ゆらりゆらりと影が蠢いている。 オレンジ色の間接照明に照らされて、影が形と大きさを変えながら、部屋の壁にへばりついて生き物のように見えた。 脂肪ののったやわらかくて滑らかでしなやかな、染み一つ無い白い肌に食い込む赤い縄。 おんなのからだを締め付けて、みだらな欲望を高めている、赤い縄。 部屋全体を甘くねっとりとした空気が包んでいる。その空気があまりにも濃厚なので、おんなが泳いでいるように見えた。息継ぎをするたびに聞こえる掠れた声。 『おかあさん……』 少し開いた扉の前で、俺はその場から凍りついたように動けなかった。 10歳の夏の日。 そして、季節が2つほどうつり、俺に弟が出来た。 名前は昌。 みだらな欲望の中から、生まれてきた…昌 俺のかわいい弟… /////////////////////////////////////////////////////////////////// ぼくには10歳年上のお兄ちゃんがいる。 ぼくと違って、頭が良くて、かっこよくて、何でもできるんだ。 いつも勉強を見てもらったり、遊んでもらってる。 一緒にお風呂に入って、一緒に寝て。 年が離れているせいか、兄弟ケンカをした記憶もない。 お兄ちゃんと一緒にいると楽しい。 ぼくはお兄ちゃんが大好きなんだ。 夕方の駅の改札口に少年は立っていた。 時間も早いし、週末ということもあってまだ改札口は混雑していない。 少年は時刻表と時計を交互に見比べて、兄の乗る電車が来ることを心待ちにしていた。 (兄ちゃん早く帰ってこないかなあ。) 今週末は3連休。 そして、少年…昌の10回目の誕生日がやってくる。 (兄ちゃんが帰って来たら、野球をやって、ゲームして…) 兄がサークルの合宿に行き、家を出たのは一週間前。自他共に認める、兄一筋の昌にとって、長い一週間だった。今も今とて帰ってくる兄を待ちきれずに駅まで迎えに来ていた。 10歳という年齢差は越えることの出来ない決定的な壁だ。その証拠に本気になってケンカしたことはない。昌がどんなに熱くむきになっても、兄はさらりと受け流すだけだった。 越えられない壁であり、年上の兄は自分の1歩2歩、いや何十歩も先を歩いていて憧れの象徴だ。 家では母親が昌の誕生日を祝うために、夕食の準備をしている。 昌がこれから始まる、連休の楽しい時間を想像していると、改札口を通る兄の姿が見えた。 「まこ兄ぃ!!お帰りっ!」 昌は子犬のように兄に駆け寄ると、兄に勢い良く抱きつく。 「ただいま。」 まこ兄……誠はニコニコと見上げる昌の頭をなでた。 「遅かったよっ!もうっ、お母さんも待ってるよ。早く帰ろう!」 昌は誠からお土産の詰まった紙袋を奪うと、先にたって歩き出した。 長身の誠の斜め下の視界に大きな紙袋をもった昌が歩いている。 「……」 栗色の柔らかな明るい色の髪が、歩くたびに巻き起こる風を受けてふわふわとしている。 半そでシャツとハーフパンツから、すらりと伸びた手足が日に焼けて健康そのものだ。 片えくぼの出来る、人を惹きつける笑顔も、変声期を迎えていないまだ、少年独特の高い声も母親に瓜二つだ。 「ようやく10歳か…意外と長かったな……」 誠は小さな声で呟いた。小さな声は周りの雑踏にかき消され声は拡散していき、昌の耳に届くことはない。 昌がこの世に誕生してから10年。 誠はこの日が来るのを首を長くして待っていた。 母の裏切りの行為を目撃した日から、昌が母の腹の中に宿った日から、誠の中で何かが変わったのかもしれない。 何も知らない父。 何も知ることのない昌。 何も知らない父親と裏切り続ける母親と、兄の庇護を受け、純粋培養された弟。 疑うことも邪な思いを抱くことはない。 無垢で天使のような笑顔を持つ弟。 そして、誠は10年の年月を懸けて『兄』という存在をすりこんだ。 信頼と安心感。そして、絶対的な支配。 全ては、この日の為に。 いや、 この日からの為に。 にやりと誠の唇が歪む。 「まこ兄ぃ〜早く〜っ!」 昌は赤い自転車の前かごに鞄を突っ込んで、早くとせかすように手を振っている。誠は歩調を速めて昌の下へと急いだ。 「この自転車で来たのか?」 「うん。お母さんのを借りたんだよ。」 昌は兄を迎えるために、母親が使っているママチャリを拝借してきたのだった。兄が大学に通うようになってから、すれ違いの時間が多く、思うように遊べない兄とのふれあいを求めて子供なりに知恵を働かせていた。 「お兄ちゃんに漕いでもらおうと思って、もちろん僕が後ろでね。」 昌は悪びれもなく答えた。兄に全面の信頼を寄せてキラキラと疑うことを知らない瞳。 「どうせ、お母さんには言ってないだろ?あとで叱られても知らないぞ。」 仕方が無い奴だと、軽くおでこをはじいて、誠は背負っていたリュックを昌に背負わせると、自転車に跨る。スタンドを外して後ろに乗るように促した。 「やったあ!」 昌は後ろの荷台に飛び乗ると誠の背中に抱きついた。 「しっかり、掴まってろよ。」 「うん。」 ペダルに力を入れると、二人のための風が巻き起こる。 誠は心地いい風を前面で、背中で昌の子供特有の高めの体温を感じている。 「すっごい、速い!」 誠の漕ぐスピードに昌は嬉しそうに声をあげる。 20分ほど漕ぐと、自転車は住宅街に入って行った。丘陵地を整地して出来上がったニュータウンの一角に二人の自宅はある。 父は会計事務所を経営し、母は専業主婦の傍ら茶道の師範を務めている。 外から見れば、中流以上の生活をしているといっても、過言ではない。実際のところ誠も昌も金銭的に何一つ不自由したことはなかった。 高い塀に囲まれた純日本風の自宅に着くと、昌は自転車を飛び降りた。 「ただいまぁっ。」 格子戸の入り口をくぐり、中庭を駆け抜けると、ドアを勢い良く開けて声をあげる。 家の中から母親の「お帰りなさい。」という声が聞こえる。昌はリュックを背負ったままスニーカーを脱ぎ捨てると、リビングへと姿を消して行った。 兄は自転車をしまいながら、自宅を見上げる。 「ただいま。」 たった一週間家を空けただけだが、とても、懐かしく思えた。 今日は昌の10回目の誕生日。 いつもは仕事で忙しいはずの父親も、この日ばかりはと早く帰宅している。 