僕の恋人はとても思慮深い。滅多なことでは声を荒げたりしないし、普段はひどく大人しい。
だが交際を続けて行くうちに分かった事がある。
彼は何か不快に感じることがあると少しだけ眉を寄せる。ただそれも一瞬で、決して周囲のスタッフや共演者に迷惑をかけることはない。
今年のコミコンでの他愛のないタイカとのじゃれ合い。お互いにプロモーションを盛り上げようとし、実際会場も大いに盛り上がった。
パネル席の右隣にいる彼の浅黒い肌にキスをして、抱き合って、その後に左隣のトムを見ると、彼は――僕の恋人のトムは一瞬だけ眉を寄せた。
まるで昔見た、ブリトニーとマドンナのキスで苦い顔をしたジャスティン・ティンバーレイクみたいだ。おどけた僕はそう思った。それに映画の中では僕もトムも演者としてキスやそれ以上のこともする。気にすることはない。その時の僕はそう気楽に考えていた。
「盛り上げることが好きなんだね」
久しぶりに共にしたベッドの中で彼が呟く。
「ハハッ。そういう性格だって知ってるだろ?」
片目をつぶってみせると気弱そうな笑みがトムの穏やかな顔の中に浮かぶ。6年前の「マイティ・ソー」の頃からずっと同じだった。最初に出会った頃から彼は控えめで、3歳年上なのにまるで弟みたいで、撮影所でもプライベートでも常に自分がリードしてきた。ただ初めて同性の恋人が出来て、その事だけはトムに頼らざるを得なかった。自分でスキンをつけることは出来ても、自分で自分の"そこ"を慣らすことは中々出来ない。痛いといえば彼は必ず行為を中断してくれる。まるで優秀な歯科医みたいだ。だがその優しさのせいで、初めて繋がるまでとてつもないほど長い時間を要してしまっていた。それから徐々に行為に慣れて――今ではトムと愛し合う時もちゃんと自分がリード出来るようになっていた。ただ余裕があるのは最初だけで、繊細な愛撫が始まると段々と思考がぼやけてきて、気付くといつも酷く大きな声で喘ぎながら彼に貫かれていたりする。自分の中が恋人の出した精液でいっぱいになって、彼の白い顔が興奮で薄赤く染まっているのを眺めると、どうしても口元が緩んできてしまう。男として複雑だけど幸せなんだ。この気持ちがちゃんと彼にも伝わればいいけど――。
「知ってるよ。そういうところも大好きだけどね…」
「なら…」
てっきりベッドの中でのことを褒められたと勘違いした僕は、普段通り酷く奔放に彼を誘ってしまった。たっぷりとトムの精液でぬるんだ穴を見せて、忠実な飼い犬みたいな目で彼を期待と共に見上げて。
「ああ、クリス…君は本当に…」
「ッッ…!」
僕の重量のある肉尻に、再度熱を持った彼のペニスがゆっくりと入ってくる。長いけれどそんなに太くはなくて綺麗な色をした、まるで彼そのもののような男根にひだをこするようにして犯される。
「んっ…、んっ…」
誘ったはずなのに、いつも挿れられると複雑な顔をしてしまう。だって昔は僕が"彼女"達にそうする側だったんだ。でも知ってるんだ。僕が悔しそうな顔をすると彼はとても興奮する。奔放な恋人をやり込めるのがトムは好きなんだ。中出しだって後で大変なことは分かっているのに、いつもそれを強請ってしまう。とても優しい僕の恋人はその時だけ無慈悲になる。気が変わって外に出す様に頼んでも決してやめてくれないんだ。それで僕もその豹変ぶりに興奮して、嫌がりながらたっぷり種をつけられてしまう。まるでレイプされた後みたいだ。行為が終わるといつもそう思ってしまう。でもぞくぞくとした快楽が絶え間なく僕を襲ってきて、股の間から子種を垂らしながら涙目で彼を見つめてしまうんだ。その時のトムの顔。なんていったらいいんだろう。まるでその時だけはあの無慈悲なロキそのもので、僕は自分がソーになって犯されてしまったような、そういう気分になってしまうんだ。
「あっ、あっ…!」
