兄上、ずぶ濡れになる




 
「ノーーーーーーッッ!!!」

 アスガルドの王宮にある王の間に絶叫が響き渡る。

 魂を持たない甲冑であるデストロイヤーを使い、いつものようにミッドガルドの兄上観察をするつもりだった。
 ラボで働く兄上、ヒーローとして地球人を助ける兄上、食事する兄上、笑う兄上。何をしても私の雷神はごつ可愛い。
 今日もそんな兄上を観察し、よこしまな欲望を満たそうとしていた私の目論見はもろくも崩れ去っていた。

「こっ、これは…っ…いいい一体どういうことなんだ…ッッ!!!」
 デストロイヤーを通じて映し出された光景には兄の住むアパートメントで何やら盛り上がる4人の姿が映っていた。
 おのおの赤い顔でビールを手にし、側には大皿に盛られたナチョスとオニオンリング、乱雑に置かれた衣類や荷物、均衡が今にも崩れそうな大量に積み重ねられた様々な種類の雑誌。
 いかにも兄上らしい雑多な部屋の中であのジェーンという宇宙学者と彼女の助手、物理博士である初老の男、そしてソーが楽しそうに何かを言い合う。

「……ッッ」
 眼前で繰り広げられる光景が信じられず、何度もごしごしと手の甲で目をこする。
 象牙色をした木材の床にはつるつるとした光沢の大きな布が敷かれ、その上に置かれた簡易テーブルをはさんで兄と博士が向かい合わせに立ち、互いの前には水が入った大量の杯と伏せられたカードが並べられていた。

 会話を盗み聞くに、潤沢ではない資金を使いジェーンと博士、どちらが支持する研究機材を購入するかをこのカード遊びで決めようというものらしい。きっかけは昨夜見たTV番組で繰り広げられたゲーム。はしゃぐ彼らが口々にウォーターウォーと叫び出す。

 みな酷く楽しそうに大声をあげている。だがその喧騒よりも注目すべきは、あの女の代理で博士と対決することになった兄上の姿だった。

 アンダーウェアを身に着けない状態で白いシャツをはおったソーはあろうことか、上半身がびしょびしょに濡れていた。
 むちむちぱっつぱつの大胸筋に濡れた生地がぴったりと張り付き、少し色の濃い、小さく愛らしい乳首がぷくっ、とほぼ透明と化したシャツ越しに丸見えになっていた。私が永劫夢に見てきた、巨乳といっても過言ではないプルンとした大きなおっぱいとかじってくれと言わんばかりのぷるぷるとしたいかにも敏感そうな乳首が、惜しげもなく、それどころか見せ付けんばかりに三人の前であらわになっている。

「なんだ…?わ、わたしは悪夢を見ているのか…ッッ?」

『もう一度、もう一度だセルヴィグ!』
 そういいながら対面する男にウィンクを何度も送る兄上。不器用なので時々片目ではなく両目をつぶっている。そういうドジっ子属性なところもSな私はビンビンになってしまう。

 昔から兄は調子乗りだった。戴冠式でも調子に乗りすぎて父上からハンマーと神の力を奪われ、地球に追放される自体にまで発展してしまっていた。はっきりいってただの馬鹿だった。だがそれすらも愛おしかった。

『おいおいおい!嘘だろう…ッ!?』
 はしゃぎまくる兄上がめくられた互いのカードを見て悲鳴をあげる。ゲームのルールは簡単でより数字が多いカードを出した方が勝ちだった。

『ははっ。敗者にはお仕置きが必要だな』
 にやにやと笑いながら水鉄砲を手にした初老の男が兄上にまたびしゃびしゃと水をかけまくる。びちょびちょどころか濡れ濡れになっていくソーがやけになったのか"もっとかけろ!"とけしかけ始める。

「ッッ!!!」
 私の目がシンプソンズ並に見開かれる。
 女どもからあがる黄色い悲鳴。どこぞで見かけたショーガールでも模しているのだろう。
 ぬらぬらと水で光る、筋肉と脂肪でむちむちとした全身をくねらせながら二度、三度とソーが自分の乳首をこすりあげ、妖艶な眼差しで博士を見つめ、隆起した上半身に見合わぬ細腰を揺すり続ける。

「くっ……!!」
 それ以上直視できなかった私はデストロイヤーを帰還させ、自分の手中にあるセクターで強く地面を打ちつけた。

「わたしの…!私の兄上がッ…!地球の軟派な空気に毒され、ただの糞ビッチに……ッッ!!」
 まるで閨で娼婦が行うような淫らな踊りを披露し、あの大きな手のひらで触ってくれと言わんばかりにみずからの性感帯を何度もこすり上げた兄上。
 あれが健全な仲間ではなく、同性愛傾向のあるむくつけき大男達の前で行われていたら今頃雷神の貞操はとんでもない事になっていただろう。

「兄上ッ…!やはりアスガルドに連れ帰るべきだった…」
 ぐずぐずと後悔の涙を流しながら私のムジョルニアはものすごい事になっていた。もう今夜傷心の自分を慰めるネタは出来ていた。兄上と私であのいかがわしいゲームをし、ぬるっぬるの水でびちょびちょになった淫乱ビッチなソーが卑らしいデカ尻でわたしに顔面騎乗位してくるという妄想だった。

「私の清く美しく雄雄しい兄上が…」
 そういいつつも後日同じゲームを二人だけでやることを兄に提案する自分が浮かんでくる。
 きっと兄弟愛の強いソーは断らないだろう。魔力で不正を行えば兄は負け続け、びしょ濡れになる。そうしてあのぱつぱつムチムチの大きなおっぱいと愛らしい乳首が丸見えになり、雌として視姦されてるとも知らずににこにこと無邪気に笑いながら見えないところまでビチョビチョにされた姿でゲームを楽しむに違いない。

「……」
 自身の興奮を抑えるため軽い咳払いを繰り返す。
 はたして己の自制心がどこまで耐えられるのか。セクターを意味ありげに擦り上げながらそう私は悶々といつまでも王の間で夢想し続けるのだった。