傷跡.11



昼休みの教室。
弁当を広げている、遊戯達。
「とうとう、城之内君こなかったね。」
遊戯は城之内の空の机を眺めている。昨日からいや、ここ数日様子がおかしかった城之内のことが気になって遊戯の箸が進んでいない。
 杏子は「どうせいつものサボりなんだから、気にすること無いわよ。」と励ましてくれるのだが、もう一人の遊戯も心配そうにしている。
 遊戯にはどうしても頭から離れない言葉があった。

 キレルぞ。

 昨日、本田が城之内の耳元でささやいていた言葉だったが、しっかりと遊戯の耳に入っていたのだ。
 ”キレル”とはどういうことだろう。
 どう考えても、一般的に使われている意味とは違うようだった。遊戯は向かい合って、焼きそばパンをほおばっている本田に思い切って聞いてみた。
「ねえ、本田君ちょっといいかな?」
「…ほぁ?なんぐぁ?」
 じゅーっと牛乳で焼きそばパンを飲み込む。
「城之内くんのことなんだけど………昨日言っていた、キレル。ってどういうこと?」
「ぐっ………んがっ……ごぼっ…ごほっ!はあ?」
 ストレートな質問に本田が食べていたパンを喉に詰まらせた。
「うん。昨日ね城之内君に、言ってたでしょ。”キレル”って。その後城之内くんを連れ出したし、それに今日は城之内くん休みだし。なにか関係あるのかなって僕でなくても思うでしょ。」
 胸をたたきながら、本田はあせっていた。
 (やべ…え)
 周りにいる杏子もバクラも興味津々なんだろう、箸をおいて本田の様子を観察している。
「え、いや…その…」
 遊戯が本田をじっと見つめる。顔はにこやかだが眼は真剣だ。
「ね。」
 にっこりと、微笑むと本田の手の中にある焼きそばパンを取り上げた。
「……かなわねえや。」
 本田は遊戯の熱意に押されて、というより、遊戯の役者ぶりにこれ以上隠し立ては出来ないとあきらめた。
 残っていた牛乳を飲み干すと、大きく深呼吸をして話し始めた。
「あいつには絶対に言うんじゃないぞ。」
 本田は凄みを効かせて口止めをした。うんうんとうなずくバクラと杏子。
 遊戯は食い入るように本田を凝視している。本田はゴホンと咳払いをする。
「城之内はな、たまにあんなになるんだ。」
「………?」
「俺とあいつとのつき合いは中学の時からだけど、まあな、昔からけんかとかむちゃくちゃ強かったんだ。万引きとかして逃げる時とか、疲れを感じてないかと思うほどタフなんだよ。」
 城之内のけんかの強さは遊戯もよく知っている。遊戯自身それでかなり助けられていた。
「だけどな、突然倒れるんだよ。スイッチが切れるというか、壊れるというか。ばったりとな、意識が飛んじまうんだ。つるんでいた俺たちでさえも、初めて見たときは驚いたぜ。」
(……こわれる?)
 遊戯は耳を疑った。
「そりゃあ、見事なもんだぜ。今までなんともなしに話していたのが、次の瞬間にはバタンだ。それがスイッチが切れるみたいにいっちまうから、俺たちの中では“キレル”とか“壊れる”とか言ってたんだ。」
 本田はその時のことを思い出しながら話す。
「まあ、2、3時間もすればもとに戻るから、蛭谷たちも気にしてない様子だったけど…あいつ、中学のころから何かとバイトしてたからさ。ケンカ三昧に労働だろ。多分疲れがたまったら壊れるんだって思ってたんだ。」
 本田はこともなげに言っているが、遊戯の表情は険しくなるばかりだ。
「一番の問題は城之内自身にまったく自覚症状がないうえに、壊れたことすらわかってないことだな。気がついたら寝てたくらいにしか考えてないぜ。まったく鈍感というか馬鹿だというか。」
 本田は遊戯の手から焼きそばパンを取り返すと、口に放り込んだ。
「とにかく、いつキレルかわからないもんだから危ないたらありゃしないぜ。交差点の真ん中で倒れたり、真冬の夜中にきてみろ命の保障がないからな。だから俺が気にするようになっちまった。ちょっと注意してやればわかるんだぜ。顔色とか息使いなんかでな。」
 もぐもぐと焼きぞばパンを頬張る本田。
「高校に入ってからは昔の奴らと縁を切って、世間一般的な不良から卒業したようだったから”キレル”ことは無かったんだけどなあ…たくっ……なにやらかしてるんだかなぁ。この所ちょっと様子が変だったろ?きっと今頃は家で爆睡中だろうな。明日になればなんともない顔で登校してくるさ。」
 確かに言われてみればそうだった。休み時間にお喋りをしているときも、カードの話をしているときでさえ、心ここにあらずというか、考え事をしているのかぼーっとしていることがあったからだ。
「絶対に城之内には言うなよ。言ったら絶交だからな。」
 本田はもう一度釘をさすと、緊張がとけたのか隣にあった、バクラのコーヒー牛乳を一気に飲み干した。
 後はバクラと本田のいつものじゃれあいが始まって、城之内の話はお開きになった。

