「兄上、いつも言っているだろう」
桑の実の黒い果実を手の上で弄びながらロキが呟く。二人の為に用意された寝所には梵香が炊かれ、鉛の甕(かめ)で保管されていた新鮮な香油が芳しい香りを部屋の隅々にまで行き渡らせていた。
「閨で私を呼ぶ時は――」
「分かっている。ロキ、我が弟、"我が夫"――…」
良く晴れた冬空に似た硬質な美貌に笑みが浮かぶ。白く形のいい指が自分を招き、近づくと寝台の上で胡坐をかいた弟の上に跨らされ、ゆっくりと寝衣ごしに豊満な臀部を撫でられる。半年ほど前、国を挙げての盛大な婚姻式が行われ、自分のすべては弟のものになった。この異界から来た義弟を幼子の時からずっと庇護し、慈しんできた。初夜の晩に"女"として貫かれ、それに男としての屈辱を感じないではなかったものの、愛する者と一つになれた喜びは何物にも代えがたい幸せだった。子供時代と何一つ変わらず、今も弟を深く愛していた。だがロキには多少なりとも不満があるようだった。
「下の中庭で採れたばかりの実なんだ」
そういって手にした桑の実を軽く口に押し込まれる。弾力のある小さな実を噛むと酸味の少ない優しい甘みが口中に広がり、思わず頬を緩めてしまう。
「ふふっ…同じ顔だ」
「?」
「子供の頃も兄上は嬉しそうに庭で採れた桑の実を食んでいただろう」
「ははっ、そうだったな。一日中ヴォルスタッグ達と庭を駆け回って…腹が減れば果樹園の果実を盗んで…母上を大いに困らせていたものだった」
「病弱な私はいつも兄上達を眺めていることしか出来なくて…でも必ず一番大きくて熟した実を取った時は私に持ってきてくれるんだ。それが嬉しくて…」
「……ッ」
弟の紡ぐ、心地よい音色のような柔らかな声とは裏腹に、酷く熱くいきりたった一物が腰布の隙間からこじあけるようにして肉穴に押し当てられる。油の塗られた長大なロキの男根はまるで大蛇のようで、淫らな興奮で思わず喉を鳴らしてしまう。最近はにゅぐりと肉厚な肉の輪に挿入されるだけで身体がはしたなく達するようになってしまっていた。腸道の中の突起状のひだひだをいつも一気に弟は押し開く。敏感な肉のびらびらを太く逞しい男根でずりゅりと貫かれる心地は強烈で、眦に涙をため、熱くあさましい雌声をあげながら、常にびくびくと自分を貫く男の体に強くすがってしまっていた。伴侶である弟を房事でどう悦ばせばいいのかは分からなかった。なので常に自由に身体を触らせ、性交に使う恥ずかしい穴までも広げさせられ、恥部という恥部を弟に視姦されていた。そうしてむくむくと勃起したロキの巨大な肉棒におずおずと口づけ、拙い口淫で妻としての役目を果たした。
「んっ…」
口腔に残った果汁までも絡めとるようにして唇を貪られながら、今夜もまた思うさま貫かれ、中の媚肉を貪られる期待と不安に熱く瞳が潤んでいく。
「兄上…私はもっと…この部屋以外で…私を"夫"と呼ぶ兄上が見たいんだ…」
「あッッ!あっ…!」
待ち望んだものが徐々にむっちりとした桃色の肉の輪を押し開き、侵入してくる。大きすぎる自身のむちむちとした白い肉尻が挿入でぶるんっ!と揺れ、一気に年輪状のひだひだを貫かれる予感に浅ましく濡れた舌がぶるりとはみ出てしまう。肌が透けるほど薄い白絹で出来た寝衣の上から腰をつかまれ、一息に胡坐をかいた男の上に自分の大柄で肉付きのいい身体を落とされる。
「んううっ!!」
長年の執拗な調教ですっかり弟の受精穴と化した肉穴が嬉しそうにずるりと犯され、ごりごりと巨大な亀首に敏感なひだひだを奥の奥まで卑らしくこすられる。
「あうっ……!」
挿入で呆気なく弾けた自分の肉棒からどろりと精が垂れ、互いの腹を穢していく。
「私の妻であることをこの場所以外でももっと…示して欲しい…」
過度の快楽にとらわれ始めた俺は何故ロキが切なげに呟くのかが分からなかった。