『最大の贅沢は家で家族と食事をすること』 と、誠には理解しがたい、持論をもつ父親に合わせて、今夜も家での食事となっていた。 家族4人は、母親が腕を揮った料理の並んだ食卓を囲んでいる。もちろんテーブルの中央に「誕生日おめでとう」のメッセージの書かれたケーキが陣取っている。 「昌、誕生日おめでとう。」 昌は久しぶりに家族がそう夕食に嬉しそうにしている。父と兄はお酒を、母と晶はジュースをもって乾杯をする。 オレンジジュースを一気に胃の中に流し込むと、昌は満面の笑みを浮かべた。 「ありがとう。僕やっと10歳になったよ。」 「そうか。昌も、もう10歳か…早いものだな…ついこの間生まれたばかりなのに。」 父親はビールを片手に感慨にふけっている。 「俺も覚えてる。小さくて可愛かったなぁ。ふにゃふにゃしてて、やわらかくて、壊してしまいそうだったなぁ。」 「えぇっ、ずるいよ〜僕は覚えてないもん。」 父親と兄にからかわれて、昌は唇を尖らせると、そんな仕草さえ可愛いのだろう、父親は更に続ける。 「ははは…仕方ないさ。生まれたころなんて、誰も覚えていないだろ。それにしても、昌はお母さんに似てきたな。髪が長くて、日に焼けてなければ瓜二つだ。男にしているのが惜しいくらいだ。」 「おんなのこ?」 昌は隣に座る母親をじっと見つめる。 父親が言うように、昌は母親に良く似ていた。小さい頃は青い服を着てズボンを穿いていても、女の子に間違われていた。女の子より可愛いと、大人は顔立ちの整った昌を褒めてくれるが、昌にはコンプレックスにしかならなかった。 野球を始めて、体格はそれなりに男の子らしくなったと自負していただけに、昌の表情が曇る。 「あ〜あ。僕もまこ兄みたいにお父さんに似ればよかったのに…」 昌はオカズをつまらなそうに箸でつつく。 兄の誠は、昌とは対照的に父親に似ている。 短く切りそろえられた黒髪。切れ長の深い漆黒をもつ瞳。理知的な曲線を描く鼻筋。そして無駄がなく鍛えられた肉体。 どれをとっても昌の憧れだ。 「あら、お父さん。女の子なんて可哀そうよ。昌はカッコいいんだから。」 ね。と、母親はウインクする。 「今日だって、クラスの女の子からプレゼントもらったものね。昌はモテルからね。」 「お母さん…やめてよ〜恥ずかしいよ…」 ちゃんと隠しておいたはずなのに……昌は頬を赤くする。 「やっぱり、血は争えないな…お父さんも学生のときはモテタんだぞ。」 程よく酔いの回ってきた父親は上機嫌だ。 「はいはい。」 父の自慢話を聞かされてはたまらないと、母親が料理をとりわけ始めた。 ケーキも食べ終えて、家族の晩餐が終わりになるころ、母親が戸棚の中からリボンのかけられたプレゼントを大事そうに持ってきた。 「お父さんと選んだのよ。気に入ってくれると良いのだけれど。」 はい。と、昌にプレゼントを手渡した。 「ありがとう。お父さん。お母さん。」 プレゼントを受け取ると満面の笑みを浮べた。 頬が一方だけ小さな窪みを作っている。誠が好きな昌の笑顔。喉が渇いてしまった気がして、一口ビールを流し込んだ。 誠の考えていることなど知る由もない昌はプレゼントの包装を剥がしていった。四角い箱の中から現れたのは、家庭用星空投影機(部屋の中で気軽にプラネタリウムを楽しめる機械)だった。 「うわあ、すごいよ!これ、前から欲しかったんだ!」 箱から機械を取り出すと、説明書をめくっていった。 「この辺りも昔はたくさんの星が見えたのだよ。最近は街の灯りがうるさいから、すっかり見えなくなったよな。」 父親が子供のころを思い出している。昔はこの辺は民家も少なく夜の帳を邪魔する光害もなかった。明るい夜空しか知らない昌は、ふうんと、興味がないようだ。それよりも、早く自分の部屋で試してみたい。 機械に集中して話を聞いてもらえない父親は小さなため息をつき母親の入れたコーヒーに手を伸ばす。気まぐれな子供には敵わないと、苦笑した。 「これは俺からのプレゼントだよ。」 昌が一通り目を通したのを見計らって、誠は紙袋の中から綺麗に包装されたものを取り出した。 「ありがとう!!兄ちゃん。うわ〜なに?なに!開けていい?」 「開けてごらん?」 プレゼントを抱えてうれしそうにしている姿に、誠が開けていいよ促すと昌はリボンをほどいて中に入っているものを確かめる。 「キャッチャーミットだぁ!ありがとう!!」 綺麗にラッピングされた中から出てきたのは、真っ赤なキャッチャーミットだった。 「スタメンになったお祝いも兼ねているんだ。昌のチームカラーは赤だから。赤にしたんだよ。」 「ぼく、大切にするよ。ありがとう。」 にこにことしながら、ミットに手を通して感触を確かめている。 誠の鼻に真新しい皮の匂いが届く。 「次の試合までには、ちゃんと慣らしておくんだぞ。」 「うん。もちろんだよ。」 拳を皮に叩きつけると、バシッと小気味いい音がした。それを何度か繰り返し皮の感触を確かめ、昌はようやく顔を上げる。 「まこ兄ちゃん。明日、キャッチボールしようよ。んで、本気で投げてよ〜」 「駄目だ。大切な大会前なんだから、怪我をしたらもともこもないだろ。」 「え〜っ…大丈夫だよ。僕、大きくなったし、コーチの本気な球捕る練習一杯してるもん。絶対に捕れるよ。」 昌は頬をぷうっと膨らませる。 「駄目と言ったら駄目だ。怪我をして、困るのは昌なんだからな。」 「兄ちゃんの意地悪っ。」 すっかり、ふてくされた昌はグローブを袋に戻すと、拗ねた顔で残りのケーキを口にはこんだ。 両親は顔を見合わせ、誠はやれやれと気が抜けて温くなったビールを一口飲む。 父親が昌をたしなめる。せっかくの家族団らんがおじゃんになるのはつまらないものだ。 「昌、誠を困らせるんじゃない。せっかくの夕食が台無しになるぞ。みんなで誕生日のお祝いをしているんんじゃないのか?」 「僕が頼んだんじゃないもんっ!!!」 売り言葉に買い言葉。子供の山の天気のような気まぐれには困ったものだが、言っていい言葉と悪い言葉がある。今のがその言葉の一つだ。 「いいかげんにしなさい!」 バンッとテーブルを叩く音がリビングに響いた。 「………!」 父親の怒気にびくっと身体をすくませた昌。いやな空気が場を占めた。 しーんと音の無い時間がしばらく流れた後、俯いて固まってしまった昌が鼻を啜った。 