   しかし、遊戯は一人取り残されたように考え込んでいる。
 本田はさらっと言いのけたが、これはかなり危険なことなのではないだろうか?
 (相棒もそう思うか?)
 ふと、隣に現れたもう一人の遊戯が声をかける。
 (うん。ちょっとね、気になるなぁ…)
 (俺もそうだぜ。)
 二人の遊戯は顔を見合わせた。こうなると考えることは一つだ。
 遊戯は弁当をリュックにしまうと、机の中の教科書も詰め込みだした。
「ちょっと、遊戯。なにするの?まだ、午後からの授業があるわよ。」
 杏子の言葉を待たずに、教室を飛び出していく遊戯。
「城之内くんの家に言ってくるね。午後はサボりっ、じゃあね。」
 普段の遊戯からは想像の出来ない行動に残された一同は唖然として見送っていた。






 一度、本田につれてきてもらったことのある城之内の自宅。
 遊戯はその緑色をした鉄の扉の前にいた。チャイムを鳴らそうとするのだが、以前に来たときに昼間からよっぱらった父親がいてビールを投げつけられたことを思い出てしまいなかなか押すことができないのだ。
「う〜っ。いざ来てみると怖いなぁ。でもっ…!えぃ!押しちゃえ!」
 遊戯は意を決して白いボタンを押す………が、チャイムは鳴らなかった。
 電池が切れているのか、借金取りからの催促が嫌なのか、ボタンを押す手ごたえだけが空しい。
「あれっ?鳴らないや。」
 この中にキレている城之内がいるはずだ。遊戯はそっとドアノブを回した。鍵はかかっていない。
 少しずつドアを開けて、部屋の中を覗き込む遊戯。昼なのに薄暗い部屋に外の光が差し込んだ。
「城之内…くん、起き……てる…って!うわぁ、なにこれ!?」
 遊戯は思わず声を荒げた。驚くのも無理は無い、廊下や台所はおろか半間ほどの玄関にまで積まれているゴミの詰まった袋。この梅雨の時期なのに窓を閉め切って換気をしていない部屋の中はアルコールと食物の腐った饐えた臭いが充満している。正直、人が生活している家とは思えなかった。
「ここ、城之内くんの家だよね…?」
 不安げにもう一度表札を確認した。やはり城之内の家だ。
「…城之内くん……いる?お邪魔します。」
 父親の靴が無いのを確認して遊戯はそっと部屋にあがる。
 足の踏み場の無いくらいに散乱したゴミを踏まないように注意しながら、遊戯は進んでいく。
 短い廊下の右手に台所がある。台所と続きの和室は父親が使用しているのか、空になった空き缶や酒瓶か転がっていた。
 反対の左手の部屋が城之内の部屋だろうか。
「じょうの…うち…くん…」
 遊戯は寝ているかもしれない城之内を起こさないよう、そっとふすまを開ける。
「…いない。」
 部屋の主は不在のようだ。城之内の部屋は他の所よりゴミが少なくて閑散としている。遊戯は初めて見る部屋を見渡す。
「ここが、城之内くんの部屋なんだ。」
 部屋の中央には敷きっぱなしの布団。窓際に並べられた2つの机。あちこち破れて黄色く色あせた押入れの襖。ところどころに開いた壁の穴と、茶色い染み。部屋の中には極端に物が少なくて、生活感がまるで無い。畳の上に積まれている洋服だけが、生きている城之内を示しているようだった。
「なんか、殺伐としてる気がする。」
 遊戯は流れる汗を拭いながら、布団を触る。
「寝てた形跡はないね。どこにいるのかな?」
 遊戯は部屋に入ってから一言もしゃべらない、もう一人の遊戯に声をかける。
「……!!大丈夫?もう一人の僕。真っ青だよ!」
 もう一人の遊戯が口元を押さえて、青い顔をしていた。今にも倒れてしまいそうなくらいになっている。
「相棒、枕の下にあるものを取ってくれないか。」
 冷や汗を流して、肩で息をしているもう一人の遊戯を心配しながら、指示通りに枕を退かすとそこには一枚の写真があった。
「なに?これ?」
 くしゃくしゃのしわだらけになった、色あせた古い写真。そこには1組の家族が写っている。遊園地で撮ったものか仲良さそうに笑顔をこちらに向けた4人。
「…子供の頃の城之内くんかな…これ?」
 ピースをして嬉しそうに笑っている少年……城之内とはにかんだ笑顔の妹とやさしそうな父と母。
 その写真には壊れてしまう前の平凡だが幸せな家族の姿が残されていた。
 何度も握りつぶされては広げられ、枕の下に置かれた写真。
「なんで、こんなところに…」
 もう一人の遊戯も写真を凝視する……と、もう一人の遊戯の目から涙があふれ出てきた。
「どうしたの?!」
 遊戯はあわてることしか出来ない。
「外に出よう。ここは辛すぎる。」
「うん。」
 もう一人の遊戯が泣いている。只ならぬものを感じた遊戯は部屋を後にした。






