「う、、、んっ、、はぁっ、、」 「はっ、、はっ、、」 二人分の重みにダブルベッドのスプリングが軋んだ音を立て、わずかに遅れて、二人の吐息がそれを追う。 「せ、、とっさ、、んっん、、」 犬のように腰を突き出して、背後から瀬人を受け入れる城之内。熱い塊に埋め尽くされているそこは限界にまで広がっていて、情熱的な律動に瀬人の頂点が近づいてきている。 城之内もその波に合わせるように開放の階段を上っていった。 「あっ、、イっ、、くっ、、ううんっ、、」 腹の深いところからせり上がってくる官能に、汗が滴って珠となって、真っ白なシーツに染み込んでいく。 がつんとした衝動に、城之内はぎゅうっとシーツを引き寄せた。 ぎしっ、、、ぎっ、、ちゃっ、、、 ベッドが揺れる。 「あっああっあぅ、、あっっ!!」 快感にぼやける蒼い視界に、二人の重なる影が揺れていて、深い海の底のようだ。 陽の光の届かない、冷たい寂しさの漂う、城之内と海馬。 足りないものを埋めるように、ただ、お互いをむさぼりあって、時間を浪費する。 不毛で歪んだ関係。 「くっ、、はっ、、」 瀬人が熱っぽく呻くと同時に、体の奥がびくびくと脈打ち、イッた。 ダブルベッド 7 SEXの衝動が終わり、冷たいベッドに突っ伏している城之内。視線ではキッチンへ向かっている瀬人の後姿を追っている。 冷蔵庫の黄色い明かりに浮かび上がる瀬人の鍛えられた肉体に、思わず見とれていた。 「ふふっ。」 「どうかしたか。」 あまりにもの出来すぎの男に笑いが零れてくる。城之内はなんでもないと言いながら笑いを止めない。 「相変わらず、変な奴だ。飲むか。」 海馬はペットボトルを手にベッドに腰をおろす。 「…ま…な。」 伏せた姿勢で城之内はもう一度、海馬を見上げた。 本当にほれぼれしてしまうくらい、瀬人はかっこいい。 非の打ち所のない容姿もさることながら、 SEXもセクシーだ。 城之内を労わってちゃんとゴムを付けてくれる。男同士だから妊娠の心配はいらないが衛生面でのことも考えてのことだ。 お互いが傷つかないでいれる最善のことを選択するから、城之内も安心できた。それがまた、瀬人が『遊びなれた男』という印象を城之内に与えているのだが。 ほんと、かっこいいよ。 ゲイって認めてたけど、ここで何人くらいの人と寝たんだろうな。どんな人と寝たんだろう。 オレがもし、女だったら、嫉妬するんだろうけどな。 目の前にいる『完璧すぎる男』に城之内には嫉妬心も浮かばない。第一、年も離れすぎた男と同じ土俵に立つ気すら起こらず、遊びの範囲が気楽でちょうどいい。 「ビールがいいな。」 頬に当たるペットボトルの冷たさに目を細めつつ、城之内は背伸びをして大人を演じてみるが、 「明日の仕事に響くぞ。それでも飲みたければ自分で取りに行け。」 「ちぇっ。ケチ。」 海馬のほうがやはり大人のようだ。 唇を尖らせる城之内を置いておいて、きゅっと蓋をひねり中の水を飲んでいく。灯りを点けない蒼いなか、海馬の喉を水が通る音がやけに大きく聞こえて、なんだかいやらしい。 「………。」 SEXをしたままの、何も身に着けていないーーー全裸の海馬。 頭のてっぺんからつま先まで無駄なところはどこにも無い。正常時に戻ったソコはそれでもかなり立派なモノで、これが入っていたなんて信じられない。 頬が熱くなってくる。部屋が暗くて良かったと城之内は起き上がろうと、体を動かすと、 「……ぁっ!」 体にひっついてくる布の感触に、シーツを汚してしまったことに気づく。 「ぅあっ…。」 