『ひとコマの―。』 長い夏休みが終わり新学期を向かえた城之内たち。 文化祭を一ヶ月後に控え、どのクラスも沸き立っていた。 「は〜い。じゃ、他に、意見のある人っ!!」 杏子の威勢の良い声がざわついている教室に響く。 新学期一発目の一時限目の学活。もちろん議題はクラスの出し物を決めることだ。 一年のときはゲームカーニバル。 二年はメイド(女装)喫茶。 そして、高校生活最後となる文化祭は何にするべきか、いくつか候補が上がっているけれど、どれもありきたりで決定力に欠けているため意見がまとまらなかった。 みんな、それぞれに何がいいのか考えている中、城之内一人がイラついている。椅子に大きくもたれ、腕を組んで、貧乏ゆすりまでして、めちゃくちゃ不機嫌で、その、ぎらりと睨む眼光は、ある一人の人物に向けられていた。 一番後ろの定位置のごとく居座っている男。 海馬だ。 天下のカイバコーポレーションの社長であり現役高校生でありながら、その類まれな、頭脳とカリスマ性でデュエル界だけでなく、世界経済のトップに君臨する男。 そんな笑っている子も怯えてしまう男にガンを飛ばしている城之内。 「―――城之内くん…。」 あからさまな城之内の態度に、隣に座る遊戯はひやひやものだ。さりげなく城之内の制服のすそを引っ張って気をそらそうとするものの、これまた、町の不良を一蹴でのしてしまう城之内には効果が無かった。 ガタガタガタガタ。 城之内の苛立ちの気配に、ざわついていた教室がシンと静まり返る。 しかし、そんな張り詰めた空気の中でも海馬は一向に動じず、一人英文の書類に目を通していた。 仕事をするのなら、わざわざ学校に来なくてもいいのにと、一同総意なのだれど、『海馬なら仕方が無い』と路上の石のごとく見て見ぬ振りをしていた。でも、城之内はどうしても、海馬の身勝手な行為が許せない。 ガタガタガタガタ。 ぎりりと歯軋りをする城之内の怒りのゲージがMAXに達しようとしている。 本田や御伽は呆れ顔だし、バクラは野次馬のごとく傍観者に徹していた。 「いいかげんにしろよっ!!!」 城之内の怒号と、椅子が派手に倒れ バンっ!!! と、机をたたきつける音が続いた。 キレた城之内に、教室に緊張が走り、2,3度気温が下がったような教室で、海馬と城之内がにらみ合う。 「ふざけてんのか?」 「オレは真面目だが?」 「じゃ、なにやってんだよ、ここは学校だ。会社じゃない。」 「何をしようとオレの勝手ではないか?邪魔してないだろ?」 「………本気で言ってるのかよ。」 座る海馬を見下ろす城之内。 怒る城之内とは対照的に、海馬は冷静で覚めていた。キレた城之内など相手ではないと、唇が歪む。 「……………やってらんねー。」 海馬の机を派手に蹴り飛ばすと、城之内は教室から出て行った。 ドアが外れてしまうくらい、力任せに扉を閉め、上履きをぺたぺたと音を立てて城之内はどこかへ行って…しまった。 久々にキレた城之内を追うものも無く、ただただ、固まっている教室で次に動いたのは、海馬だ。 床に飛んだ書類を拾い集め、倒れた机を元に戻す。 ため息混じりに再び机に向かおうとすると、いつの間にか教壇を降りてきた杏子が腕を組んで海馬を睨んでいた。 「お仕事は終わり。」 書類を取り上げて、ビシッと城之内の出て行ったドアを指差し、 「追いかけなさい。」 と、言った。 「…!?」 なぜ、オレ様が? と、海馬に言わせる間も与えず、 「アナタにはその責任があります。」 もう一度、ドアを指差した。 ****** 「………海馬のばかやろう……。」 教室を出た城之内が向かったのは、いつもの屋上だ。 昨今の諸事情から鍵を掛けられ、一般の生徒は立ち入り禁止にされてしまっている。だが、城之内にかかれば、鍵なの合ってないようなもの。人の集まる学校の中で、気兼ねなく一人になれてサボれる絶好の場所になっていた。 給水塔の影に座り込み城之内は入道雲の映える真っ青な空を睨みつけている。だが、そこにはさっきまでの勢いは消え、どこか、ゆらゆらと揺れているようにも見える。 「くそっ……。」 