるスリュムから熱烈な歓迎を受けました。王の館は山のような宝石とうずたかく積まれた金銀でかざりつけられ、長いすの上にはふかふかの麦わらが敷かれ、召使いたちによってたくさんの素晴らしいごちそうと飲み物が並べられていました。長旅からくる空腹と筋骨逞しい自分が花嫁にならねばならぬ怒りからソーは丸ごとの牡牛と八匹の鮭を食べ、角杯に入った蜜酒を三杯も飲み干しました。その姿を見て怪しむスリュムにロキは"シフ様はあなたを想って何もいままで召し上がらなかったのです。それはそれは婚礼の夜を楽しみしていましたから"と告げました。途端上機嫌になった王は大きなわし鼻をふくらませながらヴェールでつつまれた花嫁を抱き寄せ、口付けようと顔を近づけました。そのさまを見て侍女に変化していたロキはこれですべてが終わってしまったと悲嘆にくれました。誰よりも雄雄しく勇ましいソーがそのようなことを許すはずがありません。しかしソーはなんの抗いもなくその口付けを受け入れました。ロキは自分のヨトゥンの血が暗くうごめくのを感じました。ヴェール越しに覗くソーの肌は上気し、頬は朱で染まり、びくびくとふるえながら縋るように巨大な王の身体にもたれかかります。花嫁のそのうぶな姿に口付けがより深くなり欲望に濡れたまなざしでスリュムがソーを見つめます。柔らかな舌と唇が老いた巨人のぬるぬるとした唾液にまみれながら何度もはまれ犯されていきました。
「なんと美しくみだらな花嫁よ…」
そう喜びながら肉付きのいい尻を大きな手で卑らしく揉み始めます。王は婚礼の夜にすぐにでも子が成せるようにと、花嫁が飲む蜜酒に強い秘薬である鳥の心臓や兎の子宮を乾燥させひきつぶした粉を混ぜていました。女巨人でさえ含めば倒れるほどのものを彼らより小さなソーが耐えられるはずがありません。身のうちはたぎるようにほてり自分を犯すものが何者かもわからず、ただまさぐられては身をふるわせ熱く甘い声をあげてしまいます。ちょうどそのとき、不運にも花嫁と花嫁の付き添いの元へスリュムの妹が近寄ってきました。彼女は花嫁の持参金に大変熱心で、"もしもあんたらがわたしの誠意と愛情を欲しかったら、その首にかけた本物の金の首飾りをわたしに寄越さなくちゃね"といいました。ロキは毒のように甘い声でハンマーを花嫁の膝に置けばすぐにでも渡すことを約束しました。女巨人は聖式のために用意されたムジョルニアを喜びいさんで取りにいきました。
その頃巨人の王は愛しい花嫁の身体がずいぶんと柔らかさのないものだということに気付きました。自分の大きな手におさまってしまう小さな花嫁の顔をじっと見つめ、目元を深く覆うヴェールをずらすと濡れた青い瞳と見事な黄金の髪があらわれました。そこでようやく王は自分のもとめた女神ではないことに気付き、しかもそれが巨人殺しのソーだということが分かりました。怒りが王を支配しましたが憎い雷神の唇はいままで味わったことのないほど甘く、吸い付くような白肌も女と遜色のない大きな肉付きのよい尻もすぐに自らの欲望でつらぬきたくなるほどのいやらしいものでした。王は自分の猟犬のために金の糸であんだ首輪と皮ひもを花嫁の首につけようと考えました。館から出られぬようにとじこめ、ことのほか気に入ったこの男を自分の花嫁としてたっぷりと愛でるつもりでした。
「…んっ…あっ…」
ソーは荒れた海に浮かぶ小船のようにこころもとない自分を感じていました。いつのまにか身に着けたヴェールはとりはらわれ、足の付け根にまで老いた巨人のしわがれた大きな手が入りこみ股を何度もなでさすります。そのたびにびくびくと身体がふるえ、くちゅくちゅと水音を立てながら分厚い唇に口を吸われ舌で口腔をなめしゃぶられてしまいます。このままこの身が熱く溶けて消えてしまうのではないかと恐れるソーにその時触れるものがありました。慣れ親しんだ金属のかたい槌が膝の間に置かれたのです。懇親の力をふりしぼりそれを掴んだソーは不遜なまねをする巨人の頭を叩き潰そうと振り上げました。しかしそうする前に巨大な青灰色の腕が王の腹を裂き臓腑をひきずりだしました。祝宴にあつまった巨人の仲間たちから悲鳴があがり、王の妹は慈悲をもとめましたがその腕の主が憐れみをしめすことはありませんでした。血のたまりができた高座にもたれながらソーは館の床に大勢の死体が転がるのを見つめていました。そうして長いすの上で気を失い、その熱いからだは青灰色の肌を持つ異形の巨人に抱えあげられました。

こうして無事ムジョルニアを取り戻したソーでしたがすべてが元のとおりとはいきませんでした。婚礼の祝宴がおこなわれた夜、スリュム王の館で巨人たちの死体にかこまれながらソーは弟王子の花嫁となりました。血塗れのヴェールをかぶせられ巨人と化したロキのとても大きな肉棒にその身を貫かれたのです。秘薬でほうけた体でも受け入れるには強い痛みをともないましたが、すべてを受け入れたあとには女神たちとの情交ではあじわえないほどの激しい肉悦が待っていました。ロキは自分の花嫁になることをソーが求めるまで子種を柔らかな肉尻にそそぎつづげ、女としての愉楽をすっかり覚えたソーは自らロキの大きな体にすがりつきその逞しい男根を互いの精がかれるまで求め、弟王子の求愛を受け入れました。しかし元の姿に戻ったロキとアスガルドに帰還してからは表向きは弟を避けるようになりました。自分を花嫁にしたヘイムダルを恨みがましい目で時折見つめるようにもなりました。雄雄しく武勇に長けた好漢でもあるソーでしたが夜は屈辱とともに巨人の王との婚礼で用意されたヴェールをかぶり、素晴らしい模様を掘りこんだ金の首飾りをかけ、じっと花婿があらわれるのをまたねばなりません。誰もが憧憬のまなざしでみるほどの均整の取れたソーの逞しい体は弟に抱かれぬ晩があるとその身をうずかせるようになりました。巨人の姿でも常の細身な美丈夫の姿でもロキの肉棒はとても大きく卑らしいもので、花嫁としてのヴェールをかぶりながらそれに犯されるといつもソーは気持ちよさで何も考えられなくなりました。そうしてたっぷりと犯されたあと、ムジョルニアを盗まれた自分の愚かさをあふれる涙とともに嘆くのでした。