瀬人さんの部屋での一件以来、今週は一度も瀬人さんと会えなかった。
 仕事が忙くて残業ばかりだったせいもあるけど、一番の理由は会いたくなかったんだと思う。

 どんな顔をして瀬人さんの前に居ればいいのか。どんな会話をすればいいのか、情けないことに全く判らない。
 よく、今まで瀬人さんと酒を飲めたんだと、自分の能天気さにあきれてしまう。


 一度だけ、バーに顔を出してみたけど、やっぱり瀬人さんは居なくて、一杯だけ酒を飲んで家に帰った。



 会えないと、会いたくて。
 でも、どんな風にすればいいのか判らなくて。



 頭の奥がもやついていて、考えなんて纏まらない。



 会え無いままの日々は、俺の不安を煽るのには十分な時間で、
 俺の何が瀬人さんの気に触ったのか、
 大人の瀬人さんの触れていけなかった部分を覗いて、その冷たい炎に触れたところが痛い。


 瀬人さんだけじゃなくて、他人の冷たさが怖いと感じた。
 瀬人さんのことを考えていたら、嫌われたんだと自己嫌悪に陥るのは簡単で、結局、答えを見出せないまま日曜日になってしまった。





 舞とのデートの日。













 ダブルベッド 11










 日曜日。
 天気はあいにくに雨だった。
 灰色の空から落ちてくる雨粒に気が重くなりながらも、舞と新しくできたショッピングモールに行くことにした。
 晴れだったら、電車で遠くに行ってドミノ街から離れたかった気分なんだけど、残念だ。




 人間考えることは同じで、ショッピングモールは天気と時間をもてあました、家族連れや俺たちのようなカップルでごった返している。
 最上階にある映画館も、子供向けのが上映しているからここも人で一杯になっている。



 映画館フロアには、両手にジュースとお菓子を持った俺と、隣にはおしゃれをした舞がいて、うれしそうににこにことしていた。
 ピンクのリップが似合ってて、やっぱ、可愛いや。


 なんて、一人で惚気てたらすれ違う人の中に、ある人がいて俺の時間が止まった。






「………瀬人……さん?」





 見間違えるはずなんてないさ。そこにいたのは瀬人さんだ。
 でも、一人じゃない。


 隣には綺麗な女の人と、小さな子供がいる。
 一度、携帯で見せてもらった瀬人さんの奥さんと子供。
 瀬人さんの家族。

 

「………。」
 もちろん声なんてかけられない。
 だって、瀬人さん、幸せそうに笑ってるんだ。子供の話に一つずつ頷いて、子供と手をつないで、奥さんも子供も嬉しそうで。

 絵に描いたような幸せな家族。
 オレの知らない瀬人さんの本当の顔。






 確かに、『もし』なんてありえないや。

 瀬人さんの愛している奥さんを、冗談でも侮辱してしまったことに改めて気づかされ、どうして瀬人さんを冷たく感じてしまったのかを理解した。



 嫌われた……んだ。




 オレが舞のことを散々愚痴っても、瀬人さんは舞のことを悪く言わなかった。
 なのに、オレは会ったこともない奥さんのことをだしにしてしまったんだ。



 怒っても、嫌われても、当然のことだ。
 当然のことをしたんだ。





「城之内どうしたの?」
「えっ!?」
 舞がオレの腕を引っ張る。
 突然立ち止まったから、驚いたのだろう。
「ぁあっ…なんでもない。行こう。映画始まっちゃうぜ。」
 舞を促しつつ、もう一度だけ瀬人さんのほうを振り返ったけれど、人波にまぎれた瀬人さんを見つけることは出来なかった。









 もちろん、映画なんて集中出来なくて、ありきたりな恋愛映画に何度も何度も欠伸をかみ殺した。



 映画の後は、舞の買い物に付き合って、ご飯を食べて、取り留めのない会話をして時間を潰した。
 買い物にも飽きてどうしようかと考えあぐねていたら、舞にホテルに行こうと誘われた。



 要は、そういうことだ。









*******







「んっあっあっ。城之内ぃ。」
「舞。舞…。」


 スプリングが軋む。


 久しぶりのSEXにオレは夢中になっていた。
 大振りの乳房に顔をうずめて、柔らかい身体を抱きしめて、舞の中に入る。


 オレを包み込んでくれる舞も、感じていてくれるのか、豪奢な巻き髪がシーツに散っていた。


「ああっん。」
 舌足らずにオレを呼ぶ唇を塞いで、奥を探れば、舞が体を振るわせる。しっとりと柔らかい肉と濡れた体を合わせて、舞を抱く。



 摩擦の快感に男の本能が頂点を目指して高まってくる。腰元がうずうずとして、フィニッシュが近づいてくる、そんな時、


「すき…城之内…大好き。」
「………っ!?」


 背中に細い腕を回されて、熱い吐息の中、舞が、舞の唇が形を変えた。


『好き』


「……舞……。」
「城之内、好き…。」

 大きな瞳を潤ませて、舞の腕に力が入る。



「舞……っぁ!」
『すき』




 腕の中の舞が、俺に………俺を受け入れて感極まっている舞が、


 瀬人さんに抱かれてあられもなく、善がっている俺に見えて、


「んっあっ!!」
 尻の穴が……腹の奥がずくんと疼いた。



「まいっ!」
『せとさん……。』


 舞を抱いているのに、尻が熱くて、俺はもう、我武者羅に腰を動かして、薄いゴムに射精した。
 舞の中が気持ち良いなんて感じる余裕もなく、愕然とした顔を見られたくなくて、舞の胸に顔を埋める。



「城之内……。」
「………。」



 信じられない。
 射精したはずなのに、まだ、疼く。足りなくて、満たされない何かが胸の胸の奥でむず痒くて、俺は舞の上下している真っ白な膨らみを手のひらの中に入れる。


「舞。」




 幸せそうな瀬人さん。
 綺麗な奥さん。
 可愛くて利発そうな子供。
 理想な家族。
 瀬人さんの本当の姿…



 幸せな家族……



 しあわせな




 ウラヤマシイカゾク。




 冷たい瀬人さん。


 会えない。


 キラワレタ………



 セトサンノ………カゾク……




 なんだろうからだのなかがからっぽでたりなくてかわくからからでひりひりしてなにもかんがえたくない。








 せとさんのかぞくにおれとまいとこどもをかさねておれのかぞくをおもいえがいてきっとそうなればしあわせになっている。










 ほしい






 
 

 しあわせなかぞくがほしい。





 セトサンミタイニ。














 瀬人さん………。


















「結婚しよう。」





 甘い舞を抱きしめて、そう、言ったら、舞は小さく頷いて泣いた。













 


 ああ。
 渇きが治まった。



















 11。
 何もかたりませぬ(汗)