「あっ!あっ!ロキッ…!」
名を呼べば、激しい性交とともに労わるような温かな口づけが齎される。もっと求めて。そう小さく囁かれ、弟の首に太い腕をまわし、自らも淫らに尻を振り、挿入された伴侶の肉棒に夢中になってしまう。その夜、何度達したのかは分からなかった。座位の体勢で幾度も中に出された俺はたっぷりと弟の子種を肉尻に注がれた姿で気を失い、ロキの痩躯に抱かれたまま眠りについた。
「父上、リアで不穏な動きがあるようですが…」
王宮にある王座の間で国王である父、オーディンに弟と共に謁見する。次代の王の選定はいまだ成されず、二人ともがこの偉大な玉座を継ぐことを欲していた。ロキは大切な伴侶であり、弟であり、様々な感情を内包する好敵手でもあった。
「ティールからはノルンヘイムを襲った宇宙海賊の残党だという報告を受けている。リアには優れたコミューヌ(市民自治体)がある。我らが危惧するまでもないだろう」
「しかし小さな綻びが見過ごせぬものになるやもしれません」
九つの世界の調和は父だけではなくアスガルドの王子である自分達にとっても見過ごせないものだった。戦は心を逸らせ、また昂らせる。民を守り、平和を導く大義の元に行う戦争は常に戦士である己を惹きつけ、戦いの渦中へ身を投じる高揚感は何物にも代えがたいものだった。
「ならば我が軍の小隊を向かわせよう。敵には相応の戦力だ」
「父上、彼らを向かわせずとも俺が…」
「兄上」
自分を引き留める弟の声はどこか渇いた響きを含むものだった。
巨大な円の背を持つ高座フリズスキャブルから見下ろす一眼が自身を見据え、疲れたように溜息をつく。
「ソー、お前は婚姻を挙げたばかりだ。お前にもしものことがあればたった半年でお前の弟は伴侶を失うことになる」
「しかしあのような蛮族に俺が敗れる筈は…ッ」
「伴侶を得たことでお前たちの成長を望んでいたのだが…お前だけは未だに血に逸る愚かな者のままのようだ」
「…ッ…」
怒りで拳を握る手が震え、屈辱に唇を噛み締める。
「二人には暫く内政を手伝ってもらう。よいな」
「…はい」
王としての命に短く返事を返す。同じように返答したロキに目線を向ける。だが弟が自分を見返すことはなく、そのまま謁見の時は過ぎていった。
「ロキ、どこに行くんだ…?」
王の間を出た後、無言で回廊へと歩き出す弟に近寄り、声をかける。その瞬間強く手を引かれ、そのまま厩舎で餌をやる馬丁や炉で馬蹄や釘を作る鍛冶師、手洗い鉢を洗う家事手伝いの召使のいる下の中庭を横切り、大広間と連れ込まれる。
「おい…!」
奥にある小広間へと続く衝立通路の三つの出入り口の一つ、配膳室と媒酌人の準備室との間に挟まれた階段を下り、食料を保管する地下倉庫へと向かっていく。昼の正餐が終わり、まだ夕食を始めるには早い時間とはいえ、広間にいつ侍従や料理人達が現れてもおかしくはなかった。自身の咎める声を無視したまま木蝋の僅かな明かりだけが灯された薄暗い倉庫に押し込まれ、中から閂で鍵をかけられる。
「ロキ、お前一体――…ッ!? 」
続く言葉は噛みつくような口づけに奪われていた。塊のままの砂糖、干し葡萄、大蒜、ヒソップ草、雑多な匂いが充満する中でケープの中に着込んだショースを強引におろされ、腰布の中に手を入れられ萎えた男根を押しつぶすようにして掴まれる。
「ぐっ…!!」
鋭い痛みに思わず顔を歪めてしまう。初めて受ける乱暴な愛撫だった。脛までおろされたショースと同様、腰布もずり降ろされ、徐々に混乱が己が身を覆い始める。
「やめろっ!」
何一つ身に着けていない下部が自分の惨めな運命を物語るようで、強く抵抗を繰り返すと引きずるようにして冷たい石床に押し倒される。
「んッ!っ…!」
