「おお、ロキ。今朝も早いな。ともに朝食を取るか?」
満面の笑みで兄が私に話しかける。
ソーの日課である自室での鍛錬。仮想の敵を相手に組手を続ける単純なものだが、
目覚めとともにこれをやると思考が冴えて良いらしい。組手の相手に乞われた事もあったが、丸太のような二の腕から繰り出される凶器ともいえる拳を早朝から受け止める気には到底なれなかった。
「…ッ…ッ」
少し肌寒くなった秋風の中で兄の唇から白い呼気が幾度も吐き出される。
鍛錬を続けるソーの機嫌は良い。それもその筈。溺愛する弟である私が最近良くここを訪れるようになったからだった。
"お前とともに朝食を取ると一段と美味く感じるな…!"
恥ずかしげもなくソーはそんな台詞を口にする。愚かな兄、自身の持つハンマー同様に頭の鈍い兄。子供のように素直な兄。私を純粋に愛する兄。――どれも時に煩わしく、時に好ましく思える部分だった。
「そういえばお前がくれたこの上衣、本当にいいな…!」
鍛錬を続けながら嬉しそうにソーが口を開く。
「そうだろう、兄上。地球でしか手に入らないものなんだ」
自分の真の目的を前にゆったりと言葉を交わす。
「生地が薄くて動きやすい上に…筋肉のつき方も良く観察できる…っ…」
たまたま地球に降り立った際、"ジム"と呼ばれる場所で兄と同じくらい屈強な男たちが身に着けていた上衣。両脇が大きく空いた酷く薄い生地で作られた袖のないそれは、すぐに私にある妄想を起こさせた。アスガルドに戻り、ソーに数枚を贈ったところ、酷く兄は気に入り、早朝の鍛錬で良く身に着けるようになっていた。
「ふっ…、ふッ…!」
短い掛け声とともにソーが拳を繰り出す。酷く脇の開いた部分から真っ白で豊かな胸板とぷるん、と敏感そうな桃色の乳頭が勢いよくブルッ…!と顔を出す。体毛のほとんどない柔らかな脇のくぼみも丸見えで、隠された部分を思い切り視姦出来る環境に自分の口角が僅かに上がっていく。鍛錬が終盤になり、汗が滲み始めた頃を観察するのもまた楽しいひと時だった。真白く薄い上衣が汗で透けて、薄赤く上気したむちむちの大きな胸と桃色の乳頭の突起が、ぴったりと貼りついた布地越しに露わになり、素裸よりも卑らしい姿を私に見せつける。
"この煽情的な上衣の下衣版もあればいいのに"
魅惑的な兄の肢体を眺めながらそう考える。だがもし本当にそんなものがあったなら、自分の欲望を押しとどめる自信がなくなるのかもしれなかった。誰よりも憎くて愛しい兄。妄想の中では何度も抱いた身体だった。私が贈ったこの上衣を身に着けた姿で犯したこともあった。あのむちむちした卑らしい雌尻を持つ下半身に何も纏わせず、酷く布面積の少ない上衣のみを着用したソーに伸し掛かり、夢の中ではけだもののような交尾を繰り返した。真白く薄い上衣を何度も私の吐き出したものでけがし、発情で勃起した桃色の乳頭を布越しにつまみ、こねくりまわしながら女のように大きな肉尻を中で感じるようになるまでずんずんと貫き続けた。ソーの姿、ソーの匂い、それを連想するだけで酷く劣情を覚えてしまう。成人する前から兄を愛していることには気付いていた。これまでの兄弟関係を壊してしまうような、強引な奪い方はしたくはなかった。あくまで同意の上で、関係を変化させたかった。だが鈍いソーに自分がいつまで我慢できるのか。危うい均衡をいつまで楽しめるのか。
時々自身でも分からなくなってしまっていた。
「ほら、兄上」
金属で出来たタンカードに注いだ水を兄に差し出す。鍛錬を終えたソーが汗まみれの太い首を嚥下させながら美味そうにそれを飲み干す。間近で見ても肌理の細かい、手のひらに吸い付きそうな肌だった。程よく焼けた二の腕と真白い胸の対比が淫靡で、汗で透けた桃色の敏感そうな乳頭が鍛錬で刺激されたのか、少しぶるりと突起を肥大させていた。
「今日は何が食べたい?ロキ。料理長に何でも頼んでやるぞ」
もう蜂の巣を模したウェーファースに喜ぶ子供じゃないんだ。そう毒づきたい気持ちを抑え、簡単な食事の希望を口にする。側にある亜麻布を手に取り、無言で兄の肌に触れる。長く豊かな漆黒の睫毛が眼前でそっと伏せられ、気持ちよさそうにソーが私に汗を拭われる。
「………」
いつでも関係を変える準備は出来ていた。太陽の輝きを持つ眩い戦神。恋人として兄を奪うのはこの私の筈だった。なのに何故今も手を出すことが出来ないのか。自分の秋波に気付かぬ鈍い男が時折恨めしくもなってくる。
「んッ……」
わざと自分の整えられた長い爪で布越しの乳頭を軽く引っ掻く。酷く敏感な肉の突起がそれだけで、ぶるんっ…!と卑猥に勃起してしまう。肌の色がくっきりと浮き上がるほど、汗で透けた薄い布地越しに隆起する胸の先端が、むちむちとした豊満な胸の上で戸惑うようにふるりと揺れる。
「さあ、行こうか。兄上」
鍛え上げられた上半身に反して細い腰を意味ありげに撫でつける。
「あ、ああっ…」
雌として悪戯されたことに気付かぬ兄が与えられた刺激に無意識に反応してしまい、燻る熱を私に気付かれぬようわざと男らしい声を出す。汗にまみれた上衣を着替えるよう進言すると、素直に頷き、私の前で逞しい上半身をあらわにしていく。
いつか両方の胸の先端を私に噛むよう甘く乞うソーの姿を妄想する。あの過敏な反応を見るとそれが遠い夢でもないように思えていた。着替えを終えた兄が上機嫌で微笑みかける。それに応えるように微かに微笑み、大広間へと共に向かうのだった。