  「落ち着いた?もう一人の僕?」
   城之内の自宅がある市営住宅のベンチに腰を降ろした二人の遊戯。城之内の部屋から離れてもう一人の遊戯も落ちついてきたようだった。
  「ごめん…相棒」
  「いいよ、気にしてないからさ。ところでどうして急に泣き出したの?具合が悪い…なんてこと、ないよね。」
 遊戯は心配そうに覗き込んだ。
「ああ、もちろん。多分、これは俺の涙じゃない。」
 もう一人の遊戯の涙ではない?では誰のものだというのだろうか?
「??だって、もう一人の僕の目から流れていたよ。なのに、違うってどういうことなの?」
 遊戯にはわからないことばかりだ。
「これは、多分…」

「よおっ!遊戯じゃん。どうしたんだ?まだ5時限目あたりだろ?」
 いつものような、陽気な声がする。はっと顔を上げると太陽背に城之内が立っていた。
「城之内君っそれは僕のセリフだよ。君こそどこに行ってたの?学校を無断で休んだりして。心配したんだよ。」
 遊戯はベンチから立ち上がると城之内の元に駆け寄った。
「…あぁ、悪りい、悪りい。ちょっと風邪引いたみたいでさ、医者に行ってきたとこさ。」
 城之内は照れくさそうに海馬から渡された、薬の入った白い紙袋を見せた。
「そう…なんだ。まだ、しんどいの?」
 とりあえず城之内の元気そうな様子にほっとしながらも、遊戯は心配そうに城之内を見上げた。
「へーき、へーき。馬鹿は風邪引かないって言うけど…あれはうそなんだな。昨夜ちょっと腹を出して寝ただけで、このざまだ。情けないよな。」
 ははは、と笑うと城之内は頭をかいた。遊戯の不安そうな顔が城之内の胸を締め付ける。
(ごめんな、遊戯。嘘ばっかでさ。)
「あっ、でももう平気だぜ。熱も下がったし、明日は学校に行けるからさ。」
「よかったぁ。僕、城之内君が学校に来ないなんて、何か事故か事件に巻き込まれたんじゃないかって思っちゃった。前科もあるからね。」
 遊戯は城之内の嘘を見抜いている。
 何故、嘘をつくのか?何故心配をしてはいけないのか?
 心を許しているように振舞いながらも、実は何も本当の事を言ってくれないことが遊戯の心を暗くする。
「じゃあ、家に帰ってゆっくりと休んでね。僕は帰るよ。これ差し入れ。」
 遊戯はコンビニで購入した、スポーツドリンクとプリンの入った袋を手渡した。
「おっ、サンキューな。ちょうど欲しかったんだよ。相変わらず遊戯は気が利くよな。」
 嬉しそうに笑顔を作り受け取る城之内。
(………!熱い!!)
 城之内と手が触れて、遊戯は城之内の体温の高さに驚いた。
(熱が下がったなんて嘘じゃないか。まだ、こんなに熱い。)
 掌はじっとりと汗ばんでいて、先ほどまでは逆光で気がつかなかったが頬はうっすらと赤く染まっているし、呼吸も少し速いようだ。
 なのに、何故こんなに平気な顔をしているのだろうか?
「ありがとな。風邪をうつすと悪いからっ。気をつけて帰れよ!!」
 遊戯に見透かされてしまいそうな視線に耐えられず、遊戯の頭をくしゃくしゃと撫でると、城之内は逃げるように自宅への階段を駆け上がっていった。
「明日、英語の小テストがあるからね。よく寝てよね。」
 遊戯は城之内の背中を見送りながら、気付いていない振りをする。
「わーったよっ!」
 2階の踊り場でひょこっと顔を出した城之内が手を振って答えた。
 そして、自宅の中へと消えるまで遊戯は視線を外せなかった。