ただ自身をむさぼる為だけの執拗な接吻が繰り返され、ぐちゅぐちゅと泡立った水音を立てながら濡れた舌で口腔を激しく犯される。ヨトゥンとしての力なのか、自分を抑える腕の力は強く、碌な抵抗も出来ぬまま身体を横向きにされ、背後で衣擦れの音が響き、よく見知った凶器が自身の肉穴に押し当てられる。
「やめッッ!!んうッ…!」
雪花石膏の肌を持つ細く形のいい指が焦る自分の口をふさぎ、潤いのないまま強引に肉の凶器を押し込まれる。
「んううううッッ!!」
強い痛みで頑健な筈の自分の身体がびくびくと震え、股の間を生暖かい血が伝っていく。
「うううっ!んうううッ…!」
心と身体、どちらからくる痛みのなのか分からぬまま眦から涙が零れ、真っ赤に紅潮した頬を伝っていく。
ロキが――何よりも、誰よりも慈しんできた大切な弟が、自分を乱暴した事実を受け入れられず、涙でけぶる視界のまま、何度も何度も激しく肉尻をうがたれる。
「んっ…!んうっ…!」
だがどんなに手酷く抱かれても、妻となった身体はすでに弟のもので、口を塞がれたまま背後からずんずんと肉壺を突かれ、馴染みのある肉悦でじわっ…と滲む汗とともに淫らに自分の男根が勃起していく。
「んううううッ!!」
最奥のひだを堅い亀頭でこすられたと同時に乱暴に自身の竿が抜かれ、肉尻で凌辱者の肉棒をみだらにぬるりとくわえたまま、望まぬ射精をしてしまう。息を呑む音が項をかすめ、びゅくっ、びゅくんっ、と熱くどろりとした子種がむちむちとした大きな肉尻の奥に執拗に注がれていく。
「…ッ…ッッ…」
幾度かの射精の後、萎えた男根がずるりと抜かれ、そっと自分の口を塞いだ手が外される。
何を言えばいいのかがわからなかった。夫となったロキに襲われ、乱暴された自身が酷く惨めだった。白い指に乱れた髪を撫でられ、弟の纏う暗緑のマントで静かに穢された下半身を覆われる。重い沈黙の中、かけられる言葉を待つものの、ロキからの言葉はなく、そのまま無言で部屋を去る音が聞こえてくる。
「……」
誰かが来る前にここを去らなければならなかった。痛む体を押して立ち上がり、剥ぎ取られた腰布とショースを身に着け、階段を上っていく。涙の跡を拭い、乱された着衣を整え、アスガルドの王子としての威厳を取り戻すことに努め始める。心が引き裂かれそうだった。何故だと叫びたくともその相手はおらず、ただ激しい慟哭を内に閉じ込めるしか成す術はなかった。手にした弟のマントを硬く握りしめる拳は怒りに震え、激高を表すかのように白く腱が浮んでいた。
「美味い酒を飲んでいるのに浮かない顔だな」
隣に座るファンドラルがぽつりと呟く。ファンドラル、ホーガン、ヴォルスタッグ。昔からの仲間たちといつものように馴染みの酒場で酒を酌み交わす。
細胞の修復は早く、凌辱の傷は数日のうちに癒えていった。だが心は暗く沈んだままだった。ロキが部屋を訪れることはなく、俺自身も奴を訪ねることはしなかった。王宮で弟を見かけることは減り、会えば周囲に気取られぬように自然な所作で目を逸らされ距離を取られた。
怒ることも罵ることも出来た。視線を交わすことを避けるものの、時折どこからか自分を見つめる眼差しはあった。夜、眠りにつくと寄り添う影を感じることもあった。二人の仲に異変を感じ、気遣う眼差しを向ける父母の姿も自分を居た堪れなくさせるものだった。話し合う機会を設ける必要があった。だがどうしても自分を強引に貫いたロキの姿が甦り、混乱と言いようのない悲しみがあふれ、向き合うことを躊躇させていた。
「ソー、今夜のお前は葡萄酒をたったの一杯、対する俺は二樽だ。飲み比べに負けたからといって肩を落とす必要はないぞ…!」
食べ物の盛られた大皿を腕に抱え、骨付きの雉(きじ)肉にかぶりつきながらそうヴォルスタッグが呵々大笑する。