「うぅっ…にいちゃんの…ばかっぁ」 昌は真っ赤にした顔を上げると、そういい残して2階の自分の部屋へと駆け出していった。母親が止める間もない。 後に残されたのは、2つのプレゼントと家族。 父親に怒られたのは兄のせいだと言いたかったのだろう。 純粋培養された感受性の強い昌が、久しぶりの団欒に興奮してしまったのかもしれない。 父親が後を追おうとする母親を引き止めると、誠に行くように目配せをした。 言われなくても、そうするつもりだった誠は苦笑すると、テーブルに取り残された2つのプレゼントを持って階段を登る。 階段を数段あがったとき、ちょうど電話が鳴り出した。続いて、電話機に向かう母親のパタパタとスリッパの音が聞こえた。 母親のもしもしと1オクターブ高くなった声で電話を取ったときにはもう、誠の意識は昌へと向けられていた。 2階の一番奥の部屋が昌の部屋になっている。 木目の美しい扉には「AKIRA」と手作りのプレートがかかっていた。夏休みの宿題に二人で作ったものだ。 「昌。入るぞ。」 扉を2度ノックすると、部屋の主人の返事を待たずに、誠は中に入っていった。 「………」 予想通り灯りは点いておらず窓の外からもれる街灯りで薄ぼんやりとしていた。当の昌はと言うと、返事も無く、ベッドの中にもぐりこんでいて、ピクリとも動かなかった。 「……ふぅっ…」 この拗ねた弟をどうしようかと、誠はため息を一つつくとベッドの端に腰をかける。 「昌。とうさんとかあさんが困ってるぞ。」 「………」 返事はない。返事の変わりに鼻をすする音がした。 「何も言わないとわかならじゃないか。」 「……」 小山になった布団を上から撫でた。たぶんこの辺りが頭なんだろう。 「兄ちゃんは怒ってないから……な。大丈夫だよ。」 上掛け1枚の下にある、昌を思い描き、手の動きを繰り返す。何度も、何度も。 頭までかぶった布団の中で丸くなっている、昌は泣いていた。 「僕、一杯練習してるのにっ!兄ちゃんのボールを受けたくて、一杯練習してるのに。」 10歳年上の兄は、昌の所属ずる少年野球チームでエースだった。 幼かった昌の目に焼きついている、兄の投げる姿。と、背番号1の背中。流れる汗を拭う仕草も、三振をとって鼻をかく仕草も、全てが憧れだった。 小さな弟は迷わずに兄の後を追う。年の差は埋められなくても、いつか兄の投げるボールを捕りたくてキャッチャーになることを選択した。いつか、兄の球を捕る。そのことを目標にして頑張ってきたのだった。 「なんで、真面目に相手をしてくれないの?」 身体が小さいとか、まだ、子供だからとからかわれたくない。 ぐすっ。 「僕だって大きくなったもんっ。10歳になったもん。」 ぐすっ。 「兄ちゃんの、ばか…」 兄に追いつけないことは分かっている。だけど、背中を追うことは出来るはずだ。 悔しくて涙がこぼれた。 「父さんも怒ってないから……」 一向に布団から出る気配のない様子に、誠はどうしようかと考えていたとき、部屋の扉がノックされた。 「誠、昌、ちょっといいかしら。」 少し早口になった母親の呼ぶ声が聞こえる。昌のことが心配なんだろうと、ベッドからそっと離れ、ドアを開ける。 「…昌は…?」 灯りの点いていない部屋を不安気な表情で覗き込んだ。 「まだ、拗ねてるよ。」 大げさに肩をすくめると、ふと、母親の顔色が悪いことに気が付いた。 「…かあさん?」 口紅を塗っているはずの、唇が紫色になり、震えているようだ。 「何かあったの?」 誠は先ほどの電話を思い出した。何か悪い知らせだろうか。 「……先生が倒れたの…これから、お父さんと病院へお見舞いに行ってくるのだけど、留守番を頼んでも大丈夫?」 母親が呼ぶ『先生』 父親が会計事務所を営むことから、持ち込まれる法律に関しての相談に乗ってもらっている弁護士だ。両親とは学生時代からの付き合いで、結婚式の時には立会人になってもらったほどの仲だ。 よくこの家にも出入りしていて、よく、昌とキャッチボールをしていた。 そして、母の『恋人』 10年前に見た母の裏切りと痴態。 その『恋人』が倒れたのだ、気が動転しても何もおかしくない。心の動揺を悟られないように平静さを装っている姿は滑稽だ。 「家のことはいいけれど、先生は大丈夫なの?」 「………わからないの……電話だとはっきりしなくて…命には別状は無いらしいけれど…とってもお世話になっている先生だから…とりあえず、お父さんと行くことにしたの…」 素直に『恋人』が心配なのだと言えない母を見て、誠は唇が歪むのを堪えるのに神経を使う。 「容態が心配だね。昌のことも家のこともいいから、早くお見舞いに行ったほうがいいよ。」 そう、1秒でも早く『恋人』のところへ行けばいい。何も知らない夫を連れて。 親しいおじさんを心配する振りをして、誠は心の中であざ笑う。 「もう、行くぞ。用意はいいか?」 1階から、父の呼ぶ声がした。 「ええ。もう行きます。」 父の声に引かれるように母が動く。 「じゃあ、お母さんたちは病院へ行くから、戸締りと火の元には気をつけてね。都内の大学病院だから、いつ帰れるか分からないの。家のことと昌を頼みましたよ。」 もう、心は『恋人』の元にあるのだろう、マニュアルを読むように早口で用件を誠に伝えると、小走りで階段を下りていった。 下から、父親と話す声が聞こえる。バタバタとあわただしい物音がして、ばたんと玄関のドアが開いて…閉じる。 そして、エンジン音がして、遠ざかり、家が静かになる。 一部始終を確認した誠は再び昌の待つ部屋へと足を踏み入れる。 これから数時間は誰にも邪魔されることはない。 蒼い部屋に誠の姿が溶け込み、扉が閉まった。 しんと静まり返った部屋は月灯りで蒼く照らされている。 「…昌」 ドア越しに聞こえた、いつもと違う母の声と様子に、布団から出た昌がちょこんとベッドの上に座っていた。 「兄ちゃん、何かあったの?」 月明かりの下からでも昌の不安そうな気配が伝わってくる。自分の範囲を超えたことが起こっているのだと分かっているようだ。 「先生が入院したんだって。父さんと母さんがお見舞いに行ったんだ。」 「………」 どんな言葉を返していいのか分からない昌は返事が出来ない。