僕の酷く大きな肉尻に最後までペニスが挿入されると、それまでのゆったりとした仕草が嘘のように小刻みな抜き差しがやってくる。中がすごく感じるんだ。いつもそう口に出してしまう。かきまわされるとおかしくなって、汗だくですがりながら喘ぎ続け、激しく最奥を突かれ、何度も何度も中の肉ひだがびくんっ、と達してしまう。
「あっ、あっ、あっ、ああっ…!」
でも今日はいつもより動きが乱暴で、ねっとりと執拗で、僕は自分の勃起した肉棒をぷるぷると揺らしながら、激しい抽挿に耐えるしかなかった。
「んっ!んうッ…!」
彼に会えない間、欲しくなると僕はバイブで自分を慰めた。実際に彼の前でどう慰めるのかを見せたこともある。トムの名前を呼びながら自分でバイブを入れて、中で振動する度にびくびくと身悶えて――。達したあと、ローションまみれのバイブを引き抜かれてすぐに僕は恋人に犯された。目も眩むような快楽だった。全てが終わると僕は使用済みのバイブが放置されたベッドの上で、大量の子種を垂らしながらびくびくと痙攣を繰り返した。閉じきれない穴からは大量の子種がぶびゅっ、ぶびゅっ、と溢れ、彼のペニスの形に広がった媚肉は卑らしい収縮をいつまでも恋人に見せつけた。もうやめて欲しいのにトムはやめてくれなかった。ぶちゅっ!と大きな結合音がして、再度僕は酷く大きな肉尻を勃起したペニスで押しつぶす様に犯された。彼は僕を犯した玩具に嫉妬したんだ。どろっ…とぬぐっても取れないほど中の肉ひだに中出しされたあと、漸く僕は気付くことが出来た。
「ねえ…」
涙目のまま、笑みを湛えながら恋人に呼びかける。優しく抱かれても、酷く抱かれても、驚くほど感じてしまう。正常位でつながり、まるでレイプされるように激しく犯されながら、汗の滴る彼の顎に指を這わせる。
「もしかしてこの前の事、気にしてるのかな…」
やっと最初の"盛り上げる"という言葉が、どの出来事を指していたのかに気付く。
「……ごめん」
一瞬動きが止まり、弱弱しい謝罪とともに複雑な表情を彼が浮かべる。饒舌ではない自分の恋人は時折行為で意思表示してしまうことがある。特に嫉妬になるとその行動が顕著になる。自分の奔放な振る舞いのせいで、僕は僕自身の身体で責任を取らされることもままあることだった。
「……」
無言のまま、相手の頬を撫で、汗の味がする彼の細く高い鼻に口づける。
作品で彼が演じる役のヒロインに嫉妬することがないといえば嘘になる。多分彼もそうだろう。だが僕たちは常に多忙で、中々会う時間を作ることが出来ない。今日の強引な抱き方が、例え恋人の些細な嫉妬から来るものだとしても、無用な不穏は生じさせたくはなかった。
「僕こそ悪かったよ。少しふざけただけなんだ」
秀でた額を自分の額にすりあわされる。
「いいんだ」
許しを受け、優しく抱きしめると嬉しげな吐息が無意識に彼の口から上る。お互いの顔を見て、笑い合って柔らかなキスをする。挿入されたままの恋人の長くて硬いペニスが酷く気持ちよかった。また奔放すぎると注意されそうだと思いながら、右手で自分の右足の膝裏を抱え、大きくもちあげる。たっぷりと犯して欲しい。そう声に出してねだると、トムのペニスがより膨張し、その膨らむ動きで中のひだがこすれ、はしたない声が溢れてしまう。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
僕たち以外に誰もいない部屋でびっちりと肉穴を拡げられ、うっとりとした顔で酷く大きな肉尻を犯される。
「んっ…!んんっ!」
彼の繊細な指が僕の左手を掴み、僕自身のペニスを握らせる。
「あっ…、あっ…っ…!」
恋人の望むままに浅ましい早さで自分の竿を抜き、種付けと同時に達することが出来るように時々根元を掴んで調整する。
「あっ、あっ、いいっ、ああッ」
