「ソ、ソ、ソーッ…!何してるの!? 」
僕の部屋の中で僕の間抜けな悲鳴が響く。
動物柄のクッションと毛布、温かみのあるオーク材のベッドフレーム。自分好みの寝具に囲まれて安眠を貪っていた僕は、酷く重い何かに伸し掛かられて目を覚ました。
「なにって…昼間お前はアスガルドのコインでは家賃を支払えないといっただろう?」
確かにいった。数億兆ドルに匹敵するアスガルドの硬貨でも、地球では両替出来ない。ああ、でもその前に何なんだ。このシチュエーションは。ハーフパンツとTシャツの彼が僕の上に馬乗りになっている。あの酷く大きな、むちむちとしたお尻が僕の股間の上に乗せられて、神話の中の女神が身に纏ったアンブロシアみたいに、今まで嗅いだことのない凄くいい香りがして――。女の子みたいに長い睫毛だって反則だ。澄んだ空に似た濃い青の瞳もいつだって僕をドキドキさせる。異世界の王子だった彼は本当にハンサムで強くてかっこいいんだ。なのに少し天然で、そのギャップが可愛くて――。
「うわっ!」
どんどん体温の上がっていく僕の前で、何食わぬ顔でソーがTシャツを脱いでいく。
「やっ、やめなよっっ…!」
焦り過ぎた僕は自分のふっくらとした指で彼の胸を触ってしまった。
「あっ…!!」
驚く僕の声を余所に、まるで快晴の空みたいに陽気な笑顔で彼がほほ笑む。初めて触った彼の胸は予想よりも柔らかかった。でも女の子のマシュマロみたいな胸じゃない。ちゃんと筋肉があってその上に適度な脂肪がついていた。ただ酷く大きい。その酷く大きな胸の上に桃色の先端があって、僕の指の中でふるんっ…と震える。
「お前はカボチャもアスガルドの硬貨もいらぬというのだろう?ならば対価を払おうと思ってな」
「ッッ…!」
ハーフパンツだけを身に着けた彼が、誘う様に僕の上で腰を揺らす。駄目だって、君は王子様なのにこんなこと…僕の頭の中は抵抗の言葉で一杯だった。なのに身体は、特に一番体温の上昇を感じる部分が、彼のむっちりとした豊満な臀部の下でどんどん容量を増していく。
「ダリル、気にするな。前の同居人にもこうやって支払ったんだ」
「……」
駄目だ、駄目だ、駄目だ。自戒を促す脳内で見知らぬ誰かへの妙な嫉妬がむくむくと膨らんでいく。
「あっ…」
逞しい二の腕が僕の頭を抱え込む。髪にじわりと温かい何かが当たる。彼の唇だ。それを自覚してしまうともう駄目だった。
「ダリル…ッ…んっ…」
節制しているとはとても言えない僕の身体を彼が撫でる。赤ん坊みたいに音を立てて、彼の弾力のある乳首にしゃぶりつく。彼はどこまで対価を支払う気なんだろう。僕はどこまでそれをもらい受けるつもりなんだろう。
「あっ…あッあッ…!」
職場の仲間達はいつも僕をからかった。妙な神様に居つかれた可哀想な一般人。彼らから見ると僕はそういう位置づけでしかないんだろう。でも例えそれが事実でも、彼との同居生活は楽しかった。食卓のテーブルの向こうで、彼が笑う。思い切り魅力的な笑顔で。その度に思うんだ、これは夢じゃないかって。夢じゃないならこれからも続いたらいいのにって。
「あんっ…!んんっ…!」
乳頭のぷっくりと膨らんだ先端を舌でぐりぐりと嘗め回す。それが気持ちいんだろう。僕の胡坐をかいた股ぐらの上でむちむちとした大きな肉尻が浅ましい速さでぶるぶると揺れる。彼のハーフパンツの生地も僕のパジャマのズボンも決して厚い生地じゃない。だからこそ彼のむっちりとした豊満な尻肉の重みを鮮明に感じてしまう。僕がこうなのだから、彼も僕のあれが硬く膨らんで、それが押し当てられていることに気付いている筈だった。どうしよう。どうしたいんだろう。頭の中がずっと混乱状態だった。でも自分の唇で味わう彼のむっちりとした大きな胸はすごく卑らしくて、美味しくて、ぷるぷるとした弾力のある乳首をいつまでも吸い続けてしまう。
「ダリル…」
どこか声の中にからかいが混じる響きがした。この声を出すときの彼は決まって子供じみた悪戯を仕掛けてくる。
「あッッ!ソーっ…!!」
焦る僕を余所に彼の豊満な肉尻がそのむちむちとした尻たぶで僕の大きくなってしまったものをにちっ…と左右から挟み込む。
「んっ!くっ…!」
耐えるのが精いっぱいだった。僕のあれが布地ごしに強く彼の尻肉でこすられ、呆気なく内部で解放されてしまう。
「はっ…はっ…」
「ふふっ…」
ああ、そうやって笑うのは反則だよ。どんなに下らない悪戯をされたって、僕は次の瞬間に許しちゃうんだから。
下着の中が温くぬめる感触が気持ち悪かった。でも間近で見る彼の笑顔に僕は夢中で、自分の唇をおずおずと彼の唇に近付けていった――。
「起きろ!ダリル!!」
「うわッッ!なっ!なにっっ!? 」
ベッドから転げ落ちなかっただけでも褒めて欲しい。急に起こされた僕は無意識にかき集めた毛布で自分の身体を隠しながら、部屋に現れたソーを見つめた。綺麗なプラチナブロンドの長い髪を黒い革紐で一つに束ね、Tシャツとハーフパンツを着込んだいつも通りのラフな姿。でもよく見るとハーフパンツは夢の中で見た柄とは別のものだった。Tシャツも白ではなく黒だ。いつの間に着替えたんだろう。焦りながらもどこかぼんやりと考える僕の前で彼がほほ笑む。
「ここ一か月、太陽の熱で焼いた肉がやっと完成したぞ!今日の朝食はアスガルド流ローストビーフだ!!」
「えっ!虫のたかってたあれ?いっ!嫌だよ!食べたくなっ…わーーーーッッ!!」
毛布で芋虫の様に丸まった僕の身体が担がれる。彼とそう身長は変わらないのに相変わらずすごい怪力だ。ふと毛布から垂れた自分の脚が目に入る。彼と同じようにハーフパンツを履いた足。恥ずかしい名残が下着の部分に残る感触は今も現実的なものだった。でもよく見れば二人とも身に着けてる服が違うし、彼から昨日のような嗅いだことのない香りもしない。ちらりとベッドを振り返る。毛布がない事以外は大幅にベッドシーツが乱れた跡も見受けられなかった。つまり、僕は夢を見て、下着が濡れてるのはいわゆる夢精で――。
「……」
「ん?どうした?急に大人しくなったな」
豪快に笑いながら彼が担いだ僕の身体を軽く叩く。どういう顔で彼の顔を見返せばいい?どういう顔も多分無理だ。
そう結論付けた僕はつっつかれたカタツムリみたいに自分の赤らんだ顔を毛布の中に隠すのだった。