「どうした?」 「ぁなっ、なんでもない…ぜ。ちょっと……。」 「???」 汚れているところを器用に隠しながら、シーツをはいだ。 「汚しちまったから、洗ってくる。」 「……そんなことなら気にしなくていい。ハウスキーパーに任せていればいいのだ。」 「ばっ!…ばか!!んなら、なおさら俺がするっ!!」 別の意味で顔を真っ赤にして、城之内は丸めたシーツを抱えて風呂場へと逃げるように足早に向かった。 「……ふっ。」 そんな背中を海馬はいつまでも見つめていた。 ****** 「……はぁ…。」 風呂場に入るなり城之内は盛大なため息をつく。 「かっこわりいったらありゃしないぜ…。」 男同士のSEXではつきもののことだが、海馬以外と、ましてや舞とでもしたことのないプレイの置き土産に、城之内はシャワーのコックを捻った。 と、平行して湯船にも湯をはっていく。 「次はバスタオルでも敷いたほうがいいかな。」 手を泡だらけにして、シーツを洗う。 自分の家ならば、洗濯機に入れるだけだろう。だけど、ここは瀬人の家。雑誌かドラマを切り取ったような部屋の一部を汚してしまったことで、なんとなく気が引けて柄にもないことをしてしまっているのだ。 汚れたシーツを洗うために、無心で手を動かしていくと綺麗になっていくシーツ同様に、城之内のもやもやとした思考もまた晴れていく。 舞とのデートの翌日、城之内は焦れるようにバーへと足を運んでいた。 一杯のお気に入りのグラスをちびりちびりと口にしながら、瀬人を待っていたのだ。 どこの誰かも、素性も携帯の番号さえ交わさない、何も知らない他人を、確証もなく待っていた。このバーでしか接点のない瀬人をひたすらに待ち続けた。 『家族』の元へ帰るように年上の瀬人に説教をした、舌の根も乾かないうちに当の城之内がここに来てしまった。そのうえ、また、SEXをしたのだ。 ゆったりとした会話もそこそこに、瀬人を求めた城之内と、受け入れる瀬人。 城之内はゲイではない。 舞というちゃんとした彼女もいるし、同僚や他の男に性を感じるなんてありえない。今までの人生で男をSEXの対象に見たことはなかった。 なのに、どうして瀬人とSEXが出来るのだろうか。しかも、「掘られる」ことになるなんて、かつ、それを甘んじて受け入れて、射精をともなう快感を得るなど思いもよらなかったのだ。 瀬人が経験豊富だとしても、この思わず冷笑をしてしまうような関係を待ち望んでしまうのは何故だろう。 「……なあんにも、知らないからかな…。」 ふと、そんな言葉が城之内の口からついて出る。 城之内は泡だらけの手を止め、ほぅっと肩の力を抜いた。 名前は瀬人。 奥さんと子供が一人。 本当の家がどこにあるのか、どこで働いていて、どんな仕事をしていて、 どんな食べ物が好きで、何が嫌いで……。 城之内の知る、瀬人の情報は数えるほどもない。 そして、瀬人もまた、城之内のことはほとんど知らないはずだ。 何も知らないからこそ 「城之内克也」はただの、「城之内」でいられ、 「瀬人」もまた、ただの「瀬人」で存在できるのだ。 カイバコーポレーションの営業の「城之内」でなく、借金を返している「城之内」でもない。純粋なたった一人の人間としての「城之内」としていることが出来た。 だからこそ、楽なのだろう。 純粋に遊びとして、瀬人との関係を楽しめるのだ。 一緒に飲む酒も、会話も、SEXでさえ遊びの延長線上にある。 あのSEXの高揚感と浮遊感はまさしく絶叫マシーンと同じくらい、スリリングで夢中にさせるものがあった。 