「店の酒蔵を空にすれば俺たち以外の客に振る舞う酒がなくなるだろう?俺は周りの者の為に自制したのさ」
にやりと笑いながら答えれば流石は俺たちの王子だと芝居じみた仕草で返される。そこかしこから上がる笑い声、怒鳴り声、角杯をいくつも抱えた威勢のいい酒場女、様々なバラッドを唄う吟遊詩人。何気ない日常に癒され、僅かに心が軽くなる。
「あれでもアイツは君を案じているんだ。渋面で酒を飲むヴァナヘイム人もな」
互いにしか聞こえぬ声でそうファンドラルが耳打ちする。
「? どういうことだ…?」
「あれほど仲睦まじかった君たちが最近少し妙だ。王宮の噂に通じた者ならば皆知っていることさ」
「……」
「…なあ、ソー。長い間兄弟としてロキとは上手くやってきたんだ。夫婦になった今も同じさ。腹を割って向き合えばいい」
無言のまま角杯に口をつけると労わるように肩が叩かれる。この聡い旧友に、何があったかを話せば自分の戸惑いを理解してはもらえるだろう。だがそうする事によってロキが周囲に非難されるのは嫌だった。昔と何も変わらなかった。血の繋がらない義弟が、危うげな面を持ち、幼少の頃からアスガルドと生まれ出でた国との狭間で苦悶し続けるロキが、何よりも哀れで、誰よりも愛しかった。
王宮に戻り清潔な亜麻の敷き布に口づけるようにして寝台に凭れ込む。
肌は熱く、酩酊がもたらす仮初の幸福は穏やかな睡魔を招き寄せた。いつも見る夢は決まって同じで、夢の中で手を伸ばすと、想い人の冷やりとした白い腕を掴むことが出来た。齎される口づけは甘く、蜜月を思い出す。密やかな衣擦れの音が響き、身に纏った衣が少しずつ脱がされる。華奢な手がくぱりと肉付きのいい俺の尻たぶの狭間を左右に広げ、唾でぬらされた指が馴染ませるようにして徐々に肉穴を犯していく。尻穴を突かれながら竿を抜かれ、尖り始めた胸の先端を吸われ、当に"妻"として熟れた身体は男に従順で、甘い声で雄を誘い、自ら足を広げ迎え始める。
「ッッ!? んううッ…!!」
自分の肉尻に感じる、含まされるものの熱さと大きさに漸くこれが夢ではないことに気付く。抵抗は無意味だった。腸道はすでに初夜の時点で弟の男根の形にみだらに変じさせられ完全な竿穴と化し、敏感な肉ひだは常にびっちりと瘤のような血管の浮いた太く逞しい巨根にずりずりとこすられることを望むようになっていた。自室に侵入されていた事を気付くには遅すぎた俺は、ただひたすら自分の恥ずかしい穴を犯され、ずにゅりと勃起した弟の男根でむちむちの桃色の肉の輪を広げられ、ひたすらずんずんと上から突かれながら肉穴をむさぼられるしかなかった。
「あっ!あんっ!ああッ!!」
すさまじい速さで自分の女のように大きな肉尻の上でぶぽぶぽと弟の赤黒い肉根が動き、ぶちゅっ!ぶちゅっ!と黄みがかった濃い種汁がむっちりとした肉の輪の隙間からしぶきのように吹きあがる。ヨトゥンの血を引くロキの精は雄の匂いが強く、味も苦く辛く喉にねっとりと絡みつくようで、尻に注がれたり、奉仕した口の中で弾けさせられると、いつもその濃い味に目がとろんと発情で潤み、あまりの悦さに腰がくたりと抜け、ロキの前で雌としての淫らな悦び顔を晒しながら、ただひたすら犯され、むさぼられ、甘い声をあげ続けるしかなかった。
「あっ!あっ!ロキッ!奥だめっ!駄目だッッ…!!あっ!あんっ…!」
小刻みに振動させるようにして卑猥な動きで硬い亀頭にぷるりとした敏感なひだ奥をずぽずぽに突かれてしまう。
「んうっ!んっ!んっ!」
桃色の肉厚な穴が久方ぶりに犯される悦びにきゅうきゅうと浅ましく締まり、ロキのいきり立つ肉棒を中の年輪状に重なったひだひだで無意識ににゅぐっ…と何度も何度も包み、ずりずりと肉茎を突起状のひだで卑らしく揉みこみ、喜ばさせてしまう。
「あっ!あっ!あんっ!ああっ!!」