誠は昌の隣に腰を下ろした。 「大丈夫だよ…兄ちゃんがいるから。母さんたちもすぐに帰ってくるさ。」 「……うん。おじさん、元気になったらいいね。」 誠の穏やかな声に昌から肩の力が抜けた。 「そうだな。」 別にどちらでもいいけどな。と、心の中で呟いた。『先生』がどうなろうと誠には関係ない。裏切り続けた母親のほうが気が気でないのだろうけど。 ふっ… 誠は思わずこみ上げてくる冷たい笑みに内心驚いていた。 10年前の夜から母が好きではなくなっている。しかし、やはり血の繋がった親だから嫌いにもなれなかった。年々母親に似てくるある意味幸運の弟と共に生活をする上で、根本的な感情を殺していたのかもしれない。 母は嫌いだと。夫がいる身でありながら、他人と関係を続け、父親が誰かも分からない息子を産み、家族を裏切り続けた。 母の罪を背負って生まれてきた、弟に罰を与える。誠が母を失った10年目に弟からも何かを奪い取ってやる。そのために費やした10年間は惜しくなかったのかもしれない。 罪のない、罪深い昌に罰を与える。 「兄ちゃん?どうしたの……?」 急に黙ってしまった兄に昌はおどおどと聞く。 先ほどの誕生日を祝う団欒の席を、つまらないわがままで壊してしまったことを誠が怒っているのではないかと、昌は不安になってしまった。 「んっ?」 どのくらい、ぼおっとしていたのか、昌の声にはっとした。 「別になんでもないよ。それより、もう、何も言わなくても分かってるよね。」 「まこ兄ぃ…」 月明かりが差し込む部屋に、誠の静かな声が響いた。蒼く照らされている兄は冷静で怒っているようには見えなかった。だけど、昌には怒っているほうが精神的に楽だっただろう。 静かな表情に昌は自分のしたことが、いけないことだったと悟っていった。 「……ご…めんなさい。」 止まったと思った涙がまた溢れてきて、昌は頬をシャツの袖で拭いながら謝る。 「分かればいいんだよ。明日、父さんが帰ってきたら一緒に謝ろうな。」 「うん。」 誠から二つのプレゼントを受け取り、昌にいつもの笑顔が戻っていく。ごろんとベッドに寝転んで、両手にあるそれぞれのプレゼントを見比べた。明日は誠とキャッチボールをするのだ。 掌に納まる兄の投げるボールを想像して、わくわくしてくる。 「父さんに謝る前に教えて欲しいな。どうして、さっきはあんなことを言ったんだ?」 「…えっ……?」 気持はすっかり明日のことに行っていた昌はびっくりして誠のほうへ振り向いた。 「さっきのことっ……って?」 もう、お開きになったと思っていたので、不意をつかれた昌は口をパクパクとさせる。 「昌が何の理由もなく、怒ること無いからさ。何でかなって…ね。」 あくまでも誠は優しく聞いた。年の離れた弟を心配する兄を演じる。馴れきった行為だ。 「父さんには内緒するから、兄ちゃんには教えて欲しいな。」 長年、逆らえない兄という存在を刷り込まれてきた昌には、抵抗することは出来ないようだ。 「…まこ兄ぃが…僕と、本気になって…野球やってくれないから…」 むくっとベッドに座りなおし、誠を真っ直ぐに見上げる。 「昌が怪我したら大変だろ?」 「ううんっ、僕、ちゃんと練習してるもん。僕、兄ちゃんのボールが捕りたくて練習してるんだもん。」 ぶるぶると首を振る。 「昌はまだ小さいし、身体もできてないんだから、無理しちゃ駄目なんだ。わかるだろ?」 「やだやだ、僕、もう子供じゃないよっ。大きくなったもんっ。」 剥きになる昌がかわいくて可笑しい。子供じゃないと言い張るほど、子供なのに。 恐れを知らず、純粋培養された穢れを知らない無邪気な弟。 誠はこの日が来るのを待ち望んでいたのだ。当初、考えていた予定とは少し違うが、両親の不在という絶好の機会を無駄にはしない。 むしろ、『先生』が倒れ母が失意に涙する日と、昌の誕生日が重なったのは偶然では無い気がするのは何故だろうか。 昌に罰を与えよう。 俺から母を奪った昌に罰を。 誠からやさしい兄という仮面が外された。 「…子供じゃないのなら。証拠をみせろよ。」 始まりを告げる声は低かった。 「……??」 心のどこかで兄との会話を楽しんでいた昌は、急に変化した誠の言葉が上手く理解できない。いつものように駄々をこねる自分を受け流すのだと思っていたので、調子の違う誠の声に首をかしげる。 「にいちゃ…ん…?」 「証拠を見せろといってるだろ。」 月明かりが部屋を蒼く照らしている。誠も昌も。 柔和でやさしい表情が消え、暗い漆黒の瞳が昌を捕らえて離さない。 怖い。 昌の本能が警告を発した。 逃げろと。 恐怖を鳴らしてその身を守ろうとしている。 「まこ兄ぃ…?」 しかし、初めての警鐘は昌には届かなかった。10年の月日とかけて刷り込まれた誠への信頼と服従が、恐怖心を覆い隠していく。 「昌が大人だっていう、証拠を見せろ。今すぐにだ。」 「…………?」 誠は何を言ってるのだろう?『子供じゃない』というのは、兄の気を引く為の言葉のあやであって、昌は大人ではない。ませた今時の子供でなく、そういった知識と情報を持たない昌には、誠の問いに答えることは出来なかった。 「わかんないよっ…兄ちゃん。」 見たことの無い誠の冷たい視線と、考えたことのない事柄に昌の頭が混乱してしまう。 「昌は大人なんだろ?」 「ひゃっ!」 誠の大きな手が昌の腕を捕らえる。思いもよらない強い力に身体が強ばる。 「いたっ」 「証拠が見せれないのなら、俺が大人にしてやるよ。」 きっと掴まれた腕は赤く跡が付いているに違いない。 夜の闇の中、肉食獣が哀れな獲物を捕らえる。 「にいちゃん?」 ぎりりと二の腕を掴んで昌の身体を拘束すると、混乱で震える小さな唇を静かに塞ぐ。 哀れな昌は逃れる術を知ることもないまま、肉食獣に食されていった。 くちっ… あたたかくぬめった舌が、昌の唇をこじ開けて口内を動き回る。奥に逃げる舌を絡めとり、吸い上げて舌伝いに唾液を流し込んだ。 「、、、、、ん、、、っ、、ぁ、、、にぃちゃ、、、」 何が自分の身に起こっているのか理解出来ず、昌は近すぎて焦点の合わない誠を見る。 口内に誠の唾液が流れてきて、訳もわからず昌は飲み込んでいく。 こくりと喉が鳴った。 