「ははっ。同じじゃん。」 一人納得のいく答えを見つけられた城之内は、止まっていた手を再び動かし始めていった。今度は鼻歌も混じっていて、どこか楽しそうだ。 「唄など歌って、楽しそうだな。」 「瀬人さんっ!?」 浴室の扉が開いて瀬人が中を覗き込んできた。気配をまるで感じなかった城之内は突然の訪問者にびっくりして顔を上げた。 「そんなに驚くほどでもないだろうに。」 固まったままの城之内に口元をゆがめると、海馬もするりと身を滑らせて、城之内の隣に腰を下ろした。 「私も手伝おう。」 泡だらけのシーツに手を伸ばす。 「瀬人さんはいいよ。もう、ほとんど汚れは落ちたから。」 「城之内だけにやらせるわけにはいかないだろう。」 「でも、汚したのはオレだから……本当にもう、大丈夫ですからっ!」 シーツを瀬人に届かないように丸めて、お湯をかけてゆすぎ始める。 「私にも汚した責任はあると思うぞ。」 「えっ…あっ…とにかく、もう、綺麗になりました!!」 尚も手を伸ばしてくるのを振り切りながら泡を手早く落としていった。 「あとは、洗濯機で洗えば大丈夫ですよ!!!」 城之内は照れ隠しに苦笑いしながら、白いところを強調する。 「そうか。」 うんうんと、頷く城之内に、海馬もあえてそれ以上しつこくすることを止め、ちょうどよく張られた湯船に浸かった。 ちょうどいい湯加減のお湯に体を浸して、瀬人が城之内を呼ぶ。 「はぁっ??」 空いたスペースを指差し城之内を手招きしている。どうやら、城之内にもお湯に浸かるように言っているようだ。 シーツの争奪戦が終わってほっとしたのもつかの間、恥ずかしい瀬人の注文に城之内の耳まで赤く染まる。 「ぅぁっ……その…いいですよ…ヤローで風呂はちょっと……。」 思わず後ずさりながら辞退するが、ごく当然のように手招きをする海馬に逆らえず、城之内は照れながら湯船に足を入れていった。 「………。」 どの方向で入るか迷っていると、海馬に手を引かれて、背中を預ける体勢になった。ざぶんと勢いよく溢れていく湯をもったいないなと、思いながらも城之内は体の力を抜く。 海馬の膝の上に座る形で、一緒に湯に浸かるなんて、遊びと思えば楽しめるかもしれない。 ずっと年上の男に体を預けて、子供のようにして。 すすっと体を撫でる手のひらに、くすぐったさを覚えながら、城之内は膝を抱えた。 「今夜はずいぶんと積極的だったな。」 「うっ……っ!」 瀬人に図星を付かれて思わず言葉に詰まる。 「えっ!?ぁぁっ、そ…うだったか?オレはいつもと変わらないと、思うけど、っ、自分じゃ分からないしっ…っ。」 しどろもどろになりながら、言い訳をしてみるが、いやな汗がにじみ出てくるようで、城之内は背中を向けていて、良かったとしみじみ思う。 ばしゃばしゃと湯をすくって顔を流した。 慌てる城之内を愉快に観察する海馬。 耳からうなじまで赤く染まっていて、表情など見なくてもどんな様子だか人目で分かってしまう。営業ということだが、ずいぶん苦労が多いだろう。 水分をしたためた金茶の髪から覗くうなじが色っぽくて、指で突いてみる。 「ひゃぁっん。」 不意な攻撃に、力の抜けた声が上がり城之内が飛び上がった。 「せ、瀬人さんっ?」 突かれた首を手で押さえて、振り返る城之内。 「ふっ…自分でわからないのなら、教えてやろうか。どれほど乱れていたか。」 一つ一つのことに、大げさに反応する城之内が可愛くて、かまいたくてかまいたくて仕方が無い。海馬は意地悪そうに耳元で囁いてみた。 