腰をがっちりと掴まれ、自分の大きな肉尻がぬるぬるの男根でずちゅずちゅに突かれ、ぶるぶると激しく跳ね上がる。むっちりとした桃色の肉の輪を持つ入口から敏感なひだ奥まで何度もずんっ…!と一気に赤黒い巨根に貫かれ、そのたびにはしたない雌顔で嬌声を上げながら、自らの竿から肉悦のあまりびゅくびゅくと白い雌蜜を漏らしてしまう。
「あうっ!あッ!あっ!ああっ…」
自身の口から漏れる甘く大きな淫声が間断なく閨にこだまし、肉付きのいい身体をたっぷりと貪られ、逞しい肉棒にずぽずぽと激しく穴を抜き差しされるたび、つんと固く桃色の両の乳頭が勃ちあがり、じわっ…、じわっ…、と官能の汗が全身に滲み、女のように大きな肉尻をぱんぱんと突かれながらその尻たぶを伝っていく。
「あひっ!ひんッッ…!!」
伸し掛かる弟の痩躯が重く自分を寝台に押し付け、雄として力強く腰を振り、中で種をつけようとぶくりとその肉芯を腸道で強引にふくらませ始める。
「あっ!あんっ…!」
雌として中出しされる気配に桃色の肉壺がきゅんきゅんとみだらにうずく。
「あうっ!あううっ!あうっ!あうっ!」
交尾中の雌犬のような淫らな声を漏らしながら、更に大きくぶるん、と勃起した赤黒い男根を執拗に抜き差しされ、肉穴を男の欲望のままに射精穴として使われ、過敏なほどに感じる奥のぷるりとした桃色のひだまでずん!ずん!と充血した巨大な亀頭で雌として激しくすり潰されてしまう。
「ロキッ…ロキ…っ…」
淫楽ともいえる甘い苦しみの中、夢中で名を呼ぶと汗に濡れた額にかかる髪を掻き分けられ、柔らかな口づけを落とされる。
「――子供のころのように…謝ってはくれぬのだな…」
思わず漏れた言葉は眼前の美しい相貌を曇らせるものだった。奇妙な切なさと寂しさが身の内を支配し、熱い感情とともに涙が目の縁にあふれ、零れ落ちそうになる。気まずげに目を反らす暗い瞳をした弟の青白い頬に手をやり、そっと撫でさする。
「だがそれでもいい。もう離れたくない…離れないでくれ…」
言葉を発せぬまま、伸し掛かる痩躯が僅かに揺れ、中で大量の射精がはじまっていく。
「あっ!あっ!ロキ…ロキ…ッ」
弟の肉棒の形に変じたはしたない肉穴の中に濃く熱い種が広がり始める。
「うんっ!あっ…あっ…んううッ…!!」
肉尻の奥にあるひだにぶちゅりと白濁とした熱い汁がかけられる。
「はッ…ああんっ…」
雌として敏感な肉ひだに中だしされるとそれだけで達してしまいそうだった。射精しながらゆるく抜き差しを繰り返され、最奥を突かれるたびに一際強くひだ奥に鈴口をぐりっ!と押し当てられ、ぶちゅううううッ…!と大量の子種汁を内部に注がれ、その強すぎる刺激に泣き叫びながら自らの竿からもびゅるびゅると射精し、ヨトゥンの男の"雌"として種付けされていく。
「…はっ…っ…」
永劫にも感じた受精が終わり、女のように大きな肉尻の中がロキの黄みがかった子種でいっぱいになる。
「んっ……」
じわじわと中出しされた種がひだひだにしみていき、その熱さと濃さにぶるりと身体が種付けされた悦びで震え、弟以外では満足しない身体に作り変えられていく。
「ロキ…」
名を呼び、自身に伸し掛かる硬く冷たい痩躯に縋りつく。離れたくない。そううわごとのように呟き、目を閉じる。強く身体が抱きしめられ、紅い唇にそっと自分の唇を覆われる。僅かに瞼を上げた目から見たロキの顔はどこか既視感のあるものだった。おぼろげな記憶が蘇る。自分の出自を心無い者にかけられた言葉から知り、哀しみ怯える幼い瞳。縋る顔。綺麗な灰緑の目が曇るのが嫌で必死に道化を演じ、小さな弟を慰めた。成長しても、自分の夫となっても、奥底にあるものはあの頃と同じなのだと思うと、安堵が心の中に広がり始める。きっと上手くいく。何度も幼いロキにかけた言葉だった。自分たち二人のためにもう一度心の中でそれを呟く。伴侶となった大切な者の背を撫で、瞼を閉じる。自身を抱きしめる弟の姿は、どこか縋るようにも思えるものだった。