「ふぁっ」 与えられた唾液を飲み干すと、誠が唇を解放する。 「初めての割には上出来だな。」 昌はぼんやりとした視界にいる、誠を信じられない思い出見つめた。 「にぃちゃん、、んで、、へんだょ、、」 学校で悪がき達と面白半分に話していた「えろい」話の中では、あくまでも男と女の間で行われる行為のはずだ。男と男しかも、兄弟の間でするなんて、昌には全く考えられない。 「へんじゃないさ。昌が大人の証拠を見せてくれないから、お兄ちゃんがしてあげてるのに…嫌なの?」 「だって、こんなの、おかしいよ。」 ようやく、思考の戻ってきた昌は首を振って、否定した。 「じゃぁ、証拠を見せてみろ。今すぐに。」 「わかんないよっ!」 拘束された腕はそのままで、掴む力が強くなる。目はギラ付いていて、口調も荒い。こんな兄は見たことが無かった。理解不能な兄の言動が怖い。喉は渇くのに目頭は熱くなって、身体が震えだす。 「…たく、しょがないなぁ。我侭な昌は嫌いだ。」 「………っぇ……きらい?」 誠の発した「きらい」の単語に昌はひどく反応する。 まだ昌がモノ心の付かないときから、両親にも気づかれずに刷り込まれた言葉。兄が大好き。だから、嫌われるのはいけない事。嫌われることはしてはいけない。 と、誠から深層心理に刷り込まれていた。 『兄一筋』と誠を慕っていたのが、実は誠によって誘導されいたのだと、昌は知る由もない。そして、絶対的なキーワードを突きつけられ、昌は拒むことが出来なくなってしまった。 「いやっ、兄ちゃん。嫌わないで。いい子にしてるからっ!」 軽く恐慌状態に陥った昌が、誠のシャツに縋り付く。溢れる涙をぽろぽろとこぼした。 掴んだ腕からも昌が震えているのか伝わってくる。誠は怯える昌を見下ろして、股間に熱く火がともっていくのを感じた。血の繋がった弟を犯そうとしている状況に興奮しているのだ。自分の思い描いた反応をを示す昌に誠は小躍りしそうになるのをぐっとこらえ、ぎゅっと胸に抱きこんだ。 「昌がいい子にしてたら、嫌いにならないよ…」 「本当?」 「ああ、昌が兄ちゃんの言うことをちゃんと聞いてくれたらね。」 太陽の匂いのするふわふわの髪を手櫛で梳いた。 「…聞ける。兄ちゃんのいうこときくから…」 シャツに被って少しくもぐって聞こえる声で昌は頷く。 「本当……だな。」 もう一度確かめれば、昌はこくんと大きく頷いた。 「じゃあ、これから昌に大人の証拠を教えてやるから。大人しくしてること。」 こくり。 「分かったな。」 こくり。 「じゃあ、兄ちゃんの顔を見るんだ。」 「………。」 昌は促され顔を上げ兄を見つめた。その顔は綺麗に整っているのに、とても怖かった。これがきっと兄の大人の顔なんだろうと、昌は新しい兄を覚えていく。 「いい子だな。」 満足げに笑うと再び昌に口付けると、今度は抵抗無く薄く開いた唇から内部を侵食するのはたやすい。 互いの唾液が交じり合う、濡れた音が部屋を満たしていく。 されるがままの従順な昌は舌を捧げると、きつく絡め捕られた。 「、、、ぅん、、、はぁ、、、」 呼吸もままならなくて、誠の巧みな舌使いに頭がぼうっとしてきて、身体から力が抜けていく。 大きな誠の腕の中にいると、今までに感じたことの無いような安心感が昌を支配していった。 兄に支配されることの悦び。昌に流れている禁忌の被虐の血が目覚め始めていく。 ゆっくりとベッドに寝かされて、誠の温度と重みを感じて昌は目を閉じた。 永い口付けから唇を解放されたころには、昌の洋服は取り払われている。抵抗しようにも兄の手は巧みにシャツを剥ぎ、ジーパンを器用に足から抜き取っていた。 誠の唾液を何度も飲まされて、犯されてた上下の唇はぽってりと膨らんで、じんっと熱い。 「にいちゃぁ、、、ん」 舌が痺れて上手く話せずにいる昌を誠は見下ろした。 程よく太陽に照らされた肌は健康的で、美味しそうだ。月明かりの中でも明るい色を保った茶色の髪が枕に広がっている。 「かわいいよ。」 昌の全てが愛おしい………そして、同じだけ嫌い。 相反する感情を孕んだまま、誠は昌に口付ける。 「、、、っ、くすぐった、、、ぃょ、、っ」 誠の滑る舌が唾液の跡を引きながら、首筋から胸へと這っていった。自在に硬さと軟らかさを操って、肌理細やかな肌に朱の所有印を付けていく。 「、、、ひゃっぁ、、、っ!」 特に反応するところを集中的に弄ると、昌がもぞもぞと膝をこすり合わせた。 「血は争えないな…」 昌の幼いモノが頭をもたげ始めるのを、触れっている肌で確かめると誠は苦笑する。 互いの肌に圧迫されて、震えるモノを無視して誠は上下する胸で芯をもち硬くしこる、ピンクの乳首を含む。 「やぁ、、、っ」 むき出しの神経の束をつつかれるような感触に、昌はとっさに身を捩った。 「そこっ、、やだっ、、」 身体をずらして舌の攻撃から逃れようとするが、誠の力強い腕が抵抗を抑え込む。 「ぃやぁっ。」 誠の舌が蠢くたびに、脳天まで痺れが駆け抜けていく。上から押さえ込まれて逃げ場はなく、昌は与えられる攻めを享受していった。 「ああああっ、、」 片方は唇と歯にいじめられて、もう片方を指で摘まれる。両方からの違った刺激が昌の中で混ざりあい、神経を冒していった。 両方の乳首が赤く充血して彩られるときには、昌の下半身は硬く反りかえり自分ではどうしようもない疼きを収めることが出来なくなっていて、独りでに腰を動かして、誠の腹に擦り付けていた。 「いけない子だなぁ。」 腹に感じる昌のモノ。 使われたことのないピュアで綺麗なペニスは、色素の沈着がなく肌と同じ色の包皮に包まれて震えている。中の質量が増して押し出された鈴口が口をパクパクさせている。 「こんなに大きくさせて。感じてるんだ…昌はいやらしいな。」 天井を向くそれを指で弾いた。 「やだっ、、、見ないで。」 それだけで腰がびっくと動いてしまい、恥ずかしくて顔を真っ赤にさせた昌は両手でペニスを隠す。 「大丈夫。はずかしくないから、兄ちゃんに見せてごらん。もっと気持ちよくしてあげるから。」 「にいちゃん、、、」 両手を外すと、迷うことなく含んだ。 「やだぁ」 おにいちゃん。駄目だよ。汚いよ。 汚いそこを口にいれるなんて、昌の中には無い行為に思わず腰を引いた。