「うわぁっ…はっ…ちょっと、待って。ちゃんと言うからっ。」 抱きこんでくる海馬を両手で突っ張り、城之内は呼吸を整えるために深呼吸をする。 「あのさ、この前、舞と、彼女とデートだって言ってただろ…。」 「ああ。そうだったな。」 かんねんして話し始めた城之内に、海馬も腕の力を抜いた。 「ま、デートは上出来で楽しめたんだけどさ、夕飯を舞ん家で食べることになって、結局何も出来なかったんだ。だって、久々のデートだろ。オレとしてはその先を期待しててさ。俺だって男だから舞は彼女だし………でも、さすがに親がいる家でってのは萎えるよ。」 「なるほど。だからか。欲求不満だったわけだ。」 「そんなもんかな。」 あえて、不快なところは語らず、必要なところだけを掻い摘んでおいた。瀬人との間に生臭い話は要らないのだ。 「欲求不満は解消できたか?」 「ま……な。」 意味ありげな瀬人の囁きに、相変わらず体を撫でている大きな手のひらを余計に意識してしまって、城之内は思わず両脚を閉じる。 「ん?」 もぞもぞとしだした城之内に、海馬が湯の中を覗き込むと、揺れる水面からでも分かるくらいに勃起している城之内があった。 「ははは……。」 節操のない下半身を隠そうとする城之内を止め、代わりに海馬が握りこむ。 「うぁっ…ちょっ…!」 「気にしなくていい。若さの証拠だ。」 閉じようとする両脚を海馬の足で押さえ込んで、瀬人は城之内に手をはわしていった。 「わかいっ…て、瀬人さんだって…。」 尻に当たる湯よりも高い体温の塊に、城之内は苦笑する。 「ぅっ、、ここじゃ…ゴムもないし…。」 次第に本格的になってきた瀬人の愛撫に、汚してしまったシーツの後ろめたさに慌てている城之内。 「入れないから。それに、汚すことは気にしなくていい。」 「でもっ…。」 的確に自身を扱かれながらも、視界の片隅に入っているシーツが余計に生々しくて、中々瀬人の手に集中できないでいた。 「俺だけを感じろ。」 「ぁあっ…んんっ?」 くいっと顎に手をかけて城之内の顔をこちらへ向かせ、唇を重ねる。視界にシーツが入らなくなったのと、海馬の巧みな愛撫に、ペースに巻き込まれていって次第に息が上がってくる。 「うぅぁっ!」 ペニスを扱いていた片方の手が、するすると移動して、つぷっと、腹の中に侵入してきた。 「せ、、、とさんっ、、入れないって、、」 抗議する城之内に、海馬は悪びれることもなく、 「本物は入れないということだ。指ならゴムも要らないし、ずっと深い快楽がえられるだろ?」 「、、、たくっ、、、性格、、わりぃや、、」 器用に蠢く指を捏ね上げられている柔らかな粘膜で感じて、城之内は諦めて海馬に与えられる快楽に流されることにする。 そのほうが楽だし、 一人でするよりも、ずっと、気持ちいいのだから。 遊びだから、楽しんでもいいだろ……。 ただの、性の欲求を解消する、遊びなんだ。 瀬人さんもそうだろ……? まるで、誰かに言い訳をしているように、何度も心のなかで呟いた言葉は、ついに城之内の唇から出ることは無かった。 あのあと、結局もう一度、俺たちはSEXをした。 仕事があるとかは、すでに頭の中に無くて、ただ、貪りあうように体を重ねあった。 オレも瀬人さんも、まだまだ、子供らしい。 明け方、バスタオルを必死になって洗っている城之内の姿が、浴室にあった。 ハァハァ…… こんなん出ました〜〜〜〜〜〜〜〜 お盆の京都でのぽちぽち。腰に響きます。 うぉぉぉおぉ、がんばって運転するぞ!!! 夏コミは楽しまれたでしょうか??? |