「城之内君…うそつき…」
 遊戯は地面に映る影を追いながら、とぼとぼと街を歩く。隣にはもちろんもう一人の遊戯がいる。先ほどから考え込んでいるようで遊戯の言葉も耳に入っていないようだった。城之内の部屋に入ってからずっとこの調子だ。
「もう一人の僕、何を考えているの?もしかしなくても城之内君のことだよね。そろそろ教えてくれてもいいんじゃないかな?」
 一人だけ置いてきぼりをくっているような気がしてならなくて、遊戯はちょっと不機嫌に声をかける。
「ああ、そうだな。じゃあ、そこのバーガーショップにでも入ろうか?相棒も弁当をあまり食べてないようだからおなかが減っているだろ?」
 ようやく返事をした、もう一人の遊戯。考えごとが固まったのかこれまたいつもの調子で店を指した。
「うん。じゃあ、食べられるのは僕だけだけど、行こう。」
 遊戯は嬉しそうに店をくぐる。注文の品が出てくるのさえもどかしいくらいだ。早く話をしたいのに。
 昼食どきを過ぎた店内にはあまり客がいない。
 遊戯はバーガーセットの乗ったトレイを持って店の一番奥の席に座る。
「さあ、話してもらうよ。」
 遊戯の目の前に姿を現したもう一人の遊戯が話始めた。

「どこから話せばいいかな。」
 もう一人の遊戯は慎重に言葉を選ぶ。
「相棒は城之内君はどんなふうに見える?」
 思いもよらない唐突な質問に遊戯は戸惑う。少し考えるて、
「ん〜そうだね。いつも笑っているかな。喧嘩もするけど本当はやさしいよね。明るいし・・・それから、え〜と」
 遊戯がさらに続けようとするともう一人の遊戯がさえぎった。
「俺も最初はそう思っていた。だけどもし、俺たちの前にいる城之内くんが作り物だとしたらどうする?」
「作り物?」
「もっと分かりやすく言うと、俺たちの知っている城之内君はほんの1部分でしかない。本当の城之内君はずっと心の奥深いところに隠れている。といえばわかるか?」
「どういうこと?いつもの城之内くんは本当の城之内くんじゃないってこと?」
「それはちょっと違う。俺たちの前にいるのは確かに城之内君さ。だけど、とても不安定なんだ。いつ消えてしまってもおかしくないくらいに。」
「不安定?消えるって…おかしいよ、だってみんなそうじゃないか。杏子だって、本田君もバクラくんでさえ全てを分かり合うなんて不可能だよ。第一僕自身の事だってわからないさ。」
 遊戯が不安そうにもう一人の遊戯を見た。
「当たり前じゃないか、神様じゃないんだから。誰だって全てを知るなんて不可能さ。だけど、城之内君の場合は少し違う。」
 遊戯はもう1人の遊戯の言葉に頭が混乱する。それをくみ取ったもう一人の遊戯は続けた。
「例えば、俺は相棒の心の中に間借りをしているだろ?もともとは相棒の心の中を分ける扉なんてなかったんだ。」
「へえ。そうなんだ。」
「心の部屋はその人によって違う。広さも明るさも景色でさえ。だけど城之内君の心には何もないんだ。城之内君の部屋に入って、さっき手が触れたときにはっきりと分かったよ。何もないといえば語弊があるけど本当に何もない。暗闇というわけではないんだけど灯りもなくて、そこにいることさえわからなくなる。まるで俺自身が消えそうになるようだった。」
「それは心がないってこと?」
「いや、心がないわけじゃない。何もない心があるということ。だけどとても遠くに扉が見えた。錆付いた重い鉄製の扉さ。城之内君の家のドアと同じだったよ。」
 もう一人の遊戯はそのことを思い返した。