しかし、兄の大きな手に固定されて逃げることも出来ず、口淫を受ける。 「、、、にぃっ、、、、ちゃ、、、ゃ、、、なの、、、にぃ、、っ」 ぐにぐにと兄の舌が幼いものに絡みつき、皮を剥いて鈴口をなじった。柔らかな粘膜に包まれて、昌のモノが焼け付きそうだった。 「だめ、、、だめっ、、、」 含まれたそこからわきあがる感覚を処理することが出来ずに、昌は頭を枕に押し付けて首をふった。 精通のまだ無い昌にとってそこを弄られるのは、甘い拷問だ。 誠の頭を太ももで挟み込んで、少しでも与えられる刺激を弱めようとするが、反対に膝を大きく割られてしまい、無毛の下腹部をさらけ出すことになる。 「にいちゃんっ、、、やだようっ」 舐められている先が熱い。硬く血の集まるそれは誠の動きに合わせて、鼓動を繰り返す。 「あっあっあっあっ」 誠の口内に含まれているところから、全身に広がる甘くて強烈な感覚。腰が上下左右に意識せずとも勝手に動く。絶頂の波が押し寄せても、未成熟の昌からは誠の望む秘蜜は溢れてこない。溢れる蜜の変わりに、誠の唾液が昌の下腹部を濡らしている。 「まだ…子供だな。仕方ないか。」 仕込む時間は十分にあるのだと、ひとりごちると誠は震えるペニスを解放した。 「、、、、はぁっ、、、っなにっ??」 ようやく解放されたのだと緊張をといたとき、膝が胸に付くくらいに身体を折り曲げられてしまった。腰の下には誠の太ももが入り込んで双丘の奥にある窄まりが誠の目にさらされる。自分はもちろん誰にも見せたことの無い恥ずかしい部分を月明かりに照らされて、昌は足を閉じようとした。 「やだやだやだっ」 足をバタつかせるが、兄の力には敵ない。 「じっとしてないか。」 誠の強い言葉に昌の抵抗が止んだ。 「にいちゃん、、、、」 恥ずかしくて汚いところを弄るのが、どうして大人の証拠なのか理解出来ない昌は潤んだ瞳で兄を見上げる。 「にいちゃ、、、、っんんんっ!!」 昌が驚くのも無理はない。外気に触れてひくつく放射状の窄まりに、誠の舌が触れたのだ。 「にぃちゃ、、、、ん、、っ、、、」 口に感じた時と同じように、誠の舌はそれだけで一つの生物のように蠢いた。硬く口を閉ざすしわの一枚一枚を丹念に嘗め回し、こじ開けては内部に唾液を注ぎ込む。 「、、、ぁ、、、、ぁ、、、ん、、、、はぁ、、、、はぁ、、、」 舌の腹を使って肉門全てを舐め挙げたと思ったら、先端で入り口を突く。そして、昌の乱れる呼吸と共に緩んだタイミングに合わせて、内部に侵入した。 「ああああああっ」 身体の中に感じる誠の熱い舌が動いている。舌先が腸壁を突いている。 「ああああああぅ、、、んんんんっ」 入り口を閉めれば兄を傷つけてしまうかもしれないので、昌は泣く泣く筋肉を緩められるように、息を吐いた。 「あぁぁ、、きたなぃ、、、ょぅ、、、きたないぃぁぁっ、、」 どうにか誠の行為やめさせたくて、顔を両手で覆った昌はうわごとを繰り返している。 「大丈夫、昌のは汚くなんかさいよ。お兄ちゃんに任せればいい。」 素直に力を抜こうとしている昌に、気を良くした誠は優しげな声色でそう言うと、尻たぶを両手で開き、開いた肉洞に唾液を注ぎ込む行為を繰り返していった。 「ぁぁ、、、ぁっ、、、ん、、」 大丈夫…悪魔の囁きが、被虐心を満たしていった。不浄の窄まりを愛撫されることによって、昌は身体の全てを支配されている錯覚に陥っていった。何が起こるのか分からない不安を兄に委ねて、兄から与えられる快楽のみを追って行く。支配される安心感が昌を浸していった。 「ぃ、、、ぁぅ、、、っ、、、はっ、、」 尻の穴がぐちゃぐちゃになるまで舐められて、舌よりも硬い長くて綺麗な指が内部を満たす頃には昌の身体は引き返すことの出来ない、熱に囚われていた。 「、、、あんっ、、、そこっ、、、ぁっぃ、、、あっ、、」 1本の指が2本に増え、昌の直腸内を探るように蠢いている。その指の先が感じるところに触れたとき、昌の腰が跳ね上がった。 「ああああああっ、、、だっ、、、だめっ、、、、ぃぃぃぃっやぁ、、」 目を見開いてシーツを握り締め、初めての感覚に苛まれる昌。 天使のようだと称された穢れのない弟が、顔を桜色に染め、全身を硬直させて快楽に溺れる姿は誠の中にあった嗜虐心に火をつけるには十分だった。 「……かわいいよ…もっと、鳴かしてあげよう。」 肉門を開く指を3本に増やす。 「ぐっ、、、うううぅんんっ」 強引に拡張される苦しさに、昌は息を詰めるが、すぐに感じるところを探り当てられ、苦しさを忘れてしまう。 「ンン、、、、っ、、、、いやぁっ」 指を咥える孔からは注ぎ込まれた唾液が、抜き差しに合わせ、いやらしい音をたてて泡立っている。 内臓をまさぐる指は不規則な速度で、昌を追い詰めていった。深く奥まで侵食していたと思えば気まぐれに、浅く入り口を解していく。 「ぁぁ、、、んぁ、、、っぁ、、、もう、、っやぁだ、、」 付いていけない指の動きに昌の身体が変化する。 「やっめ、、てっ、、、へ、、ん、、、ぁっ、、うそっ、、」 身体が熱い。誠の指が触れるところはもっと熱かった。 誠は昌の急激な変化を読み取ると、追い詰めるために指の動きを早めていった。 「いいいやっ、、、、へん、、か、、らだが、、、っかしく、、なっ、、ちゃう、、」 つま先が緊張のあまりに反り返る。わけのわからない熱に抗う昌は、首を左右に振りたてている。 「だぁめっ、、、もう、、しな、、ぃでぇ、、、っ、、」 誠の指から逃れようにも、両膝で腰を挟まれて体重をかけて押さえ込まれている体制では逃げるところは無い。 誠のいいようにその身を捧げるしかない。 「くるっ、、、へんっ、、、あああああああっ、、、、」 そして、断末魔の叫び声をあげると、捏ねられて熟れた腸壁が収縮し始めた。 「あああああああああああああ」 ぎゅっと誠の指を限界まで絞り上げると、緊張の切れた粘膜が痙攣を繰り返す。その心地よい抵抗に逆らうように指の出し入れをすれば、昌の官能が深まっていった。 「、、ぁ、、ぁ、、ん、、、んんんっ、、、」 腸壁の収縮を満足するまで堪能した誠は指を引き抜く。長く指を受け入れていた肉洞は熟れたざくろのように染め上がっていた。 「凄いよ…昌…やっぱり母さんの血を引いているだけのことはある。