「――何故私を責めないんだ」
冷たく澄み切った朝の空気が頬を撫でる。毛皮の上掛けの下から伸ばした手は心地のいい声とともに柔らかな手に包まれ、口づけが落とされる。昨夜の激しい情交でいまだ下半身は鈍く痛み、肉尻の中ではどろりとヨトゥンの種が広がっていた。
「…どうしてあんな事をしたのかを知りたかったんだ」
「――父上に進言する兄上を見てこう思ったんだ…妻となった今でも、兄上はまるで自由だとね…」
「…?」
眼前にある美しい面立ちが僅かに歪む。
「伴侶である私の存在ですら、不死ではないその命を守る理由にはならないんだろう…?」
「……」
ロキの悲しみと怒りが静かに伝播する。
「違うんだ、ロキ。俺はただ虐げられている者たちを守りたくて――…」
「分かっているさ、兄上の民を想う気持ちは知っている」
寝台から背を起こした自分の両手が臣従礼のように弟の手の中に包まれる。
「最強の戦士であることもね…だが絶対はないんだ」
甲にある、薄赤く残る引き攣れた戦傷の一つに青白い頬が寄せられる。
「兄上をもし失えば…五千年の時を私はどう生きればいい…?」
寄る辺ない者の眼差しが向けられる。何故ロキが伴侶としての時をあれほど乞うのかが分からなかった。ただ一人の大切な弟が、喪失の予感に怯えていることすら気付かずにいた自身が愚かしく思えてくる。
「ロキ、すまなかった」
「アンタを無理やり抱いた男にいうべき言葉じゃないだろう」
自嘲の言葉が刃のように薄く形のいい深紅の唇から漏れ、自らの唇を柔らかく吸われていく。
「軽率な行動は控えるつもりだ…だが、これだけは覚えていてくれ」
灰緑の透き通る瞳を愛情とともに強く見つめる。
「俺はどこにいても――例えこの身が遠く離れた戦場にあっても、お前のものだ。全能の父・オーディンの息子として栄誉ある死を迎え、ヘルの支配する禁断の門の先へ行くことがあったとしても、永遠に…。だからどうか、何があったとしても悲しまないでくれ…」
「最後の望みは聞けないな」
甘えるように唇を軽く噛まれ、柔らかな舌を押し当てられる。
「だが、どんな罰も受ける覚悟は出来ているよ。怒りに任せて酷いことをしたんだ…私を好きなだけ罰すればいい」
「――ならば、こうしよう」
徐々に互いの肌の温度があがっていく。愛しい夫であるロキを再び受け入れたくて仕方がない身体が淫らに疼いていく。
「二人だけでしばらく旅に出よう。その間、国のことは何も考えずに、ただ互いのことだけを想って愛し合って…たっぷりと、俺がお前のものだと、お前の妻だと、この身に刻んで欲しい…」
「まったく――兄上は私に甘すぎる」
嘆息とともに昔から何度も言われてきた言葉を掛けられる。
「アンタはいつもそうやって私を甘やかして…虜にするんだ…」
「愛しているんだ。当然のことだろう?」
揶揄い気味に答えるとお返しとばかりに耳朶が柔らかく食まれていく。首筋から胸へ、下生えの上にある臍へ、徐々に移行する氷のように冷たい唇の感触を感じながらぼんやりと考える。どうすればもっと、弟に伴侶としての喜びを与えることが出来るのか。いつか訪れるだろう永劫の別離に備えて、幸福な思い出を紡いでやることが出来るのか。それにはロキの望み通り、皆の前で妻としての自分を演じていく必要があるのかもしれなかった。妻であることに狼狽えずに恥ずかしがらずに、自身の伴侶を弟ではなく夫として敬い、慈しむ。自分の変化にロキは戸惑うことだろう。だが同時に大きな喜びをあの美しい面立ちに浮かべるのかもしれなかった。その笑顔を早く見てみたくて、自身を抱く義弟に俺は暖かな笑みを向けるのだった。