 錆付いて開かない扉の向こうにはきっと本当の城之内がいるのだろう。
 あの、荒れた家の様子からも分かる城之内の置かれている複雑な事情。
 城之内の部屋に満ちていた、怒り、悲しみ、寂しさ、無なしさ、諦めといった負の感情。
 あの写真を見つけたときに、もう一人の遊戯にフラッシュバックのように蘇った断片的だがさまざまな映像があった。
 ケンカをして罵りあう両親。
 鬼の形相で暴力を振るう父親の顔。
 部屋の隅で膝を抱えて小さく震えている妹。
 写真を握り締めてうつむく城之内。
 そして、父親に組み敷かれながら心の中でもう、やめてくれと声がかれるまで叫び続ける城之内。

 もう一人の遊戯は頭を振った。

 城之内は負の感情をあの部屋に押し込んで生きてきたのだ。
 あの家は城之内の悪いことの象徴だった。父親への恐怖も、母に捨てられた悲しみも、一人で生きていかなくてはならない不安も。
 嫌な負の感情を消すために、本当の自分と一緒にあの家に閉じ込めて鍵を架けたのだ。2度と開かないように硬く。

 どこまで相棒に伝えればいいのか、もう一人の遊戯は悩む。と、もう一人の遊戯の目から再び大粒の涙が溢れてきた。それは後から後からあふれ出てきて止まらない。
「もう一人の僕…」
 遊戯にはもう分かっていた。もう一人の遊戯が流す涙は城之内の涙だ。
 陽気で明るくて、お馬鹿な振りをして、みんなを笑わせていた城之内。その仮面の下ではいつも泣いていたに違いない。
 なぜ、僕は気付いてあげられなかったのか。遊戯は自責の念に囚われた。
「泣かないで、もう一人の僕。これ以上は聞かないから。城之内君の部屋できっと言葉に出来ないようなことを感じたんだね。」
 遊戯もまた泣いていた。
「相棒…」
「僕、城之内くんのために力になりたい。もう、城之内くんが苦しんでいる姿は見たくない。こうしてもう一人の僕に会えたのも、今の僕があるのもみんな城之内くんがいたおかげだよ。きっと城之内くんに会えないままだったら、僕はいじめられっ子のままだったし昔のきらいな僕のままだったと思う。城之内くんに出会えたから僕は僕のことが好きになれたんだ。」
「俺だって、城之内くんがいなかったら相棒に会うことは出来なかったさ。」
 もう一人の遊戯もまた、まだパズルの中で深い眠りについていたときのことを思い出す。
 無限に続くような暗闇の中で、わずかに灯された光と確かに聞こえた小さな声。その声は救いを求めているように聞こえていた。
「城之内くんはいつも僕のことを優先して守ってくれるんだ。今度は僕が城之内くんを助ける番だよ。絶対に城之内くんの心を開放してあげる。」
「相棒、俺も力を貸すぜ。」
 城之内の力になろうと決意を固めた二人の遊戯。しかし、現実は思ったように行かないと知るのはもう少し後のことだった。
     


いかがでしたでしょか?遊戯君がでばっやいましたね。海馬はお仕事中でしょう。
城之内くん家はきっとこんなんだろうなって思いますよ。男二人。父親はアル中だしね。
実家の弟の汚い部屋を想像しながら書いちゃいました。ハハハ…
と、遊戯は不法侵入してますね。いいのかなあ。あと、もう一人の遊戯はT〇のチカラに出れるぞ〜なんてね。
感想をいただいてありがとうございます。「こんな城之内くんに会いたかった。」「想像とぴったり」と言っていただけて書き手冥利に尽きます。
今回はいかがでしたでしょうか?まか、一言でもいただければ嬉しいな。
貴婦人自体はお笑い系の人間なのですが、思いつく話は暗いものばかりでっ、きっと普段のお馬鹿な反動なんでしょうかね。
この話を書いているときにめっちゃ嬉しいことがありました。もうここで発表したいくらいなのですが……たまげますよっ(うずうずっ)もう少しお待ちください。
傷跡11の背景はまたまたこちらからおかりしました。この背景を探すためにいくつの素材サイトをはいかいしたことか…松澤さま有難うございまする。