膝を抱えて丸くなった。 「これじゃ、なんのために学校に来たのかわかんないじゃないかよっ。」 しかし、ここにはその言葉を受け止めるべき人はいない。 「オレ、一人、熱くなって、はしゃいで馬鹿みたいだぜ。」 海馬を学校に来るようにせがんだのは誰でもない、城之内だった。 夏休み中、ずっと、登校を渋る海馬を説得してきた。そして、やっと時間を調整して教室に来たと思ったら、あの状況だ。 海馬の登校を誰よりも待ち望んでいただけに、その分ショックは大きくて、キレてしまったのだ。 「……バカイバ。」 夏そのものの屋上はまだ暑くて、汗が流れてくる。しかし、時折流れる、空気の流れには確実に秋の気配が混じっていて、汗を冷たく冷やしてくれる。 「やはり、ここにいたのか。」 「!!!」 待っていた人の声に、城之内の肩がびくっとする。 「…………。」 なのに、顔を上げない城之内。シカトと決め込むようだ。 「日陰とはいえ、暑すぎるぞ……。」 俯いたまま一向に反応の無い城之内に、ため息をついて、海馬は隣に腰を下ろした。 「…………。」 「…………。」 城之内がしゃべらない以上、何を話しても無駄とばかりに、海馬もまた話すことをやめる。 重い沈黙が二人の間に流れ、どうしたものかと思案に明け暮れているとき、 ずうっ……っ 城之内が鼻をすすり上げた。 「!?」 耳を澄ませば、何かを堪えるような息も聞こえて、海馬ははっとする。 「……城之内…?」 「ばーか。」 不安そうに覗き込んでくる海馬に、べーっと舌を出して城之内は顔を上げた。そこには、もう、怒りは無い。 「海馬のば〜か。」 そして、お返しとばかりに、海馬の両頬をつねる。 「……城之内。」 本気の力が入っていないから、痛いわけでもなく抵抗はしない。 「…たくよっ…場所とやってることを見極めろよ。」 海馬をつねることで気を落ち着かせた城之内は、鼻を派手にすすり上げ、潤んだ目元を拭うと、大きく息を吸った。 「あのな。今日はさ、クラスのみんなの大事な学活なんだぜ?高校生活最後の、文化祭の出し物を決める大事なことだったんだ。」 「……ぁあ。」 バツが悪そうにしている海馬に小さく笑い城之内は静かに語る。 「もちろん、オレにとってもだけどさ、海馬にとっても最後の文化祭なんだぜ?」 「………っ!」 真っ直ぐにこちらを見つめる城之内に、海馬は何故、あんなにも激高したのかをやっと理解して、 「すまなかった……。」 素直に謝る。 城之内にとって、本当に最後になる文化祭なのだ。 夏が終わり、秋になって、年が明ければ授業はぐっと少なくなる。クラスの大半の生徒は受験勉強に追われ、城之内のように就職を希望するものは少ない。 まだ、次がある遊戯たちとは違い、城之内には、もう、学生でいられる時間を限られているのだった。 と、同時に、海馬と一緒に楽しめる時間も限られているということ。 無邪気に、子供のように楽しめる時間がもう終わろうとしてる。 普段から労働に従事していて、忘れがちになるけど海馬もまだ、学生なのだから。 「オレな、海馬と……海馬に、もっと学校に来て欲しいんだ…ま、無理だってのは判ってんだけど、やっぱ、今だけじゃん…馬鹿騒ぎしても、怒られないのって…っ!」 「わかったから。すまなかった。」 城之内の顔が泣き出してしまいそうに歪んで、海馬はとっさに城之内を抱き寄せた。 「オレが悪かったのだな。すまない。城之内。」 楽しい時間に終わりがある事を城之内は身をもって知っている。幼いころに家族に時間が終わったのと同じように、この、もどかしいまでの繭に包まれた時が終わることを、それが、どんなに幸せな時間だったのかを誰よりもわかっているのだ。 だからこそ、海馬をこの場所に連れてきたかった。 海馬にもまだ、この時間を得る権利があることを知って欲しかったのだ。 大人しく収まる城之内を腕に抱きながら、カイバコーポレーションの社長を高校生の海馬瀬人に、いとも簡単に戻してしまう城之内の不思議な力に、思わず口元が緩む。 「笑っただろ…。」 ぷうっと頬を膨らませ、海馬から離れると、コンクリートの壁にもたれて真っ青な空を見上げた。 