後ろだけでイッちゃったよ。」 「ぇっ、、、な、、、に?、、かぁ、、、さ、、、?うぅんんっ」 初めて身に起こった変化に混乱している昌には、誠の言うことの意味が分からず、理解出来ない。 うつろな瞳の昌を見下ろすと、 「おにいちゃんがあきらをおとなにしてあげるからね。」 耳元で囁き、そして、深く口付けた。 「んんんっ!」 昌の甘く感じる舌と唾液を吸い上げながら、昌を身体に下に組み敷いて、荒々しく猛々しい肉棒を解した後孔に押し当てる。 「、、、ぷっぁっ、、、!!だめっ!」 後ろに触れた、熱くて大きな一物に昌の最後の理性が顔を覗かせた。 今ココで、それを身の内に受け入れてしまえば、後戻りは出来ないと、本能が叫んでいる。 「だめだよ、、、こんなの、、、兄弟で、、やらないよぉ、、、」 残った力いっぱいに胸を押し返す。しかし、そんなささやかな抵抗は誠を煽る行為にしかならない。 「兄ちゃんだから出来るんだよ。昌が可愛いから、兄ちゃんが大人にしてやるのさ。」 「違うよっ、、へんだよっ、、、」 瞳を涙で潤ませ、兄を見つめる。こんな兄は知らない。 「大丈夫。痛くしないから。」 昌の悲痛な願いも兄には届かない。熱い肉棒の圧迫を後孔に感じ、昌は息を詰める。 「いやっぁぁあ」 解されて、濡らされた窄まりが肉の圧力で口を開いていく。閉じようとする意思より内部を犯そうとする力のほうが強くて、指では届かなかった奥まで肉欲を受け入れていくしかない。 「いたいっ、、、いたいよ、、、」 限界まで広げられ、皺がなくなるまで男根を飲み込んだ肉門は薄く延びている。誠が動けばきっと裂けてしまうだろう。 「、、、、ぃた、、うご、、ぃちゃ、、だめっ、、」 信じられないくらいの大きな肉棒が腸を満たしていて、頭の先まで貫かれたようだ。強烈な刺激が全身を駆け抜けていった。 「すぐに馴れるさ。それに、昌には痛くないとね。罰にならないよ。」 誠は意味深な笑みを浮かべ、肉棒をゆっくり引き抜き、また深く埋めていった。 「いぁぁぁぃぃ、っ、、、」 昌の恐れていた動きが始まった。出ては入り、出てはまた奥深くまで受け入れて。 唾液で濡らされたとはいえ、初めて欲望を受け止めたそこは薄く延びきっていて、肉の擦れあいで悲鳴を上げている。 「いたっっ、、、」 ぴりっ。 と尖がった痛みが走りぬけたと同時に入り口が傷付いたようだ。一筋の赤い流れが腰を伝って、白いシーツに染みを作っていく。 「、、、、ぁ、、、ぁ、、、ぃっ、、、ぁ、、」 滑る血液が抜き差しの潤滑油となっていった。 皮肉なことに流した血が、昌を追い上げることになっていく。 「、、ぁ、、ぁ、ぁ、、ぃやっ、、、また、、くる、、、よっ、、、」 幼く狭い粘膜は敏感になっていて、受け入れるには大きすぎる誠の肉棒が感じるところを余すとこなく、押しつぶしていった。 捏ねられて熟れた腸壁に染込む、被虐の血が痛みの先にある快楽を広い上げていく。 「ぃやぁ、、、、んっ、、、にいちゃ、、、、もう、、や、、、ぁ」 誠に突き上げられて、揺れる視界が真っ赤に染まる。 一度自覚した快感に昌の被虐の性は従順に従っていった。 「、、へんっ、、、おち、、、るっ、、、、、ぁぁ、、、」 脳天まで突き抜ける熱に身体がバラバラになりそうだ。崩れるのが怖くて昌は誠に縋り付いた。シャツをぎゅっと掴んで離せない。 「イケよ。ここだけでイクんだ。男になる前に、女にしてやるよ。」 誠の腰使いは更に大胆に大きくなっていく。昌から全てを奪い取るために。 後孔は赤く染まり、唾液と混ざり合って、濡れた淫らな音をたてている。 痛みの麻痺したところから全身に広がる気持ちよさ。指で感じたときよりも強烈な快感が昌を満たしていった。 イク?兄ちゃんにイカされる……? 変になって、いいの? 誠に導かれ、従順なれる喜びに昌の中で何かがプツリと切れた。 「はぁぁぁっ、、、、んんっ」 誠の腕の中で昌の身体が弓なりにしなる。と、ほぼ同時に肉棒に腸壁の痙攣が伝わってきた。 「淫乱なやつ。尻でイッた…んだ。」 痙攣する粘膜に、誠も我慢できなくなり白濁の液を内部にぶちまけた。 「ぁぁ、、、つい、、、っ、、」 腹の奥に熱いものを注がれた昌は、自分がもう子供ではなくなってしまったのだとうつろな頭で考える。それと同じだけ、悦びを感じていた。 身体を震わせて頂点を極めている昌が、10年前の母親と重なる。 淫らで、いやらしい… あきら。 焦点の合わないうつろな表情のなか、恍惚とした世界を彷徨う哀れな昌。 はぁはぁと荒い呼吸が快楽の深さを物語っている。 「……駄目じゃないか…気持いいなんて。罰にならない…」 誠は昌の身体をひっくり返すと、腰を掲げさせ獣の形で深く貫く。 その拍子にプラネタリウム投影機が床に転げ落ちた。落ちた衝撃でスイッチが入り、部屋一面に星空が広がった。 「いぁぁ、、っ、、にぃちゃん、、、もう、、だめっ、、、こわれちゃぅ、、っ」 力の入らない腕では身体を支えることが出来ないので、必然的に肩で身体を支え腰だけが持ち上げられた体制になっている。部屋前面に広がる星空を眺める余裕は昌にはない。 「昌は淫乱だから、これくらいで壊れないよ。」 誠も光の天を一瞥すると、律動を再開させた。 じゅっじっぷっ、、、 先ほど注がれた精液が潤滑油の変わりとなり、誠の腰の動きはスムーズになっている。 「ぁぁん、、、だめぇ、、、、、、」 蒼い部屋に昌の悲鳴と誠の荒い呼吸が、いつ果てるともなく続いていった。 甘く淫らな空気を満たしていく。 ////////////////////////////////////////////////////////////////////////////// 翌日――――。 再び誠は玄関先で両親を見送っていた。 喪服に身を包んだ両親。 結局、『先生』は母親の願いも敵わずに、帰らぬ人となったらしい。 愛しい恋人を失ってしまった母親は顔面蒼白で、今にも倒れてしまいそうだ。それでも気丈に振舞う姿に誠は舌を巻いた。 この女はどこまで、強かなのか。 「連休が台無しになってごめんなさいね……昌のことよろしくね。」 「今夜がお通夜だから、帰りは遅くなる。家のこと頼んだぞ。」 「わかってるよ。」 誠が頷くと、母親が2階の昌の部屋に視線を馳せた。 