彼は何度でも僕の中で達し、種をつけたがる。恋人の穏やかな風貌に不釣り合いな酷く濃い精液をびゅくびゅくと肉ひだにかけられると、気が狂うほど気持ちが良くなってしまう。今日もすでに一度絶頂に達してしまっていた。久しぶりの中出しを僕は自分の両脚を持ち上げた卑らしい姿で味わい、ぐりゅっ、と濃い精液が敏感な年輪状のひだにぶちまけられる感触を悦びながら受け入れ、はしたない声を上げ続けた。
「あっ、あっ!トムっ…!ほしっ…欲しいんだっ…」
よりぐりっ、と右足を上に持ち上げ、ずぬずぬと貫かれ続ける肉穴を丸見えにする。
「あっ!あっ、あっ、ああっ!」
ぬめりきった自分の竿をこする左手が限界を現していた。
「欲しいっ…ほしいっ…出してくれッ…中にたっぷり…」
その瞬間、荒々しい抽挿が始まり、僕は肉付きのいい自分の身体をぶるぶると揺すられてしまう。
「あっ!あっ!あっ!あっ!」
恋人が重く覆い被さる。後は無慈悲に中出しされるだけだった。
「あっ、あっ、ああッ」
捕食者としての憐れな悲鳴をあげながら、ずんずんと激しく豊満な肉尻を犯される。何度もぬめる肉ひだがぐちょぐちょにかきまわされ、最奥を力強くつつかれ続ける。
「あっ…!トムッ…!あっ!あッ…!」
結合した身体が熱く揺れ動く。
「ああッ…!!」
より奥をぐぬっ!とつつかれる感触があった。途端あえぎながら年輪状の肉ひだが絶頂でにゅぐんっ…!としまってしまう。
「ああっ、あっ、あっ!」
その締め付けた敏感なひだの中で膨らんだペニスがせわしなく前後する。気持ち良すぎてどうにかなりそうだった。淫らな体位であひあひと声をあげながら激しく奥をもう一度突かれてしまう。
「やあああっっ!」
その瞬間、重なった互いの身体がびくりと震える。
「んうッ…!」
だらしない笑みを浮かべ、自分の竿からびゅるびゅると勢いよく射精しながら、肉穴でトムのはぜた精液を受け止めてしまう。
「あっ、あっ、あっ…」
中出しされてとろけきった顔を執拗にのぞかれながら、ぶちゅんっ、ぶちゅんっ、としめつけた肉ひだの中に子種が放出され、絶頂の余韻でびくびくと身体を震わせながら、恋人に種をつけられ続ける。
「クリス…」
より奥で放出したい恋人が強く腰を突き入れ、僕を犯す。
「ああッ!」
ずにゅっ…、とすっかり彼の竿の形に変わってしまった腸道が悦びながら膨らんだペニスを受け入れる。そうして孕むほどの中出しがびゅくびゅくと再度始まり、僕は彼にすがりつきながらはしたない喘ぎ声を漏らし続けてしまう。
「あっ、あっ、あっ、ああっ」
ただでさえ恥ずかしいほど大きな肉尻が、種付けのせいでまた大きく育ってしまいそうだった。そうして恋人が不在の時は、そのより大きくなった肉尻でバイブを卑らしくくわえてしまいそうだった。トムのペニスが欲しくて身悶える自分を想像する。きっと発情してバイブで慰めたことを知れば、また恋人に責められ犯される。彼の前で無理やりバイブを挿入された状態で跪き、彼の逞しいペニスにうっとりと頬を摺り寄せ、あさましい口淫を始めてしまうかもしれなかった。バイブの振動音を響かせながら、恋人の精液で大きく育った尻をぶるぶるとみだらに揺らし、卑らしい形をしたバイブにずぽずぽと犯されている肉穴をみちっ…、と興奮する彼の前に晒し続けてしまうかもしれなかった。
「あっ…」
結合した肉穴からどろりと種付け済みの精液が垂れていく。すべてを味わいたくて指でそれを掬い、彼に見せつけながら口に含む。理知的な彼の眼差しの中に野卑なものが混じっていく。激しいピストンが再度始まり、嫌がりながらもびっちりと拡がった肉穴が逞しいペニスを嬉し気にくわえてしまう。
「んっ!んっ…!」
どうして自分の恋人が些細なことで嫉妬を覚えるのかが不思議だった。こんなに好きでたまらないのに。心の中で思った言葉がそのまま口に出てしまったのだろう。酷く嬉しそうな顔で唇をついばまれ、僕はやっと自分の失言に気付くのだった。