「まだ、決めることはたくさんあるからな。ちゃんと、来るんだぜ。」 「ああ。」 「それと、特別なことはしなくていいからよ。予算も学校がら出る分で十分だし、カイバコーポレーションの何とかなんて、持ち込むなよ。」 「承知した。」 「………それと、当日は逃げんなよ。」 「大丈夫だ。約束する。」 遊戯や他の人間の言葉なら、ただのお節介にしかならないのに、城之内ならばすんなりと受け止めることが出来た。 きっと城之内もまた、海馬とは違う形で修羅場をくぐってきたからだろう。そして、何よりも、城之内のことが好きだからかもしれない。 そんな不思議な感覚を覚えながら、海馬は大きく頷いて城之内を引き寄せる。 「最後、最後と言いながら、実は来年も貴様はここにいるのではないか?」 「はあっ?」 ほっぺを抓られたお返しにと意地悪く言ってみる。 「その成績では留年してしまうかもしれないからな。」 「!!!!!!!てめっ!!」 意外なところでの図星に城之内の顔が真っ赤に染まった。 「だ…だだだ、大丈夫さっ!!……大丈夫だと思うぜ…いや、大丈夫なんだ。ぎりぎりだけど……って、いうか、海馬だって、危ないんじゃないのか?出席日数は足りてるのかよっ!」 「ふん。貴様とは違って優秀だからな。その辺は抜かりない。」 「社長さまは特別扱いかよ。」 ふて腐れて、そっぽを向く。 「城之内が卒業出来ないときは、オレ様も学校に残ってやろう。」 「はっ?何だよ。それ?」 「城之内と学生生活を満喫するにはそれも良いのではないか?」 「オレはやだぜ。海馬のお守はごめんだ。それに、遊戯と一緒に卒業したいし……って、それ、限りなくオレがダブルのが前提じゃないかよっ!!」 「冗談だ。オレも悠長に学生をする時間などない。」 ころころと表情豊かな城之内をからかいながら、海馬は半分本気で、この穏やかな時間がもっと続けばいいのにと、願う。 「たく…恐ろしいこというなよな。」 こうして、穏やかな何もない場所で、城之内との時間を過ごしていたい。 「恐ろしいことにならないように、次のテストは真剣に勉強したほうがいいな。なんなら、オレが見てやろう。眠ずの番で教えてやる。」 「天地がひっくり返っても遠慮しときます。」 違うことするだろ。 と、ぼそりと付け足して、城之内がさらに赤くなり、腕の中から逃げようとするのを強引に抱き込んだ。 「貴様がテストを受けれるくらいの余力は残しておいてやる。」 意味深に耳元で囁いて、そのまま、唇を移動させていく。 「余力なら…絶対に、ダブルぜ?」 「……ごもっとも。」 「な。」 柔らかく形を変える唇が重なった。 城之内と、こうして、学校で過ごせるのは後どのくらいあるのだろうか。 ただの高校生に戻れる貴重なときを、出来るならは一日でも多くこうしていたいと、真っ青な空に願ってみた。 ****** 後日。 城之内一人の猛反対を押し切って、教室はお化け屋敷と化し、 鼻眼鏡をつけた神父姿の海馬と、 なぜが、猫娘のコスプレをさせられた城之内が、 罰とばかりに、校内中のチラシ配りをしたのは、代々ドミノ高校に語り継がれていくこととなったのだった。 とんでもない馬鹿騒ぎが、いつまでも城之内と海馬の中で消えることのない思い出になったのは言うまでもないことで……… おしまい。 おっと、甘めな仕上がりになりました。 文化祭なんて、何年前だっけ…(遠い目)今は、子供の学校行事に行っているなんて…このころは想像してなかったよ。 携帯サイトで相互をさせていただいている「X3」へのリクエストに答えるものでした。『城之内にお小言をいわれてタジタジな海馬』でした。………見事に玉砕です。本当に申し訳ない。 献上ぶつなので、お砂糖多目の下品少な目にしてみました。 たまには、甘い海城もいいですよね。 まだ、えろ〜んなリクも残しているので(忘れ去られてるかも…滝汗)ダブルと平行して進めていかねば!! 明日はポルノのライブ。 横浜スタジアムではじけてきまっす!! では。 素材はこちらからお借りしました。 |