昨夜の行為で起き上がることの出来ない昌は、部屋にこもりっぱなしだった。 もし、母親に正常な行動が出来ていれば、昌の異常に気が付いたかもしれないのに。 昌の叫びは唯一守ってくれる存在の母親に届かない。 「じゃ…行ってきますね。」 「行ってらっしゃい。」 一時でも早く、恋人のもとに行きたいのだろう、母親が先に玄関を出て行く。靴を履いていた父親が遅れて続いた。 「っ!!!」 一瞬、誠は自分の目を疑ってしまった。 母親の後姿を見つめる、父が笑っていたのだ。 誠によく似た、冷徹で皮肉な笑みで口元を歪ませて。 靴べらを元の位置に掛けると、父親は立ち上がり動けないでいる誠の肩を、ぽんぽんと軽く2度叩いた。 「昌のこと……頼んだぞ。」 メガネの奥から覗く、父の偽りの自愛に満ちたその微笑に、誠は全てを悟った。 父は全てを知っていたのだ。 全てを知っているのだ。 誠の昌に対する想いも。 母に対する、憎しみも。 きっと夕べ昌の身に起こったことも、知っているのだろう。 「もちろん…任せといてよ。」 誠も父親譲りの笑みで返すと、玄関から出て行く父を見送った。 †††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††††† それから数年がたち、昌も中学生になった。 相変わらず、父と母は夫婦をやっていてそれなりに上手く行っている。 恋人の死を乗り越える、女の心の強さに誠は呆れるしかなかった。 全てを知っている父親と俺。 何も知らない、母親。 そして、家族の罪を償い続ける弟。 偽りの家族の歪んだ関係が、今夜も淫らな赤い縄を紡いでいる。 「、、、、っ、、ぅ、、、にぃ、、、、ちゃ、、、」 組しかれた身体が汗に濡れていた。エアコンを付けても身体の奥深くから湧き上がる熱を冷ますことは出来ない。小さな珠になった汗が伝い落ちて乱れたシーツに染込んでいく。 「、、、おにぃ、、、、も、、ぅ、、もう、、」 すがるものを探して、握り締めた白いシーツとは対照的な、日に焼けた肌。 中学に入りしなやかに成長を始めた身体は、日々の部活で鍛えられて程よい筋肉をまとっている。なのに声はまだボーイソプラノの音域を守っていて、成長途中のアンバランスさが俺の嗜虐心を煽ってやまない。 「だめだ。」 限界を訴える昌を無視して、俺は打ち付ける腰の動きを早めた。亀頭が見えるくらいまで引き抜くと、締まる肉道に逆らって奥まで穿つ。たっぷりと施したオイルがくぷりと音をたててはじけた。 「、、、、ぃっ、ぁぁぁぁっ、、、」 不規則な動きについてこれずに逃げようと昌が身をよじる。しかしそれ自体が新たな刺激となって自分を苦しめることに気づいていないようだ。 「お、、にぃ、、、、もう、、だぁっ、、、」 大きく開かれたそこはめいいっぱいに、俺をくわえ込んでいる。縁を真っ赤に色づかせ、欲望のままに収縮を繰り返す、貪欲な入り口。 そして、ぴくぴくと震えて起ちあがっているペニスに巻かれた深紅の紐。根元から先まで丁寧に巻きつけた赤い縄化粧によって、昌は欲望を吐き出すことを禁じられていた。 「ああああああっ」 先走りの淫らな汁が深紅の紐をしどしどに濡らし、色を濃く染め上げる。 気持がよくて、苦しくて、縛られたそこは痛いのに、やっぱり気持ちよくて。 目を閉じることも出来ずに、混乱したまま昌は栗色の髪をシーツに散らして、悶えている。 「ゆるっ、、、しぃ、、、てぇ、、」 「もう少し我慢しようね。」 俺は容赦なく昌の身体を揺さぶりながら、熱情にぽってりと膨らんだ唇を舐めた。 昌には赤が良く似合う。 「昌は痛くて苦しいのが好きなんだから、我慢しなきゃね。」 いやいやと駄々をこねる幼い子供をあやす様に髪を撫でる。声色は優しく、だけど肉を責める動きは変えてやらない。 「、、、、ん、、、やだ、、よぅ、、、とって、、、はず、、して、、、」 吐き出せない欲望が身体の中で渦巻いて、昌の思考がぼんやりと溶け始める。潤んだ瞳が月明かりに照らされて、妖しく濡れているようだ。長い時間をかけて仕込んだ極上の身体。 「お兄ちゃんが達ったら外してあげるよ。」 「あぁ、、、、、、」 達くことを許されないことを悟った昌が、悲しげに吐息をもらす。頂点で押しとどめられたまま、達くことを諦めた昌が俺の首に腕を回してしがみ付いた。と、同時に後孔がキュッと締まる。 どうすれば早く解放できるのか、身体は良く知っているようで、無意識の反応に俺は唇を歪ませた。お互いの汗ばんだ身体が密着して、昌の若い太陽のような匂いが鼻腔をくすぐる。 「いい子だね。昌…もっと気持ちよくしてあげるよ。」 内部の程よい締め付けに更に大きくなった一物で、昌が一番感じる内部を貫いてやる。 「ひゃぁっ、、、」 昌の嬌声と同時に背中にピリッと痛みが走った。どうやら爪を立てたようだ。 「いけない子だね。そんなにお仕置きされたいんだ。」 お仕置き…の単語に昌の身体が強ばる。何をされるかは分からないけれど、何が待っているのかは十分に予想できる。 「ごめん、、、なさい、、、にい、、ちゃ、、」 ふるふると首を振り許しを請う昌。溜まった涙が一筋頬を伝った。 「もうすぐ、父さんも来るから、お仕置きしてもらおうね。」 与えられる快楽に怯え 兄弟と親子の血のしがらみに怯え 理解出来ない、関係に怯える 可愛い弟 兄と弟という絶対的な力関係と、 逃れる術を知らない悦楽で縛り 幼い弟を支配する。 支配されることが、悦びに変わるまで 俺の教育は終わらない。 10歳の時、母の女の部分を見たときから、俺は狂ったのかもしれない 昌もまた10歳の夏から狂っていったのだ。 「だめだよ。」 昌の嬌声が部屋に響いた。 初めて、長いBLものに挑戦してみました。感想。細かいところとか微妙に入れていかなければいけないので、おっと、難しいですね。世間の作家様たちは凄いですよ。だって、キャラの性格とかちゃんと考えているわけですからね。最後までお兄ちゃんの扱いを迷ってしまいました。 きっと、昌くんのことは好きなんだと思います。歪んだ愛情の裏返しですから… 密かに、お父さんがお気に入りです(苦笑) とても、楽しかったです。ただ、エッチなところがエロくならないのが…修行あるのみですね。 |